平和協定の使者
コーザヌから和平調印式のためにヌボーとイゴルがやって来た。
「我が父はオレを和平の使者として立てた。今日は宜しく頼む!」
王の間で堂々とした様子で述べるイゴルにインデル王国の貴族達は呆れた。内容はともかく言葉の選び方がなっていない。
貴族達から“何という言葉遣いだ!”などとヒソヒソ声がする。耳の良いコーザヌならば聞きとれているはずだ。リュールはジロリと声のする方を見た。リュールの視線に気付いた貴族達は黙った。
「はるばるインデルまでお越し頂いたことをありがたく思う。これからは平和でお互いにメリットのある付き合いにしたい」
王チャートが述べると、皆、同意のための礼をしたが、イゴルとヌボーだけはそのまま立っていた。
さっそく調印式の流れとなり別室に案内しようとすると、イゴルがリュールに話しかけてきた。
「おう、リュール! お前の婚約者は今日はいないのか?」
リュールは面食らった。
先ほど顔を合わせたばかりなのに、まるで長年の友達のような口をきいてくる。
「エバのことか?エバとはまだ結婚していないからこの場にはいない。気になるのか?」
「オレの恩人だからな。スタルにも会いたかったな」
残念そうにイゴルは口を尖らせた。見た目が人族そのものであるがゆえに、気ままに振る舞う姿に違和感がある。
イゴルは人族とコーザヌの血を受け継いでいるので、野性的な魅力がある。発達した大胸筋や腕の筋肉が素晴らしく背も高い。ワイルドな美丈夫だった。黙っていたら令嬢がたくさん寄って来るだろう。
「スタルにはしばらくすれば会えるだろう」
スタルは国境沿いにしばらく残っていたが、兵をいくらか残して王都に戻らせることになっていた。
平和協定を結んだとしても、国境を守る兵を完全に撤退させるわけにはいかない。コーザヌには気にならないほどの人数を残しておく必要があった。スタルは国境を守る兵を選別して残した後、速やかに戻ってくる手はずになっている。
調印が無事に終わると、イゴルは落ち着かない様子になった。
「おい、リュール。 オレは身体を動かしたい」
「は?身体を動かしたい?何をするつもりだ?」
「お前のところの兵と対戦してみたいな。もちろん、殺さないから」
「当たり前だ!そんなことをしたら、結ばれたばかりの平和協定が台無しになる。これからも会食もあるのだから、しばらく大人しくしていろ」
リュールもイゴルの口調に合わせて、まるで友達に話すような口調で答えた。イゴルのようなタイプにはざっくばらんに接した方がイゴルも楽だろうと思ったからだ。
「イゴル様、ではオレが相手しましょうか?」
側にいたヌボーがイゴルに話しかけた。
(イゴルは本当に身体を動かしたいだけなのか?うちの兵のレベルを知りたいわけではないのか?)
「お前とか。それでもいいか!」
これから会食があると伝えたのに、イゴルはさっそくやる気になったらしく腕をブンブン振り回していた。訓練場にイゴルとヌボーを案内するように指示をする。自分も2人の手合わせが見たくなった。ヌボーは参謀を務めていると聞いている。
「イゴル、見学していいか?」
「おう、いいぜ」
イゴルは腕を天井に向かって伸ばしながら歩いている。彼はどこでもマイペースなようだ。
広い訓練場に着くと、連絡を聞いたハンガルが待っていた。木剣を渡すとヌボーは鼻でわらう。
「フン、我らコーザヌの男は木剣など使わん。鋼の剣を用意しろ」
ヌボーの言葉を受けて鋼の剣を持ってこさせると、リュールやハンガルは高台に移動して2人の様子を見守る。
イゴルが剣を手に取ると、剣の様子を確かめるように二度振った。すぐに剣を構える。ヌボーもスッと剣を構えた。
ガキィィィィーッン!!
すぐに剣のぶつかる音が響いた。剣の打ち合いは激しく続き、剣同士ぶつかる音が続く。
イゴルとヌボーは、驚いたことに剣を振り回しながら笑っていた。
(コーザヌはやはり人族とは違うな.....)
空気を吸うように剣を振り、馬に乗り、弓を射る。
(なかなか打ち払えないわけだ)
しばらくは続くかと思われたぶつかり合いは突然、イゴルの言葉で終了となった。
「腹が減った! ここまでだ!」
ヌボーもうなずく。彼らは本当に本能で動くのだなと、リュールは思った。
「おい、リュール、どうだった?」
「見させてもらったが、やるな。 汗をかいただろう?会食の前に入浴してこい」
「お、そういえばこの国は“風呂”というものがあるんだろ?入ってみたいな」
「コーザヌでは入浴はどうしているんだ?」
「泉がある。泉といっても冷たくはないぞ」
「温泉のことか?」
「そう、温泉だな」
「お前の国では花びらなんか浮かべるんだろ?そんなものにオレも入ってみたい」
イゴルの言葉を聞いた従者たちが急いで走って行った。急いで風呂にバラの花びらを浮かべるのだろう。
「来い。案内する」
リュールはイゴルとヌボーを連れて浴場へと案内することになったのだった。
イゴルはリュールを一目見て、“仲良くできそうなヤツ”と、判断しました。
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