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毒殺容疑で牢に入れられたメイド、唯一の味方は王子様──戦乱の果てに妃として迎えられました  作者: 大井町 鶴
◆第三章 異民族の脅威

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チア夫人

競い合いの会は、朝から開始された。


リュールは共に行くことができないので、エバを送り出す前に、いつも以上にきつく抱きしめてキスをする。


「殿下、心配なさらなくても私は無事に戻ってきますから」

「無事帰って来ると思っている。だが、触れていないと不安なんだ」


エバがリュールをギュッと抱きしめ返すと、リュールは少し落ち着く。でも、やはり心配だった。


「今からでも競い合いに出るのを止めないか?」

「なりません。国の平和が望めるチャンスなのです。私は逃げません」


エバの気持ちは固かった。


(エバが決心しているのに、僕の方がいつまでも決心できないのは情けないな)


「無事戻るのを待っている。何かあればすぐに笛を吹くんだ」


エバには小さな筒笛を首から下げさせた。笛の音に応じて、すぐに駆け付けられるように対策をしていた。


「分かりました」


エバは微笑むと、女性騎士らと共にテントまで進んで行く。自信があるのか一度も振り返らなかった。リュールは、インデル王国とコーザヌの間に建てられたテントに向かうエバを、後ろ髪を引かれる思いで見送った。


テントに着くと、既にチアらしき女性と侍女らがいた。エバが到着するとすぐに椅子を勧められる。


「はじめまして。エバと申します」

「はじめまして。チアです」


チアは母が人族なので、一般的なコーザヌ人よりも人族に違い容姿だった。背中はシャンと伸びており、額にあるでっぱりも少ない。髪の毛は薄茶色で顔立ちは美しい。エバの母と同じくらいの年齢らしいとの情報だったが、エバより少し上ぐらいの若い娘のように見えた。


「楽にして下さい」


チアは、エバに優しく声を掛ける。今までの経験からコーザヌはてっきりぶっきらぼうな話し方だと思っていたので、チアの丁寧な言葉使いは意外だった。


「お気遣いありがとうございます。本日は宜しくお願いいたします」


エバがニコリと微笑むとチアも微笑んだ。


「母などから、人族の暮らしをよく聞いております。私の母もですが、インデル王国から攫われてきた女性がコーザヌには多くいます。おかげでコーザヌの中にいても人族の暮らしを知ることができます。ですが、やはり攫うことは良くはありませんね」

「チア様、そのようなこと.......」


チアの発言をコーザヌの侍女がたしなめようとする。チアは手を振り、侍女の言葉を遮ぎった。


「私はいつかこうして人族と話す機会があれば、きちんと我らの国や考えを話すべきだと考えていました。あなたは黙っていなさい」


チアは教養があるらしい。人族とコーザヌの両面を知ることでバランスの良い考えができるみたいだ。


「お考えを聞かせて頂けたこと、嬉しく思います」

「いえ。あなたは私の息子を救ってくれた恩人です。正直に考えを話すことは当然です」


チアがニコリと微笑んだ。エバはいつか草原で倒れていた少年がコーザヌの長の子だったことを思い出した。


「そう言えば、コーザヌ長のお子さんでしたね。チア様があまりにもお若く見えるので、ピンときておりませんでしたが、あなたがあの少年のお母様なのですね」

「はい。あの子は私の末の息子でイゴルといいます」

「イゴルさんはその後、お元気でしょうか?」

「ええ。とっても。ここは女人しか入れぬので連れては来れませんでしたが、ぜひ、会って欲しかったですわ」

「いつかお会いできることを願っています」


エバも微笑みながら答える。


かつて草原に倒れていた少年は自分の肩くらいまでの背丈しかなかったが、あれから10年経っている。背丈が随分と伸びただろう。


「本日は、競い合いということになっていますが、交流を図るための競い合いですから気楽にして下さいね」

「はい」

「では、始めましょうか」


チアが立ち上がると、弓を侍女に持ってくるように命じた。すぐにエバの分も用意される。


エバは弓の全体を確かめてみたが、しっかりとした作りで破損している部分も見られない。競い合いは言葉の通り、きちんと公平に行われるらしい。


テントを出ると、赤い布が巻かれた棒が遠くに立てられているのが見えた。赤い布は旗のように風になびいており、普通の的は無い。


「あの赤い布を射抜くのです。コーザヌの伝統的なスタイルです。私からやりましょう」


チアは弓を構えて矢をつがえると、狙いを定めてすぐに射た。風にたなびく赤い布の中央を見事に射抜いた。


(射るまでが早い!)


エバは、さすがコーザヌの中で育ってきていると思った。


次はエバの番だ。エバは弓を構えると脚を開いて、肩を意識する。深く呼吸をすると狙いを定めた。矢を射る。


矢は赤い布の中央を射抜いた。


「さすがですね」


チアが満足した顔で微笑んだ。エバも微笑むがドキドキしていた。


(無事、真ん中を射抜くことができて良かった。あまりにも実力が劣れば、インデルが下に見られてしまうもの)


エバはあくまで対等の力を見せることが大切だと考えていた。


「次は剣技ですが、少し休みましょうか?」

「いえ、お気遣いなく」

「……コーザヌは人族よりも筋力が発達しています。人族の方が不利になってはこちらとしては申し訳ないですから」


チアはエバに矢場の近くに設けられたイスに座るように勧めてくれた。


「今日はたくさんお話をしましょう。剣技はその間の余興と考えればいいのです」

「余興ですか。そう言って頂けると緊張する気持ちも少しは和らぎます」

「私はあなたと友人になりたいのです。エバと呼んでもいいですか?私のことも気軽にチアと呼んで下さいね」

「ありがとうございます」


思った以上にチアが友好的なので、エバは安心したのだった。

チアは、母が人族なので人族の暮らしにとても興味を持っています。


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※投稿は毎日朝9時過ぎです。引き続きご高覧頂けるとウレシイです٩(*´꒳`*)۶

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