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毒殺容疑で牢に入れられたメイド、唯一の味方は王子様──戦乱の果てに妃として迎えられました  作者: 大井町 鶴
◆第四章 コーザヌとの和平

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リュール、狙われる?

「僕と踊るのか?」

「そうだ。早くしろ」


イゴルが手を広げて待っている。仕方なく、リュールはイゴルの手を取って向き合う。


「男と踊るのは初めだ」

「ああそうか。インデルでは男と女で踊るものだったな」


笑ったイゴルは“じゃあお前、ついでに女になれ”などと言う。さすがにまわりの者がイキリたった。


「バカ言うな。一緒に踊ってやるだけだ」

「おう。じゃあ頼むな」


音楽が流れるとイゴルはステップを軽やかに踏んでいく。同時にリュールの姿勢や手の動きもじっと観察しているようだ。


すると、突然、腰に手を回されていた手に力が入り、グッと引き寄せられた。リュールはドキリとする。


「おい!」

「何だよ」

「そんなに引き寄せる必要はないだろ」

「お前は、今、女役だろ? 文句言うなよ」

「女役と言ったって僕は男なんだ。あんまり引っ付くなって!」

「何、照れてんだよ」


イゴルはリュールが恥ずかしそうにするので面白がり、さらに引き寄せてイゴルの胸に顔をうずめさせる。悔しいがイゴルの胸の筋肉はリュールよりも大層、立派だった。


「うぐぐ....やめろって」

「顔が赤い。照れたか?お前カワイイな」

「おい!」


ガハハとイゴルが豪快に笑う。


「おい、お前.......男も好きなんじゃないだろうな?」

「何? 心配するな。オレが好きなのは女だ。男が好きなヤツもいるけどな!」


“男が好きなヤツもいる”と聞いて、リュールは血の気がサーッと引いた。


(女が好きと言いつつ、こいつ、僕のことを狙っていないだろうな!?)


リュールの顔は童顔なので、女の顔に見えなくもないのだ。身の危険を感じていると、曲が終わる。リュールはイゴルからすぐに離れた。


「おい、警戒するなよ。取って食うなんてことはしないぞ」

「お前が妙なことをするから警戒しているんだ」

「おいおい、オレはお前と仲良くしようと思ってんだ」

「仲良く?だとしてもほかのやり方があるだろう.......」

「あはは!」


(掴めない。イデルという男は分からん! というか、コーザヌが分からん!)


事前に聞いていた欲望に忠実で粗暴というイメージより、自由奔放という方が正しいだろうか。


「で、舞踏会というやつはいつやるんだ?」

「舞踏会を開きたいのか?開催しても良いが、お前、僕と踊っただけだろう?さすがに練習不足じゃないか?」

「問題ない。ヌボーも側で見ていたし、後はヌボーと練習する」

「そうか。なら、近いうちに開催する手配をしておこう」

「おう!」


ようやく長い1日のスケジュールが終了した。リュールはイゴル達と別れると、急いで私室に戻った。


「エバは何をしている!?」


メントにすぐさま問う。


「エバ様はイゴル殿が来てから殿下が戻って来ないので心配していたようですよ。今、お戻りになったことを伝えて参ります」


メントはエバを呼びに行った。ほどなくしてエバがやって来る。


「殿下、お疲れ様でした」

「エバ、僕は疲れた……」


側に抱き寄せると、エバの肩に顔をうずめる。


「あらあら、どうされたのです?」

「イゴルは悪いヤツではない。 だが、1日振り回された」

「振り回された?」


リュールはほぼ1日付き合わされた内容を話した。話しているとエバの口角が上がっていく。


「ん?笑っているな?」

「はい、とっても楽しまれていたようなので」

「僕は狙われかけたんだぞ? あいつらの考えが分からん」

「イゴル様には特に子どもみたいな部分がある、と考えれば良いのではないでしょうか?」

「子どもか........そうかあのバカでかい男を子どもだと思えば良いのだな?」


ブツブツと言っているリュールの手をエバは優しく包む。


「殿下、大丈夫ですか? 殿下は辛抱強くイゴル様達に付き合われました。彼らの中では確実にプラスになっていると思いますよ」

「僕は、自分が王子に生まれたこともあって、常にまわりが自分に合わせてくれるのが普通だった。だから、今日は修行みたいなものだったな」

「良い勉強になりましたね」


エバに言われればそうなのかもしれない、とリュールは思った。


「..........エバ、たまには風呂に一緒に入ろうか」

「えっ!? ダ、ダメです!」

「コーザヌの習慣を取り入れてみようと思ったのだが?」

「結婚していませんし、抵抗があります」

「結婚していたらいいのか?」

「.......結婚していれば、反対する理由はありませんが、抵抗はあります」

「まあ、いいということだな? 結婚した後が楽しみだ」

「もう…」


エバが頬を染めてうつむけばリュールは気分良くなった。エバをグッと自分の側に抱き寄せる。


「カワイイな、エバは」

「殿下…」

「エバ、そろそろ僕を名前で呼んでくれないか?いつまでも殿下と呼ばれるのは寂しい」

「……リュール様」

「うん、それでいい」


リュールはエバに口づけた。何度もキスすればエバの顔もどんどん上気してくる。たまらなく色っぽい。


だが、エバはリュールの胸を押して距離をとる。


「もう、ここまでです」

「残念だな」


リュールが眉を下げて言えば、エバはグッと伸び上がりリュールの頬にキスをした。


「これで、何とか許してください」

「初めてエバからキスされた」


嬉しくなり、またエバを引き寄せて胸の中にとじこめた。


「リュール様、もうダメですよ!」

「エバは厳しいな。誰も見ていないだろう」


競い合い以降、リュールのスキンシップが増えたことで、まわりの者も気を利かせて2人きりにしてくれることが多い。リュールはとても喜んだが、エバはまだ慣れないのか突き放そうとしてくる。


「そろそろ触れられるのにも慣れてくれ」


リュールは再び、エバに口づけたのだった。

イゴルはリュールをすっかり気に入っています。


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※投稿は毎日朝9時過ぎです。引き続きご高覧頂けるとウレシイです٩(*´꒳`*)۶

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