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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
8章 英傑の海
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59話 タラーインの痛み

温厚なノーヴァの豹変。人型であるが、ところどころが異形で、人間でないことを物語る。金髪と黒一色の肌。兄として合致しない、嘘偽りの姿こそがノーヴァの本性なのか。はたまた、どちらも本性なのか。見事な二面性だ。

長兄という元祖の年長。場数も踏んで、才哲であることの重要性をよく理解している。

ぐっと針を持つ手に力が入る。汗が額に流れる。皓空(ハオア)はノーヴァを凝視していた。その横で、薄ら笑いを作る蠍然(シーラン)

「お前ら、オレ様は好きにやる。お前らも好きに動け」

「ネ~」

(はい)

クリスは(りき)んだ声で指示する。でも、分かっている。困ったことがあれば、カバーしてくれるという安心感がクリスから滲み出る。言葉にしないが、彼の実績と人柄を理解している皓空と蠍然は、臆することはない。

二人の了承を得たクリスは、地面を強く蹴り、ノーヴァに殴りかかる。強烈な殴打をクリスはぶつける。びくともしない。

「硬ぇな!」

「通用せんぞ」

ノーヴァも反撃で、殴打を与える。しかし、クリスもびくともしない。互いに攻撃は当たっている。ノーヴァに攻撃が通用しないのは、彼が権能を昇華させ、神となったからだ。

ノーヴァは目を細めた。

「久しい名を聞いたな」

「盤古開天元始天尊”天帝”…―不変を齎す」

クリスは地面を蹴り上げて、頭上から激しい拳の突きをかます。それに追い打ちをかけるように、蠍然が鎖を薙ぐ。鎖がノーヴァに触れると、彼の肉体が灰のように崩れ落ちる。強靭な神の肉体が脆くなった。

これ(・・)は通用するネ。なら、倒せる」

蠍然がにぃと笑う。それを皮切りに、クリスが音を飲む拳を紡ぐ。その拳がノーヴァの顔面に直撃し、灰となる。背後から皓空が忍び寄り、毒を塗った針を突き刺す。卓越した連携力を誇る三人の攻撃をノーヴァは防ぐことなく、受け止めた。

空虚な目が睨む。ずんと、急に空気が重くなる。三人は良からぬことを察し、ノーヴァから距離を取る。灰となっていた肉体が修復された。神が備え持つ治癒能力。それを目の当たりにして、三人の顔が強ばる。そんな中で、ノーヴァだけは分析をして、心の底から楽しんでいる。

(流石、棟梁だ。個々が独立した戦力だ。指示を仰がなくても、刺さる動きを選べる。基礎身体能力が群を抜いて高い。それに加わる才と竜名(ロンミン)。クリスの竜名(ロンミン)天帝は、神の肉体を得る名。神の中でも最高位の防御力を誇るはずだ。生半可な攻撃では通用しない。俺ならば余裕だ。だが、その余裕を壊す危険分子が蠍然(シーラン)だ。正確には、”苑”の元祖の才”死灰”。領域内で蠍然が触れる、あるいは攻撃したものを灰にして壊す才。

神である俺の肉体も灰になるということは、通用するのだな。防御と攻撃、そして弱体化。全てが揃っているオールラウンダー型。ここに、宇風羽(ユーファウ)がいなくてよかった。圧倒的な脅威だが、ここで屠れば、俺の宿願を果たす時は近い)

ノーヴァは新しい策を練り終わり、事に取り掛かる。ノーヴァが(しばたた)くと、周囲に金色の粒子が出現する。粒子が大気中に揺蕩い、結合していく。化学反応のように現実的だが、今まで見たことのない幻想に、呼吸を忘れるほどの感動を受ける。その感動とは対照的に感じる圧迫感。

粒子が揺蕩い、芸術を織り成すごとに、凶報が伝達される。ノーヴァの威圧的な態度。

ビリビリと肌を震わす衝動。

ノーヴァが指を動かす。空の文様をなぞる仕草。繊細な動きに魅了される。だが、その繊細さとは遠くかけ離れた殺戮が始まる。

『逃げ惑え』

ノーヴァの言葉を軸に、爆発が起こる。ノーヴァと距離を取っていたにも関わらないのに、爆発が届き、余波にも苦しめられる。三人は各方面に散り、互いに当てられる攻撃で巻き込みが起きないように配慮する。蠍然(シーラン)は竜名を駆使して、爆発の火力を抑え、薙ぎ払う。余波と障害物の瓦礫で、わずかに傷を負うが、最善を尽くし、事なきを得る。皓空(ハオア)は何らかの方法で避ける。

そして、クリスは竜名で、神の肉体を得たおかげで、爆発に当たろうが意味をなさない。攻撃の無力化という最強の防御能力を得ているが、爆撃で視界が遮断され、思うように前へ進めない。ノーヴァを視界にとらえ続ける。彼は、指だけを絶え間なく動かして、粒子を操作する。優雅な動きに腹が立つ。

(権能だよな、これは。軸は権能、触媒は粒子、攻撃の核心は”核”。そして、その創造は星の衝突。宇宙空間で繰り広げられる星々の衝突を再現している。とんでもねえ破壊力だ。この肉体がなきゃ、疾うに死んでる。普通なら持久戦で死んじまうし、何より、神に成ったノーヴァに攻撃は通用しない。そう思ってんだろ、ノーヴァ?)

「神ってのは、どこまでも舐め腐りやがって…その認識、ぶっ壊してやるよ」

クリスは呟く。そして、声を張り上げる。

「ボルテージ上げろぉ!」

合図を一番に応えたのが、後方支援型の皓空(ハオア)であった。頭から半透明の角が突如として生え、体全土に刺青が出現する。

「盤古開天参宿(さんしゅく)唐鋤星(からすきぼし)

皓空がノーヴァに手を伸ばす。そして勢いよく、拳を握ると、粒子の弾幕が(くう)に消える。皓空が開いてくれた道をクリスが駆け抜ける。道を走る間も、ノーヴァが指を動かし、核攻撃を繰り返す。それに対抗するように、皓空が後方で打ち消していく。

皓空はクリスの道だけでなく、蠍然の進む道も切り開いていく。蠍然はある程度近づくと、名を唱える。

「盤古開天室宿(しっしゅく)室星(はついぼし)

蠍の牙が出現する蠍然は、手を交錯して、(しばたた)く。彼の手から菌に輝く粒子が流れ出し、空を舞う。それはノーヴァが出したものと同じ核攻撃の触媒となるものだ。

「!」

粒子は、ノーヴァの周りに散乱し、宙を揺蕩う。次の瞬間には、核衝突の爆破が一面を覆い、ノーヴァを攻撃する。通常ならば、ノーヴァには効かないが、蠍然が”死灰”を発動させているため、彼の肉体は灰となり朽ちていく。予想外の攻撃に怯んだノーヴァの間合いに侵入したクリスが大きく力んで、拳を放つ。その拳は神に届く。

ノーヴァは片腕を無くしてしまうが、焦る素振りは見せない。彼の行動とは裏腹に、神の命を狙う竜が集結し始める。

ノーヴァとクリスの間に落ちる炎の羽。影が落ちる。ノーヴァは上を見上げ、嗤う。そこには無表情の雲颯(ウンリン)がいた。轟轟と燃え盛る鳳凰の翼を焦がれさせる。全身を回転させ、翼をまるで刃物のように扱い、ノーヴァを切断する。

「!」

「退け!」

だが、その翼は想定よりも深くは入らず、ノーヴァに受け止められた。彼はクリスの指示の下、一旦撤退する。攻撃が止んだと思ったノーヴァは自己治療をしようと、権能を止めた。

そんな彼に雪の結晶が降ってくる。突然のことに、思考が停止する。呆気に取られていると、雪の結晶に帯びていた魔力が作動する。

「~~っ!?」

結晶が空に聳え立つ氷の樹木を形成して、ノーヴァを拘束する。予想だにしていない、それでいて強力な攻撃にノーヴァは驚嘆の声を上げる。

「マナ魔法氷結系最高等級六花(りっか)端麗(でんれい)大本山(だいほんざん)

「おいおい…魔塔主までお出ましか!」

目を見開いてノーヴァが叫ぶ。青を帯びた髪がさらさらと流れ、光を反射させて、チカチカと輝きを放つ。漆黒の瞳がノーヴァを冷酷に刺す。

(ウェルテクス・マゴ! なぜ、ここにいる!?)

ノーヴァはウェルテクスを認識する。汗が止まらない。今まで余裕を持っていた彼が焦る程に、強大な相手だ。ノーヴァは拘束されながらも、権能を展開する。粒子が猛烈な勢いで宙を舞う。それは蠍然や皓空でも対処しきれない物量と速度で一帯を覆いつくす。今にも壊れそうな盤面。しかし、まだ切り札はある。

「盤古開天闢地(ばつ)

聞きなれた声。ノーヴァは信じられないと内心で叫び、声の主を睨む。金色の粒子は一点に吸収されて、消滅する。

「神の力は凄まじいのう。体が漲る」

『…お前もか』

「滑稽な有り様じゃな、ノーヴァ」

(ゆずりは)が微笑みかける。だが、その笑みの奥底では怒りがこみ上げ、殺伐とした空気を生み出している。ウェルテクスが前に出て、彼を睨む。

ノーヴァの前に立ちはだかる現役の棟梁らと、守護者(ガルディ)として長年人類を守ってきた最強と猛者。

『はははははははっ!!』

「…」

劣勢の状況に置かれているというのに、急に高笑いをして周囲を驚かせる。ノーヴァは一頻りに笑い続ける。嫌気がさしたクリスは、ウェルテクスを押しのけて、彼を殺そうとする。拘束して、一分という短い時間で、最良の判断をするクリスをノーヴァは見つめる。

クリスの拳が当たる刹那に、事態は思わぬ方向へと進む。

その場の空気が暗転する。したと同時に、訪れる恐慌。歴戦の猛者が何も感じないままに、空間を通る神の諸刃。最強が辛うじて見える極小の殺意。それでも見えない。混乱が動けない理由になって、手も足も出ない。

次の瞬間には、その場にいた者の四肢がぐちゃぐちゃと音を立てて、切り裂かれていた。雲颯の翼が毟られて、突風が起こる。風の中に舞っていた霧の刃に反応できない雲颯の肉体に刃が刺さる。刃の一部が頸動脈を傷つけ、息ができない。倒れこむ雲颯の頭を踏みつける屈強な肉体のベルゼブブ神。

新たな神の登場に、その場にいた者の動きが止まった。ベルゼブブ神は誰も攻撃しないまま、立ち尽くしている。

殺戮が続く。

生まれて初めて対面する蠍然は息をのむ。才と竜名(ロンミン)を維持したまま。しかし、脅威は神域に侵入する。ぐぢゃあ、と心臓を掴む音が耳に残る。ウェルテクスは音に目を向ける。

蠍然の背後を取って、彼の体を素手で貫いたまま、心臓を奪うルキフグス神が狡猾な笑いを浮かべていたのだ。心臓の抜けた蠍然はどさりと地面に倒れた。肉体の穴からは血が流れ、息をしていない。

加えて、皓空は両足を切断され、動けない。皓空に銃を向けるアスタロト神を見つけたウェルテクスは防ごうとする。だが、彼の邪魔をするルシファー神。神が持つ杖に阻まれて、ウェルテクスは思うように動けない。さらには、ルシファーの発する高温が魔力効果を妨害する効果も兼ね備えていて、得意の長距離魔法も使えない。

負の連鎖が続く状況で無慈悲にも、神は最後の一手を下す。銃声が響く。

次々と身内が息絶えていく中でも戦いは続いていく。透明な空間斬撃を受けて傷は負いつつも、致命傷を完全に回避した杠が神に対抗する。あるのは、鍛えぬいた肉体のみ。手加減なしの蹴り業を連発して決め、神を後退させる。だが、現役を退き、有効打を持っていない杠は長くは持たない。アスタロト神の撃った銃弾が肩に命中する。腕の神経を掠めた痛みで、杠の動きが止まる。好機だとばかりに、ルキフグス神が杠の腕を握りつぶす。

「んぐ、っ (まずい!)」

杠は近づきすぎてしまったことに危うさを覚えた。

「雹の帳」

危機に陥る杠を氷の樹氷が優しく覆いつくす。樹氷の霜が触れると、そこから氷の棘が神を刺す。

「すまぬ」

「いや…」

握り潰された腕を気にしながら、杠はウェルテクスに礼を言う。一人助けても、三人助けられなかった失態がウェルテクスの頭の中で停滞している。ノーヴァを足止めしていたクリスも集結する。

「深手だな」

「しゃあねえだろ」

挨拶を交わす叔父と甥。杠が眉をひそめて聞いた。

「こやつら、一度滅んだのではないのか?」

「報告じゃあな。それもこれも全部ノーヴァのせいだ」

(七洋の復活、これが神ノーヴァの底力…何をしたんだ?)

クリスが睨む。拘束を打ち破ったノーヴァが七洋の下に歩んでいく。

「気になるか?」

ノーヴァが尋ねてきた。反応はしない。構わず、ノーヴァは続ける。

『人の持つ権能は極致へと昇華する。人類が崇める哲学が権能の源となり、その哲学を操る。俺はあらゆる過去を消滅させる神。因果を燃やし、新たな因果を創造する。それが俺の極致』

「新たな因果?」

『セア・アぺイロンが警鐘を鳴らした災厄。原初神三十二柱にして、最強の創造神アザトースの復活だ』

ノーヴァの言葉に戦慄が走る。

「…なぜ、七洋をわざわざ殺したのだ?」

『私たちとの契約よ』

アスタロトが答える。

『我が主アザトース様は万が一に備え、ノーヴァと私たち七洋に復活の段取りを伝えてくださったわ。セアと他の原初神三十二柱が結託し、アザトース様を眠りにつかせた。そこから、私たちはあの御方の復活を望んでいたのよ』

『七つある内の四つを一度燃やすことで、アザトース様の御身と権能が元に戻る。その過程で、セア・アぺイロンの復活が必要だった』

「!?」

『原初神はアザトース様を封印する代償で滅びることを選んだ。でも、セアはそれを良しとしなかった。原初神はアザトース様を含めた権能をセアに託し、封印をより強固なものとした。

クヴァレの元祖はセアの復活を邪魔するばかり。だから、ノーヴァを使った』

『お前達だけじゃ復活は無理だと思ったんだよぉ。術者の三傑は契約で封印は解けないし、他の馬鹿どもじゃ元も子もない。大変だったよ、本当に』

「なるほど、そういうことだったのですね」

七洋が答え終わると、頭上から声がする。その声はウェルテクス側についた。

「ゲニウス」

「失態ですよ、ウェルテクス」

『ロワはどうした?』

「もうじき来ますよ」

ノーヴァの問いかけに、彼は空を指さして言った。その言葉通りに姿を現すロワとイーヴィル。敵が集まっていく。

「壮観だな」

「ええ」

『やはり、守護者(ガルディ)はそう簡単にはいかんな?』

「人類最強ですから。それにしても貴殿らは面白いことをなさる。よろしかったのですか? セアの復活を助力して…」

『…?』

ゲニウスは嘲笑うように言った。

「貴殿らより、セアの方が強い」

「言うねぇ~~~」

「計画は聞いた通り。随分と綿密なものだ。ですが、計画の一端とは言え、守護者(ガルディ)でもない人間に殺された神はどうなのでしょう? 滑稽極まりない」

『へえ…』

「セアの封印は私たち三傑が勝手に行ったもの。それが神にとっても好都合なものでしたのなら幸いです。こちらも封印解除を確定して行える。

神にも、人にも望まれたと知れば、彼女は最高の演技をしてくださいます。彼女を絶望に堕としたい貴殿らの欲は未来永劫叶いません。たとえ、私たちが死んでも…」

ゲニウスの言葉を聞いたノーヴァが、ロワに指示を仰ぐ。

『ロワ』

「うん。利用価値無いなら殺そうよ。七洋もさあ、もう我慢してくれなくていいよお。もう、全部壊しちゃえ!」

ロワの言葉を聞いた七洋は目をギラギラと輝かせ、好戦的になる。今まで制限したであろう枷を全て解き放った神。その猛威は目に見えずとも伝わってくる。

「さて、どうしましょうか」

「煽りすぎじゃ」

「いいじゃないですか。こっちは身内が殺されたんだ。怒りをぶつけてないと、やってられませんよ?」

「時間稼ぎだけなら、この面子だけでもできるだろうな」

クリスがそう言うと、ゲニウスは不思議に思う。

「策があるのですか?」

「お前ら、セアを信じられるか?」

「?」

「俺様の命を賭けるものだとしても…」

「無論だ」

「なら、ここでさよならだな」

クリスの別れの言葉に、三人は彼が何をしようとしたのか、理解した。だが、止めはしない。それしか方法が無いのなら、賭けるしかない。沈黙が物語る。

クリスだけは覚悟を決めた面持ちで、セアを想っていた。

「セア、約束果たすぞ」

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