8話 確信の痛み
こんれでー、2章終わりで~す!
軽く元祖の過去に触れるような描写があるので!
是非読んでください!
白銅色と呂色のツートンを高く結い上げ、白銅色のほうを三編みにする。ゴールドの輪のピアス、小さなハートのネックレス。胸の開いた服、赤い口紅を引いて、より凛々しさを増している女。113男”刻”の元祖一条実経である。
(なんか、この光景よくみるな)
「だー!! ギブギブギブ!! あっ、今…骨バキッつった! バキって!! ごめん!! 実経~!!」
「だ~か~ら~俺は、綺麗に保っておけと、あれ程」
一条家領地時空都市ティンダロスは、今ヒュドラの残骸と、その毒でどっろどろな状態で、とても人が住めるような環境ではない。
「俺がラウルスから解毒剤を貰ってなかったら…どう落とし前つけんだよ!」
至極真っ当なことを言われていて、兼平と良元は正座をして、すんません、というオーラを出している。ちな、基実は気絶寸前です。
実経の説教が一通り終わったことで、やっと本題に入ることができた。
「兄貴、今回は助かったぜ。ありがとな」
ペコリと頭を下げる実経を緩みきった顔で撫でる。実経は照れくさそうな顔をして止めるように促すも、良元が撫でてー、とノーヴァに近寄る。
「ノーヴァさんは、神皇の復活を求めてんけど。そもそも生きてんの?」
良元がノーヴァに膝枕をされながら質問してきた。神皇はセアのことで、恐れ多いから名前で呼ばずに、こんな異名になっている、らしい。
「兄貴は死んだんじゃなくて権能を使って千年間傷を癒し、それが終わって目を覚ました。これに関しては夜の一族にしか出来ねぇ芸当だ。だが、セアは原初一族唯一の長、権能なんてピカイチ」
「繋縛の水晶が原初絡みだということか」
兼平がそう口にすると、実経は渋い顔をする。
「そうなんだけどよ。繋縛の水晶の解除方法について原初ですらわかんねえらしくてよ…」
「それ、どうしようも無くないか?」
「…」
ノーヴァの純粋な一言で完全に実経が落ち込んでしまった。基実が慌ててフォローに入る。
「で、でもよ? オベロン殿なら」
実経はばっと切り換えて説明を始めた。
「基実の線が一番濃い。だけど、俺はエドガーに会えていない。まだ可能性はある」
「そうか…ちなみに今神皇はどこにいるんだ?」
「んなの分かってたら苦労しねぇーよ!」
実経はそう言いながらも書斎の棚から資料を取り出した。ばっと広げたのは宇宙地図、それには年が記録されてあった。
「これはセアの魂が現れた場所と日付。兄貴が眠りについたことで神聖時代が終わって、そっから今では千年」
「神聖時代って、それで終わったの?」
「まあな、神聖時代は元祖が中心だから、それの兄がいなくなって終止符がついたと思えばいい」
基実の感想に兼平が補足をつけた。実経が続けるぞ、と言ってペンを取り出す。
「アイツが死んだ場所は神殺しの海、407年ごろ。そん時十八歳だった。アイツの魂が消滅していないかの確認で”始まり”と”終わり”だけをマーキングしていた」
実経の言葉通り、地図には大まかな場所と日にちしか書かれていない。
(ん?…)
「セアは十八年周期で輪廻転生をしているのか…なにか意味が…」
「わからん…ただ、そう考えると、五九三を十八で割ると、三十二あまり十七。そしてこいつは十八で終わる。計算で行くとこの一年の中でセアの封印を解かなきゃ、セアは闘えねぇ」
「確かに…あんなに強くても、赤子が戦場にいては格好の的…」
「俺の考えだとアイツは繋縛の水晶の解除が出来ない体で何かしら用意をしているはず。だから、挑戦するだけタダ」
「随分あっさりしているな」
復活させないと、蝶にこっぴどく説教が待っているからノーヴァは本気でやらなければいけない。
「ボクは神皇さんが復活するのは賛成」
「実経と兼平がめーずらーしく!やる気ならオレもいいと思うぜ!」
「私は神皇に命盟を捧げてもいい」
「ああ! セアにはそれだけの価値がある!」
(命盟。その名の通り命を代償にした契り。話したことも実物を見たこともないのに、この信頼…)
「確信の痛みだな」
ノーヴァは小さく呟いて、真剣な眼の四人の覚悟を受け止めた。ノーヴァの膝枕から起き上がって良元が尋ねてきた。
「次はどこに行くの?」
「んー、そうだな。メガトロンにでも会いに行くか…」
ノーヴァの言葉に実経と兼平が顔を見合わせる。アイコンタクトで、
『七大一族の住む海か』
『暴動も把握済みだろう』
はあ、と項垂れる実経がノーヴァに向き直った。
「メガトロンは貿易の海にいるはずだ」
「えー、いいじゃん。まだ、あの守護者は友好的じゃん」
こてん、とノーヴァが首をかしげる。そして、ジーッと兼平に目を向ける。ノーヴァの圧に耐えられなくなったのか、口を開く。
「守護者はそれぞれの海を司っていて、ここはバイラールだが。貿易の海はイニティウム」
「ほぉ」
よく分かっていないノーヴァに溜め息をつく四人。ガシッとノーヴァの肩を強く掴んで、
「いいか? 天地創造と和の海以外の海に行くんなら…絶対に! 気を付けろよ」
ギュウウ、と強くなる力と、四人の圧にノーヴァは無言で頷いた。
ドタドタ!バンッ!!
「おい」
クヴァレ、憩いの間。緑生い茂る屋内の庭園。銀色のストレートの髪、真紅の瞳、雪のような肌。白色の修道服のような袖の大きなデザインに鎖柄の刺繍。六芒星の飾りの半透明なヴェールを被った儚い美女。だが、暗いオーラを纏っている彼女は5女”狂”の元祖アグネス・カタリナ。
そして、薄紫のはねた髪を結び、花のようなピアスをつける82男”祭”の元祖メルキゼデク。
メルキゼデクとアグネス、そしてレヴィアタンは茶を楽しんでいたが、扉を大きな音を立てて開かれたことで話し合いを止めた。
「どうした? キルケ」
近代的な黒い服を纏う男、銀髪と蒼き鋭い瞳。そして蛇を携える者、6男”魔”の元祖キルケ。
レヴィアタンが問いかけると、ギロりと鋭い目付きで言う。それを理解して、
「確かにクレオパトラが死んだのは問題だね」
「違ぇ…アイツに任せれば和の海は手に入るって豪語してたのは、どこのどいつだ?」
キルケの言葉に知りません、という態度を取る。それによって、ぶちりとキルケが怒って口論になりそうなところをアグネスが止める。
「レヴィ…確かにこれは看過できない」
「兄さんがいたから仕方ないね。もし、あのまま民衆の相手をさせていたら壊滅できた」
「…クレオパトラの”演説”で…こちらには…多くの…魔神族がついてくれたわ」
「その通りだ!」
アグネスの言葉を遠くから肯定して歩いてくるソロモン。
「いくら魔神族が手の内にあるからと言って、ノーヴァ兄を野放しにしてみろ…負けるぞ」
ソロモンが真顔で言ったことでレヴィアタンはうーんと考える。
「兄さんのことは任せるよ。キフェなら喜んで出るよ?」
「そうだな、じゃ、さっそく!」
ノーヴァ捕獲のために準備を始めるメルキデゼクをぐいっと引っ張る。
「止めとけ…次の海は次女がいる」
その言葉に凍りつく。長男、長女、次女は元祖に教育を施した年長。その中で最も飛び抜けてヤバい次女。
「いいじゃないか…九九九年ぶりの姉の再会…ラミアなら気に入るよ」