静寂
闇の獣が消えた後、静寂が研究室を包み込んだ。空気中に漂う、焦げ付いた臭いと、血の匂い。そのコントラストが、まるで現実と非現実の境目を曖昧にしているようだった。ギルドマスターは、未だに信じられないといった様子で、ゆっくりと剣を鞘に収める。魔法使いは、放心したように杖を握りしめ、歴史家は、古びた巻物を胸に抱きしめていた。
「…信じられない…」ギルドマスターが、呟いた。彼の声には、驚きと疲労が混ざり合っていた。「あの…怪物は…一体何だったんだ?」
私は、無限本を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。腰に軽い痛みを感じたが、すぐに回復した。不死の力は、時折、小さな不調を知らせる程度で、深刻なダメージを負うことはほとんどない。
「古代文明と関係がある…としか言いようがないわね」私は、そう答えた。闇の獣の消滅後、研究室には異様な静寂が戻ってきたが、その静寂は、まるで嵐の前の静けさのように、不安感を煽るものだった。
「あの…数式…」魔法使いが、震える声で言った。「あなたが口ずさんだ…数式が、あれを鎮めた…?」
「そうね」私は、頷いた。「闇の獣の動きには、規則性があった。それは、無限本に記された数式と、驚くほど一致していたのよ。まるで…宇宙の法則が、音楽として表現されているかのようだった」
「宇宙の…法則…?」歴史家は、目を丸くした。「そんな…ことは…」
「可能性は、十分にあるわ」私は、無限本を開き、数式の一部を示した。「この数式は、単なる記号の羅列ではない。宇宙のエネルギーと共鳴する、一種の…楽譜なのよ」
「楽譜…?」ギルドマスターは、首を傾げた。「まさか、あの怪物が、音楽に反応するとは…」
「そうね。奇妙だけど、事実よ。あの闇の獣は、私達を襲ってきたのではなく、何かを探していたのかもしれない。そして、私の歌声…つまり、宇宙の法則を奏でることで、それが満たされた…あるいは、逆に、満たされなかったのかも知れないわ」
私は、無限本を再び閉じ、静かに考え込んだ。闇の獣の正体、そして、無限本に記された数式の真の意味。謎は、深まるばかりだ。しかし、同時に、私は、新たな可能性を感じていた。宇宙の法則を理解することで、この世界の未来を変えることができるかもしれない。あるいは、宇宙そのものを変えることができるのかもしれない。その可能性に、胸が躍る。
「さて…」私は、静かに言った。「次のステップに進みましょう」




