63話 太陽と共に昇る女
不変はない。動かぬ事象を打ち破る歴戦者は、この世の摂理に生まれる。誰もが不可能だと思い込んでいた可能性を壊す。摂理に合わせ、姿を変幻自在に変える踊り子は、逸脱した魅力で惑わしてくる。
歴戦者の仮面を取った踊り子が、次の仮面をつける。役者ごとに創る宇宙。
その物語に立ち会う勇気はあるか。
その眼で、踊り子の雄姿を望めるか。
その手を伸ばし、歴戦者の光を掴むことができるか。
舞台は始まっている。
さあ、飛び込んでおいで。
「すぅ…」
息を整える。脱力状態にあるセアが天を仰ぐ。ゆっくりと開眼する。緑の宇宙の目が、神を追う。タンッというステップの音で演劇が始まった。
感情の恣に衝突するセアの強烈な一打を、手で受け止める。テュポンの手を貫いた始まりの突き技。セアはすぐさま剱を引き抜いて、テュポンの片腕を斬り落とす。腕を失ったテュポンだが、余裕そうに嗤い、蛇の尾で叩きつける。セアはふわりと飛び上がり、攻撃を躱した。リヴァイアサンが指先を伸ばして、線を引く。地面から湧き出る大量の水がセアに、水力の暴力を振るった。防御を貫通する。水で叩きあげられたセア。体勢が悪い。弱点を晒したセアに攻撃を仕掛ける神。リヴァイアサンは伸ばした指をセアに合わせて、津波を呼び寄せる。テュポンは台風を喚び、風の威力で八つ裂きにしようと考える。天と地から仕掛けられた自然の暴力が当たり前のようにぶつかろうとする。その直前で、セアは鼻で笑い、空中で体勢を整える。
「オド魔法凍て死ね」
セアが落とす言葉が、自然に刺さる。津波が、その形を維持したまま氷漬けにされ、台風が渦を巻いたまま、氷花となる。神の叡智が氷で閉ざされた。
「…オド魔法!?」
メルキゼデクが立ち上がる。キルケは唇を噛み、アグネスは二度見した。ソロモンは笑みを張りつけたままで、手を頬に当てて、考え込む仕草を見せる。
(失われた魔法技術…オドの魔力の特性は、オド魔法を人類に有り余る技術にした。だが、その特性を理解し、完璧に扱えている。この一瞬で常識を覆した!!)
魔法界へ旋風が起こる。その歴史的快挙は始まりに過ぎず、ここからセアが人類の叡智を発揮する。
津波の傾斜が氷となり、傾斜を滑り降りるセアが加速する。神の間合いに踏み込んだセアは持ち手をくるくると入れ替えて、剱を回転させる。
『なっ…』
回転から続く旋回の一筋が、剣ではありえない射程を生み出して、セアとは離れた距離にいたリヴァイアサンにダメージを与えた。弱点を狙った行動を、思わぬ形で返された神が揺らぐ。神の感情に反応して、回転速度を上げた。首を使い、関節に分ける体の部位を一つ一つ大振りに唸らせて、回転させ、次の動作を予見させない。剣を地面に突き立て、強く掴んで体を浮かし、回し蹴りを行う。全身を使っていたおかげで、速度が出て、テュポンの顔面に強烈な蹴りを入れた。着地し、速度を活かすために剣は抜き取らず、拳を構えた。それを見たテュポンが、拳が飛んでくるであろう箇所を予想して防御する。
だが、その予想すらも、セアは想定内。彼女は高速で放たれた拳を直前で止めた。そして隠していた反対側の手を使い、ビンタを当てる。
テュポンが睨む。その直後に、氷が融解して、水の雪崩を引き起こす。リヴァイアサンが水を操り、セアを猛追する。側面だけでなく、頭上から水を叩き落として、拘束しようとする。速度を維持したまま逃げるセアの手には近距離に長けた剱。安全のため、距離が離れてしまった。怒りを抑えて、神が冷静な一手を繰り出す。朝焼けの空に電撃の閃光が走る。雲は一つもないのに、雨の匂いを感じる。セアは一度見上げる。朝焼けに走る紫の稲光と、雫だと思っていた雹の雨。雲はない。権能を媒介とした自然攻撃。
『雷光、永久に』
『消滅せよ』
雷鳴が地を這うとともに、巨大で無数の雷が広範囲に落ちる。その間を縫うように降り注ぐ酸性雹。回避のしようがない混沌に陥った状況で、セアは剱を振るった。誰もが、その行為を不正解の抵抗だと判断した。しかし、次の瞬間には雷を斬り、数多を酸で解かす雹を細かく切り刻んで、何もなかったことにした。
今、この瞬間にも、セアは常識を覆す。神が人類に与える自然の試練は破壊することは不可能であるという常識を、最善の譜面で突破した。
盤面がセアに移る。リヴァイアサンが絶え間なく水を流動させ、消滅を試みる。当たれば即死の状況下でも、セアは冷静に最善の動きを見せる。そして、神の御業を吸収する。流動していた水がゆるゆると天に昇る。空を覆いつくした透明な水の中を光が屈折して、地面に乱反射する。
セアの瞳が光った。
眩い閃光、一筋の渦、その軸となる半透明の水柱が神に落ちた。たった一つの攻撃範囲だが、広く、そして深い。水圧が付与された水柱。その威力も絶大で、辺りが土埃で覆われる。
「判じる始まりの審判」
大技を出したセアは汗一つ掻かずに、傍観していた。
『お前、克服したのか』
「…いまさら?」
『はっ!泣きべそ掻いてた餓鬼がよくぞここまでって感じだな。神でも超える気か? 』
「それはないわ。私は原初神様の苦悩を経験しただけ。決して、理解してはいけない。私は完璧ではない。けれど、今だけは完璧でいい」
止まっていた演劇が再開された。テュポンが天候全てを掌握して、侵略できないようにする。リヴァイアサンは蛇を召喚して、辺りを取り囲む。神が見つめると、セアの腕が捩じれた。あらぬ方向へ渦を巻く腕を一瞥することなく、セアは治す。雲が一つもない空から落雷と降雪と降雨、それに暴風が襲う。天と地に蔓延る神の悪意と、捻じ曲げる目線。一度でも触れれば、その存在が解ける神の水。そして、一度触れられれば支配される神の手。
立っていることもままならない、ましてや戦うことも不利な戦場。これだけを見れば、誰もが降伏し、命乞いをする。しかし、セアは逸らさず、真っ直ぐ見つめる。確信している。この状況なら、最高の状態で手本を出せるということを。
息が重なる瞬間に、神と踊り子が武器を交える。激しい衝突が地鳴りを引き起こす。神と近距離にいると言うのに、その間を潜って雷やらの天候攻撃が落ちてくる。テュポンと空に気を配っていると、地面から這い寄ってくる無数の蛇に足を固定され、テュポンの攻撃をもろに食らう。背後から詰め寄るリヴァイアサンが近距離で神の水を生成して、存在ごと解かそうとしてくる。一瞬でも気を抜けば死ぬという状況を、セアは原初神32柱の権能で対抗する。
天候掌握の権能には、天を司る神の権能を遺憾なく発揮して、効力を鈍らせる。水が邪魔であれば、水を衝突させ、相殺する。蛇が邪魔なら、神の羽で蹴散らす。傷を負えば、その先々から治癒して無かったことにする。炎の煙幕で視界を錯乱させ、少しでも対抗する。
権能だけではない。オド魔法も要所要所に展開して、反応速度に誤差を生じさせる。あとは身体能力で拮抗する。何度も見せた高速の動きと、剱と全身から成る回転、力強い拳、最善を尽くせる体術。何度も見ているのに、神はなかなか対応できない。
(またか…また、速度が変わった。高速であるが、急に速度を制限して、こちらの注意を削る動きと防御に粗を出す判断。いつ変わるかわからな過ぎて、対応しにくい。一度止めた速度を変わらず再発させている…速度をコントロールしている!)
テュポンが対応できない原因を突き止めた。セアの意図は、まったくその通りだ。高速であるという条件は強者であれば、誰でもできる。違いは、その速度。誰もがそう判断する常識をセアは覆す。速度の緩急で敵を翻弄し、意識を錯乱する。一点に集中する速度を緩めれば、敵は自ずと防御を取る。集中を欠く。セアは最速になろうとはしていない。速度を全て理解した最強になりあがろうとしている。
ぐぎぃという生々しい音を立てて、セアの足が捩じれる。一瞬で治るが、痛みに引っ張られて不意を突かれる。テュポンの拳が刃のように鋭い斬撃を与えて、セアの腕から血が滴る。治す時間も与えぬために、リヴァイアサンは水で包み、セアの水の檻に閉じ込めた。だらりと垂れる右腕の感覚がない。セアは大量に流れる血を操る。血が環を作り、回転して水の檻を破壊する。回転し、飛び散る血の飛沫が武器となり、猛威を振るう。個々に自我が芽生え、殲滅行動をとる。セアが動いて、間合いに侵入する。いつの間にか治した腕で剱を突き立てる。テュポンの腕に刺さったが抜けない。互いに硬直状態になる。セアは眼光を送る。
ダンッ!
銃声が響く。肌と肌が触れる距離での発砲。セアはテュポンの腹に銃を当てて、対応される前に、銃弾を貫通させた。唐突な傷にテュポンの反応が遅れた。痛みが引いて勢いを取り戻したセアが、神を翻弄する。
神と踊り子の拮抗した演劇を見ている者達は、みな息をのむ。発する暇もなく、繰り広げられる高次元の技術に圧倒される。片方に軍配が上がる時もあれば、通常は拮抗している。
(テュポン、さすがね。自然を巧みに操る技術力と馬鹿げた範囲。あれの権能の一つに、掌に触れた者を支配下に置く能力がある。個の体術も高いわね。
リヴァイアサンも水の扱いが最高ね。長でなければ、とっくのとうに演劇は終わっている…)
(うわぁ、姐さんすげぇ。前よりもぐんと上達してやがる。やっぱ、俺じゃあ姐さんに一生追いつけねえ。俺よりも若くて、同等の守護者なのに、手本を見せられてる。それも俺たちがずっと悩んでいた種だ。どうすればいいのか、何がいけないのか、何をやってもダメだって、諦めて捨てた宝石を拾って、輝き方を魅せてくれてる。同じ形にするんじゃなく、個々の形に合わせるように研磨して、より美しく飾ってくれた…ああ、悔しい。こんな子供に負けたっていう事実に、心底腹が立つ。でも、姐さんなら許しちまう。もっともっともっと、見ていたい!)
ソロモンがすぅと目を細めて、分析をし始める。
(流れるような動作と、場慣れした手腕。多数の能力を独立させて活用する頭脳。
…身のこなしが上手いな。女特有のしなやかで柔軟な肉体で、高速の動きと回転を実現し、培ってきた筋肉がそれらを維持している。力では劣るが、相手の行動を利用するカウンターを常に使っている。空間だけじゃない、動きに潜む裏拍を聞いて瞬時に対応する。初見の攻撃も、通常も、全てを最善ではなく、正解で答えている。
どれもこれもが、おいそれとできることではない。技術で勝てずとも、経験で勝てばいいと踏んでいたが…誤算だ。つけ入る隙が一切ない。
神と人類の叡智を極限にまで理解して、最高水準を見せている演劇。だが、なんだ?
この胸の違和感は…数多の最強どもを篭絡させたにしては味気ない。まだ、なにかあるというのか?)
神と人類の好奇を一身に浴びて、失敗が許されぬ莫大な緊張の中で、セアは神を翻弄し続ける。緊張に晒されて、剱を握る手が汗ばむ。足が重くて、前に進むことができない。まるで鎖に繋がれているようだ。
冷汗が止まらない。足に変な力が入る。平常心を装って、手本を見せ続ける。人類が求めていた完成形を、完膚なきまでに再現する。そうしている心の内で、無我夢中にセアは考えを巡らせていた。
(本当の自分って、どんななんだろう。いろんな人類に出逢って、真似をして、皆が諦めたことに触れた。誰かの苦痛を味わった、神の苦痛を知った、生物の叡智を実現した...だから、私は分かったよ。
ずっと、仮面をかぶり続けて、本当の姿を隠していた。本当の私じゃないって分かっていながらも、何者か分からないから。
確証がないままに拒んでいた愚かな自分が本性でも、私が生きる意味じゃない。私が人生ですべきことを理解したかった)
『セアの踊りって綺麗ねぇ』
セアの脳内に木霊する在りしの記憶。セアは戦闘の最中で泣き出しそうになる。悔恨の思いではち切れそうな胸を押さえて、宇宙の目を潤す。
シャァァァン…
セアが展開していた全ての能力を封鎖した。権能、魔法、元祖の才。それらの叡智が煌びやかな音を立てて崩壊していく。砕かれたそれらは朝焼けに氷の雨を齎す。
すぐに儚ぐ神秘の雨を背景に、セアは動きを止めて、直立する。瞳を閉じて、宇宙を閉鎖する。しかし、テュポンとリヴァイアサンの御業は続いている。
人間の静寂と、神の囁き。対となる一つの演目。奇怪な行動だが、理解した。奇怪が舞台を終焉に向かう準備期間であることを、この演劇の立会人は理解する。
手本は終わった。見覚えのある演目は終わりを告げ、最後のステップへと進む。今から始まる誰も知らない、見たこともない幻の演目。
静寂を打ち破る神の攻撃が重なる。硝子が奏でる煌びやかな音の次に奏でたる音は、常軌を逸するほどに殺意が迸る破壊音。鈍い音が混じる不協和音。その音からも分かる高威力の物量攻撃と酸性雨、落雷と雪雹。天の利は神にある。地を這う蛇が、直立しているセアの足を噛む。即効性の毒が体に回る。痛みで藻掻く猛毒を受けて、セアは不変に立つ。
『とてもいい気分よ。踊りって、こんなにも美しいものなのね』
『お前の円舞は、希望だよ』
(ああ…その言葉をもう一度聞きたい。私を愛するものが希望に満たされ、私を害するものが絶望に浸る。全ての人類の記憶に刻み込まれて、宇宙の果てまで届いて、私が愛するものに届く。
あなたたちが笑ってくれたこの踊りと、希望だと褒めてくれたこの舞い。この記憶を無駄になんてしたくない。
忘れたくない。忘れさせたくもない。
だから、私を見て。私の存在を区別する。私の存在意義を証明する)
セアが顔を少し上げた。露呈する悪意を孕んだ微笑みに、一瞬で釘付けになる。
舞い始めたセアは足を噛んでいた蛇を一薙ぎで屠って、神へと近づいていく。その足取りは軽く、綺麗なステップを刻む。雷鳴轟き落ちる戦場を駆け走り、純水が飛沫を造って押し寄せる激震の戦場を跳んで、綺麗な姿勢を取る。天に見放されても、地に降り立つことが苦難とされようと、セアは誰もが見惚れる美しさを前面に押し出して、踊る狂う。
剱を神に突き立て、獰猛な刺突を繰り返す。瞬時に足を組み替えて、回転を生み、いつの間にか剱を振っている。先程の力強く見事な回転とは違う、流麗な動きから続く回転。背筋をすっと伸ばして、基盤を作る。
怪我を負っているはずの足で複雑なステップを実現している。指の先に至るまで伸ばし、表情も制御している。がらりと変わった戦闘方法は単純に、剣技のみで戦うもの。しかし、どうしてだろうか。神が押されている。
些細な変化だが、着実にセアが御業を斬り蝕んで、奪っていく。
どうやって、そうなったのか誰にも分からぬままだが、ロワは真実に気づいていた。
(自我を出した。気づいたんだね、存在意義に。
神と戦う上で重要なのは、”存在意義を明確にすること”。権能は意志が表面化した御業。だから、当人の意志が大いに影響する。自分が何者であるかを理解できない奴が戦場で戦えるわけがない。”弱肉強食”の理に従って、存在意義が強ければ、どんなに相手が強くとも通用する。奪うことができる。
複数の手札で対抗してたけど、それを止めた。止めた分、己の存在証明に脳を使ってる。何かを得るには、何かを捨てなければならない。捨てる勇気がないから、進歩できない奴は、どの時代にも大多数を占める。
人生は不安定な場所を歩く。変わらない夢を持ち続けて、未開を進むことが、どれだけ危険であるのか。こんなに幼い子ができるなんて…
今、宇宙の真髄と生物の最高到達点を見ている。あ~、やっぱ敵わないなぁ)
天地を手放した踊り子が舞うは未開の地。誰にも見えない、見ようとしなかった天と地の狭間を精一杯に舞う。力のある限り、時間のある限り、舞うことを続ける。
奇跡を一切使わない飾らない踊り。ただただ、実直に磨いてきたことが窺える澄んだ舞い。躓くことはあっても、すぐに立ち上がる。失敗だと思わせない技量。天から降り注ぐ試練を真っ向から受け止め、掻い潜っていく。
たかが、舞踊の一つで神の御業を圧倒しているという屈辱が神の自尊心を穢す。加速する御業の物量。神の叡智を超越した瞬間に、銀河が映る。神の神秘を目の当たりにして、絶望が刻まれる。しかしながら、セアにその感情は自然と生まれなかった。あるのは、己の舞踊を信じ、存在意義を高める意義だけ。
天罰に晒されても、足は軌道を描いて、ステップを刻んでいる。前へ前へと、歩みを止めぬ姿を見た者は、絶句した。目が見えない者には、清い鈴の音が魅了する。
広がっていく。動作一つ一つに込められたニュアンス。言葉にできない神々しさを放つ。
深まっていく。今起こっている事象への、ひいては宇宙への解像度。
近づいていく。己が思い描いた理想像。
引き離す。あらゆる生命体から逸脱した脅威の存在感。
不変を蝕んだ踊り子は、銀河をも飲み込んで、星導を微睡む。誰にも成し得なかった偉業が、この演劇だけでいくつ起こりえたのだろう。数えていたら、演目を見逃してしまうくらいに、踊り子は舞う。
増幅し続ける自己顕示欲と、欲への解像度。時に暴虐的に感じる様が、一層この演劇に華やかさを与える。セアを見た者は覚えている。彼女の始まりは無名であることを。その経歴から与えられる希望。始まりが無惨でも、続けていけば、導いていけば、挑戦すれば、いつかは銀河に届く力を手に入れられるという。
セアは瞳をこじ開けて、開眼する。苦悩を僅かに放出する希望に渇望する宇宙の目。銀河から落っこちた一つの星が、事象を歪ませる。全てを見透かすような視点に、皆は惹きこまれる。ある者は胸を押さえつけ、ある者は感動で涙を流す。ある者は神々しさに恐怖を抱く。ある者は、彼女を理解しようと凝視する。複数の感情が交錯するが、どれもこれもが、セアに向けられたもの。
その感情は全部、セアが計算しているものだ。この瞬間だけは、敵味方関係ない。ただ、セアのことだけを考えるように、魅せられている。
感情を支配する野心こそが、唯一無二の才能。それが、セアを最強に導いた。
もう、邪魔はされない。この場は完全に、セア・アぺイロンが侵略した。
天候掌握と純水の工作が、太陽の光に映されて、ちっぽけに思えてくる。加速と剣技が最高潮に磨かれた刹那に、セア・アぺイロンが高速回転する。テュポンの腹を裂き、リヴァイアサンの四肢を斬り落とす。緑の眼光が光の線を引く。神の血しぶきが弧を描いて、空を彩った。倒れる神に相次いで、天地の異変が解除された。邪悪な魂の怨嗟の中心にいるセアは、静謐の戦慄を奏で、来訪者を拒まない。
解除と同時に、踊り子のステップが止まる。地平線と地続きであった太陽は、空高くに昇っている。セアは手を掲げ、太陽が通った軌道をなぞる。最後の最後まで、細部を飾った舞いが終わる。
白日を背景にして、セアが静止する。霜と無常が合流して、地面が銀盤になる異例の幻想を浮かばせる。それは比喩であっても、彼女の演技を見ていた誰もが共通して見た幻想。敵意を抱いていても、魅了される。圧倒的な希望には抗えない。
レヴィアタンの言った、戦場の全てがセア・アぺイロンの足手まといという言葉の意味がやっと分かった。
セア・アぺイロンは戦場にある全てが自分にとって映えるように舞う。激変の戦場は不安定であることで、より、その妖艶な姿が際立つ。
たとえ、演目が違おうとも、セア・アぺイロンの舞踊を見た誰もが震撼する。
天罰が下されようとも、それすらも我がものとして、微笑むのだろう。
どんな強敵にも挫けず、進むのだろう。
堕ちていく宝石に手を差し伸べて、また輝かせるのだろう。
燦爛を纏って、落胆者が手を伸ばしたくなるように振る舞うのだろう。
どの瞬間でも、絶対を演じるのだろう。
―綺麗だ。
守護者セア・アぺイロンは踊り子の愁色を冠する
―曰く、銀盤の天照




