理想的な女性
リュールはエバからフロック公爵家の内情について一通り話を聞くと立ち上がった。
窓の側に来ると、降っていた雨がいつのまにか止んでいる。だがまだ空は曇っていてまたいつ雨が降るか分からない曖昧な天気だった。
「ふう、少し疲れた。茶でも飲まないか?」
「え、私が殿下とでしょうか?」
「そうだ。ノドが乾かないか?」
「いえ、その……私が殿下とお茶を一緒に頂くというのは……」
「事件の関係者だから気にしているのか?それなら心配いらない。ここに連れてきている時点でまわりの者も君が犯人ではないと考えているさ」
「でも……」
リュールは官女に茶の用意をするように告げた。女子がいかにも好みそうなお菓子も用意させる。
「最近の流行りだそうだな、この菓子は」
リュールの手に持っていたのは、卵白やアーモンドの粉を使って焼いたクッキーのような生地にクリームを挟んだ焼き菓子だ。色とりどりの円形の菓子が並ぶ姿が美しい。
「私、このような美しいお菓子を頂くのは初めてです」
「そうか。たくさん食べろ」
リュールはつい言ってしまってからハッとした。
(たくさん食べろ、だなんて子どもに言うような言葉だったな…)
言われたエバは眉毛を下げて微笑んでいる。困らせたようだ。
「.......僕はあまり甘い物を食べないから」
とってつけたように言ったが、それも違う気がした。
リュールは、普段、女性とはあまり話さないから趣味が合う男同士で兵の動かし方だったり、調練内容の提案だったりと、およそ女子が興味なさそうなことばかりを話している。
既に幼い頃から婚約者が決まっていたせいもあって、別に女性が好むような話題を話す必要が無いと、気の利いた話術を身につけなかったことを悔やんだ。
(会話に困るな……会話のハウツー本でも読んでおくのだった…)
「お嬢様は……大丈夫でしょうか」
「ん?ジュリエルがどうした?」
「ここ最近、体調が思わしくありません。今回のことでさらに負担がかかるのではと」
「そういえば、少し前に寝込むようなことがあったな。こちらからも近く医師をやるから心配ないだろう」
「そうなのですね」
エバは自分を犯人だと決めつけたジュリエルを、純粋に心配をしているようだった。本当に心優しい娘だなと思う。
調査のためにエバを呼んだが、彼女自身についても聞きたくなった。
「……ちょっと世間話でもしようか。君自身、兄の活躍をどう思っているんだ?」
「兄は、10歳の時には自分の生きる道をハッキリと決めました。ですから、兄が活躍できる場があるのは喜ばしいことです」
「そうか。 ちなみに、君は馬には乗れるのか?」
「はい。私も兄と同じように父から馬術だけでなく剣術を習いました。もちろん、兄には全く敵いませんが」
「剣術もやるのか!? それは興味深い!」
リュールは自分の興味あることにエバが関係していると知って嬉しくなった。
(剣術や馬術もできるのか。ますますエバに興味が湧いたぞ)
密かに気持ちが盛り上がっていると、エバから遠慮がちに話しかけられた。
「殿下、私達の部屋のことですが……私達には身分不相応です。もっと質素な部屋で結構なのですが」
「そうか?あの程度の部屋でそう気を使わないでくれ。僕はスタルに期待をしているし、将来の立場に合わせた部屋でもあるからな。スタルの妹である君もいずれ人々から注目されるようになる。その準備だと思って使えばいい」
「そんな……兄はともかく、私は何も殿下のお役に立てていません。私ができることはないでしょうか?」
「役に立てることか……」
(これは……エバと近づくチャンスではないか? 権力を行使するようだが……)
「ならば、官女の1人として見習いでもするといい。 ライラ、面倒を見てやってくれるか?」
ライラと呼ばれた中年の官女は部屋の片隅に控えていた。リュールの世話をしている1人だ。
「ライラ、先ほど話していたとおり、エバの兄にオレは期待している。エバもそのうち脚光を浴びるようになるだろう。ライラがエバの知らないことや足りないところを補充してやってくれ」
ライラは女官長をしている。結婚して一度は官女を辞めたが夫に先立たれると、再び宮中に復帰して今までリュールの身の回りの世話を担当していた。
ライラには子がいなかったのもあり、リュールを自分の子どものように可愛がってくれた人である。彼女にエバを任せておけば問題ないと、リュールは考えた。
「かしこまりました」
ライラは、リュールがエバを気に入っていることがすぐ分かった。これまで、リュールが個人的に女性を城に連れて来たことなどない。調査で連れて来たとは言っていたが、あのような部屋を用意するように命じるなんて、個人的な思いがあるに違いないと思っていた。
ライラは、リュールには婚約者がいるが、お気に召したらしいエバをしっかりと教育してあげようと思ったのだった。
ライラはお母さん目線でリュールを見ています。
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