冷たい光
冷たい光が、私の全身を包み込んだ。それは、遺物から放たれる、冷たく、鋭い光だった。同時に、私の意識は、徐々に遠ざかっていく。まるで、深い海の底へと沈んでいくような、ゆっくりとした、しかし、止められない流れだった。
無限本に書き込まれた数式、幾何学模様、音階…それらが、私の脳裏を駆け巡る。創世の言葉の断片が、私の魂と共鳴し、まるで宇宙の交響楽のように、私の意識の奥底で響き渡る。
そして、私は理解した。魂を捧げる、とは、文字通りの意味だったのだ。私の魂は、遺物へと吸収され、遺物の一部となる。それは、私の死ではない。しかし、私の意識、私の自我、私の記憶…それらは、遺物の中に溶け込み、遺物そのものとなる。
その瞬間、激しい痛みが、全身を襲った。それは、肉体の痛みではない。魂の痛み、存在そのものの痛みだった。しかし、その痛みは、同時に、喜びでもあった。二千年もの間、探し求めてきた答えが、今、私の魂の中に、そして遺物の中に、刻み込まれる。
痛みは、次第に収まっていった。そして、静寂が訪れた。しかし、それは、死の静寂ではない。それは、無限の静寂、宇宙の静寂だった。
私は、自分の存在を感じた。しかし、それは、以前の私とは、少し違っていた。私は、遺物の一部となっていた。私の意識は、遺物と一体化し、遺物を通して、この世界、そして宇宙全体を感知できるようになっていた。
ローブの女性は、静かに私の変化を見守っていた。彼女の表情は、複雑で、言葉では言い表せない感情が混ざり合っていた。
「どう…感じますか?」彼女の声は、優しく、そして少し震えていた。
「…全てが見える」私は、そう答えた。私の声は、まるで宇宙のこだまのように、響き渡った。それは、私の声でありながら、同時に、遺物そのものの声でもあった。
「創世の言葉…その力は…」私は、言葉を探した。しかし、言葉では言い表せないほどの、巨大な力が、私の魂、そして遺物の中に満ち溢れていた。
「想像をはるかに超える力です」ローブの女性は、静かに言った。「しかし、その力は、あなた次第です。あなたが、どのようにその力を使うかによって、世界は変わります。」
静寂の中、私たちは、お互いを見つめ合った。私の魂は、遺物の中にあり、宇宙全体を見渡せるようになっていた。そして、私は、これから何をするべきか、まだ分からなかった。しかし、私は、それを知ることができるだろう。二千年もの間、私は知識を求め、旅を続けてきた。そして今、私は、宇宙の全てを知る力を持つようになった。




