フロック公爵家
フロック公爵家は、現国王の父チャートの父であるラッドの姉ケイリーの家系である。
リュールの婚約者であるジュリエルはケイリーの孫娘にあたり、リュールと同じ年に生まれたことで、2人の縁組は当然のように決められていた。
もともと、リュールの父チャートとジュリエルの母マレルは従妹同士で仲も良く、一時はこの2人を結婚させてはという流れもかつてはあった。だが、血が近いということで、話が流れ、お互いの子に女子と男子が産まれたら、結婚させれば良いということになったのだった。
だから、リュールやジュリエルに結婚相手を選ぶ自由などは無い。
幼い頃からリュールはジュリエルと会う機会が多く設けられ、定期的にジュリエルの屋敷を訪れていた。
最初は、物心がつく前からの付き合いである幼馴染だから、話が大きく合わないということも無かったが、成長するうちに興味を持つものがそれぞれ変わっていき、最近はあまり話も続かない状況となっている。
リュールは剣術や兵の動かし方などに興味があり、ジュリエルはドレスや花、菓子などの話に興味があったから、お互いに盛り上がる話題もなく、会ってもそれぞれ本を読んだり、好きなことをしていた。
同じ空間にいることは苦痛ではなかったから2人はそれはそれで、心を許せる相手ではあると認識している。婚約者というよりは、“同志”みたいな関係性だった。
……ある日、リュールは兵舎に兵の調練の様子を見に行くと、1人の男に目が留まった。馬術に優れ、木剣を持たせて戦わせてみても筋がいい。
まわりの者に聞けば、彼は子爵家出身のスタルという名前で、自分よりも1つ年上の青年だった。実家の子爵家は貧しく、学園を最初の1年で辞めて軍に在籍していると聞いた。
(学園に行くほどの金もないのか?)
世の中には貴族でもそんな者がいるのかと、その時のリュールは思った。
(ああいう戦うことにどっぷりと浸かってきた男を、自分の手足のごとく使ってみたいな)
そんなリュールの思いから、ちょくちょく兵舎に赴くようになった。スタルを呼んで直に話してみれば、真面目な男であまり多くは語らない。リュールは兵士は求められることを寡黙にやり遂げる方が良いと思っていたからそんなところも気に入った。
兵士は仲間意識も必要である。家族への思いを聞いてみれば、家族愛も強かった。
「オレには妹がいます。妹は学園に通わず、さるお屋敷で奉公をしています」
「さる屋敷とはどこだ?」
「殿下の婚約者様のご実家です」
「フロック公爵家か」
リュールは、スタルの妹にも興味を持った。兄のように馬を操れるのだろうかとか、そんな疑問が浮かんだ。スタルに聞けばすぐ分かることだったが、直接聞いてみたい気がしてスタルには聞かないでいた。スタルに妹に興味を抱いたと知られるのは何となくイヤだった。
毒殺未遂事件が起きる前の先日、リュールがフロック公爵家を訪れると、ブーツ子爵家の娘を連れて来るように命じた。
茶の用意と共に現れたスタルの妹は、訓練や戦いに明け暮れる兄とは違い、肌の色が白くて清楚な雰囲気のキレイな女性だった。
(好みだ........)
リュールは生まれて初めての一目惚れをした。
「名は、何という?」
「エバ、といいます」
「君の兄を知っている。彼は優秀だな」
「兄が殿下のお役に立つことができているならば、私も嬉しいです」
エバが話すことはとても控えめで、舞踏会で自分をやたらアピールしてくる令嬢とは違った。視線だって合わせないように常に下を向こうとする。
リュールは、もっとエバの顔を見たくて顔を上げるように言った。上げた顔には不安げに揺れる瞳があって、リュールの心を鷲掴みにする。ドキドキと胸が鳴った。
リュールは基本的に、女性に気を使った会話をあまりしたことがない。幼い頃からジュリエルという婚約者がいたから、あえて女性と上手に会話するための術を身につけようとは思わなかった。かといって、別に乱暴な口を聞くわけでもなかったからなんら問題はなかった。
だが、こうして気になる女性を目の前にすると、何を話せば良いのか分からなくなる。とりあえず、スタルから聞いた話を話題にしてみようと考えた。
「君の兄、スタルに家庭のことを聞いた。ここでの暮らしはどうだ?不自由していないか?」
ついそんなことを聞いたが、部屋にはほかのメイドもいる。エバの困った顔を見て話題を間違えたと思った。
「学園に通わずとも、ここでのお仕事はとても役に立つことばかりです」
自分の境遇を悲しむようなことは一切言わず、前向きで意思の強さも感じる答えが好ましかった。
「教養も必要だろう。学園に通えるように計らおうか」
「いえ、それでは私がここで奉公する意味がありません。私はここで働き、兄が殿下のお役に立つことができればそれで満足です」
「そうか」
次は何をエバと話そうかと考えていると、ジュリエルが侍女を伴ってやってきた。ジュリエルは自分を見ても少しも嬉しそうな表情を浮かべない。むしろ、苦し気な様子に見えた。
「どうした?具合が悪いのか?」
「ええ。少し、体調が優れなくて」
「体調が悪いならば無理しなくていい。今日は休んでいたらどうだ?」
「でも、せっかく来てくれたし……」
「幼い頃からお前のことを知っている。今日会わないからって何も変わらないだろう」
「まあ、そうね」
ジュリエルは侍女に付き添われて部屋に戻って行った。
リュールは、ジュリエルが部屋にやって来てからそっと部屋の端に移動したエバを見た。彼女は視線を床に向けている。リュールはもう少しエバと話したかったと思ったが、声をどう掛けたら良いか分からず王城に戻ることにした。
玄関に向かっていると、ジュリエル付の護衛騎士が急ぎやって来た。
「ジュリエル様から、お見送りをするようにと……」
「別に見送る必要は無い。どうだ、ジュリエルのその後の体調は?」
「今は、落ち着いてらっしゃいます」
「よく、休むように伝えておけ」
「かしこまりました」
リュールが帰宅した翌日、毒殺未遂事件が起きたのだった。
リュールは凛とした美しさを持つエバをとっても気に入りました。
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