第8話 パパの秘密
「それで、話ってのはなんだ?」
「えーっと、なんでしたっけ?」
「・・・・・・」
パパがここの組員。
つまり、ここのヤクザ。
そう聞かされて、私の頭は軽くパニック状態。
自分が何をしにここに来たのか、一瞬にして忘れてしまった。
「あの、そんなことより、」
「・・・」
「ヤクザの組長さんって、一人でフラフラとコンビニなんて行っていいんですか?」
「・・・」
「しかも、あの女の人に怒られてるし」
「・・・」
「煙草、体に悪いですよ?」
「・・・お前は、俺に説教しにきたのか?」
「違いますよ。それで、パパがここのヤクザって、本当ですか?」
組長さんは呆れながらも私のあっちこっち飛びまくる質問に答えてくれた。
「ああ」
「いつからですか?」
「コータがここにきたのは、確か中学2年の時だったな」
中学2年!?
それって・・・
「パパは家出してここに住んでたんですか?」
「そうだ。お前の母親と暮らすようになるまでずっとここにいた」
あら。
パパの謎が一気に解明された。
パパは家出してこのヤクザの家にいた。
弁護士になったのは、この組で働くためだろう。
数年前のパパとママの大喧嘩を思い出す。
あの時のパパは、いつものパパじゃなかった。
そう。
あの時私は、パパのことを「不良みたいだ」と思った。
それは間違ってなかったんだ。
「・・・」
「ショックか?」
ショック?
ショックはショックだけど・・・
「うーん。なんか面白いかも」
「面白い?」
「パパなんて、どこにでもいるフツーのパパだと思ってたけど、ヤクザだなんてちょっと面白いです」
「・・・」
「だって、普通のサラリーマンの父親より、警察官とか消防士の父親の方が、
なんかカッコイイじゃないですか」
「弁護士だって、普通のサラリーマンじゃないだろ。
それに警察官とヤクザを並べるな。どっちにも失礼だ」
それもそうね。
でも、「パパがヤクザ」なんてちょっと面白いじゃない?
しかも「ヤクザやってる弁護士」なんて。
逆かな?「弁護士やってるヤクザ」?
生活に実害がなければ、それもアリでしょ。
・・・いや、実害があるんだった。
「ここに何しにきたか、思い出しました!」
「・・・」
私は、
自分のせいで、HSホールディングスの社長が、おじいちゃんの事務所と廣野組が関係あることを知り、
契約を切ろうとしていること、
もし契約を切られれば、事務所は倒産するかもしれないこと、
を組長さんに説明した。
「ふーん、なるほどな」
「はい。それで・・・あの、なんとかしてほしいんです・・・」
パパがここのヤクザである以上、
パパとここが関係を切ることは難しいだろう。
じゃあ、組長さんに助けてもらうしかない。
組長さんはニヤッと笑った。
「それにしても、父親の為にこんなところに一人で乗り込むとは随分と父親想いじゃないか」
「・・・そんなんじゃありません。元はと言えば私が友達にここのことを話したのが原因だし、
事務所が潰れたら、うちも生活できなくなるし」
「コータに金を出してるのはうちだ。事務所じゃない。あそこにはコータは籍を置いてるだけだ。
だから事務所が潰れてもお前の家は生活に困ることはないと思うけどな」
「え?そうなんですか?」
「・・・お前。コータは廣野組の幹部だぞ?いくら貰ってると思ってるんだ」
幹部?
そういえばインターネットには、数百人も組員がいる廣野組の幹部は20人位だけと書いてあった。
パパはその中の一人なの!?
うわ、実はパパって凄い人?
「コータは19歳で司法試験に受かって、22歳で弁護士になったんだ。
それ以来、ずっとうちのトラブル解決に当たってくれているんだ」
「へえー」
「世間的に見てもじゅうぶんエリートだ。かなり若い頃に幹部にした」
「へえー」
「で、お前の話は終わりか?」
「へえ」
おっと。
「はい。あの・・・どうでしょうか?」
「うん。まあ、コータの実家だからな。仕方ない、少し調べてみよう」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「何かわかったら連絡する。携帯の番号を教えろ」
「・・・持ってないです・・・」
「持ってない?お前、何歳だ?」
「中学3年です」
「今時珍しいな」
「そうなんです!パパに、私に携帯買うように言って下さい!!!」
組長さんは、また愉快そうに笑うと、私に言った。
「携帯のことはともかく、来週の水曜いここに来い。その日はコータもいない。
門番の奴らに、組長に呼ばれたと言えば、取り次いでもらえるようにしておく」
「ありがとうございます!」
こうして私は意気揚々と廣野組を後にした。