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第6話 危機

「ヤクザ!?」

「しー!声が大きい!」


私は部屋でコードレスホンに向かって人差し指を当てた。


あれから私はドキドキする心臓を押さえ、

家まで大急ぎで帰ってきた。

だって、パパがヤクザの家で働いてるなんて!!

信じられない!!!


「じゃあ、美優のパパは、ヤクザの顧問弁護士やってるってこと?」

「・・・みたい」

「すごいね。でも仕事だから仕方ないんじゃないの?そういうの担当する弁護士も必要でしょ。

ほら、警察の中にも○暴とかいるじゃん?」


・・・確かに。

そう言われればそうだ。


「そうよね。別にパパがヤクザな訳じゃないもんね」

「そうだよ。むしろそんな仕事してるなんて、度胸がある証拠」


なるほど。

夢乃に言われると、納得できてしまう。


「それで、そのヤクザってどんなとこなの?」

「インターネットで調べて見たんだけどね。関東じゃかなり大きな組織みたい。

組長1人に幹部が20人位。その下に上層部が100人位いて、更にその子分が、

数百人、だって。でも、その子分の子分・・・みたいなのはもうカウントできないみたい」

「へー」

「で、私が今日行ったところは組長の家で、そこに50人くらいのヤクザが住んでるんだって」

「ヤクザの総本家ってやつね」

「うん。パパってば毎日あんなところで仕事してるんだなあ」

「抗争とかあったら巻き込まれるんじゃない?」

「ええー?でも、パパは一般人だよ?そんなんに巻き込まれて死んだら労災扱いになるのかな?」

「事務所から特別見舞金くらい出るんじゃない?」


と、まあ話はヤクザなんて非現実なところからお金という現実的なところへ移行して行った。




「あれ?パパは?」

「今日はお仕事で遅くなるって」


お茶碗にご飯をよそいながら、ママが答える。

ママの隣には、ハンバーグをグチャグチャにしながら口へ運ぶ龍太。


「龍太。汚い」

「美優、龍太はまだお箸もろくに使えないんだから仕方ないでしょ」

「・・・ママもパパも龍太には甘いんだから」

「龍太に甘いんじゃなくて、小さい子に甘いのよ」


ママは龍太の口をガーゼでぬぐった。

なによ、私がちょっと肘ついて食べただけで滅茶苦茶怒るのに。


またイライラしながら食後にテレビを見てると、

龍太がソースだらけの服で近づいてきた。


「おねーちゃっ!あしょんで!」

「いや」

「あしょんで!」

「ママに遊んでもらいな」

「おねーちゃっがいい!」

「ダメ!」

「うう・・・うわあああああん」


ああ、もう!

うるさい!!!!


「美優!ちょっとは龍太と遊んであげなさい」

「いやよ!私、子供って嫌いなんだもん!」

「龍太は弟でしょ!」

「わあーーーーーん!!!」


私はパパの子じゃないもん!

と、いう言葉をかろうじて飲み込んで、

走って部屋へ行った。



龍太のせいでその日はずっとイライラが治まらず、

パパに昔のことを聞きそびれた。

翌日からもパパは忙しいらしく、あまり家にいなかったので、

調査は進まず、

自分の出生や、パパの昔の謎に対する興味も薄れて行った。




ところが。

8月に入ったある夜のこと。


夜中にふと目が覚めた。

虫の知らせ・・・

とかではなく、今日また夕食中に龍太が私に近寄ってきたから、

「汚い!」と言って部屋へ逃げ帰り、満足に食べれなかったのだ。

要は、単にお腹がすいただけ。


台所で冷蔵庫の中を物色し、太るなーと思いながらチョコを食べて、

2階へ戻った。


・・・あれ?パパの書斎の電気が点いてるみたい。

ドアの下から光が漏れている。

パパが夜遅くまで仕事してるなんて珍しくもなんともないけど、

「パパの仕事」と言えば、例のヤクザ関係に違いない。

そう思うと、少し興味が沸いてきて、なんとなく書斎のドアに近づいた。


すると、意外なことに中から声が聞こえた。


一瞬、パパとママがラブシーンでも演じてたらどうしよう!

と思ったけど(それはそれで覗いてみたいけど)、

どうやら声の主はパパと・・・本城のおじいちゃん?のようだった。


もちろんおじいちゃんもたまにうちに来るけど、

こんな夜中に、しかもパパの書斎に来るなんて初めてだ、と思う。


私は息を押し殺してドアに耳をあてた。

中から、途切れ途切れに声が聞こえる。


「HSホールディングスが・・・」

「契約を打ち切られる・・・」

「やばいな・・・」

「でも廣野の方の・・・」

「このままだと倒産する・・・」


倒産!?

倒産って、おじいちゃんの事務所が!?



私はまた足音を忍ばして部屋へ戻り、ベッドにもぐりこんだ。


落ち着いて、落ち着いて・・・


二人の会話を繋げると、

どうやらHSホールディングスという会社が、おじいちゃんの事務所との契約を切ろうとしている。

その会社は事務所にとっては大きな顧客らしく、そこに手を引かれると事務所は経営難に陥り、

倒産に追い込まれる・・・ようだ。


ちょっと待って。

「廣野の方の・・・」とも言っていた。

それに・・・

HSホールディングスって、どこかで聞いたことある。


どこだっけ。

HSホールディングス・・・「H」・・・ヒライ・・・平井!

平井夢乃!!!


そうだ!夢乃のお父さんの会社じゃない!!



待って!待ってよ!

ってことは、夢乃がお父さんに、私のパパがヤクザの仕事をしているってコトを話したんだ!

ヤクザの仕事をしている弁護士事務所なんて信用ならない、とか思った夢乃のお父さんは、

おじいちゃんの事務所と契約を切ろうとしている。


それで、「廣野の方の」という言葉が出てきたんだ!!!



この考えの細かいところは間違ってるかもしれない。

でも、夢乃のお父さんが廣野組と事務所の関係を知って、事務所との契約を打ち切ろうとしているのは

確かだ。


夢乃も別に悪気があった訳じゃないだろう。

ただいつもの会話の中で、思わず話してしまっただけだろう。


でも・・・

どうしよう・・・


私のせい、

だよね?





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