イゴルという男
「おい、リュールも湯に共に入ろう」
「は?入浴は普通1人で入るものだ」
インデル王国にない習慣を提案されて面食らう。
「コーザヌでは共に入るぞ」
「広さはあるから共に入ることはできるだろうが、こちらにはそういった習慣が無い」
「だから何だ?」
「一緒には入らないということだ」
「何故だ?恥ずかしいのか? 気にする必要はない。ヌボーが気になるならヤツは後から入るように言うぞ」
「いやいや、ヌボー殿も汗をかいているだろう。入浴はまたの機会にしよう」
「お前は恥ずかしがりやだな」
ワハハと笑いながら、イゴルとヌボーは風呂場へと入って行った。
「はぁー、何を言うか分からないヤツだな」
隣にいたハンガルがうなずいている。ハンガルはどこからツッコめば良いか分からず、黙ったままでいたのだ。
.........浴室から出て来たイゴル達は気持ちが良かったのか機嫌が良かった。
「バラが浮かんだ風呂もいいな。香りがいい。コーザヌに戻ったらほかの者にも教えてやろう」
ヌボーも気に入ったようでうなずいている。
会食の時間となった。豪華な食事がテーブルに並ぶ。コーザヌの主食は肉だと聞いていたので、多くの肉料理が用意されていた。
彼らは食事マナーなど気にせず自由気ままに食べるものだと思っていたが、意外にも違った。
「母上から食事の仕方についてはしつけられたからな」
そう言うと、フォークとナイフを持つと、実にキレイに食事を始めた。ヌボーもキレイな食べ方をしている。共に食卓についていた大臣達は驚いて見ていた。
「味はどうだろうか?」
「……上品な味だな。まあ、うまい」
「今度、リュールもコーザヌに来ると良い。羊に棒を刺して回しながら焼いた物もうまいぞ。食ったことあるか?」
「無いな。だが、兵士達の野外での食事ではそういったことをしていると聞いている」
「そうか。じゃあ、スタルも食ったことがあるのだな」
「そうだろう」
リュールは戦術などに関心があっても実際に兵士に混ざって戦いの場に行くことはない。憧れはあったが、戦に出ることは許されなかった。
「外で食べる食事は楽しいぞ。馬に乗って野を駆けるのも楽しい。お前は城ばかりにいて退屈しないのか?」
「城ばかりにこもっているわけではない。コーザヌと和平を結んだのだから、これからはゆっくりと馬に乗る機会も増えるだろう」
「ははは、そうか」
どこか他人事のように話すイゴルとの会話は妙な気分になった。
「せっかく、インデルに来たんだ。何かしたいことはあるか?」
「そうだな。ダンスをしてみたいな。オレの国とインデルはだいぶ違うからな」
「そう、なのか?」
多分、だいぶ違うだろうなとは思ったが、気を使ってそのような言い方をした。
「コーザヌのダンスは、戦いのためのダンスだな。主に男のためにあるな」
「それは迫力がありそうだ」
「それもお前がコーザヌに来た時に見せてやるよ」
「楽しみだ。我が国のダンスとは男女でペアになって踊る。ステップといって動きに決まりがあるからそれを覚えなければダンスは難しいと思うぞ」
「オレは、見た動きはすぐに覚える。だから、心配はいらない」
「本当か?」
人族とは違ってコーザヌは驚くべき能力を持っている。ウソでもなさそうだ。
「リュール、お前、後で踊って見せろ」
イゴルの命令するような口調にまわりの者がザワついた。眉間にシワを寄せ、明らかに敵意を示す者もいる。リュールが目配せをすると静かになった。
「踊って見せてもいいが、お前が言ったようにすぐに覚えて見せろ」
「おう」
余裕そうにイゴルは笑ったのだった。
会食後はコーザヌの性格を考慮して自由時間としていたのだが、思わぬことにダンス指導の時間となる。イゴルはリュールの肩に手を回すと、ダンスのことをあれこれと聞いてきた。まわりにいた者はまたもや注意しようと口を開きかけたが、リュールは止めさせた。
注意するのを止めさせたものの、肩に手を回されてリュールもかなり驚いていた。
(こいつ、距離感が近い!というか、コーザヌでは普通なのか!?)
肩を抱かれつつ頭1つ分背の高いイゴルを見上げると、イゴルは“どうした?”などとリュールの顔をのぞき込みながら聞いてくる。
イゴルが妙に色っぽいのでリュールは焦った。
(何なんだ、一体!?)
「おい!近いぞ! ステップを見せるから覚えろ!」
恥ずかしくなって、リュールはイゴルを突き放した。
「おう、さっそくやってみろ」
イゴルは腕を組み、リュールのステップをじぃっと見ている。
(不思議なものだな。あれほど、戦いで憎み合っていた仲なのに。何故、ダンスを教えることになっているんだ)
何年も前に起きたコーザヌとの戦いでは、コーザヌにも多大な被害があったと聞いている。だが、イゴルの行動はそんなことを忘れたかのような振る舞いであった。
イゴルが過去は過去として、これからは関係を良くしようと考えているならば、自分も応えねばとリュールは思う。
曲の終わりと共にリュールが動きを止めると、イゴルは組んでいた腕をほどいた。
「覚えた。ダンスするぞ!」
「本当にもう覚えたのか?」
「ステップは覚えた。手の動きも何となく覚えた。 リュール、お前が相手になれ」
「え、オレがか?」
「ほかに誰がいるんだ?」
イゴルの言葉にリュールはもはや、いちいち驚くのを止めたのだった。
イゴルは単純にリュールと仲良くなりたいと考えています。
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