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アンジェリカ来襲

お騒がせ妹の登場。公爵家と元婚約者のその後です。

 ケイティ、アンナ達と一緒に泣いてから二週間後。私の手元には二人が開発した練香がある。


 白檀と沈香の組み合わせは落ち着いた上品な香り。教会や砂漠の国で好まれるかもしれない。


 白檀とジャスミンの組み合わせはジャスミンの甘くて華やかな香りを白檀の香りがぴりりと引き締めている。それでいて優しい香りだから、香水が苦手な御婦人方に評判が良いかもしれないわ。


 お父様へ融資を願う為のプレゼン資料をうんうん言いながら準備する私に執事のホプキンスから声をかけられたの。


「メアリー様、王都より先触れが参りました」

「また?」


 婚約解消したはずのレイモンド王子がアルウッドへ押し掛けた時には()()()()、これまでの思いの丈をお話したらわかっていただけたわ。何故か帰りに号泣されていたけど。


ちょっと。変な目で見ないでくださる?だって「君の笑顔が頭から離れない」とか「君の本当の気持ちを知りたかった」とか気色わ……ゲフン。訳が分からないことおっしゃっていて、私の中の何かが切れてしまったのよ。何を言ったかあまり覚えていないわ。


さて。今度は誰かしら?




 サミュエル達と考えられる限りの想定をして準備に臨んだ一週間後。客間にいたのは妹のアンジェリカだった。


「おねえさま~~~!!!」


 部屋に入った途端に妹が飛びついてきたわ。


「アンジェリカ、どうしてアルウッドに来たの?」

「お父様の許可は頂いてきたわ!お姉さま、会いたかった~。うっうっ……」


 なんだか窶れているわね。でも服装は年相応に変わったわ。とても良く似合ってる。


 それにしてもお父様達ったら跡取り娘を出歩かせるなんて、何をしているのかしら?日頃からアンジェリカを離さない母が止めなかったのもおかしいわね。


「お母様は反対されなかったの?」

「お母様は離縁されて実家に戻られました。私の教育や衣装の予算を横領していた事が分かってお父様がそれはお怒りになられて……」

「えっ!?」


私が出ていき、アンジェリカの教育を見直した所。母が長年に渡りアンジェリカの予算を横領し続けていた事が判明したそうだ。「お前は公爵令嬢の、公爵家の跡継ぎになりうる者の金を盗んでいたのか、この恥知らずが!」とお父様が激怒されたらしい。


容赦なくお母様を切り捨てるお父様が怖かったわ、と言う妹の顔が心なしか青ざめている。


 お母様、アンジェリカをあんなに可愛がっていたのに。


 そう言えば。お母様はアンジェリカに教師をつけていなかった。

さらに言えば。幼い頃は年相応に可愛らしい装いだったアンジェリカは最近はやけに胸元が開いたドレスや大人びた装飾品が多かった。その頃から私への態度も変わっていった。背伸びしているのかと思ったけど。あれ、もしかして……。


「アンジェリカ、まさか私の物を欲しがっていたのは……」


 妹はうつむいている。


「はい。お姉さまの物はお母様と違って上品で洗練されているのに可愛くて、羨ましかったの」


 そんな目にあっていたなんて。


「まさか、婚約者が決まらなかったのも?」

「ええ。多分、お母様は私のお金が使えなくなるのが嫌だったから私を手元に置きたかったのだわ。それと」

「他にもあるのね?」

「お母様は私が成長するにつれて意地悪になってきたの。お前はお姉さまと比べて馬鹿だから婚約者が見つからないとおっしゃるし」


 お母様、私には可愛げがないと言っておきながら。アンジェリカにはそんな事言ってたのね。


「お母様と体格が変わらなくなってきたら、お前には私の古いドレスで十分よと言ってドレスを作ってくださらなくなったわ。お父様に見初められた美しいお母様と違って馬鹿な私はレイモンド様の愛人になってすがって生きるしかないのよ、愛人になりなさいと言い出して」


 私は呆然とした。実の母親が娘を愛人になるように唆すなんて!


「どうして言ってくれなかったの?」

「言えないわ!お姉さまに私が馬鹿だから愛人にしかなれないなんてお母様に言われた、なんて言いたくなかったの。それに……素敵な婚約者がいるお姉様が妬ましかった」

「そんな事ないわ!貴女は美しくて賢い子よ!」


思わず抱きしめるとアンジェリカは泣いている様に微笑む。


「そう言ってくださるのはお姉さまだけだわ。お姉さまが出ていって、お父様が動いてくださったからわかったのです。おかげで私、公爵令嬢としての教育を受けられるようになりました。これまでの勉強が足りなくて大変ですけど。衣装も自分用に仕立てて貰うようになって」

「ええ、頑張っているのね。衣装も良く似合ってるわ」

本当に良かったわ~。改めて私達はお互いを抱きしめた。


「それで。お父様が……」

「戻らないわよ」

大事な事はしっかり言わないとね。


「お父様がお姉さまが良いと言うなら戻って……」

「戻らないわよ」

大事な事だから二度言うわよ。


「お姉さま~」

 アンジェリカが眉を下げて上目遣いで私を見る。可愛いけど譲らないわよ。


「そう言えば、少し前にレイモンド王子がこちらに押し掛けてきたけど。貴女との婚約はどうなったの?」

「それが……」


アルウッドから王都へ戻られたレイモンド王子は「婚約者を蔑ろにした挙句に妹に手を出そうとした俺は屑だ、人間失格だ!王族として生きる資格は無い!」と言い出して修道院に行こうとするのを総出で止めて。結局、王位継承権を返上されて北の辺境に赴かれたそうだ。


え。そんな大事になっていたの?

大丈夫かしらスカイスクレイパー公爵家?


アンジェリカに同行したお父様の部下クレイグに聞いてみたら、他にも入婿なのに娘を蔑ろにされている貴族家があった様で。

「良い見せしめになりました」

と感謝されてるとか。複雑だわ。


王妃様はレイモンド王子を可愛がっていたから早急にフォローが必要ね。


 考え込む私にアンジェリカが。

「私。お母様が出ていかれてから、レイモンド様への気持ちが冷めたというか。なんで好きだったのかわからなくなってきて」

なんて無邪気に言うから。

「へえ、そうなの」

と、私は半眼になる。


「お姉さま、お願い!怒らないで!」

焦りまくるアンジェリカ。


「別に怒ってなどいないわよ?ただね、あれだけ長い間私を悩ませて苦しませた割には随分簡単に終わったな、というだけで。ええ、感想よ。」


暑いわね。扇子を扇ぎながらもう少し感想を言いましょうか。


「政略で決められた相手とは言え、私は婚約者をお慕いしていたわけ。それをあの手この手で牽制(マウント)した挙げ句に身を引かせてこれ?あんまりじゃないかしらねえ」

アンジェリカは真っ青になって謝った。

「うう、ごめんなさい」

「そこは申し訳ございません、でしょう?」

「はい、申し訳ございません。初恋に夢中になりすぎてお姉さまに多大なご迷惑とご心痛をおかけしました。王家と公爵家との大切な縁談を壊した事を心より謝罪いたします。」


 ぴしっとした謝罪と見事なカーテシー。アンジェリカはやればできる子なのよね。この辺にしときましょうか。


「もう終わった事よ。今の私は公爵令嬢ではないし。改めてお茶にしましょうか」


 妹には頼みたい事があるしね。


一体何を言ったんだ、メアリー。

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