イゴルの妃探し
大広間に入ると、貴族達の視線がイゴル達に注がれた。ヌボーの額には角のようなでっぱりがあるが、姿勢を正しているせいでほとんど人族と変わらない様子に皆、驚いているようだ。
イゴルに至っては、野性的なワイルドな貴公子に見える。黙っていれば、見た目の美しさで寄って来る令嬢も多いだろう。
「イゴル達のせいで僕達があまり注目されていないようだな」
リュールがエバに話しかける。ちょっと前までエバがリュールの隣に立つことに批判的な意見も多かったというのに、本日はそれどころではないらしい。
「僕は、エバと堂々と入場しているというのに惜しい気分だ」
「私は嬉しいですよ。人からどう思われようともリュール様と並んで入場できているのですから」
「これからはそれが当たり前になる」
「はい」
リュールがエバの腰をグッと引き寄せると、貴族達からほんのちょっとざわめきが起きた。見られていないようでしっかりと見られているようだ。
「おい、リュール、挨拶が終わったらさっそくダンスなんだよな?」
イゴルがリュールの耳元でささやくように聞いてきた。そんな親し気な姿を見た貴族達はまたどよめく。
「ん?なんだ?」
「イゴル様がリュール様と親し気にしているからですよ」
ヌボーが言うと、“そうか!”とイゴルは何故か嬉しそうにする。
「お前とオレ、仲良く見えるってよ」
「おい、紳士らしく振る舞うんじゃなかったのか?妃探しをするんだろ?」
「おう、そうだった。メンドクサイが、紳士らしくするかぁ」
イゴルは挨拶が終わると、早く誰か紹介してくれとばかりにリュールの側にひっついている。エバが少し離れて立つことになり、エバが誰かにダンスに誘われないかとリュールはヒヤヒヤした。
「おい、あんまりひっつくなよ。お前、男好きだと思われるぞ」
「何言ってんだ。コーザヌはな、親しくなった者であれば男も関係なく距離は近いぞ」
(親しくなった者?僕はいつの間にコイツと親しいことになったんだ? しかし、コイツがやたらと距離が近いのはそういう意味があったのか)
「親しくしてくれるのは嬉しいが、ここはインデルだ。あまりひっつくと違う意味にとられる」
「仕方ないな。早く誰か紹介してくれ」
「がっつくなよ」
リュールはあたりを見回し、高位貴族の令嬢を見る。リュールが側に来るように言うと、おそるおそるといった様子で令嬢がやってきた。
「はじめまして。スクリ侯爵家のピスラと申します」
「はじめまして。オレはコーザヌの長の息子であるイゴルと申します。宜しければ、ダンスのお相手を願えますか?」
イゴルは先ほどまでの砕けた口調とは違って、とても丁寧な言葉で話した。思わず“お前、誰だよ?”とツッコミそうになったが、じっとリュールは耐えた。令嬢はコーザヌの野蛮なイメージとは180度異なる印象に、安心したようで表情を緩めた。
「ええ、ぜひ」
ダンスが始まると、これまたイゴルは初めてとは思えない動きで上手にリードする。令嬢はとても踊りやすそうだ。
「驚いたな」
「イゴル様はコーザヌの中でも特に優れた能力を持つ方ですから」
思わず言葉をもらすと、ヌボーが言った。
「ああ、確かにとても優れた能力を持っている。 ちなみに、イゴルは彼女を気に入ったのだろうか?」
「いや、無理でしょう」
「なぜ?」
「わずかですが、あの令嬢からは男の臭いがします」
「え?」
「誰か相手がいるのでしょう」
「そうだったのか……」
イゴルがダンスを終えて戻ってくると、笑顔のまま“ダメだ”と言ってくる。
「あの女、男がいるぞ」
「ヌボー殿も言っていた。ダンスする前に気付いていたのか?」
「いや。オレもちょっと緊張していたから。ダンスし始めたら分かった」
「その嗅覚を活かして、これはと思う令嬢を言ってくれれば紹介するぞ」
「う~ん」
イゴルは会場を見渡しながらうなる。
「ここのいる女達、ほとんど男の臭いがするな」
「貴族は婚約者が決められていることが多いからな…」
「オレは別に貴族じゃなくてもいいんだぞ」
「そうなのか?」
「コーザヌが大事にするのは“相性”だ。会った時に直感で分かる。そして、話してみて確信に変わる」
「ほう、そうなのか」
「お前とエバは違うのか?」
「そう言われてみると、エバには最初から惹かれていたな」
「お前も同じじゃないか」
「そうだな」
貴族達は、リュールとやたらとイゴルが仲良く話しているのでスッカリ警戒心が解けたようだった。だんだんとイゴルにダンスの相手をしてほしいと令嬢から寄って来た。
「どうする?」
「せっかくだ。ダンスの練習だと思って相手する」
小声でのやり取りに何故だか令嬢達からキャーなんて声が上がる。金髪&碧眼のリュールと深い色味の金髪&緑眼のイゴルが並ぶと絵になるのだ。
「お前、人気あるな」
「お前こそ」
何だかんだでリュールもイゴルと仲良くなった気がしてきた。イゴルが令嬢の手を引いてダンスを始めると、リュールの側にエバが寄ってきた。
「リュール様。令嬢に人気ですね」
「あれはイゴルが横にいたからだろう」
「そんなことはありません。リュール様、私ともダンスして頂けますか?」
「もちろんだ!すっかりイゴルの調子に狂わされていたが、エバとダンスしたかったんだ!」
エバの手を取ると部屋の中央へと進む。エバと向かい合ってダンスを始めると、リュールはしみじみエバが妃になるのだと実感してきた。
「エバ、幸せだ」
「私もです」
普段のリュールなら絶対にしなかったであろう。だが、酒を飲み、すぐ近くにエバがいるという状況にリュールの気分が高まっていたからそれは起きた。
リュールはエバを引き寄せて皆の前でキスをしていたのだった。
リュールがどんどん大胆になっています。
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