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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
8章 英傑の海
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50話 テルモピュライの痛み

これはご存じの方も多いはず!

ギリシア戦争の内のひとつの戦闘でもあるテルモピュライの戦いは、アケメネス朝の遠征軍とスパルタを中心としたギリシア軍との戦いです。

スパルタ軍の指揮官は、レオニダス1世!

この戦いはスパルタ軍の勇猛さを示す戦いと、今も語り継がれています。

己の親友を殺すきっかけとなった神。仇となる神。琥珀に近い金色の鋭い瞳。鬱憤が溜まっているかのような苛立ちの神。木聯は高ぶる衝動を我慢して、ベルゼブブ神を視界に入れる。

あの時と同じやなぁ。なにするんも気だるげで、仏頂面の神。腹立つわ。

『木聯』

しかめっ面でベルゼブブ神を睨みつける木聯が冷静さを失おうとしていた時に、彼の名前を呼ぶ声がする。その声は優しく、寄り添ってくれているようだ。そして無茶しないでと心配そうに語り掛けている。

「安心せい、アロエ。お前の仇はうちが打っちゃる」

声の主であるアロエに語り掛け、木聯は武器魔法で形成した両剣を地面と平行に投げる。弧を描くように投擲された両剣をベルゼブブは体を仰け反らせて回避すると、その一瞬の意図的に引き起こした木聯が蛇紋石(じゃもんせき)の万針で、追撃を図る。その追撃をベルゼブブは布を介して、片腕で薙ぐ。

「!」

しかし、全ての針を薙いだと思っていたベルゼブブ神の腕には、無造作に針が刺さっていた。顔色は変えないベルゼブブではあるが、興味深そうな気持ちが芽生え、その影響か、通常ならば敵の行動の分析などをしない彼が珍しく、木聯の行動を思い返す。木聯が間合いに入る前に、腕に刺さった針を全て抜き取り、彼に投げつける。

すると、針は木聯に当たる前に消えた。ベルゼブブ神の行動を鼻で笑う木聯は、宙を平行に飛んでいた両剣を手で受け止めて、一気に攻め立てる。回転を主軸として行われる攻撃により、次の一手が分かりにくくなっているため、ベルゼブブ神の対応も遅れている。

(両剣を回避することを想定して、針を投げた。だが、それも(ダミー)。一度目の投擲を防ぐことを予想し、俺の攻撃の間合いより僅かに外れた二度目(本命)の針を、一度目(ダミー)で隠した。ブラフにブラフを重ねた博打。そして…)

ベルゼブブは木聯の研ぎ澄まされた感覚から紡がれる斬撃と技術に翻弄される。無駄な動きがなく、合理的な戦法とはまた違う戦法。

(そこはかとなくフォーセリアの戦法が混じっている。恐らくは一度見た武器の扱い方を習得したのか。前の時よりもキレがある。だが…)

じっくりと観察、分析をしたベルゼブブは両剣を片手で受け止め、木聯が振り切れないほどの力で封じる。

「所詮は付け焼刃。貴様は守護者(ガルディ)とも成りえぬ凡人」

木聯は両剣から手を離し、ベルゼブブから距離を取る。その判断は正しく、ベルゼブブは翅を出現させて、広範囲に、二重三重と重なる翅の攻撃を仕掛けた。その攻撃を紙一重で躱す木聯からは、この短期間で圧倒的に成長していることが窺える。しかし、この翅の脅威はこれで終わるはずがない。翅の脈からダガーが出現して、一薙ぎするごとに、そのダガーが斬撃の列をなして木聯に襲い掛かる。

そのダガーの数は、前回戦った時とは比べ物にならないほどに膨れ上がっており、明らかに避けることが不可能であることが誰でも分かる。それは現実主義者の木聯が一番理解しており、避けることができないことは百も承知。だからこそ、木聯はこの事実を受け止めるために、この短期間で修練を重ねたと言っても過言ではない。木聯は迫りくるベルゼブブ神の脅しめいたダガーの弾幕から、目を逸らさない。

「精霊術解放…シルフよ、意のままに」

木聯が唱えると、彼を中心として竜巻が発生する。竜巻の中では鎌鼬がダガーを蹂躙するほどの風が切り裂く。その魔法に、ベルゼブブ神は目を見開く。なぜなら、その魔法は、ウェルテクスとカトレアの不在時に襲撃をした際に、抵抗してきた魔法使いが使用していたものであるからだ。

「!?」

「ありえん、なんて顔しとるで。まあ、普通は不可能やわ。魔力は先天的。やから、後天的に異なる魔力を宿すことは不可能」

「貴様はマナ魔法ではなかったのか?」

ベルゼブブ神の問いに木聯は満足気に話す。

「合ってるで。せやけども、うちは精霊王様と契約して、エレメンタルっちゅう魔力を授かったんや。

つまり、武器魔法ディアンケヒト。そして精霊術をうちは使えるんや!」

その言葉通りに、木聯は氷の精霊であるフェンリルを召喚する。雄々しい狼姿のフェンリルが咆哮を上げると、大気を通して不可解な音が伝わるとともに、辺り一面が氷雪地帯と化す。木聯とフェンリルは二手に分かれ、ベルゼブブの左右から攻撃を仕掛ける。

十徳武器魔法灰廉石(かいれんせき)のナタ

走りながら、魔法を展開して、大きく振りかぶり、ベルゼブブの頭上から力任せの打撃を食らわせる。木聯に気を取られた一瞬にも満たぬ、隙を突いて、フェンリルが神の腹に引っ搔く。その爪は鋭利である上に、引っ掻かれた箇所は霜が降りている。

「精霊術ベヒモス、美醜を体現させるその御身に災いを映せ」

木聯がまたも精霊召喚の詠唱を行うと、屈強な肉体を持つ巨人が出現する。その巨人がベヒモスであると認識するには不可解で、地の精霊とはかけ離れている。だがしかし、ベヒモスが息を吐くごとに、地面が棘のように突き刺さるように変化していることから、ベルゼブブ神は精霊であると認識した。

ベヒモスの間接的な地面の攻撃は明確にベルゼブブだけを狙い、フェンリルの獰猛な爪と霜が降りる二段階に及ぶ攻撃。そして、二体の精霊の攻撃に生じる僅かな時間を縫うように繰り出される木聯の洗練された武器の攻撃。

なりふり構わずの攻撃手段と、手札が増えたことによる攪乱と錯乱の数々。そして上位に匹敵する精霊2体の同時召喚。二つの魔力を使い分ける木聯。

精霊の顕現には魔力だけでなく思考力を費やすため、精霊使いは基本的に後方で維持することが定石であるが、木聯は地上宇宙(バース)に数多ある武器の特性を理解し、思考することに慣れている自身の手腕を重々理解し、利用している。何よりも木聯が直に肌で感じることにより、精霊への魔力の分配を事細かに変化させることができるのだ。よって、ベルゼブブ神が繰り出す翅とダガーの強力な攻撃も、たった一人で対応できる。その功績は称賛に値し、それを行う肝っ玉にもベルゼブブは関心を向けた。

「あんさん、さっき言うたな。付け焼刃って…」

怒涛の猛攻の中、木聯が話す。それはベルゼブブに対しての挑発であるとともに、己を鼓舞する言葉でもあった。

「うちが今まで、どんだけ近くで精霊術見てきたと、触れてきたと、思ってん?

どれだけの魔法使い、そして一般人からの精霊への思いを見てきたと思ってんねん。生まれた時からや!

年端もいかん頃から精霊の祈りを聞かされた。そして祈らされた。

うちには理解できへんような大層な術式と魔力捧げられて喜ぶ精霊を見てきた。それを知っても尚、祈り続ける阿呆らを見てきた」

木聯の頭に、アロエとタチアオイを始めとした多くの人々が映し出される。それは自身に影響を与えた者に違いない。

木聯は昔のことを思い出す。その過去は密接に精霊と繋がっていた彼にとって、不愉快なもの。だが、その過去のおかげで、今の現実主義者の人格が形成されたのだ。

だが、忘れていた。いや、忘れたかった記憶が再び蘇る。

その記憶を誤魔化すように、木聯は強い意志を込めた言葉を放つ。

「やけども、そんな阿呆の祈りをうちはよぉ知っとる。だからこそ、思考できる。だからこそ、無下にできん。

付け焼刃言うたこと、後悔させちゃる!」


―うちは出来損ないやった


うちは精霊を崇拝する一族、精霊族に生まれた。七大一族の一翼である精霊族は、精霊王を一族の神と位置付けている。

精霊王を王として、それに仕える精霊。その精霊を信仰して仕える、精霊以外の精霊族の者たち。

うちは座天使(ソロネ)級魔法使いになる前は、ずっと精霊族の里で暮らしとった。

自然に恵まれ、自然から得られる食物と、自然の景観を損なわないように建てられた質素な住居。精霊族の象徴は、大樹をくりぬき、その中に空間を作り、精霊王と精霊のために造られた祭壇。祈りの場であり、頻繁に人が出入りしては絶えず、精霊族の里に響き渡り、小さい鈴の音が木霊している。

一族のもんはそれが”精霊様の言葉だ”、なんて美化しとるが、うちはその音がいつも耳について煩わしかった。朝起きて、お天道様を眺めるときも、日中学びに勤しんだり、田畑を耕している時も、眠りにつく時も、絶えず木霊する鈴の音に、限界がとうに超えていた。

「はあ゛~~~!!」

いつものように木霊する鈴の音を不快に思いながら、湖畔で(たむろ)する。鮮緑の風景が嘘かのような不気味な湖畔。禍々しい景観が木聯に安らぎを齎す。そんな彼に近づく者が一人。がさがさと音を立てて、彼に向かって歩いてくる。

「木聯、またサボり?」

声変りを迎えていない高い声で話しかけてきたのは木聯の親友であるアロエ。木聯と同じように、幼く、未熟さを感じる見た目。

「話合わんねや。お前も愚痴か」

「そんなんじゃないよ。タチアオイのデビューが決まった」

「ふーん」

「妹でしょ〜。稀代の聖女が生まれたんだよ。嬉しくないの?」

自身の妹であるタチアオイの快挙に、当の兄は興味を示さない。そんな彼をありえないという目で見るアロエは、彼を責め立てる。木聯は悲しそうな顔で言い返す。

「あいつが立派でおると、うちは出来損ないなんや。精霊に通じた魔法を使えんうちは一族の汚点や」

木聯の言葉に、アロエは濁った湖畔の水を視界に入れて、彼を励ます。

「でも、やっと木聯も自由に魔法使えるね」

(てい)のいい厄介払いやけど、まあ、その通りやな。うちもこんな一族にうんざりやったし、願ったり叶ったりやぁ」

「ここももう帰ってこないのかな」

「まあ、うちは戻ってこんつもりや」

里に未練を残すアロエとは違い、木聯は未練を感じず、それどころか嬉しそうに話す。


―精霊が絶対主義の一族で、うちは精霊を召喚する魔法も、聖術も、自然の魔法も使えんかった

 あるんは武器を生成する独自の魔法だけ

 やから、余計気味悪がられとった


翌日、タチアオイの警護として、うちとアロエ、それと他の一族のベテランの魔法使いが精霊族の里を発った。母と父の顔は今にも泣きだしそうで、それが娘の旅立ちの嬉しさなのか、出来損ないの息子を追い出せたという喜びなのか。どちらにしろ、うちにとって良いことではなかったことは今でも頭の片隅に残っている。

(視線痛いわぁ)

道中、里の魔法使いらに嫌な顔をされつつも、うちらは目的の場所についた。魔法の海の中でも、最先端の魔法が存在しているエルロイ星の中でも、最先端を駆けるヴェスタ帝国。石畳の街と、石造りの家々。どこを見渡しても、魔法道具が活用されていて、目を見張るものばかり。素人のうちでもわかる。街に溢れる熟練の魔力と主。

一行は、栄えた魔法街を通り抜け、その奥にある重厚な造りをした建物へと歩む。遠目からでも鉄壁の白さを誇るその建物は、植物に囲まれ、清らかな小川が流れ、エレメンタルと聖力が充満していることが分かる。

(なんや、ここのやつらも変わらんなぁ)

うちの想像通り、その建物は教会やった。信仰対象は言わずもがな”精霊王”。里にある祭壇よりも豪華で、人の出入りも多く、どれだけの者に信仰されているかが手に取るようにわかる。うんざりした。

建物の中はより豪華で、これが信仰の恩恵かと思うと、どうにも納得がいかない。

聖女を出迎えに来た神官のやつらの薄っぺらい御託を適当に相槌を打つ。すると、アロエにも神官は声をかけていた。内容を聞いてみると精霊術のことだった。そこで痛感した。

(親友(アロエ)でさえも出来損ない言うんやろか)

やるせなさと己の未熟さが招いた悲劇が今目の前で起こっている。魔塔への勧誘なのか、アロエは目を輝かせて話をしていた。居心地が悪く、少し離れたところで、早う居なくなりたいと絶望と孤独を味わっていた自分に一人の男が近づいてきた。

「話せますか」

「うちですか?」

聖女候補のタチアオイでもなく、アロエでもなく、ただの凡人に話しかけてきた事実に動揺が隠せないが、女性は一度だけ首を縦に振り、肯定する。他の人は話に夢中で気が付いていない。

「(どうせ暇やしな…) うちになにか?」

「なぜ、この一行に同伴を? 失礼ながら精霊に通ずる魔法を持っていないと判断しましたが…」

物腰柔らかな態度で接するが、言葉の内容には棘がある。

「精霊の魔法が使えんからです」

「なるほど、厄介払いというわけですか」

明るい声で木聯の心を抉る男に、木聯は怒りを通り越して呆れる。せめてもで睨むと、男は申し訳なさそうにする。

「すみません。悪意はないのです」

「悪意以外のなんやねん…」

木聯が尋ねると、男は教会内の中央にて話をしている神官とタチアオイ、アロエに目を向けて静かに言い放つ。

「縋っているのです。みな、人生の不満不安・悲しみ・謀略の()け口に精霊を利用しているだけです」

「…」

「精霊を金儲けのために使う者もいます。それとは反対に人生全ての恩恵が精霊から授かっているという考えの者もいます。誰もが精霊に縋り、生き抜こうとしている。あなたはどうですか?」

「…うちは精霊嫌いですぅ。精霊のせいで出来損ない扱いですし」

木聯の回答に男は少しだけ声を上げて笑う。驚く木聯を横目に、男は話す。

「そういった考えの君は一番精霊を知ろうとしています。なぜ、人が精霊を信じるのか。精霊とは何であるのか。その祈りの本性とは…

それをよく見ている。君が精霊使いになれば、どんなに強いのか」

「あんたは一体…」

木聯が男に尋ねた。その正体を。男は朗らかな笑みで、態度を変えず、言った。

座天使(ソロネ)級魔法使いセダム。精霊使いです」

男は、セダムはアロエを睨みながら続ける。

「私の後釜はアロエという男ですか。私よりもずっと強い精霊使いになりそうだ。そして君はもっと、ずっと、誰よりも精霊に強くなる」

セダムは精霊の魔法を使えぬ木聯に、精霊使いの才能があると流れるように教えた。そのことに木聯は訝し気な目つきで、その真意を求めた。

ウェルテクス(師匠)様が精霊王(フォーセリア)なんぞにくれてやるには惜しい、と言いまして。私はどちらでもいいのですが。

でも待っています。君が魔法使いの最高峰になること」

セダムの何処か寂しさを漂わせる表情に自分はどう思ったのか、それは今でもあまり分かっていない。ただ一つ確かなことは、セダムと出会わなければ、うちは魔法使いという選択をしていなかったこと。


木聯は自身の過去を思い出し、感慨にふける。しかし、戦いを放棄したわけではない。放棄するわけがない。

過去から始まった精霊との因縁。忌まわしい記憶。人生の地位を落とし、出来損ないと言われ続ける要因となった精霊を完璧に扱うための必要な過程。忘れたかった記憶に流れる鈴の音。それが木聯の耳に強く流れる。


―うちは出来損ない

 精霊が信仰され続ける限り、それは変わることのない、終わることのない格差

 やから、精霊を見続けた

 阿呆の祈りをずっと聞き続けた

 誰よりも精霊の本質を見続けた

 格上の魔法使いが教えてくれた

 強くなるという未来を待ち望んで…

 憎み続けた精霊をいつか魔法として使う日を怯えに覚悟を決めて


ベヒモスとフェンリルの猛攻に慣れてきたベルゼブブが、二体の精霊の攻撃をいなし始めた。恐らく、この手は使えないと木聯は察した。だが、それも想定内。木聯は冷や汗をかくが、焦りは見せない。

「魔法の応用の定石は”付与”。攻撃として魔法を放つだけじゃない。魔法を武器・体に付与して、さらなる魔法の高みを生み出すのが定石。やけど、歴代の精霊使いはその定石をいっぺんたりともやったことがない」

「?」

木聯の言葉にベルゼブブは疑問を覚えるが、変わらず攻撃をいなす。様子見といったところか、ただ単に舐めているだけなのか。

「人々にとって精霊は象徴。血を纏わせ戦わせるもんちゃう。一種の固定概念。やけど、うちは精霊を崇めるなんてこと、いっこもしたことはない。

そんなこと、これからも永劫やることはない」

木聯が言い終わると、フェンリルとベヒモスの召喚が解除された。その行動にベルゼブブは喜ぶ以前に驚いて、木聯に目を向ける。彼は不敵に笑っていた。数で互角の場を作っていたというのに、その場を自らの手で壊した。

「おかしいって顔しとるで。精霊を頼るよりも頼りになる奴が来たんや」

木聯が頭上を指さすと、今まで曇天だった空模様に変化がみられる。雲と雲の僅かな隙間に太陽の光が差し込み、それは以前戦った際にも見た光景と同じ。光芒が空間に舞う魔力を粒子のように反射する。ベルゼブブを逃すまいと、天空と地面に出現する無垢な白の魔法陣。ベルゼブブでも認識することができるほどの威圧的で、高圧な聖力がその魔法陣に集まる。辺りを見回すと、見覚えのある一人の影。

「聖女か!」

その者の名を口に出すも遅く、聖女と言われたタチアオイは無の表情で、光が差す天に向かって、手を広げる。

聖母よ(ヴィエルジュ)悪を浄化してください(・サン・テスプリ)

タチアオイがそう言うと、天空から燦爛たる光が注がれる。それは紙からの天罰を揶揄しているような魔法で、人々を癒すという聖術にはあってはならない害する魔法。圧倒的攻撃力を誇る光柱に対し、ベルゼブブは全身を翅で覆って緩和する。その影響のせいで、翅は灰のように散布する。あの時と同様に土煙が起こり、視界が悪い。悪態をつくベルゼブブに、土煙の中から木聯が突撃する。

「!」

彼の登場に驚くとともに、その手に握られている武器にベルゼブブは着目する。今まで見てきた武器とは異なる異質な魔力。灰廉石で覆われていた取っ手に、ごつごつと不揃いの岩の造形がある。かと思えば、刃は氷が素材となっているような鮮碧を放つ優美なもの。ベルゼブブは、彼の言葉と照らし合わせ、その武器に精霊が付与されていることに気が付いた。

だが、異質な魔力の主たる木聯は、それが普通のことであるかのように、真顔で振る舞う。両手で武器を握り、精霊の力に対応している。

(なんとも健気だ…)

拳が出る前に、ベルゼブブはその言葉が心の中で漏れてしまった。

「精霊術改変…十徳武器魔法元素…灰廉石のナタ!!」

木聯はナタで、ベルゼブブの肉体を切り刻む。一振り一閃に精霊の魔力が混じり合い、複雑な斬撃を生む。土の精霊ベヒモスが付与されたことで、斬撃の威力が上がり、付与された氷の精霊フェンリルがナタの内部から魔力を放出する。その魔力が氷の粒子と変わり、一振りと一体化し、氷と一閃の芸術を生む。美しく見惚れるそれだが、一切の躊躇いなく振るわれる無情な一振り。

「!」

ナタを振るう木聯の手首をベルゼブブは掴み、そのまま力を入れ、いとも容易く骨を砕く。武器を使う者にとってそれは実質的な敗北であることを意味していた。だからこそ、ベルゼブブもその意味を理解し、行ったのだ。

「終わりには早いな」

ベルゼブブの言葉に木聯は、その言葉とは裏腹な行動を起こす。骨を折られた腕でナタを握り、ベルゼブブの手首を斬った。

「は…」

奇想天外な行動にベルゼブブは理解が遅れる。そんな神に木聯は怒号を浴びせ、追い打ちをかける。

「まだ終わっとらんわ! 紡がれてきた思いを終わらせるんは、うちが神を殺す時や!!」

木聯はナタを大きく振りかざし、ベルゼブブに大きな傷を負わせる。そして、木聯は拳を作り、ベルゼブブに渾身の一撃をお見舞いする。至近距離から直撃したベルゼブブは吹き飛ばされ、その光景に木聯は小さく歓声を上げ、ベルゼブブに言葉をかけた。

「どうや? 意趣返しの御味は…」


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