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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
9章 精霊の海
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72話 浸かざる痛み

時は三日間の大戦準備、三日目に遡る。嵐の前の静寂とも取れる。決戦に備え、戦士らが眠りにつく中、始まりの人類は今までの時間を取り戻すように、野望の実現へ進んでいた。

『神骨奪胎?』

始まりの人類ノーヴァが復唱した。

『そ~、ちょ~めんどいの~』

七洋の一柱ルキフグス神が、緊張感のない口調で言う。ノーヴァは若干の興味は示すも、最大の興味は引かないらしく、愛おしく眠りについている人型の神の手を握る。体内に廻る神気を分け与え、眠りの神の生命力とする。ルキフグス神はうんざりした視線を送る。

『その情報はお前たちを苦しめた技なんだろう?』

『心外だね、苦しんでなんかないよ!』

ルキフグス神の強がりに、ノーヴァは冷ややかな侮蔑を送る。だが、次に溢れたのは、ノーヴァの本心だった。

『俺が眠りにつく前、お前たちとの段取りは最も現実的だった。はじめは驚いた。千年の眠りから目覚めても、神の気配一つと感じられなかったからな。まさか、能力を封印されているとは思わなかった』

『…』

『核の再現で死を導入し、人類に神々の権能を与えることは出来ても、純粋な肉体では弱体と同意義だ。ましてや、アザトースまでもが…段取りは増えるし、蒙昧な命も雑草のごとく生い茂り、敵わん。

ああ、それで厄介事の情報だったな』

『神は基本的に群れる。そんな神に存在する共闘戦術の一つ、憑依型(ティマイオス)。思念体になり憑依し、対象者に意思と能力を共有するメジャーな一手。能力だけ、完全な譲渡なしとか、具体的なラインも設定できる。

セアは神獣バジリスクと永劫の憑依を契約して、神の骨を使役する能力を手に入れた』

『……バジリスク、か』

『超強力でさ、簡単に壊れないし。神器無しで、対抗できるセアだけの戦術だ』


がりっ───。

「神とは随分臆病な生き物だな」

ルキフグス神の言った言葉をもう一度復唱したノーヴァの背後、熾天使の剱(セラフィムレイピア)を携えたセアが歩み寄る。傷一つない肉体は多く露出し、憑依した証である蛇の鱗が巻きついている。特殊な痣や刺青のようにも感じる。

「臆病か…」

「単独でいいと言っている割には徒党を組む。人間臭いせいで、六百年前の七洋(あいつら)との戦いは地獄だったよ」

「セア・アペイロン。神とは人間よりも人間くさい。幼い貴様は理解しがたいだろうがな」

「人間と神は別物だ。その言葉はな、お前が神を人間と同じだと思っているから言える」

「似ていると思っていたが、俺と貴様は全く違うな」

二人の瞳が重なる。眼光が光の線として交錯し、もう一度、開戦を告げる。祢々切丸と熾天使の剱(セラフィムレイピア)が火花を散らして、激突する。

寸分の狂いなく切っ先は弧を描いて、隙のない太刀筋を見せる。速度では若干セアが上回るためか、彼女が放った刺突でノーヴァが繰り出す軌道がずれた。しかし、長男の威厳を取り持ち、筋を矯正し、カウンター攻撃を行う。攻防一体の戦局で、ことを有利に進めているのは、ノーヴァだ。セアが与える痛みを即座に吸収して、無効化している。長丁場の戦闘では、手数が限定され始める。すでに、セアが繰り出した全ての技をノーヴァは無効化していた。


『セア~~。朕はね、これまでたくさんの元祖に会ってきたんだけど、アザトースが選んだ兄弟は手強かった。

その中でも、長男長女次女は別格。アザトースが頭を垂れてでも嫡流にしたかった人間だ。長男ノーヴァは最初に、アザトースの血を開花させた天災。アザトースの攻撃すらも無効化できる実力を持つ。

長男としての絶対的君臨現存”克服”』


師であるギハラの教えを今、セアは体験している。死闘で繰り出す技一つ一つを蔑ろにせず、相手の攻撃すらも受け止め、無効化する。

克服の擬人化。命に手が届く。

「持ちこたえるな」

「それは誉め言葉か?」

「いや…侮蔑だ」

侮蔑の感情を持つノーヴァが積極的に攻める。刀身を指でなぞり、痛陣(つうじん)を彫り進める。禍々しいオーラを纏う祢々切丸の圧迫感。次いで、ノーヴァは自身にも痛みを付与した。彼の筋肉が増長している。

(バフ性の痛みも与えられるのか…)

セアは洞察力を駆使して、何が起こったのかを理解し、脳で処理した。即座に対処法を見つけ、行動に起こす。

「!」

セアの行動を予測して、彼女よりも早くノーヴァが動く。その速さは超進化の形態に相応しく、だが、ノーヴァの眼差しは野獣のように猛々しい。熾天使の剱(セラフィムレイピア)の刀身を遡って、彼女の首に斬撃を抉り入れた。その瞬間に老いる皮膚と、朽ちていく筋肉。脂肪も消失した先にある頸椎に罅が入って、崩落していく。頭と胴を繋げる首。その骨である頸椎が無くなったことを感じ、セアは首を抑え、遂に権能を発動させた。ノーヴァ渾身の一打が無効化したかと思われた。

氷肌(ひょうき)珠懸骨(たまかけぼね)太占(ふとまに)

頸椎損傷を治した頃合いを見計らって、ノーヴァが才を本格的に作動させた。治療で一打の核が封じ込められた箇所から、遠隔で”痛覚”が注がれ、セアの体を壊していく。頸椎の崩壊と同じ症状が、腕や足、ましてや心臓近くでも巻き起こる。全てが抑えきれないセアは激痛を我慢して、ノーヴァの追撃を回避することしかできない。

「精神的痛みを身体的痛みに変換する。他者の感情を理解できぬ人類には打ってつけの技だろう?」

野獣の獰猛な眼差しから感じ取れる殺意慾に、セアは無言で答えた。ノーヴァが間合いに踏み入った距離。その離れ具合と体勢で、セアもカウンターを仕掛ける。

「囲め」

セアの声で瞬時に形成される骨の栫。蛇骨だけで編成された檻。球体上に閉じ込められたノーヴァとセア。

しゅるりとバジリスクが姿を現し、セアの背後で待機する。大物の圧力。蛇に睨まれたノーヴァ。バジリスクが骨だけになる。蛇の目に変貌するセアが手を上げる。

「神骨奪胎・鏤骨」

セアが手を下ろすと、骨のバジリスクが突進してくる。蛇に呑まれる感覚の中で、栫の骨も鋭く狙ってくる。突起が肉体に刺さる。その度に痛みを感じる。骨の暴風雨に晒され、弱ったノーヴァを、セアが正面から叩き斬る。四方八方は骨の檻。絶対に逃げられないと、殺せると確信した。

『浮気?』

「「!」」

檻の外から聞こえてきた優美な、そして悪意を込めた声に二人は驚く。だが、ノーヴァはその声を聞くなり、頬を紅潮させて微笑んだ。檻の中央が外からの攻撃を受けて、崩壊した。バキバキと落ちる骨を足場にし、ノーヴァが離れていく。セアは骨の断片を握って、投擲する。

『卑猥な手段で、私の夫を乱さないで!』

謎の声が嘆いて、その姿を露見させる。クロッカスの少しくすんだ紫髪と、黄金の眼。人形を依り代としているためなのか、白く、温度が伝わらない手が伸びて、そのままセアを壁に打ち付ける。

「思い込みの激しい女は嫌われるぞ」

頭から血を流して、セアは悪態をつく。声の主を蹴り飛ばして、権能で欠損部分を復元した。目を向けると、蹴り飛ばされて唸る声の主に、そっとノーヴァが寄り添う。彼の瞳からは穏やかな眼差しが溢れ、慈愛に満ちている。

「紹介しよう。俺の妻であり、春の女神ママ・キリャだ」

「それが…」

「妻を物扱いするな」

セアの発言に、ノーヴァは怒る。

「女神さまの復活の為に、明帝族を滅ぼしたこと…後悔はないのか?」

「戯け。幾千の懺悔に比べれば、砂粒に等しい。地上宇宙(バース)の空気が合わず、魂以外が消失した。一度は終わった妻を幸いなことに七洋が復活の術を教えてくれた。明帝族に組み込まれた原初神の遺伝子を抽出し、魂を宿らせろと…イニティウムの血技術とラウルスの医療技術を参考にさせてもらったが、かなりの量を必要とする。勿論、七洋の提案を疑った。他の方法もあるかと思ったが、どちらにせよ協力の手を増やしたい。

七洋の目論見など、どうでもいい。俺は宇宙に恨まれても、妻がいない宇宙を嫌う。それが永劫、神に成り下がったとしても…俺は今を選ぶ」

ノーヴァの眼の色が変わった。というよりかは、彼の発する神気がやっと露呈した。それは原初の姿に戻るように、素直な殻破り。空間が暗闇に包まれる。セアが蛇王の栫を使用したとすると、ノーヴァは権能を媒介とした夜の栫を使用した。暗闇の領域を形成したノーヴァに地の利のバフが付与される。

「望むは花曇り。反すは八十八夜。疎外なる白に創成に、春神は生を芽吹かす。花は眠りに手を差し伸べ、大地を呼び起こす。故に、春を待つ。

デウス・エクス・マキナ=レゾンデートル」

語る存在意義。

述べる神を呼び起こす呪文。

告げる神の名。

『―終息の哲学者(パルメニデス)

ノーヴァの髪が金糸に変色し、肌は黒一色に染まる。成り下がったと言った割には、神となったことを満足に自慢している。過剰な自信に、セアは少し悲しく思った。

『貴様は極致を明かさなくてもいいのか?』

ノーヴァが尋ねた。

「いらない。私はまだ人間でいたいから」

セアは剱を構えず、二柱の神を見据えた。長男なりの優しさを断った。嫌悪ではなく、セアの確信。

『互い、一撃で終わらせよう』

「それがお前の結びの言葉なら、従ってあげる」

春の女神ママ・キリャがノーヴァに手を添えて、権能を委託した。夜と春の権能が相互して、ノーヴァだけでは生み出せないような力関係の縮図を見せる。

ノーヴァが持つ夜の権能の極致”終息の哲学者(パルメニデス)”とは、過去改変の御業。通常であれば、八十八日間しか持たず、それも威力を最小限にした場合のフルスロットル。だが、夜の領域を併合したことで、ノーヴァが望む威力を自由に放出し、永遠に過去改変を発動できる。それは、ノーヴァの意志で解除はできるが、死で終わらせることは不可能。つまり、セアは何らかの力を用いて、領域と極致を終わらせなければならない。

権能の極致と、それを相殺するセアの権能。事実上の進化で解釈するなら、この戦いはノーヴァが制する。闇の中で戦い合う彼らの中に、一瞬、兆しが見える。

「権能で勝負してんじゃないんだ。私は誓いの流儀に従う」

セアが防御に権能を使い、蛇王バジリスクの能力を起用した。肉体の老化で残る骨が伸びる。一度、セアが展開した蛇の檻が、夜の領域の内側に形成される。白骨化したバジリスクが背後で睨む。セアの合図で、もう一度突進する。ノーヴァは蛇に呑まれる感覚を味わうが、克服した痛みに恐怖は感じない。だが、慢心がセアの策略に嵌った。

「蛇族には二匹の王がいる。白蛇”白練”は毒を持たず、筋肉で絞め殺す。そして、蛇王”バジリスク”は毒を持って、場を制す。毒なき檄は痛みの完成にあらず」

『!?』

セアが指差す。その先にあるのは、神の心臓。

「毒が廻る」

どくんと、ノーヴァの心臓が跳ね上がる。無意識のうちに吐血した。その瞬間に全身の細胞が悲鳴を上げている。内部から侵食する毒の諸刃が、ノーヴァの権能と共鳴して、相乗効果を引き起こす。

「あ゛あ゛ぁぁ…ああ!」

痛みに対応できないノーヴァの叫びが聞こえてくる。夫が心配になったママ・キリャ神が委託を解除した。待っていたと言わんばかりに、セアが動き出す。剱は迷わず、人形の核を壊した。核が破壊されると、クロッカスの髪は色褪せ、無表情の人形へと姿を戻す。

『ママ!!』

最愛が破壊されたことで、ノーヴァは言葉にならない感情に支配される。セアと戦うことよりも、毒の克服よりも、まだ意識のあるママ・キリャ神の手を取った。

『返事を…返事をしてくれ!!』

『ノーヴァ、?』

女神の手が彼の頬を撫でた。温度がない手を握って、ノーヴァは大粒の涙を流す。

『やっと、逢えたってのに…ママに逢うために、全部を…』

『ごめんなさい…あなたを、悪にして…騙して、ごめんなさい』

『え?』

地上宇宙(バース)に降り立って、私は、もう壊れてたの…あなたと同じ人間でいれば、あなたと同じ痛みを味わえると思ったからなの。だから、私はアザトース様に進言した。人間にしてって…でも、いけないわね…死の概念が誕生して、私は死に近かった。だから、すぐに死んじゃう運命だったの。早く言えばよかった。そうすれば、あなたは諦めて…違う人生を生きてくれたから…この魂も、もう戻りはしない』

ママ・キリャ神のとっくに死んでいたという懺悔に、セアは無言で聞いた。そして、女神の夫であるノーヴァは、何も驚かなかった。

『言ってくれてありがとう。でもな、早く言っても、俺は君を選んだ。俺の為に、神を放棄し、人間を選んでくれる最高の女を、俺は手放したりはしない。魂は滅んでも、君の存在は残る。俺だけが残して逝く。だから、最後…考えず笑ってくれ』

ママ・キリャ神は可憐に笑う。春を告げるクロッカスの純粋な艶やかさを彷彿させる笑み。ノーヴァは、悔し涙の中でも、笑顔を絶やさない。

復活の時間が途切れ、核の効力が失われた時、彼女は人形へと戻る。依り代を抱いて、ノーヴァは失笑した。背後で終わりを待ってくれていたセアに、八つ当たりをする。

『神の核とは、こんなにも脆かったか?』

「貴様は言った。明帝族を使ったと。生きていたんだろう、細胞は。

長年に蓄積された痛みは器としての構成式の配列を乱した。これは抵抗だ。

誰かともう一度逢いたい気持ちはわかる。だが、その思いで命を残虐に扱っていいわけではない。因果を狂わせた罰は大きい」

無機質な手と、冷え切った体温。人でも、神でもない。だが、その仕草にノーヴァは思いがあるようだ。

『ママは、ママ・キリャ神は春の女神だった。俺は冷たいのに、彼女の手は温かかった。俺の一目惚れで、彼女を想わなかったことはない。娘のライラも、オリゴも愛している。でも、俺は、ママのいない宇宙なんて考えられなかった』


百花繚乱の花畑で無垢な笑顔を咲かせて、駆けまわる少女のようなママ・キリャ神。

アザトースの紹介であった始まり。

励まして、温度を分け与えてくれて、凡愛を振りまいたママは俺を選んでくれた。

地上宇宙(バース)の空気が合わず、日に日に衰弱していくママは怖かった。アザトースに彼女ともう一度逢う方法を教えてくれた時は、それに賭けた。

人類を蹂躙したいアザトースの野望に気づかなかったわけじゃない。

損害も知っている。今までの痛みで、知らないことはない。


『俺は誓ったんだ。この宇宙を敵に回してでも、弟に妹に蔑まれようと、奈落に落ちても、人類に恨まれても…ママを選ぶ』

「…」

『戦場の痛みは我慢できた。だが、ママがいない痛みは克服できなかった』

ノーヴァは愛おしそうに、人形を見つめた。

「ママ・キリャ神は殺戮されなかったようだな」

『アザトースとの取引だ。ママ・キリャ神を殺さぬ代わりに、明帝族を滅亡させろとな。取引も達成でき、最愛も手に入れられると脅したんだ。あれも狂った神だ。

最愛が余所に向かうことに嫉妬して、最愛の視界を奪った。俺はアザトースの提案を飲んだ。その遺伝子を濃く引き継いで後悔してる。

だが、ママと逢わせてくれたことに感謝している』

ノーヴァは、ママ・キリャ神に顔を近づけて、想いを交換する。何万年と待ち続けた待望の邂逅。愛と美化するには悍ましいほどの恨みを抱え、過去の因果を狂わせ、大戦の大きな引き金を引いた男。その男を夢中にさせた女神。

『奈落に落とせ』

ノーヴァは覚悟を決めた目で見据えた。

「貴様は原初神三十二柱からの使命を無視し、私情で一つの人類を滅亡へと追い込んだ。これは万死に値し、エパネノスィ・ミラ監獄に収容するだけの罪に当たる」

セアの無情な言葉に、ノーヴァは黙っている。

「しかし、人類の発展の第一人者であり、元祖の教育を献身的に行った功績は情状酌量の余地を見出す」

セアはエメラルドに似た緑の鉱石を取り出して、ノーヴァの前に差し出す。

「ライラから譲ってもらったキリャ鉱石よ。この中に明帝族の魂の断片が入れてある。深い眠りの中で、すべての明帝族の痛みを識り、味わい、理解し、乗り越え、彼らが許しを与えれば、すべては骸になる。

何千年とかかる夢寐の刑。キリャ鉱石が壊れれば、彼らはお前を許したことになる。それまで、罪を償え。それが罰だ」

『それは…』

「一つの最愛は、多数の無関心の上で成り立つ。なればこそ、最愛の行方を追うがいい」

キリャ鉱石を手渡し、地獄の門を開門した。門からは天使が出現して、ノーヴァを連行した。扉が閉まる間際に、セアは言い放った。

「一生許さない」

『ふ──』

憎悪の感情を向けたセアの呪詛が届いたノーヴァは苦笑いを浮かべ、閉門した。

一翼の天使が現れる。

「ノーヴァとママ・キリャ神の件は歴史に出すな、とエドガーに伝えておけ」

「畏まりました」

伝令を受けた天使は姿を消す。代わりに、バジリスクが話しかけてくる。

『弟妹が貴様を蔑むなんてことは有り得ない。あれは貴様を最愛だと思っているからな』

「憎愛があるからな、愛は理性から最も離れた感情だ」

神の肉体を持ち、権能の最高地点に到達したノーヴァと真面に戦っていれば戦闘不能にまで追い込まれていたかもしれない。緊迫した局面を早々に任されたセアは、少しばかりオベロンを憎む。

「私に健康があったなら、色褪せの焦りもなかっただろうな」

『妄言は吐くな。まだまだ、これからだ』

不器用な励ましに、セアはけらけらと笑う。バジリスクの頭を撫でて、安堵する。

「脱皮しない蛇にはなりたくないな」

セアは穏やかな眼差しで、感じ取った。彼女の神気が音を拾って、波紋を広げる。剱が僅かに鈴の音を鳴らす。

「舞台袖まで観覧するなんて…マナーがなっていない質の悪い客ね」

セアは悪を取り繕う。それは威嚇行為だ。突如、空間が未知の時空へと接続された。残骸もない真っ白な時空には、雲が漂っている。遠くを見ても揺れる白だけが残る。セアは時空を歩いて、ここの主人と邂逅する。

『成長したな』

黄金の瞳と髪を持つ神は、玉座に踏ん反り返る。セアにある程度の興味を示したのち、くだらないと吐き捨てる。

「お気に入りを殺されて出てきたのか。堪え性のない。アザトース…!」

少女の瞳が獰猛に睨みつける。

原初神が一柱、創造の狂暴アザトース。遂に諸悪の根源が、宇宙の因果の創設者が人類の英雄に介入する。

金甌無欠の神は玉座から立ち上がらず、雲を、空を媒介にし、少女を見下した。黄金の髪が雲隠れしている。

「回復も碌にできてない肉体で、今の私に敵うとでも?」

『幾度の人生も満足に死ねておらん愚者が、傲慢になった。純粋無垢の可憐さを望みはできない』

「…」

『平和を尊ぶ英雄は、既存の英雄の死後を過酷な地獄へと葬った。清廉潔白を表面上掲げる貴様には、致命的な糾弾の火種となる。死の溜まり場(デスポピー)…神がつけた不名誉な名を、よもや貴様が人類に知らしめるとはな。カオスは貴様に失望しているぞ?』

アザトースが愉悦に浸り、セアを非難した。

『人類にとっての幸福の場は、余の私物となった時点で地獄と化した。そうであろう?

あのイアシオンでさえ、余の忠実な僕。守護者(ガルディ)の血縁者さえも眷属となり下がった。無論、貴様の夫もな』

アザトースの煽りに、セアは沈黙で答える。黄金と銀が金色の殺意を交わす。

『そう睨むな。貴様には猶予をやろう』

「…」

『余への命乞いの覚悟のな』

アザトースが手を伸ばし、ある一つの時空の鍵を取り出した。その鍵からは人類の圧倒的生命エネルギーが感知できる。

神は鍵を杖にし、一度叩く。

『貴様が望んだのであろう。余と戦いたいと…可愛い娘の願いだ。叶えてやろう。ここから抜け出せればの話だがな』


『神々の過ち…真の(・・)死の溜まり場(デスポピー)…死者の宇宙【ゼノバース】…英雄の地獄へ』


地上宇宙(バース)から、セア・アぺイロンの気配が途切れた。


英傑の海―

「親父が直接介入してきたね。ちょっと早いよ~」

ロワが神器ルルイエを地面に突きつけて、地盤を破壊した。彼は竜を見た。

「死者の宇宙は、正者が足を踏み入れば、汚染される。無意識に亡者は生命を欲して、生者を蝕む。セアちゃんの行き先はそこだよ? どうする?

心配なら、パパに頼んで君も堕としてもらおっか?」

彼の提案に竜は呻いた。冗談はよせと、笑い飛ばしている。

「原初の過ちを正すには、原初の相続者たる彼女が為すべき任務」

「彼女がいるのは地獄だ。精神が崩壊するか、高潔な魂が朽ちるか。亡者となるか…はたまた、君たちが敗北し…英雄の帰還を蔑ろにするのか…可能性はたくさんあるよ」

「一つ付け足しなさい。序列者が集い、英雄も帰還を果たし、厄災を監獄に収容する可能性を」

「言っとくけど、負ける気はないよ」

「私もです。人類に勝利を―!」

ノーヴァの秘話

誕生日は1月27日

誕生星アルファ・インディ《巧みな二面性》を意味します


アザトースから生まれた生誕の日がちゃんとあるので、この日付となっています。

ノーヴァは普段誰にでも分け隔てなく接する心優しい兄ですが、最愛のためなら人類を滅ぼすことも厭わない狂暴な二面性を持ち合わせています。狂暴な二面性と、人類を利用した実験を企んでいた所、弟たちに攻撃させられ、権能で眠りについていました。のち、元祖大戦が勃発したのは偶然ではなく、ノーヴァを失った憂さ晴らしにクヴァレ帝国が進軍しています。

狂暴であることにロワ達は肯定的であり、兄の恩恵を願っています。ノーヴァは素の洗脳術が得意ですが、今のクヴァレの元祖は洗脳されることも知っていて、ノーヴァを受け入れています。

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