コーザヌの使者
コーザヌの使者が正式にやってきた。
使者はヌボーといって背中の筋肉が盛り上がり、額に魔族の名残である角のようなでっぱりがあった。ヌボーの姿を見た者は、目を思わず背ける。
「本日は、迎えて下さり感謝する」
ヌボーは、王の前で片方の膝を床についてサッと頭を下げて礼をした。インデル王国の礼儀とは異なるが、彼らの中の正式な礼らしい。
謁見の場にはリュールもいた。騎士が多く配置されており、ものものしい雰囲気になっている。
「かつてはコーザヌと我が国は和平を結んでいたこともあった。だが、ここのところ貴殿のところと我が国の関係は良いとは言えない。その中での歩み寄りの提案は、喜ばしいことと思える」
「1つ、確認させてもらいたいことがあるのですが」
ヌボーが王を真っすぐに見上げながら言う。
「何だろうか?」
「今、国境にいる将は何者だろうか?」
「……スタルという若き将だが」
「今回、あれにやられた。オレはあいつを知っている」
「知っているとは?」
コーザヌとの大規模な戦いにスタルを出したのは今回が初めてだ。王は不思議に思った。
「あいつはコーザヌの者を救ったことがある。我らは恩義を忘れない」
ヌボーの言葉にまわりはざわつく。
「救う、とはどういうことか?」
「そのことを話すように長から命じられてきた。スタルという男は長の息子を救ったことがあるのだ」
ヌボーの話では、かつて長の息子が人族を見たいと言って抜け出して行方不明になっていたことがあるらしい。ニオイを追ってきてみれば、人族の家に保護されていた。様子を見守っていると、手当をして元いた草原まで戻してくれたと言うのだ。長の息子を保護したのがスタルとエバだという。
「なぜ、スタルとエバだと分かる?」
「我らは嗅覚も人族とは比べ物にならないほど発達している。1度知ったニオイは忘れない」
「……先の戦で引いたのはそれも理由の1つなのか?」
「戦ってから懐かしいニオイに気づいた。我らは恩には報いる主義だ。だから、今回、夫人同士の競い合いが提案されたのだ」
「我が国の王太子はまだ結婚していないがそれでも良いか?」
「構わない」
使者との謁見が終わると、ヌボーは貴賓室へと案内されて行った。
王はリュールの方を見て口を開いた。
「スタルとエバがコーザヌを助けた話を知っていたか?」
「エバからつい最近、聞きました。まさか、和平につながる出来事になるとは思いませんでした」
「ああ、全くだ。普通ならばコーザヌを保護するなどあり得ない。だからこその僥倖と言えるな」
父王の反応からも夫人同士の競い合いを実現させる方向へと動いていくことになりそうだ。父からはエバの剣術などの腕前を聞かれて、どれもできると答えると安心した様子を見せた。
「お前、なかなか見込みのある娘を選んだな。コーザヌの子を助けたというし、お前とは縁があったのだろう」
「確かに選んだ女性がコーザヌから一目置かれる人物だとは思いませんでした。でも、僕はエバを巻き込みたくなかったですよ」
「本人がやる気なのだ。それに、お前の妃になる者として皆に認めさせるのに丁度良い機会ではないか」
父王の言葉にリュールはようやく、エバを競い合いに送り出すことを了承したのだった。
リュールは謁見の場から退出すると、エバのいる訓練場へと向かう。すると、思わぬことに貴賓室にいるはずのヌボーが何故かエバの前にいるではないか。
驚くリュールにエバが話しかけてくる。
「殿下、ヌボーさんはかつて私と兄が助けたコーザヌのお子さんを知っているそうですよ」
「ああ、それはさっき聞いた。だが、どうしてここにヌボー殿がいるのだ?」
「案内された部屋に向かう途中、懐かしいニオイに惹かれて来てみればスタルの妹がいた」
側には困った様子のメイドと騎士がいた。直感的に動くコーザヌを諫めることもできず、ここまで来たようだ。
「スタルの妹も戦うのか?戦場では女は見かけないが」
「私は兵ではありません。ですが、剣術や弓は好きです」
チラリとリュールの方を向いて言う。どうしても競い合いに出るつもりらしかった。どちらにせよ、父との話し合いでエバを競い合いに送り出すと決めたのだ。ここで決定を伝えることにした。
「実は、今度の競い合いにエバが出ることになっている」
リュールの言葉を聞いたエバはパッと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ならば、スタルの妹が王太子の妻なのか?」
「まだ妻ではありませんが、婚約者です」
「いつ、結婚するのだ?」
「貴殿の国と落ち着き次第だろう」
「お前達の国は面倒だな」
「どういう意味だ?」
友好的な話し方をしていたが、あまりにもぶっきらぼうなヌボーの言い方にリュールはムッとした。
「大事なものは手に入れるだけで単純だ」
「コーザヌはそうやって我が国のものを多く奪ってきたな」
ヌボーがリュールを睨む。リュールも睨み返した。エバが慌てる。
「殿下、ヌボーさん、仲良くしませんか?」
「エバの言うことなら聞こう。恩義があるからな」
そのままメイドと騎士に連れられてヌボーは用意された部屋へと去って行った。エバはホッとしてタメ息をつく。
「エバ、気を使わせたな」
「殿下、コーザヌは人族とは違って己の欲求に正直です。ですが、恩義には厚いところがありますので、悪く思わないであげて下さい」
「分かってはいるが、あちらのことばかり肩を持つと嫉妬するな」
リュールがエバの手を握るとエバは照れた。
「殿下........」
こんなに可愛らしいエバを本当に送り出してもいいのだろうかと、リュールは未だに考えていたのだった。
コーザヌの住む土地は国として正式に認められてはいませんが、彼らは自分達の住む土地を国として認識しています。
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