呼吸
深呼吸をして、私はゆっくりと立ち上がる。図書館長と歴史家の不安げな視線が、私の動きを追っている。彼らの恐怖は、私の行動に影響を与えるべきではない。冷静さを保ち、この状況を分析しなければならない。
「時間転移装置…ですが、この異空間でも機能する保証はありません」と、私は静かに呟く。そして、彼らの方へ向き直り、続ける。「しかし、他に脱出方法が見当たりません。試してみるしかありません」
歴史家は、かすかに頷く。「…しかし、あの者たちが、装置を監視している可能性も…あります…」彼の言葉には、まだ恐怖が滲んでいる。
「それは承知しています」と、私は答える。「だからこそ、慎重に、そして迅速に行動しなければなりません。装置の起動に必要な手順を、もう一度確認させてください。何か、追加で必要なもの、あるいは、注意すべき点はありませんか?」
図書館長は、ゆっくりと口を開く。「…装置の起動には、『賢者の血』と、『創世の言葉』の一部が必要でした。しかし…この空間では…『創世の言葉』の力が…影響を受ける可能性があります…」彼の声は、少し震えている。
「影響を受ける…具体的にどのような影響ですか?」私は、詳細な情報を引き出そうとする。時間転移装置の起動に失敗すれば、私たちはここで永遠に囚われてしまうかもしれない。
「…『創世の言葉』の力が、この空間の『時間軸の歪み』と共鳴する可能性があります…最悪の場合…装置が暴走し…空間そのものが崩壊する可能性も…」図書館長の言葉は、私の背筋を凍らせる。
これは、危険な賭けだ。しかし、他に選択肢はない。私は、時間転移装置の設計図を取り出し、慎重に確認する。装置の各パーツと、起動手順、そして、「賢者の血」と「創世の言葉」の使用方法を、もう一度確認する。
「では、準備を始めましょう」私は、落ち着いた声で宣言する。「歴史家、あなたは装置の起動手順を、正確に指示してください。図書館長、あなたは、『創世の言葉』の力を制御する準備をしてください。私は、装置の操作を行います。」
静寂の中で、三人の息遣いだけが響く。緊張感が、この異空間を張り詰ませている。脱出は、容易ではないだろう。しかし、私たちは、諦めるわけにはいかない。アトランティス文明の影から、この世界、そして私たち自身を守るためにも。
私は、ゆっくりと、時間転移装置を組み立て始める。賢者の血を注ぎ込み、そして、「無限本」から得た「創世の言葉」の一部を、装置へと繋げる。この異空間で、この装置が機能するかどうか…それは、今、試される。




