知らされた衝撃の事実
いつものように朝、起きるとエバが慣れたようにリュールの着替えを手伝う。
リュールもすっかり慣れて、密かに夫婦になったような気持ちを味わっていた。入浴の後のマッサージもエバが担当するようになってから、なんとなくその日に起きたことなどを2人で話すのが日課になっている。
エバは聞き上手で、リュールがしばし思考に入ったりすると、根気よく待っていてくれる。決して話を急かしたりしないので、リュールはエバとの会話が心地よかった。
たまに舞踏会なんかに出席しなくてはならない時、心にもない褒め言葉を言わなくてはならないことが苦痛だった。相手もどんな褒め方をするのだろうと身構えているから、あまり適当な言葉も言えない。気を使う会話は心底疲れるので、ありのままで話せるエバとの時間は癒しだった。
「エバ、たまには兄が兵をしごいている姿を見たくはないか?」
「はい。機会があればぜひ見学したいです」
「では、近いうちに連れて行こう」
普通の令嬢ならば暑苦しい兵士の調練の様子など観に行きたいとは思わないだろう。エバは兄が軍に所属しているせいもあり、イヤな顔はしない。これはリュールにとってエバを気に入る大きな要因になっている。
午前中は執務をして簡単に昼食を済ませると、メントから面会者がやって来ていると知らされた。
なんと、パトラが尋ねて来たらしい。
「何でパトラが?」
「殿下に話したいことがあるそうですよ」
「話したいこと?」
そう言えば、先日パトラと話した時に、気になることがあれば知らせるように言ってあった。何を知らせにやってきたのだろうか。
パトラの通されている部屋にリュールが向かうと、ライラやエバが応対していた。パトラはまさかエバが官女として働いているとは思っていなかったようで驚いている。
「ライラ、エバ、僕はパトラと話すことがある。呼ぶまで外に控えていてくれ」
ライラとエバは部屋の外に出ていくと、部屋にはパトラと2人きりになる。
「本日ここまで来てくれたことに感謝する。わざわざ足を運んでくれたということは、君の中でも決心がいることだったんじゃないか?」
「はい。私が王宮まで来ていることは、ジュリエル様は知りません。買い物に街に行ったと思っています」
「そうか。では、さっそく話してもらえるかな。この前、言えなかったことがあるのだろう?」
「本日は、重大なお話をすることになります。これ以上、自分の胸に秘めておくのはとても辛くて........」
「君から聞いた話だと誰にも言うことはないし、気を楽にして話してほしい」
リュールが言うと、パトラはホッとしたように息をついたのが分かった。
「ありがとうございます。.............マレル様がお倒れになる前の話です。マレル様はある薬をバップ商会に依頼されました。ここから今回の毒殺未遂事件は起きているのではないかと考えています」
薬と聞いてリュールに緊張が走る。“ここから毒殺未遂事件が起きている”とはどういうことか。
「ある薬?」
「はい。 殿下は、このところジュリエル様の様子がおかしいと感じてはいらっしゃいませんか?」
「おかしいというより、具合が悪いとは思っているが。それが薬と関係があるのか?」
「お嬢様は.......最近、キビ茶を好んで飲まれています」
「ああ、そうだな。美容にいいからだろう?それが何か?」
「キビ茶は美容にいいだけではありません。その........」
パトラは黙ってしまった。
「キビ茶は....子供からお年寄りまでどの方も飲みやすいやさしいお茶なのです」
「ああ、それも聞いたことがある」
パトラの言いたいことが分からない。
「身体に負担がかかりませんし、その.......」
パトラは意味ありげにお腹をさすって見せた。さすがにリュールもピンとくる。
「まさかだが.......ジュリエルは妊娠しているのか?」
「はい..........」
「僕の子ではないぞ」
「はい、それも存じています」
リュールとジュリエルはそもそもスキンシップなどしたことがない。小さい頃は手をつないだりはしたが。
「誰の子なんだ?」
「これは私の想像なのですが.........おそらくジュリエル様の護衛騎士であるセロ様だと思います。常に側にいるのはセロ様しかいませんから」
いつか玄関まで見送りに来た騎士だろうかと、リュールは考える。あの騎士は女性が好みそうなキレイな顔をしていた。
(ジュリエルが散々、結婚の見直しだの、側妃を持てだの言ってきたのはそれだったのか)
自分の至らない点をイヤになってあんなことを言い出したと思っていたが、ほかに理由があったのだ。安堵する半面、自分がジュリエルの意に沿うような振る舞いをしていたら、ほかの男の子を妊娠することも無かったかもしれないと、リュールは思った。
(それにしても妊娠しているなんて.......)
想像していなかった衝撃的な話に、頭を殴られたような衝撃を受けた。定期的に会っていたのに、全く気付いていなかった。
「ジュリエル様はセロ様との未来を望まれたのだと思います。ジュリエル様とマレル様の長いお茶会の後、私はマレル様から密かに子を流す薬を用意するように言われました」
「マレル様は子の父であると思われるセロとの結婚を許さなかったということだな」
「そうなるかと。マレル様は詳しくは私にお話しされませんでしたので.....」
「それでどうしたのだ?」
「すぐに父に相談しました。私は商会の窓口も担当しておりましたから」
「商会頭は何と言った?」
「考える、と。しばらく経ってマレル様には偽薬を用意するということになりました」
「偽薬?」
「はい、商会としては殺人に関わるわけにはいきません。かといって、マレル様にあからさまに逆らうわけにもまいりません。偽薬をお渡しすることでどうにかうまく事が落ち着くのを願ったのです」
フロック公爵家ではリュールの知らぬところで色々と事件が起きていたのだった。
リュールはそれはもう、複雑な気持ちでいます。
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