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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
8章 英傑の海
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45話 メギドの痛み

メギドという言葉は認知度の高いでしょう。メギドの戦いは紀元前1500年頃に起こったとされる人類最古の戦いとも言われています。

トトメス3世率いるエジプト軍がカナン人の反乱軍に勝利したと言う。また、メギドの山を意味するヘブライ語で"アルマゲドン"という言葉が誕生したそうです。

アスタロト神との戦いを終えて、蝶の住まう城で治療を受けて、被害の報告と対策をまとめていく。蝶は予言の神託書をとり、今までのオベロンの預言を読み返す。

「母上」

「ん」

桜雲が部屋に入ってきたことに、軽く返事をして、机にある報告書を手に取る。

「今は朕だけじゃからのう」

「そうか。なら言葉も考えなくていいか」

母である蝶からの言葉に甘えて、楽な姿勢を取り、言葉も崩す。

「謝氾は仕事が終わったから帰るとよ。杠も一応は竜族次期棟梁だから、顔だけは出しに行くって」

「…その方がいいやもしれん」

「母上、オレらアウル帝国を支えている双翼は3つの組織で創られてんだぜ?

八咫烏はともかく、ボスであるヴァイスが死んでから友愛社の戦績は著しい。それに、薔薇騎士団団長のクリスが竜族の(せい)棟梁に半ば強引になったせいで、団長の任命すらできてない」

「そうじゃなぁ。団長は杠に任せようかと思ったが、忙しそうじゃのう。いっそのこと、組織を解体して、一つの組織に再編成するのもよいかもしれん」

蝶の弱音混じりの声に、桜雲は心配そうな視線を送る。

「太古より生きる猛者が動き出した今の世は疾風怒濤の世代と言ってもよい。じゃから、いつまでも同じ態勢でいてはならん。朕たちも変わらなければ…」

「そうだな」

弱音は決意に、決意は使命に変わった蝶を見て、桜雲も頷く。

「で、なんで預言の神託書読み漁ってんの?」

「…伝え忘れていたことがあってな。エドガーから聞いた話じゃと預言の神託書は全部で8章にまとめられておる」

「オレらがアスタロト神と戦うことも示唆されてんの踏まえると、今は第7章が終わったところだっけ?」

「うむ。しかし、やつはこうも言っていた。

”第8章を書こうとすると文字が消えて書けない。口頭で伝えようとすると、声が出ない”とな」

「それじゃ、これから起きることわかんないの?」

「最悪なことにな…じゃが、もしそれが偶然でないとすると、人類に終わりが近いのかもしれぬ」



星の海に位置するアトランティス帝国にあった結界が破壊される音が鳴り響く。それに続いて、新たな結界が張られることに、海族と冒険者は驚きを隠せず、海族族長であるオーシャンに助けを求める。そして、彼自身もこの騒動に違和感を覚えた。

「バイラールがゼーユングファーを捕らえた?」

部下の報告に、オーシャンは顔を顰める。共にいた側近のシーへも、彼を見る。

「オーシャン様、海族初代族長の結界が解除されたのは…」

「…」

シーへの考えはオーシャンにも納得のものだった。しかし、報告からすると、バイラールは不可抗力での緊急任務だったのだろう。

「それで? 和の海は?」

「はい。近衛家と二条家の当主らには跡継ぎがいません。なので、2つの家門の消滅により、純潔の明帝族がまた…」

言葉を濁すシーへにオーシャンは全てを察した。

「やっぱりクヴァレの元祖は強いな。悉く、潰されていく」

オーシャンは窓から見える結界を凝視する。セアの結界の内側に張られたその結界はおどろおどろしい見た目をしている。その光景を見ていると、過去にフォーセリアからの忠告を思い出した。

いつだったか、ボクが守護者(ガルディ)になりたての頃、守護者だけの知る極秘のことを教えられた。

『…なに、これ?』

フォーセリアから渡された物は、分厚い紙の束。中身を見ると、元祖についてや七洋についてが紙一面に、しかも小さな文字で綴られていた。読む前に意欲が失われる文面に嫌な顔をしていると、フォーセリアが見兼ねて話す。

『それは或る馬鹿が記録したものだ』

『ばか…』

『ノーヴァと一緒に地上宇宙(バース)へ下りて、人類繁栄に努めた明帝族のリーダーの息子だ。好奇心旺盛で困る』

フォーセリアの不承顔を横目に、紙を捲り、全ての内容をその場で暗記する。

『”封”の元祖キフェ・フェイラ。なあ、こいつ…』

『元祖の次男坊、才は”隔絶”。対象と対象を隔てる虚無を創り出す能力。その虚無の破壊は不可能』

オーシャンはその言葉を思い出して、ため息をつく。しかし、その後の言葉も覚えている。

『破壊不可能な虚無で”隔絶”すると、術者であるキフェですら解除はできない。だから、あいつは結界術を開発した。あいつがいなかったら今の結界術は存在していない。その中で、キフェが最も得意とする術が外部からの介入を遮断する結界だ』

フォーセリアの言葉で窓に向き直る。援軍要請をして、半刻ほど経ったのに、援軍が到着していない。海の中にある帝国とはいえ、到着にはさほど時間を要しない。冒険者どもや一族の者を逃がそうと、外から戦艦を集めているが、キフェの結界に”隔絶”されて意味がない。

「急いで、他の宇宙国家に応援を!」

座天使(ソロネ)級魔法使いの派遣要請もいたしましょう!」

部下たちが急いで対策を行動に移している所を見て、オーシャンが口を開こうとした時、アトランティス帝国全土を覆う規模での魔法陣が空に出現する。

「オーシャン様!」

シーへの呼びかけを無視して、オーシャンはテラスに走り、帝国を見下ろす。魔法陣からは邪気が漂う。オーシャンはその邪気と異様な空気の濁りに覚えがあった。

「っ、悪魔大戦!!」

オーシャンの口から漏れた言葉にシーへは絶句する。それは今から600年程前に”喚”の元祖ソロモンが首謀者となって起こした、人類に悪魔と認識されている神々の化け物との闘いのこと。

「前と同様にサタンを殺せば、勝機があるのでは!?」

シーへの必死な訴えかけにオーシャンは首を横に振る。その理由は、また過去の話。今度は悪魔大戦で活躍したセアから聞いた話だった。


『サタンを殺せば、悪魔共はもういなくなるんじゃないの?』

悪魔大戦の最中の会話だった。姐さんがサタンと四凶の討伐に成功したすぐの時だった。自分は姐さんに聞いた。

『…この闘い、第一次悪魔大戦と名付けようか。第一次悪魔大戦はただの狼煙に過ぎない。ソロモンが悪魔サタンと契約したのは事実。でも、その内容は少し違うはず』

『え?』

『”心臓を一つ代償にしてやるから、悪魔を永劫召喚できる魔法を授けろ”…ってね』

『サタンがいなくても、ソロモンが生きていれば一生続くってこと?』

オーシャンの懸念にセアは悩ましい顔で頷く。

『次は第二次悪魔大戦かしらね』


セアの言葉の意味を、今になって理解したことを悔やむオーシャンは、その重責から精神が耐えられそうにない。彼のことを気にかけてくれるほど、クヴァレ帝国の元祖は優しくない。空に浮かぶ魔法陣を描く線と線とが結びつき合い、神々しい光を放つ。次の瞬間、悪魔の大群が空が見えないほどに覆う。悪魔の邪気がアトランティス帝国に跋扈する。それは忌々しい戦いの記憶を呼び覚ます、またも忌々しい体に染みついた感覚。住宅街や冒険者ギルドに群がる冒険者や海族の者は、その光景に絶望して、呆然と立ち尽くす。それを見たオーシャンは恐れという名の私情を殺して、部下に指示を出す。

「冒険者と海族戦闘部隊に知らせて。今すぐ戦う準備を。戦えない者は、この城の地下に避難させて」

「ですが…」

「何のための冒険者だ? 悪を成敗するための力を今使わなくてどうする! 帝国内の冒険者に伝えろ。どんなことをしてでも、被害はアトランティス帝国だけに収めろ。援軍に期待するな。己の強さを信じて、生き残れ」



英傑の海

それは武を極めた達人が行きつく海であり、達人同士が集まり、日々互いを研鑽し合っている。

ここに位置するパツェラェ星の神の国アウグスティヌス。アウグスティヌスは竜族が七大一族の竜族が統治している宇宙国家であり、その規模と技術は地上宇宙(バース)最大と言っても過言ではない。そして神の国アウグスティヌスには竜族専用の冒険者ギルドがあり、多くの任務を修行の一環として受注している。

「お久しぶりです。叔父上」

アウグスティヌス帝国の竜族の棟梁らが住む豪華絢爛な建造物。それぞれの家門によって建築方法が異なり、家門の勢力を象徴している。その中でも、竜族の長たる竜王の専用居住区である麒麟邸。手入れのよく行き届いた美しい庭の東屋に腰かけて、池を眺めるゲニウスが声をかける。

「また戻ってくるとはな」

「叔父上がいるなら心強いです。愚弟もこちらに戻ってきているようですが、理由知りませんか?」

ゲニウスが試すように、クリスに尋ねる。

「知らねぇよ。あいつの竜名(ロンミン)だろ?

じゃなきゃ、あいつは弟子の魔法使い共と一緒だ」

「ですね。面白くない。無知な未来に魔法を創造する魔塔主が、未来を予知するなんて…」

優しい笑みで皮肉を謳うゲニウスにクリスが苦笑する。

「ウェルテクスの心配する前に、お前は世継ぎの心配しろよ。青龍には3つの家門と違って元祖がいねぇんだから、青龍の正式な後継者を示す竜名(ロンミン)が継承できねえと竜王として示しがつかねぇ」

葉巻を咥えて、クリスが警告すると、ゲニウスは怒りを帯びた言葉でクリスに言う。

「叔父上にこそ青龍の血が流れています。伴侶であるセアと子を成せばよろしいのでは?」

微笑みかけるゲニウスの目は笑っておらず、返答次第ではここで始末するという顔を覗かせる。

「…何度も言ってんだろ。セア…あいつとは終わってんだ。そういった関係じゃねぇ」

クリスの小さな嘆きを聞いて、ゲニウスは顔色を変えず、立ち上がる。傘をさして、東屋を出る。

「終わったことですか。それにしては未練が感じられます」

「…それ以上言うと、お前でも容赦しねぇぞ」

クリスの殺意にゲニウスはクスクス笑い、最後にこれだけを言い残して離れる。

「その心意気でお願いしますよ。(せい)棟梁クリスチャン・ローゼンクロイツ」

離れていくゲニウスの後ろ姿に葉巻を吹かせて、クリスは項垂れる。

「めんどくせー甥だな。たく、面倒ごと残して逝っちまうなんてよぉ。セアも、姉上も…」



星の海、英傑の海に動きがある中、夜の海にも不穏な一つの影が出現する。

「狼煙をあげるか」


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