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第7話 組長?との対面

翌日、私は再び廣野というヤクザの家へ向かった。



昨日の夜、まだ15歳に満たない私が、

必死に考えた解決方法。


それは廣野組の組長さんに何とかしてもらおう!

ということ。


HSホールディングスがおじいちゃんの事務所との契約を切ることに関して、

廣野組は何か悪いことをしたわけじゃない。


でも、パパが廣野組で仕事をしていることが問題だ。


じゃあ、パパが廣野組で仕事をしなければいい。


きっとパパは自分から廣野組の組長さんに「ここの仕事を辞めたい」とは

言えないだろう。

ヤクザとは言え、おじいちゃんの事務所のお客さんには変わりない。


だったら、組長さんの方から辞めるように言ってもらえばいい。


もしくは・・・

あわよくば、だけど・・・

廣野組がおじいちゃんの事務所を助けてくれる、とか。


今、廣野組から顧問料をいくらもらってるか知らないけど、

HSホールディングスくらい払ってくれれば、おじいちゃんの事務所は倒産しなくてすむはず。



とにかく組長さんに、おじいちゃんの事務所の窮状を知ってもらおう。


そう心に決めて、私は廣野組の門の前に・・・

正確には、門から100メートルほど離れた電柱の影にいた。


今日も、以前とは違う門番が5人。

「こんにちはー。こちらで仕事している弁護士の間宮の娘ですけど、組長さんに会わせてください」

と言って、「どうぞ、どうぞー」と入れてもらえるとはとても思えない。


ここに私が来たことはパパには秘密にしたいし。

どうしたものか。


そうだ。

これくらい大きな家なら、門は一つじゃないかもしれない。

うちだって、キッチンに勝手口がある。

そういう裏口なら入りやすい。


私は鉄の門の前をやりすごし、壁沿いに家の周りを回り始めた。


どれくらい歩いたか。

既に日は暮れ・・・

とまでは行かないけど、30分近くは歩いたと思う。


ようやく、裏口らしい引き戸を発見!!

そうそう、こういうの!

こういうのを探してたのよ!

まさに、サブちゃんが出入りしているサザエさん家の裏口って感じ。



軽くノックしてみる。

・・・返事なし。

そうだよね。この裏口は壁にある。

この奥に庭か通路かを挟んで家があるわけだから、

この裏口をノックしても、家の中に聞こえるわけじゃない。


戸を引いてみる。

・・・開かない。

そうだよね。鍵かけてるよね。


仕方ない。

ここで待つか。


でもあまり待つ必要はなかった。

数分もすると、引き戸が静かに開き、

中から40代くらいの男の人が出てきた。


幸いなことに正門の門番のような、いかにも「ヤクザやってます!」って感じの人ではなく、

どちらかというと、「会社で部長やってます」って感じの人。

薄いグレーのTシャツにジーパン、それに革のサンダル。

すごく優しそう、とは言わないけど、穏やかな顔つきをしている。


もちろん、この家から出てきたということは、ヤクザさんなんだろうけど、

門番の人たちより遥かに声をかけやすい。


それに、こんな裏口から出てくるんだから、そんな大物でもないだろう。

私は安心して、その人に声をかけようとしたけど、

その人は、私に背を向けるとスタスタと歩いていってしまった。


ちょ、ちょっと待ってよ!

私は慌てて後を追いかけた。

でも、もしかしたら何か急用があるのかもしれない。

だけどこの人を逃したら、もうあの家に入るチャンスはないかも・・・


こうして私はよくわからないうちに、その人を尾行していた。

20メートルくらい離れて、コソコソと。

でもその人は全く私の尾行なんかには気づかず、

後ろを一度も振り向かないままコンビニに入り、煙草を買うと、

コンビニを後にして再び家に向かって歩き出した。


なーんだ。コンビニに行くだけだったのかぁ。


私は思い切って、その人が引き戸に手を掛ける前に声をかけた。

いや、かけようとした時、その人が振り向いた。


「なんだ、お前?さっきからなんで俺の後をつけている?」

「えっ・・・」


気づいてたのね・・・

しかも、やっぱりちょっと怖いかも・・・


「あの、わたしこちらに用事があるんですけど」

「ここがどこかわかってるのか?」

「廣野組の組長さんのお家ですよね?私、組長さんにお話があるんです」


私がそう言うと、その人は目を見開いた。


「組長なんかに簡単に会えると思ってるのか?」

「・・・無理ですか、やっぱり・・・」


だけどその人は愉快そうに笑い出した。


「ははは、変な奴だな。まあいい、取りあえず入れ」

「いいんですか!?」

「さっさとしろ」

「はい!」


話がわかるじゃない!

やっぱりこの人に声をかけてよかった!!!


ところが。

裏口を入り、通路を挟んだところにある家の勝手口の前で、

その人は木戸に耳を当てた。


「・・・何してるんですか?」

「敵がいるか確認してる」

「・・・」


この人、本当にこの組の人なの?

私、騙されてるんじゃ・・・


「よし。誰もいないようだな」


そう言って、その人は木戸を開け、私を促して中へ入った。

中は台所のようだ。

その人は靴を脱ぐと、左右をキョロキョロ見回した。

まだ「敵」とやらがいないか確認してるみたいだ。

・・・大丈夫かな。


「おかえりなさいませ」


どこに潜伏していたのか、女性が一人、流しの前に立っていた。

長い黒髪の、物静かな感じの女性だ。

歳はたぶん、この男の人くらいかな。


「み、美月・・・。お前、なんでそんなに気配を消すのが上手いんだ」

「そんなことしていません」


美月、と言われた女性はツンっという感じで言い返す。

なんか、怒ってませんか?


「また、煙草ですか?」

「・・・」

「若い頃は禁煙なさってたのに。奥様が出て行かれてから、また吸い始められてしまって・・・」


美月さんは「奥様」のところを強調した。

男の人は美月さんをキッと睨んだ。


「そのことは言うな!お前、最近ちょっと態度がデカイぞ!」

「出て行かれた奥様の代わりに、組長の体調管理をするのも女中の役目ですから」

「く、組長!?」


私は声を上げた。

ええ!?

この人が組長!?


「み、見えない・・・」


思わず本音を漏らすと、美月さんが小さく笑った。


「正直な方ですね。組長、そちらの方は?」

「コータの娘の間宮美優だ。俺に用事があるらしい」


バレてーら。


「あら。これは失礼いたしました。私、ここで女中をしております美月と申します」

「あ。間宮美優です・・・」


美月さんは深々とお辞儀をしてくれた。

私も慌ててお辞儀する。



「こい」


美月さんのお小言ですっかり機嫌を損ねた組長さんは、

そっけなく私に言った。


組長さんの後について、長い長い廊下を歩く。

今日は歩いてばっかりだな。

しかも同じ家の周りや中を。

どれだけ広いんだろう。

さすがヒロ野組。



それにしても、

こんなに長い廊下を歩いていると、沈黙の時間も長い。

・・・何か話したほうがいいかな?


「あの・・・組長さんて、奥さんに逃げられたんですか?」


組長さんが足を止め、ギロッと睨む。


「お前、さすがアイツの娘だけあって、遠慮をしらんな」

「はぁ、まぁ」


血は繋がってませんけどね。

育てたのはパパですから。


「どうして私のこと知ってたんですか?」

「組員の家族のことくらいは知っている」

「組員?」

「コータのことだ。お前の父親だろ」


そう。

パパは間宮幸太。

でも、組員て何?


「パパはここの弁護士、ですよね?」

「ん?違うぞ?」

「え」

「いや、弁護士は弁護士だ。役に立ってくれている。

だが、コータは昔からずっとうちの組員だ。途中で弁護士になっただけだ」

「・・・」

「知らなかったのか?」

「・・・」

「なんだ、コータの奴、自分のことを娘にも話してないのか」


組長さんは襖を開けると、「入れ」と言った。




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