54話前編 キンブリ・テウニトの痛み
この戦争は紀元前110~100年頃に渡って行われた共和政ローマによるものです。興味があれば調べてみてください。
妾は古代魔法を研究する嶄なる一族に生まれた。自然を尊ぶ弱小の一族であるが、自然を体現する古代魔法の研究が認められ、七大一族ではなく、魔塔の保護下になった。自然を象徴する精霊を尊ぶ精霊族とは似て非なる妾たちを妬む者も少なからずいる。
だからこそ、狙われた。邪魔な存在を根絶やしたいと目論んでいたクヴァレ帝国の元祖に。
妾もいつものように、古代魔法の練習に没頭していた。そんな何気ない日常に、自然の怒りが下された。
激しく燃える炎が、尊んでいた自然を燃やしていき、妾たち一族にも猛威を振るった。灼熱の地獄と化した故郷を捨て、逃げるほかない。
逃げ惑う中で、炎を放った者を見た。その者らは後ろに兵を従え、優美に、燃え盛る故郷の情景を眺めていた。
『無様ですこと。純潔なる紅魔族の血が流れているとは到底思えないわね』
その言葉は妾の心に灼熱の炎を宿した。幼い妾に芽生えた復讐の種。そして目に焼きついた因縁の元祖。
(今でもよく覚えている。まるで貴人の遊びだというように、見下す態度と暴虐な振る舞い。戦場にドレスというどこまでも気ままな元祖。麗しい黒髪を誇らしく靡かせ、鹿のような流麗な角を持つ元祖)
カトレアは目尻を上げつつも、優雅な態度を崩さない。だが、幼き頃に宿った種は、長年燃え続けた復讐の炎を糧に、大樹へと成長し尽くした。
「あなたのこと、調べさせてもらったわ。まさか、嶄なる一族の生き残りだったなんてね」
イレミアがカトレアを指差して話す。
「トリスメギストス跡殿で、あなたが言ったことが気になったの。”クヴァレを滅ぼすため”ですって?」
「…」
「思い出したわ。セア・アぺイロンが死んだ後に行った殲滅計画の一端。無神時代480年頃かしらね。”嶄なる一族の一掃”を実行したのは」
「あなた達に一族を根絶やしにされた時、妾はまだ10歳だった。言い訳だけれど何もできなかった。自分の非力さを嘆いたわ。だから、上ったの。一族の誇りである古代魔法を駆使して、魔法使いの最高峰へ。そして、磨いたの」
カトレアは杖を天に掲げ、自身の体を巡るエーテルを自覚的に活性化させる。
「大樹は大樹と戦うべき存在。512年間、優雅な魔法使いを演じた妾だけれど、それももう意味がないのなら、醜く戦ってやりましょう!
古代魔法・風の那比逝き山吹蝶の標本」
カトレアが魔法を展開すると、辺りには強風が吹き荒れる。それは強風に止まらず、突風へと拡大し、その中を行き交う小さな刃の数々。刃が蝶を形どり、イレミアへと特攻する。その魔法は、トリスメギストス跡殿で二人が対峙した時に、イレミアを本気にしたものである。その時、洞窟という落盤の危険があったため、カトレアは本気ではなかった。だが、今は状況が違う。帝国内の開けた場所。普段なら人通りも活発であるが、既に避難も完了している。そして、悪魔によって倒壊していたりと、破壊の限りが尽くされている。だから、今更の被害など起こっても問題はない。魔法の規模が格段に向上している。
突風に包まれた刃の蝶が躍動し、イレミアの全身を蝕もうと、正面からぶつかる。衝突で生じたけたたましい音が、帝国内に響き渡る。その音を聞いたカトレアは喜びの感情を示すことはない。なぜなら、その音は人体に刃が侵食する生々しい音ではなく、”樹木が薙ぎ倒される音”の方がしっくりくるからだ。破壊の衝撃から起こる煙の中、カトレアは敵を見つめる。視界がぼやけて分かりづらいが、敵であるイレミアの周囲に蠢くなにかが、彼女には見て取れた。なにかが少し右に動いたのを目視したカトレアに、直後、鋭い刺突が衝突する。
(…)
「魔塔のNo.2という称号は過大評価ではなかったようね」
黒く染まる樹がカトレアを標的として襲うが、彼女は反射的に防御を展開して防ぐ。刺突の正体を一瞥して、イレミアを視界に入れる。イレミアの周囲を蠢くなにかは、彼女の元祖としての才”黒樹”であった。
「あなたこそ、元祖の天才という称号は仮初の姿ではなかったようですわね」
イレミアの挑発に、カトレアも挑発で返した。
カトレアの本気ではなかったという前回の状況は、イレミアにも当てはまる。洞窟という小さな戦いの場では、自身の才の大規模な攻撃はできない。それに加え、セア・アぺイロンの結界が張られた過去から、能力の制限がかかっていたため、本来の”才”を発揮できなかった。
「あなた、魔法の天才と言われたりしないかしら?」
「ええ、よく」
イレミアの言葉を即肯定するカトレア。だが、それは過大評価ではない。カトレアはイレミアに故郷と一族を根絶やしにされた後、魔塔へ所属するための試験に合格し、その二ヶ月後、魔法使いの最高峰座天使級魔法使いとなった。これは異例の大出世であるとともに、彼女を天才だと称する功績である。
その功績を知っているイレミアは、カトレアの返答が決して驕りではないと分かっていたが、ここまで堂々とされては、イレミアの心に何かが渦巻く。
「才ある者を潰すのは、あまり望ましくはないけれど、魔法使いは腐るほどいるわ。たった1人、肥やしにしたところで損はないわね」
イレミアがそう言い放つと、彼女の背後から黒樹が伸びて、先と同様に刺突を繰り出してくる。黒樹は前回の戦いとは比にならないほどに、頑丈であり、通常魔法を完全に防いでしまう。危険を察知したカトレアは防御魔法を展開しつつ、浮遊魔法を駆使して、黒樹の攻撃を掻い潜る。回避という逃げだけを行うほど、カトレアは貧弱ではない。彼女は小さく詠唱する。
「古代魔法・氷の牌衣」
迫りくる黒樹の大群に体を向き直し、杖を掲げる。詠唱を終えると、彼女の魔力が黒樹へと伝わり、木々を氷へと変貌させる。巨大な物体であった黒い樹が、青いダイヤモンドを評する氷へと書き換えられ、砕け散る。砕け散った氷は、大小異なるものの辺りに拡散し、氷河を為した。黒樹という攻撃と防御が剥がされたイレミアに、カトレアは杖を向けて、魔法で更に追撃していく。
「古代魔法・水を操る魔法」
氷河を構成する氷が一部融け、液体である水となり、自由な曲線を描き、イレミアに強い打撃を与える。しかし、イレミアは一切の表情を崩すことなく、水の打撃を無効化する。
「そう。これもだめなのね」
カトレアが一連の流れを見て、理解したような口振りで、目を細める。彼女の攻撃の手が止まると、新たなる樹が生成されて、彼女を襲った。今度は、黒樹の数も増えて、回避の難易度が格段に跳ね上がる。だが、カトレアはそんな状況下でも巧みに魔法を展開して、全て躱していく。その光景を眺めるイレミアは、密かに分析していた。
(本気を出せなかったという妄言が事実となった。トリスメギストス跡殿で戦った時よりも規模が拡張している。それよりも明確になっている魔法使いとしての素質。防御魔法と古代魔法。基礎と応用の両極端なもの。今、あの魔法使いが使用している魔法は4種類はあるでしょう。それを一切のぶれなく、巧みに使い分けている。)
イレミアは、逃げ惑うカトレアを見つめる。イレミアの目には、圧倒的物量の”黒樹”を前にしても、どこか嬉々として戯れているように見えた。
(魔法は幻想を具現化する技術。自身の求めた幻想や思いを形にする。だけれど、圧倒的格差と絶望を与えれば、いともたやすく幻想は崩壊する。”今までもそうだった”。あの魔法使いもそうだと思った。でも、違う。カトレアと私とでは、絶対に埋まることのない格差がある。なのに、カトレアの魔法が崩壊する兆しが見えない。)
「元祖に怯まない豪胆さと、それを利用し打ち砕く大胆さ。狡猾を隠匿しない幻想。そして、その全てを実現させる魔法使いとしての先天的かつ天才的な潜在能力。魔塔主の右腕ねえ。なら…」
時を同じくして、イレミアの”黒樹”を回避しながら、カトレアも分析を進めていた。
(樹による物質攻撃の才”黒樹”の物質を書き換えることはできて、妾の魔法とはなったけれど、一度打ち破られれば、それ以上の物質量で叩きのめすというやり方ね。段々と硬度も高くなって、魔法が効きづらくなってきていることを踏まえると長期戦に秀でた”才”でもあるのかしら。それが分かっただけでもいいけれど、本題は。)
カトレアは宙を浮遊魔法で飛び回りながら、イレミアを一瞥する。彼女は寛いだ態度で戦いに応戦しており、直接手を下そうという積極性が窺えない。それにいらつくカトレアだが、怒りを抑える。
(あのイレミアに張られた防御の才”中和”。前回よりも”中和”の効力が高すぎて、妾の魔法が届かない。無効化を相手しているような。師範からの神皇様の結界で弱体化していたという情報は間違いなどではなかった。大気を穢し、内部から崩す策も明かしている。
前回使った魔法も試してみたけれど、無駄だったわ。簡素な魔法が有効と考え、どの魔力にも適合できる水を操る魔法を試しに使ってみたけれど、意味がなかった。となれば、どの魔力にも適合できる魔法では対抗できない。)
カトレアは氷河の一部を媒介として、氷の打撃を”黒樹”に与えるが、一瞬で粉砕される。
「やはり正面からの魔法では突破できないわ。物質そのものを書き換えなければ、イレミアは殺せない。なればこそ…」
二人が、それぞれの分析を終え、対策を一瞬にして練った。空中にいるカトレアと、それを麗しく怪しげな瞳で見つめるイレミアとの声が重なる。
「魔法で抹殺するほかないわね!」
「魔法を打ち砕いてあげるわ!」
イレミアが”才”の効力をさらに解放する。すると、氷河の下からも木々が一瞬にして生える。木々は枝を伸ばし、開放的だった空に、蜘蛛の巣を作り、カトレアの行動を制限する。それだけではない。木々が黒く染まり始めたかと思うと、それらは集中的にカトレアへと攻撃を始めた。
無限に湧き出る”黒樹”は、鋭い筋で、カトレアを突く。その速度はカトレアの防御魔法が反応しないくらいに圧巻で、間に合ったとしても、防御魔法を貫通して、カトレアの腕や足、さらには顔面に刺突を繰り返す。額から血が流れ、彼女の視界を奪う。
「ちっ…」
邪魔に思ったのか、舌打ちをして、髪をかき上げ、カトレアは乱れた魔力を整える。背後から忍び寄る黒樹に、隠すことのない怒りをぶつけた魔法で一掃する。そのカトレアの稚拙な行いに、イレミアは口角を上げ、無言で嘲笑う。
カトレアは浮遊魔法で低空を浮遊する。杖を握る彼女の手は震えている。
「チャンスは一度きり。そして、これを使うのも初めて。さあ、ご覧あそばせ」
太陽の真っ赤な瞳を煌かせて、一気に魔力を練り上げ、放出する。閉鎖された空間で、カトレアの高密度の魔力を受けるイレミアは警戒する。そんなイレミアを差し置いて、カトレアは詠唱を唱える。
「紡ぎて軋轢の根幹に、破壊の架け橋となりて、乖離を喚ぶであろう。
古代魔法・禧糸の縲璵」
魔法陣が展開され、そこから白く輝く糸が出現する。一本一本は細いが、それが束となると、魔力として認知することができた。微量であるのに、莫大な魔力を感じる糸の束が、イレミアの造り出した木々に触れていく。黒の木々とは対照的な白の糸。異物として受け入れざるものだが、糸に宿る輝きが純粋に光り始めた。その輝きは、イレミアが目を覆うほどに眩しい。警戒心が強まる彼女は、この魔法の根幹となる幻想を思考する。
(私の”黒樹”を上回っている? 威力を上げても、反撃の見込みがない。まさかこれは飽和攻撃を軸とした飽和魔法!)
その魔法の意図が分かったイレミアは動揺する。飽和攻撃は、相手の攻撃を上回る量の攻撃を仕掛けるもの。そのため、消耗が激しく、なにより放出する攻撃量を見誤りやすい。ゆえに、暴走が起きやすく、取り扱いの難しい業なのだ。
(それを魔法に転じただけでなく、完璧に扱っている)
「これは反撃しない方が得策でしょう」
そう言って、イレミアは才の発動を諦めた。すると、貫禄による威圧を放っていた黒い木々は光にのまれて、跡形もなく消滅した。
「次はどうするつもりなのかしら?」
高揚する心に期待を躍らせ、あたりに響き渡る甲高い声で、そう言った。無防備なイレミアだが、その身には絶えず張られている”中和”。
彼女を見た者は、その絶対防御に圧倒されて戦うことを止める。そして強者は力という者を理解しているため、絶対防御を破ることは無理だと結論づけ、敗れる。
そんな絶対的強者であるイレミアに、彼女よりも圧倒的に弱い天才が立ち向かう。天才を探るが、魔力を完全に消し去った天才は一向に見つからない。だが、限りなく近い。
「そこね」
長年の勘でイレミアは天才を見つけた。それは帝国の一つの建物の中にひっそりとある気配。一見すると、悪魔の残骸かもしれないが、それだと結論するには、明らかに魔力に研鑽が積まれており、高純度であると感じた。イレミアは確信めいて、”中和”を付与させた”黒樹”の刺突を放った。衝撃音を上げて、建物ごと破壊する。イレミアは黒樹を巧みに操作して、気配の元を辿る。一本の枝が気配の元を見つけ出して、瓦礫の中から死骸を掘り起こして、イレミアへと見せた。
「えっ…」
だが、その死骸を見たイレミアは目を点にして、間抜けな声を出す。その死骸とは、一体の悪魔だった。一瞬疑ったが、イレミアが見つけた気配は、それで間違いなかった。驚愕して静止したイレミアに、魔の手が這い寄る。かちゃっという物が動く音。そして、物音で瞬時に練られる魔力と魔法。振り返る余力が生まれないイレミアは、顔だけを向ける。そこには探していた天才が妖艶な笑みを浮かべていた。太陽の真っ赤な瞳を煌かせる天才が、またも詠唱をとなる。
「紡げ。大地の地たる草木よ。殊に集い、我の芽に、緑青を授けよ。
古代魔法・禧糸の縲璵最大火力!」
魔法陣が展開されずに、烈火のごとく燃える飽和攻撃魔法が一直線に、イレミアに衝突する。イレミアの近くにある建物や、倒壊によって生じた瓦礫、石屑も飽和攻撃魔法の餌食となり、跡形もなく燃え、消滅する。その域にとどまらず、天才であるカトレアの魔力は噴火して、帝国全土の空へと、飽和攻撃の炎が立ち昇る。そうなっても、カトレアは魔法の火力を下げることはしない。
(イレミアが焼け死ぬ感覚がないわね。最大火力だというのに)
不審に思うカトレアは、より魔法の火力を強めた。だが、彼女の行動は意味がなかった。なぜなら、真っ赤に燃え盛る炎の中で、1人の人間が立っているからだ。その人間は、薄ら笑いを張り付けている。
「!」
その人間を見た直後、一方的に攻撃へと回っていたカトレアの頬を一閃の刺突が掠めた。一閃の刺突は鞭打つように、軌道を変えて、再度彼女を襲う。防御魔法を展開して、事なきを得るが、防御魔法に集中を向けた分、飽和攻撃魔法の火力が下がった。その隙を元祖は見逃さない。
「前回の火炙りよりかは極上の品だったわ」
カトレアの頭上から、そんな言葉が降り注ぐ。見上げると、大樹となった”黒樹”を携えたイレミアが、見下ろしていた。
「初めての試みでしたけれど、お気に召したようで何よりですわ」
「ええ、だからお礼をしようと思って」
二人は一言挑発すると、イレミアは巨大な樹を、カトレアは杖を互いに向ける。息を整えて、同時に攻撃を仕掛けた。近距離から衝突し合う飽和攻撃魔法と樹木。その威力は凄まじく、衝撃破と突風を引き起こし、不協和音を奏でる。だが、両者とも退く気はない。
「っ…」
「この程度ね?」
イレミアが挑発混じりに、カトレアの限界を図った。彼女の挑発は決してそれに終わらず、事実を語っていた。飽和攻撃魔法という強者でも苦戦する業を扱うも、その経験は限りなく、ゼロに近いカトレアは苦戦を強いられていた。対して、イレミアは産まれた時より身に染みていた才を遺憾なく発揮している。それがカトレアを苦しめている要因でもある。彼女の額に流れる血に汗が混じる。杖を握る手の力が少しずつ失われていく。全身に流れるエレメンタルという魔力が通常の何倍もの速度で駆け巡っているため、全身が燃えるように熱い。それは体からの警告なのかもしれないが、カトレアは魔法の展開は止めない。
「もう、止めた方がいいわ。あなたの体は飽和攻撃魔法で限界を迎えているはず。これ以上続けても、私の”中和”には影響を与えない。」
イレミアの善意を受けたカトレアは、一瞬怯んだが、すぐに妖艶な笑みを張り付ける。その笑みには、戦いの意思が宿っており、まだ何かをしようという企みも含まれていた。
「この手合わせで確信しましたわ。妾は元祖には勝てない。でも、それは妾1人での話。そして妾は元祖を倒すために手段を選ばない」
そう返答するカトレアの言葉と共に、飽和攻撃魔法の火力が上昇し始めた。それを受けて最後のあがきだとイレミアは思った。
「元祖との戦いがこんなにも早く終わっていいはずがないわ。だから、まだ付き合ってもらうわ!!」
「―!?」
飽和攻撃魔法の火力が最高潮に達すると、魔法としての形を維持できなくなったそれは爆発するように、閃光を放って消滅した。その眩い光に、イレミアの視界は奪われた。
「…逃げられた。いえ、まだいるはず。」
その刹那の隙に魔力を隠して、カトレアが逃げる。その行方が分からず、もう一度探す羽目になったイレミアは怒りがこみ上げる。それは油断。一人の人間に、イレミアの集中が注がれる。その隙は彼女を蝕もうと画策する新たなる脅威には絶好の機会である。頭上から、魔法が展開される。
「なに? カトレアとは違う魔力?」
魔法にはそれほど詳しくないイレミアでも、その魔力の違いが分かるほどに、顕著である。イレミアは空を見上げる。そこには上背のある巨漢とは言い難い男がいた。だが、その男に、イレミアは見覚えがあった。
腰に届く銀髪と、哀愁を漂わせる蒼き鋭い瞳。雪のような白い肌が、全身を覆う服から見え隠れする。その男の周りで、揺れる放電。その色は紫色で、この場にはない色。だからこそ、目を引く。イレミアの見覚えのある男というのも、雷をよく使っている。
「マナ魔法禁忌奇術仙人下す不変の雷霆」
その男が魔法を展開すると、空に浮かぶ灰色の雲に紫の筋が走る。次の瞬間、紫の筋が辺りに一筋の柱と轟音を立てて、雷光雷霆として落ちる。けたたましい轟音は雷霆の素早さを表しており、轟音の静まった空間は見るも無残な光景となっている。雷霆で辺りは丸焦げになるが、その中心だけは色を失っていない。その中心とは、この雷霆で屠っているはずのイレミアだった。
「…」
彼女は言葉を発さぬまま、魔法で雷霆を造り出した男を見上げた。男は憂鬱そうな顔をして、浮遊魔法を解除する。そして自身で焼け野原にした帝国の地に降り立った。
「近くで見れば見るほど、そっくりね。」
男をまじまじと見たイレミアがそう言うのも、その男はイレミアの数少ない兄の1人である”魔”の元祖キルケと瓜二つだったからだ。しかし、なぜ瓜二つであるのかをイレミアは知っている。手を胸に当てて、軽く一礼をする。
「お久しぶりですわ。”魔”の元祖になれなかった御兄様?」
イレミアの言葉には隠すことのない悪意が包まれている。
「キミは変わりないみたいです。”穏”の元祖イレミア殿」
彼女の挑発を、礼節を弁えた挨拶で男はあしらう。その態度にイレミアは落胆の反応を示す。
「まあ、随分謙虚なのね。あなたの双子の弟キルケとは大違い。だからこそ嫌になる。キルケと違って張り合いがないもの。」
「そうですか。ですが、私めは、弟に一度殺された身。キルケの双子の兄としては生きていないのです」
「では、どういった名で生きているの?」
イレミアの問いに、気弱だった男は毅然とした態度で、自身を語る。
「座天使級魔法使い月桂樹と申します。桂と、私めを知る者には呼ばれております。」
「そう。桂ねえ。魔塔主の慈悲での名前なのかしら。魔塔主は知っているのかしら?」
イレミアの言葉に、桂はわざとらしく首をかしげる。その行動を見て、やはり油断ならないと彼女は確信した。そして、イレミアは桂の正体を言う。
「隠す必要なんてないわ。今から殺すのだから。ねぇ、人類で初めて魔法を使った人間”始まりの賢者”殿?」
人類を大まかな人種に分ければ、紅魔族・明帝族で、その二つの種族の子孫が紅帝族です。七代一族は紅帝族に該当しますが、ほとんどの種族がそうでしょうね。まあ、個々人では紅魔族だったりと様々です。
3つの人種をさらに枝分かれし、集まったのが海族や原初一族などの七代一族。有翼族と天使族、嶄なる一族、蛇族ですね。まだまだ他にもあるのですが、まあ、そこは機会があれば。




