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決戦前の整備士の物語

作者: 宿木ミル

「バックパックのジェネレーター出力問題なし、各部の動作確認完了。……うん、問題なく起動するよ」

「いつもありがとう整備士さん」

「いいよ、あたしにできることと言えばこれくらいだし」


 戦艦格納庫。

 エースの専用機の最終調整を終えた私は一息ついた。

 隣には私たちの戦艦を守ってくれたエースが目を輝かせている。

 それを見て、私は疑問を抱く。


「……これから決戦だってのに、どうしてそんな目をしてるの?」

「え? いや、コイツの姿が整うのを見てるといつも嬉しくてさ」

「あたしたちはやれることをやってるだけだよ」


 嬉しそうな目で愛機を見つめるエース。

 あどけなさを残した彼はまだ少年だ。整備士の私も同年代ほどな気がするけど、彼ほどは若々しくないと思う。


「外装もピカピカだ! 少し焼けてたところもあったっしょ?」

「汚れとかはふき取ったよ。そうしないとコーティングもうまく行かないからね」

「へへっ、ありがとっ」

「感謝はあたし以外の整備士に言った方がいいよ。あたしはどっちかというと出力系の管轄だから」

「そうだった?」

「そう」


 デバイスを開いて、情報を共有していく。

 パイロットが知らない機能が増えているというのはよろしくないからだ。


「今回のこの子は最終決戦仕様。敵のエース機と単騎でやりあえるように全体的にスペックは三割増しになってる」

「スラスターの重さは?」

「シミュレーションで予め用意したものと同じ。腕慣らしの訓練してたなら、それを参考にしておけば問題ないよ」

「じゃあ問題ないか。稼働時間も気になるな」

「全力稼働した場合、前の状態より三割は減少する。敵のエースに追いつく為にはそれくらいしかなかったから、そこはこっちとしては割り切ってほしいかな」

「了解、エネルギー切れにならないように気を付けるよ」

「後は前の機体と同じ感覚で使えると思う。機動性をあげたから、決着を付けてきて」

「あぁ、わかった」


 満足げに頷くエース。

 ふと、気になることができたので彼に問いかけてみる。


「そういえば」

「なんだ?」

「この艦にいる彼女っぽい人にはなんか伝えた?」


 確かこのエースの少年には彼女のような雰囲気をした幼馴染がいたはずだ。

 時々ドックまでやってきて口論していたことを覚えている。

 その問いかけに対して、エースははぐらかすかのように目を逸らした。


「実は、なにも」

「よくないね、それは」


 じっとエースの目を見つめながら話す。


「最後の別れになるかもしれない戦場。後悔がないようにするべきだとあたしは思うから」

「でも、なにを伝えればいいんだか」

「雑談でもすればいい。少なくともあたしと話している時間が出撃前に長くなるっていうのは彼女さんが可哀想だ」

「そうか……雑談……」

「とにかく、迷いを残さない方がいい。そうした方がしっかり戦えるだろうし」

「……わかった、整備士さん! オレ、行ってくる!」

「行ってきな」


 ドックから移動し、エースが去っていく。

 きっと幼馴染を探しにいったのだろう。

 これで、あたしはひと息付ける。

 しばらくドックの隅で水分補給を行いながら休憩する。

 それなりの時間が経過したのち、あたしの方に整備を終えたおやっさんがやってきた。


「よう、お疲れ!」

「そっちもお疲れおやっさん。量産機の調整も大変でしょ?」

「そりゃそうだ、それぞれの好みに合わせて調整しないといけないからな!」


 がっはっはと笑うおやっさん。彼は整備長を担当していて、エース機の調整の他、艦に搭載されている量産機の調整を請け負っている。

 彼の仕事量は私の数倍だ。尊敬するほど仕事している。


「エース機の調整はうまく行ったようだな!」

「間に合わせる為に色々頭使ったからね。もうヘトヘト……」

「がっはっは! そりゃご苦労だったな! あとはうちのエースがやってくれるのを信じるだけだな!」

「そうだね、無事に帰ってきてくれることを願うよ。これで撃墜されたら目覚めが悪い」


 まるで物語の主人公のようなヒロイックな印象を感じるエース機を見つめがらそう呟く。

 この子には随分無茶させてきた。

 フレームが見えそうな状態から改造し、ジェネレーターに合う武装を調整し、スラスターを増やし、様々なことをしていった。

 しっかりとした形になったのはつい最近だ。よくここまで来れたと私も感心する。


「なぁ、戦争が終わったら何がしたい?」

「そういうの、言ったら死んじゃうやつじゃない?」

「はっはっは、言っても言わなくても死ぬときは死ぬんだ。なら、言っちまったほうが得だと思わねえか?」

「……そうだね、それはわかる」


 おやっさんの言葉に頷きながらも、私は考えて答える。


「もし無事に終わったらこの子を非戦闘武装に換装させて、人を活かすことに使わせたいな」

「俺たちと一緒に育ってきたもんな。わかるよ」

「専用のスプリンクラーを持たせて、畑仕事をやらせたり、救命活動させたり、あとは……洗濯物とかもよさそう」

「いいねぇ、まさに平和な使い方だ!」

「まぁ、あたしもそういう機械を作れるようにノウハウを掴まないといけないけどね」

「お前ならできるよ、自信を持て!」

「おやっさんにそう言われると心強いよ」


 会話が弾んだのち、館内に声が響き渡った。


『本艦はこれより戦闘区域に突入する! そういん戦闘準備!』


 最終決戦の合図の声が響き渡り、ドックに人が行き来していく。

 どんなことがあったとしても、この戦いで戦争は終結する。

 だから、私もできることを行うのだ。


「俺たちも各部損傷チェックに走るぞ! いけるな!」

「大丈夫、おやっさん! あたしも頑張る!」


 整備士もパイロットも各々がそれぞれの戦場で戦っている。

 あたしも負けるわけにはいかない。

 それぞれ、覚悟を決めて戦場に赴くのだ。

 覚悟と、信念を持って。


「整備士さん、整備長さん、ありがとうっ! 出撃します!」

「絶対に帰ってきて!」

「死ぬんじゃねえぞ!」


 飛翔するエース機。

 姿が見えなくなることには光芒が放たれていた。

 戦いに赴く彼らが生きて戻ってくる可能性を少しでも増やす。

 それが、あたしたち整備士にできる仕事だ。

 どんな存在にも物語がある。だからこそ、生きる為に戦うのだ。

 最終決戦。あたしたちがその脇役のような存在なのだとしても、その輝きは消えることはない。

 光り輝く戦争の光を見つめながら、あたしは心から幸福な結末を信じた。

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