側妃の提案
ジュリエルは何故、パトラを庇うような発言をするのか気になった。
「パトラを庇っているような言い方に聞こえるが」
リュールが言うと、ジュリエルは苦しそう胸に手を当てた。呼吸が荒い。
「どうした?苦しいのか?」
ジュリエルは何度か大きく深呼吸を繰り返す。少しすると呼吸が落ち着いてきた。
「驚かせてごめんなさい。大丈夫よ…」
最近まで体調を崩していたと聞いている。母も意識不明だ。無理をさせただろうかと、リュールは気にした。
「休むか?」
「大丈夫よ。私も調査のことは気になるもの」
「そうか......。マレル様の様子はどうだ?」
「意識が戻らないと聞いているわ」
「顔を見に行っていないのか?」
「.......お母様の姿を見るのが怖いのよ。あれほど元気だった人よ。倒れた姿など見たくないわ」
「そうか。 僕はこの事件を早く解決してマレル様もジュリエルも安心できるようにしたいと考えている」
「ありがとう..............そう言えばだけど、あなた、エバを城に連れ帰ったわよね。あの子、今はどうしているの?」
「今は官女の見習いをしている。何かしていないと落ち着かないみたいだ」
「官女の見習いをさせているの?王宮に連れて帰ったぐらいだから、あの子を気に入ったのかと思ったのだけど」
「そ、そういうわけじゃない。君はエバを犯人だと強く思っていたから、公平な調査のために連れ帰ったんだ。それに、スタルという有望な兵士の妹だからな」
「ホントに? 私ね、もし、あなたがエバを気に入っているならば考えがあるの」
「考えって何だ?」
ジュリエルがエバに嫉妬でもしているのだろうかと、リュールは慌てた。
「エバを側妃に迎えてもいいわよ」
「は!? な、何でそんなことを言うんだ?急に!」
「何を慌てているの? やっぱりあの子のことを意識しているんじゃないの?」
「嫉妬か? 僕には君という婚約者がいる。ほかに目を向けるわけないだろう」
「.......え? あなた、そんなことを考えていてくれたの?意外だわ」
ジュリエルが目をパチパチとさせる。不埒なヤツだとでも思っているのかとちょっとムッとする。
「意外とは何だ。僕はいつも誠実だろう」
「誠実というか、私に同志以上の関心を持っていなかった気がするけど?」
「......そんなことはない」
我ながら歯切れの悪い答えだったと思った。
「ねえ、この際だから確認しておきたいわ。 私達、このまま結婚するの?」
思わぬ質問にリュールはジュリエルを見つめる。
「.....イヤなのか? 側妃だなんて言いだすし」
「私に王妃なんて務まらないわ」
「何故、そんなことを言うんだ。ずっと妃教育を受けてきただろう?」
「それはそうだけど、違うの。 あなたは疑問を感じないの?」
(何でそんなことを聞くんだ?)
ジュリエルは一体何が言いたいのだろうと、リュールは変な冷や汗が出てくる。
「..........僕達の結婚は、生まれる前から決められていたし、考える意味は無いと思っていた」
「今こそ考えるべきじゃないかしら? 血の尊さをやたらと重視する結婚は時代にそぐわないわ。私達だって1人の人間よ。自由に結婚相手を選ぶべきだわ」
「.........僕がイヤなのか?」
「あなたがイヤというのも少し違う。リュールはステキだし。でも“同志”としてなの。リュールだって私のこと好きだとか思っていないでしょう?」
「好きだよ。“同志”としてだが.......」
「ホラ、熱い想いなんてないのよ、私達には」
「貴族の結婚なんてそんなものだろう。ましてや僕らは選べる立場にないんだ」
ジュリエルは悲しそうな顔をしている。ジュリエルが結婚について疑問を抱いているとは思ってもみなかった。こうもハッキリと自分達の結婚について否定的に言われると、リュールはフクザツな気分になった。
「.........もしかして、ジュリエルには想う人ができたのか?」
「そ、そういうわけではないけど。私達は若い世代として新しいことを考えていかなくちゃと思っているのよ。それに、北方は落ち着いていないでしょう?側妃を置く必要もあるのかなと思ったのよ」
「君の言うことは一理あるが、積極的に側妃を提案されると複雑な気分になるな。それに、北方が落ち着かないから側妃を置こうだなんて、僕がいつ死んでもいいみたいに聞こえる」
「そ、そんなつもりじゃないけど!」
「そもそも何でこのタイミングで言い出した?」
「...........お母様が倒れて色々と考えただけよ」
「考えすぎるな。側妃だなんて実際にそんなもの、僕が持とうとしたら君はイヤだろう?」
「そんなことないわよ......」
「まあ、事件が解決したらゆっくりと話そう」
「そうね」
結婚の話が落ち着いたところで、事件の調査の続きをすることにする。
「あの、パトラの実家であるバップ商会だけど…反物以外に色々と手広く物を扱っていて、お母様は栄養剤を取り寄せていたわ」
「栄養剤? 栄養剤を扱うならば薬だって扱っているとは思わなかったか? 何故、今まで言わなかった?」
「...........忘れていたのよ。もしかしたら栄養剤との飲み合わせが悪かったとかないかしら?」
「調べてみるが、栄養剤は薬ほど強い作用はでなそうだがな」
「お願いね」
「パトラからも直接、話を聞きたいんだが。今度はパトラと話させてくれるか?」
「え、パトラからも話を聞くの?」
「当然だろう?」
「君はどうしてもパトラを守りたいようだな」
「そんなことはないけれど」
パトラを呼ぶと、向かい合うように座らせた。
「パトラ、君の実家のバップ商会だが、急に取引額が増えている。ジュリエルとマレル様だけの取引のみか?」
「いえ、旦那様からも注文があると聞いています」
パトラはフロック公爵家とバップ商会との窓口も担当している。取引内容を把握しているはずだ。
「モハイルはどんな注文をしている?」
「大量のドレスを……生地の買い上げから縫製まで全てを任されていると、父からは聞きました」
「ドレスか…」
モハイルは浮気をしている女性にドレスを贈るために注文をしたのだろうか。確かにドレスに宝石などを付ければどんどん値段はつり上がるが。
「そういえば、ドレスと言えば、私もお父様に新しい物を贈って頂いたけど、パトラ、あなたも贈られていたわね?」
「パトラにドレスを?」
ふいに出たジュリエルの言葉が妙に気になってリュールは思わず聞き返したのだった。
リュールは側妃の提案を言い出したジュリエルにただただ驚いています。
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