フロック公爵家夫人、毒に倒れる
長編4作目になります。今回は初の男性主人公となります。どうぞ温かい目で見守って頂けると嬉しいです。
広大で立派なフロック公爵家の屋敷には手入れの行き届いた庭が名物となっている。赤や黄の色とりどりの花が咲き乱れ、訪れた人の心を癒していた。
「今日のティータイムはアーモンドをチョコレートで包んだお菓子ですって!」
公爵家令嬢ジュリエルは母であるマレルに話しかけた。
「まあ、美味しそうなお菓子。シンプルだけどこういったものがチョコレートの本当の味を引き立てるというものよね」
「お母様の好みに合うかしら?」
微笑みながらティーカップを傾けてお茶を飲むジュリエルは楽し気だ。マレルはそんな娘の様子を見ながらお茶を飲む。何口か飲むと、マレルはティーカップを口元から離して眉をしかめた。
「今日のお茶は少し変わった味がするわね」
苦味と共に舌がしびれる感覚がしてマレルは焦る。片手で持っていたティーカップを思わず両手で支えた。
「お母様?」
急に前かがみになったマレルにジュリエルは声を掛けた。マレルは身体に力を入れて姿勢を保とうとするのに、身体が思うようにならずに混乱する。
「これはどういうことなの!目の前が白くなっていくわ…!ジュリエル!ジュリエル!」
「私は目の前にいます!お母様!?」
ジュリエルはマレルに急ぎ近寄ると、震えるマレルを支えた。
「医者を呼んで!お母様の様子がおかしいわ!」
すでに側にいたメイドのエバは、廊下に控えていた護衛騎士に事態を報告し、近くに住む医者を呼びに行かせていた。
.............結果的にマレルは一命を取り留めることができたが、意識が戻らず一生寝たきりになるかもしれないという診断が下されたのだった。
「お母様が何故あんなことに……! 給仕をしたあなたが怪しいわ!」
ジュリエルはお茶の用意をしたメイドのエバを容疑者として一方的に決めつけた。直ちに、エバは捕らえられ、屋敷の牢へと入れられる。
「私はそんなことしません!マレル様には大変お世話になっております。信じて下さい!」
エバは言われのない罪を背負わされ混乱した。一生懸命、身の潔白を訴えたが聞き入れてもらうことはできず牢に入れられたままだった。
容疑者として捕らえられたエバは、ブーツ子爵家出身の令嬢で実家の厳しい経済状況を支えるべく、フロック公爵家でメイドとして1年ほど働いていた。
美しく控えめな性格のエバは屋敷の中で人気があったが、実家が貧しいことを皆知っていたので、まさかと思いながらも誰もエバを庇わなかった。
「誰も……誰も私の話を信じてくれない…」
エバは信じて助けようとする人がいないことに絶望していた。
...............その頃、エバの兄であるスタルは王宮の兵舎で、妹がフロック公爵夫人殺害未遂の容疑者として捕らえられていることをリュール王子から聞いた。
「それは本当でしょうかっ!?」
「僕が嘘を言うと思うか?」
「いえ、思いません」
妹がフロック公爵夫人の暗殺をしようとして牢に捕らえられていると聞いて、スタルは冷静ではいられなかった。爪が食い込むほどギュッと手を握り締める。
「なぜ.....一兵士であるオレに知らせて下さったのでしょうか?」
「腑に落ちないからだ」
「.........腑に落ちないとは?」
「彼女はお前の足を引っ張るようなことをする娘か?」
「いえ、そのようなことをするわけがありませんが......殿下は、妹と話したことがあるのですか?」
「あるな」
スタルはリュール王子と妹エバとが話したことがあると知って驚いた。エバが王子の婚約者の屋敷で働いていると王子に話したことはあるが、妹は王子と話せるような立場ではないから2人の間で会話など一生無いと考えていた。
「僕がお前の妹と話したことがあるのが不思議か?僕はお前をいずれ直属の部下に加えたいと考えている。だから、お前の妹がフロック公爵家で働いていると知って興味がてら話しかけた」
「オレを直属の部下に!?」
「お前は僕が思うような働きをする」
「ありがたきお言葉です!」
スタルがガバリと頭を垂れた。
「.......だが、お前の妹が容疑者として捕まっているのは具合が悪い。それに、さっき言ったように僕は彼女が犯人だとは思えない」
リュールの言葉にスタルは顔を上げる。
「あの娘はお前を随分と慕っているようだな。人にそそのかれて毒殺に関わるとは思えない。まあ、本当のところは分からないがな」
「妹は毒殺などに関わりません! 」
「お前は、僕に妹を救って欲しいか?」
「もちろんです!」
「お前、僕に借りを作ることになるぞ」
「オレにとって死はそれほど怖いものではありません。殿下のためならばこの命を差し出しても惜しくはありません」
スタルの言葉を聞いてリュールはニヤリとした。
「そうか。なら、僕が動こう。お前は僕のために一生尽くせ」
「承知!」
スタルは再び、首を垂れたのだった。
リュールは兵舎を良い気分で出た。風が吹き、リュールの金髪がふわりとなびく。
リュールは金髪に碧眼で、見た目はいかにもな王子に見える。だが、口を開くと年齢の割に話し方が大人びていて、国のことを良く考えている青年だった。ちなみに年齢は17歳だ。スタルは18歳で現在、将校を務めている。彼には部下が50人ほどいた。
スタルの実の妹であるエバは16歳で、本来ならば学園に通いながら婚約者を探してもいい年齢だったが、実家が貧乏なので学園通いを諦めて奉公に出ていた。
スタルは自分が出世することで、貧しい実家の暮らしが改善できればと考えている。だから、遠征があれば積極的に加わり、手柄を立ててきた。そんな姿がリュールの目に留まったのだ。
(オレの思いを知っているエバが、毒殺などに加担するわけがない。どうか殿下には妹の潔白を証明して頂きたい)
スタルは妹のことを心から心配し、容疑が晴れることを願ったのだった。
暗殺者容疑で捕らえられたエバは真面目に仕えていたので、驚き悲しみ、絶望しています。
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