第4話 ミステリー?
どうせ夏休みでヒマだ。
もちろん宿題があるけど、
そんなものは8月末に徹夜でやるためにあるようなものだし。
「まずは、間宮のおじいちゃんのところに行ってみよう」
間宮のおじいちゃん・・・これはパパのお父さんのことじゃない。
パパは養子なのだ。
旧姓は本城幸太。
ママこと間宮愛と結婚して間宮幸太になった。
だから間宮はママの実家で、
間宮財閥という代々続く大金持ちだ。
私の家から電車で30分。
まさに「大邸宅」の名に相応しいおじいちゃんの家についた。
「美優じゃないか。久しぶりだな。どうした?お小遣いか?」
「うん。肩揉みしにきた」
「ははは、頼むよ」
おじいちゃんはロッキングチェアーに腰かけた。
私はおじいちゃんの後ろに周り、肩を揉む。
トントンって叩くだけじゃなくって、ちゃんと揉んであげるのだ。
「そういえば、友達のお姉さんが結婚してもうすぐ子供が生まれるんだー」
「そうなのか」
嘘。ごめんね、おじいちゃん。
「ねえ、私が赤ちゃんの頃ってどんな赤ちゃんだった?かわいかった?」
夢乃と頑張って考えた作戦は、
取りあえず私が赤ちゃんの時の話を聞こう、
というものだ。
まさか「美優の本当の父親は・・・」なんてことをいきなり話し出してくれるとは思わないけど、
何か手がかりになるような話が出るかもしれない。
「美優が赤ちゃんの頃?」
おじいちゃんの顔が曇る。
お。何かあるの?
「知らんのだよ」
「え?」
「愛からな、いきなり『妊娠したから結婚する』と電話があって、
しかも相手は大学入りたての18歳だと言うじゃないか。
さすがに頭にきてな、それから2年近く勘当状態だったんだ」
「・・・」
「結婚を許したのは、幸太君が司法試験に受かった後だから・・・
美優が1歳ちょっとの時だな。おじいちゃんはその時初めて美優に会ったんだ」
そういえば、パパとママの結婚式は私が1歳の時に挙げたようだ。
かわいい白いドレスを着た私を抱っこしたタキシード姿のパパと、
ウエディングドレス姿のママの写真がある。
とにかく、おじいちゃんの話によれば、
ママはおじいちゃんに、私のことをパパの子供として紹介したわけだ。
ということは、間宮のおじいちゃんは何も知らないってこと。
なーんだ。
お小遣いをちゃっかりもらって、その足で今度はパパの実家に向かった。
ママの実家からは1時間くらいかな。
パパの実家の本城家は弁護士事務所をしていて、
当然パパもここで働いている。
おじいちゃんが一応所長だけど、
今では本人はあまり仕事はせず、隠居状態だ。
だから、私は事務所へは行かずおじいちゃんの家に行った。
すると、玄関から女性が出てきた。
「あ。和歌さん、こんにちは」
「あら、美優ちゃん。こんにちは。お小遣いもらいにきたの?」
和歌さんがニッコリ微笑む。
背は高くないけど、細くて知的美人、という雰囲気の女性。
長い黒髪がとても綺麗だ。
和歌さんは、パパのお兄さんである真弥さんの奥さん。
真弥さんはパパより10歳も上なので、今44歳。
和歌さんは38歳。
でも子供がいないせいか、二人とも見た目も中身もとても若々しいので、
私は「おじさん、おばさん」とは呼ばず、名前で呼んでいる。
真弥さんは教師だけど、和歌さんは弁護士で、
やっぱりおじいちゃんの弁護士事務所の弁護士さんだ。
「おじいちゃんに用事だったんですか?」
「ええ。ちょっと仕事でご相談したいことがあって。でももう済んだわ」
それじゃ、と和歌さんは笑顔で事務所の方へ去っていった。
かっこいい・・・。
和歌さんは私の憧れの女性だ。
物凄いキャリアウーマンでいつも颯爽としているけど嫌味がなくって、
とっても優しい。
私もいつか、こんな女性になりたいな・・・。
「美優か。小遣いせびりにきたのか?」
「・・・」
会う人、会う人、どうして同じことを言うのよ。
お小遣いはついでよ、ついで・・・。
今日はあくまでもMSKの為にきたんだから!
・・・そりゃ、貰えるものは貰うけどネ。
肩を揉みながら、
間宮のおじいちゃんに言ったのと同じ嘘つく。
「美優が生まれた頃?」
「うん」
「知らんのだよ」
また?
私って、どれだけ寂しい誕生だったのよ。
「幸太とはずっと勘当状態だったから」
またまたソレですか。
「18歳で子供ができたんじゃ、やっぱりそうなるのね」
「ん?違うぞ、それは」
「え?」
「美優・・・幸太から何も聞いてないのか?」
「何も、って?」
「幸太と勘当状態になったのは、もっと前からだよ。
幸太は中学2年の時に家出してな。それから結婚するまでずっと、ほとんど連絡を取っていなかった」
「ええ!?」
何それ!?
中学2年・・・ってことは、13か14歳?
パパがママと結婚式を挙げたのは20歳のときだから、
7、8年も家に帰ってなかったの?
「家出って、どうして?」
「おじいちゃんも、昔は若くてな・・・真弥に、弁護士になって家を継げ、と
ずっとうるさく言っていた。でも真弥は弁護士にはならず教師になった。
それ以来、おじいちゃんは幸太に、『真弥の代わりにうちを継げ』としつこく言ったんだ。
その時幸太はまだ中学生だったのにな。
結局、そんな重圧に耐えれず、幸太は家を出たんだ」
「・・・でも、中学2年生で家出して、それからどうしてたの?」
「・・・うん・・・さあな。結婚する時に数年ぶりに連絡をよこしてきたが、
その時にはもう司法試験にも受かってた。
だけど、うちを継ぐつもりで弁護士を目指した訳じゃないようだ。
それは今も変わらない。事務所は和歌さんに継いでもらう」
「そうなの!?」
これには驚いた。
だって、おじいちゃんの実の息子であるパパではなく、
真弥さんの奥さんである和歌さんが事務所を継ぐなんて。
いや、和歌さんならじゅうぶん過ぎるくらいできたお嫁さんだから、
何も問題はないし、私も賛成だけど・・・
じゃあ、パパはなんの為に弁護士になったんだろう。
「さあな・・・おじいちゃんにもわからん」
おじいちゃんてば、わかりやすいんだから。
きっと、おじいちゃんは、
パパが家出した後どこで何をしていたかも、
どうして弁護士になったのかも、
知っている。
知ってるけど何故だか私に教えたくないのだ。
ま、いいや。
これはMSKとは関係ない(なんだかすっかりMSKが板についちゃった・・・)。
直接パパに聞けばいい。
もしかしたら、MSKにも繋がるかもしれないし。
私は、これまたちゃっかりお小遣いをせしめ、
玄関を出ると、さっき和歌さんが歩いていったのと同じ方向へ歩き出した。
それにしても、図らずもパパの秘密が次々と出てきた。
これはおもしろいゾ。
夢乃に報告したら、大喜びだろうな。
それに、昔から私が疑問に思ってたことが一つ解決した。
パパがどうして間宮家の養子になったかだ。
パパは次男坊だし、ママは一人っ子だから、
そうなってもおかしくないんだけど、
パパのお兄さんである真弥さんは、
パパが中学1年の時に教師になり、家を継がないことはもう決まってた。
だから当然次男であるパパが継ぐはずだし、
実際パパは弁護士になった。
なのに、間宮家の養子。
これがずっと疑問だった。
でも本城のおじいちゃんの話で解決した。
パパも真弥さんと同じく、家を継ぐ気はなかった。
だから家出して、ずっとおじいちゃんとは勘当状態だった。
そして真弥さんが弁護士の和歌さんと結婚したから、
和歌さんが事務所を継ぐことになった。
もっとも、和歌さんが弁護士になる前に真弥さんと出会ったのか、
弁護士になってから出会ったのかは、わからないけど。
そしてパパは家を継ぐのとは違う目的の為に弁護士になった。
これが新たな疑問だ。
パパは家を出てから、どこで何をしていたのか?
どうして弁護士になったか?
わお。
なんかちょっと、ミステリアスな感じになってきたじゃない?