護衛騎士セロ
「話の続きだ。セロはジュリエルと子どものために、ジュリエルが暴走するのを止めたというのか?」
「はい」
「例えば、どんなことを?」
「エバの実家であるブーツ子爵家に金を届けるようにお嬢様は人をやりましたが、私が密かに止めさせました。全く関係のないエバを犯人にしたいとは思いませんでしたので」
「ジュリエル、何故、エバを犯人にしようとした?」
「..........勝手だけど、私は事件に巻き込まれず無事に出産しなくてはと思っていたの。だから、実家が貧しいエバを利用しようとした。出産して落ち着いた頃に彼女を助けるつもりだったわ。相当なお金も渡すつもりだったの」
「君のその考えは人の人生を破滅させるものだぞ」
リュールは厳しい声を出した。愛するエバが犯人にされかけたのだ。
「お嬢様は、お腹の子を守るのに必死なあまり......!」
「お前には聞いていない!」
セロがゴチャゴチャ言ってくるので、リュールは冷たく切り捨てる。
「だが、セロの機転でエバの無実は証明しやすくなった。不幸中の幸いだ」
セロの顔がぱあっと明るくなる。笑顔まで見せてきたセロに“何なんだコイツは”と、リュールは心の中で毒づいた。
「ブーツ子爵家に金を届けるのを阻止した以外は、お嬢様がマレル様に復讐など考えないようにお諫めしていました」
「まあ、当たり前だな」
誇らしそうに答えるセロを冷めた目で見ると、確かにセロは顔は整っている。パトラの話を聞いてから急いでメントにセロについて調べさせたが、セロはプフム伯爵家の三男で、学園卒業後にフロック公爵家に護衛騎士として奉公している平凡な男だった。
ジュリエルとリュールよりも3歳年上の20歳で、顔が整い物腰がやわらかいことからジュリエルに気に入られたらしい。ジュリエルから見たら、大人っぽい魅力を持つ男に見えたのかもしれないが、何とも頼りないところがリュールは気に入らなかった。
「ちなみに聞くが、お前、ジュリエルを妊娠させてその後、どうするつもりだったんだ?」
「マレル様に一緒になることを許して頂けないならば、お嬢様を連れて駆け落ちをするつもりでした......」
セロはうつむきながらつぶやくように答えた。
「お前は大バカだな!」
「リュール!」
ジュリエルが非難するように言うが、リュールはセロに腹を立てていた。
「今まで公爵令嬢として何不自由なく生きてきたジュリエルをどうやって養っていくつもりだったんだ?しかも身重だ。無事、子どもが生まれたとしてもその後はどうする?ジュリエルだけでは子どもの世話なんてできないだろう?生活は?食事は?」
「死ぬ気になればどうにかなるものかと……」
「何度も言うが、お前は大バカ野郎だな。お前を軍に入れて叩き直してやりたいところだ」
「リュール! 私も悪いの!セロを責めないで!」
「ああ、君にも責任はあるよ。甘やかしすぎだな」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
セロがすかさずジュリエルを抱きしめる。
「正直、甘い考えにイラついているが、それでもジュリエルは僕の大事な幼馴染だ。大切にしてもらわねば困る」
「……はい」
恋に暴走している者は判断を間違えることもあるかもしれないな、とリュールは思った。厳しい物言いは自分に向けてでもあった。
「ところでだ。領地で出産するつもりだったということはモハイル殿も状況を知っているのだな?」
「ええ。妊娠が分かってすぐにお父様に知らせたわ。お母様は絶対に反対すると思っていたから」
「モハイル殿の反応は?」
「驚いていたようだけど、すぐに、“お腹が目立つ前に領地に来て、子どもを産めばいい”って言ってくれたわ。生まれた子どもは直接、育てることはできないけど、然るべきところに預けて面倒をみてくれるとまで言ってくれたの」
「それは、また大胆な提案だな」
王子の婚約者なのに、ほかの男との間に子どもを作った娘の出産を手伝うとは前代未聞だ。王家を愚弄する行為にほかならない。明らかになればただでは済まないというのに、モハイルは何を考えているのだろうか。バレない自信があったのだろうか?
モハイルがジュリエルの妊娠を知ってマレルから守ろうとしたならば、マレルを排そうとするかもしれない。
「モハイル殿がマレル様を毒殺しようとした可能性はあると思うか?」
「お父様は、優しい人よ。絶対にそんなことをしないわ!」
「私もそう思います。私達のことを咎めることもなさいませんでした。新しい命を守ろうと、領地での出産を提案して下さったのですから」
(命を守る、か。その考え方だと、人の命を奪うのは考えに反するな)
リュールがしばし考えていると、ジュリエルとセロがお互いを見つめ合っているではないか。
「人が考えているっていうのに、お前達は本当にのんきだな!何度も言うが、僕はイラついているぞ」
「ごめんなさい……」
「セロ、お前はジュリエルに思い切って手を出すほど、どこが気に入ったんだ?」
「そんな聞き方をするなんて失礼じゃない。私に魅力がないみたいだわ」
「そんなことは言っていない。普通、自分の主君の娘に手を出さないだろう」
「私はっ、お嬢様の私を温かく見守って下さる優しいところが大好きなのです。お嬢様がいるだけで私の心は明るくなるのです」
「私だってそうよ!いつだってセロは私のために一生懸命だわ。たくさん話も聞いてくれるし、たくさん褒めてくれる!」
自分で聞いておいてなんだが、リュールはジュリエルの言葉にほんの少し傷ついた……。
「僕はいつも戦いの話ばかりだったからな。その点は申し訳なかった」
ジュリエルがハッとしたようにリュールを見た。気マズイ顔をしている。
「私には戦いの話は難しくて……。でも、キライではなかったわ」
「イヤ、気を使わないでいい……」
居たたまれない時間がしばし過ぎたのだった。
ジュリエルとセロはすぐに2人の世界に入ります。
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