第12話 私のパパ!?
「ジャーン!」
「よかったね!ついに携帯、買ってもらえたんだ」
「ふふふ、パパと違って組長さんは理解がある!
『コータの頃とは時代が違うからな。友達との関係を考えても、
携帯くらい持っていた方がいいだろう』だって!」
さすがのパパも、
組長さんが私に携帯を買ったとなると、許さない訳にはいかなかった。
甘いんだから・・・とかブツブツ言ってたけど、無視無視!
早速、夢乃の家に携帯を持って遊びに行き、
番号とアドレスを教えているところだ。
「そういえば、夢乃。夢乃のお父さんにパパが廣野組で働いてるって言った?」
「え?どうして?そんな話、する訳ないじゃん」
「・・・だよね・・・ごめんね、夢乃」
「何が?」
「なんでもない」
そうだよね。
友達の秘密を親に簡単に言ったりしないよね。
結局夢乃には、パパがHSホールディングスを助けた話や、
パパが廣野組の組員だという話はしていない。
私が再び廣野家を訪れた理由も、
「パパが働いているところをどうしても見たかったから押しかけた」
という、少々無理のある説明で押し切った。
ちなみに。
組長さんに携帯を買ってもらって帰った日、
当然パパからは「どうして廣野家にいた!?どうして俺があそこで働いてると知ってる!?」
と、詰問された。
「夏休みだしさー。パパにお弁当作って事務所に持って行ったら、
受付の人が、パパは廣野さんちにいるって教えてくれたの」
「そんなこと、天地がひっくり返ってもある訳ないだろ」
「そんなこと、って?」
「美優が俺に弁当作る、ってことだ」
「本当よ」
「じゃあ、何を入れたんだ?サルモネラ菌か?O-157か?」
「私の愛情」
「破壊力抜群だな」
どーゆー意味よ。
「それより、事務所のアノ受付の人。なんとかした方がいいわよ」
「亜矢ちゃんか。お前もそう思うか?顔はかわいいんだけどなー・・・」
「顔もあれくらいならどこにでもいるでしょ。守秘義務とか接客マナーとか知らないの?」
「うーん・・・。って、どうせ廣野家のことはお前が強引に聞き出したんだろ」
「あら。私がそんなことする訳、ないじゃない」
「お前だからしそうなんだ」
「失礼ねー」
とまあ、こちらもなんとか押し切った。
「ねえ、美優。夏休み宿題してる?」
夢乃が携帯をいじりながら、聞いてきた。
「してる訳ないじゃん。MSKで手一杯だったもん」
「なんだっけ、それ?」
「夢乃・・・あんた、頭いいのに時々物凄いボケをかますよね」
「あはは。冗談だって。で?そっちは進んでるの?」
「全然。どうでもよくなってきた。それより今は宿題に忙しい」
「さっき、してないって言ったじゃん」
「自由研究だけやってるんだ」
「げ?あの普通一番最後にやるやつ?何のテーマでやってるの?
『ヤクザの生態系について』とか?あ、この際『私の出生について』とかどう?」
「それアリ?そんな身売りしたくないし」
「じゃあ、何をやってんの?」
えへん、と私は胸を張った。
「絵本と子供の心の繋がりについて」
「・・・偉く真面目ね」
「ちょうどいい実験台が身近にいるからさ。簡単に終わらせようと思って」
龍太お気に入りの「いない いない ばあ」。
パパの言う通り、確かに子供にはいいかもしれない。
でも、とにかくストーリーがなさすぎる。
インターネットで調べてみると、対象年齢は0歳から1歳くらいまでとのこと。
そうだよね、そんな感じの絵本だよね。
龍太はもう2歳。
もちろん、「いない いない ばあ」を読んじゃいけない訳じゃないし、
龍太みたいにちょっと大きくなっても「いない いない ばあ」を愛読してる子供は多いらしい。
だけど、そろそろ進歩してもいいんじゃない?
そう思って、こないだ「かぐや姫」を読んでやってみた。
でも全然ダメ。
話が長いので龍太はすぐに飽きて、読み終わらないうちに次のページへ行こうとする。
ストーリーも全然理解してない。
竹が光る絵とかには異常に興奮してたけど。
やっぱりまだストーリーより絵とか声が大事か。
図書館であれこれセレクトし、龍太に試してみると、
「大きなカブ」が好評だった。
大きく成長したカブをおじいさんが抜こうとするけど抜けず、
おばあさんが手伝う。でも抜けない。
動物達も次々と手伝いにきて、最後にようやく抜ける、という話だ。
これならストーリーもあるし、「みんなで力を合わせることの大切さ」みたいな教訓もある。
話も短いし、絵もおもしろいし、
「うんとこしょ、どっこいしょ」という掛け声も、龍太には嬉しいらしい。
そういう訳で、今では毎日「うんとこしょ、どっこいしょ」だ。
数日前まで「いない いない ばあ」だけだったのに、なんか急成長したような感じ。
子供っておもしろい。
龍太は私だけじゃなく、
パパとママにも「大きなカブ」を読むようにせがむので、
二人とも龍太の相手で手一杯。
私なんて100%放置プレイだ。
でも、それも前ほど悪くない。
だけど、もちろん、中学生の私の関心は絵本に留まらない。
「美優、見て、これ!」
「マスカラ?どこのブランド?聞いたことないなあ」
「ママがイギリス旅行のお土産に買ってきてくれたの。すっごくいいよ!試す?」
「いいの!?貸してー!」
私はマスカラと一緒に大き目の手鏡とビューラーを借りて、
早速まつげをカールする。
拡大鏡を見ながら、念入りに・・・
あれ?
私のこの目元・・・
どこかで見たことがある。
ママ?
違う。
ママも私と一緒でクリッとした目をしてるけど、
どちらかと言えば、少し下がった目尻をしてる。
でも私は・・・
いつの間にこんな目尻になったんだろう?
少しキュッと上がって、凛々しい感じだ。
そう。これは・・・
組長さん?
「ふふふ」
「どうしたの、美優。急に笑い出して」
「ううん。なんでもない」
やるじゃん、ママ。
私、将来、大物になるかも、ね。