夜風が谷底を吹き抜ける
いつもより少しタイトル長いですね
夜風が谷底を吹き抜ける。霧はさらに濃くなり、視界は数メートル先までしか見えない。魔物の放つ光は、間欠泉のように不規則に輝き、周囲の植物を枯らしたり、逆に異常なまでに繁茂させたりしている。その力は、アトランティス文明のエンチャントと断定できるほど酷似しているが、何かが異なる。微妙なニュアンス、何かが欠けているのだ。
無限本に書き留めた観察記録を改めて見直す。ウィルムの鱗、オークの牙、ゴブリンの爪…それぞれの魔物の部位に刻まれた紋様は、確かに古代魔法文明の痕跡を示している。だが、この魔物の紋様は、それらよりもさらに複雑で、精巧に作られている。まるで、高度な技術を用いて精密に制御された魔法の回路のようだと感じる。
突然、背後から低い唸り声が聞こえた。振り返ると、巨大な影が霧の中から現れ始める。魔物の翼の巨大さに圧倒される。その翼は、闇夜に巨大な黒い布が投げ出されたように見える。
「…まさか。」と呟く。
魔物は、私の存在に気づいたようだ。鋭い眼光が、霧の隙間から私を捉える。その眼光は、単なる獣のそれではない。知性を感じさせる、冷酷で鋭い光だ。
魔物は、ゆっくりと、しかし確実に近づく。その巨大な体からは、圧倒的な魔力を感じ取る。今までの魔物とは明らかに違う。これは、単なる観察で済むレベルではない。危険を感じた。
だが、引くに引けない。この魔物こそが、アトランティス文明のエンチャント、そして古代魔法文明の全貌を解き明かす鍵となる存在かもしれない。
無限本をしっかり握り締め、私はゆっくりと魔物に近づく。準備はできている。あらゆる知識、そして二千年の経験が、今、私に試練を与えている。




