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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
7章 知識の海
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44話壱 アルパヌの痛み

天地創造の海でも戦いが始まる!

そして、竜族の力も明るみに…


「八咫烏本部に報告します!ヴァルチャー都市にて’主人’出現!急ぎ、援軍を頼みます!」

「こちらアルバトロス都市! 魔獣の大軍を確認!! 持ち場の騎士は住民の避難を優先!! また、援軍を頼みます!!」

「こちら友愛社!! 魔獣はおらず、良好!! 住民の避難を受け入れます」

「天皇様に報告! 侵入者あり!!侵入者あり!!」

「こちらアルバトロス都市! 南領陥落! 繰り返します、南領陥落!」

「八咫烏偵察部隊、報告します!! 魔獣の大群がヴァルチャー都市に向かっています! 至急防護壁を展開してください!」

「友愛社より! 魔獣の大群を確認…魔獣の大群を確認…天皇に指示を求めます!」


天地創造の海、天皇の居住区でもあり、天皇直下組織八咫烏本拠地ヴァルチャー都市に響き渡る警告音。そして、各地に繋がる伝書鳩で通信が相次ぐ。敵の襲撃と魔獣の大群の報告が後を絶たない。一秒経つごとに、それは深刻な報告になっていく。

「母上、どうするのじゃ?」

(ゆずりは)が天皇である大紫蝶の指示を仰ぐ。蝶は一切の躊躇なく、一通り指示を垂れ流しに聞く。そして、指示を出す。

『天皇大紫蝶じゃ』

蝶が声を出すと、通信は一斉に止まる。

『住民の避難は友愛社を筆頭とし、友愛社直轄領カシツェイ都市へすべての住民を避難。魔獣の大群は薔薇騎士団が相手せよ! そして’主人’は天皇と八咫烏が引き受ける!』

「ということじゃ。皆の者天皇への忠誠を再度誓い、天皇の国を守るのじゃ!!」

指示と杠の激励に通信からは、大きな返事が返ってくる。杠は伝書鳩を安全な籠に入れて、戦いの準備をする。

「杠、魔獣の大群は桜雲(おううん)に任せる。朕は侵入者とやらの足止めをする。その()に’主人’の殲滅を、その小僧と任せる。よいな?」

「あいな。謝氾(シャハン)往くぞ」

「っス!」

窓から現場へと向かう杠の後を追うように、謝氾も窓から飛び降りる。二人は家々を飛び移りながら、最短距離で’主人’の殲滅に赴く。謝氾の手には、竹から作られた棒の武器が携えられている。

「不安か?」

不安で足取りが重い謝氾を見兼ねて、杠が声をかける。彼は不安の表情を浮かべて俯きながら、走る。そこには沈黙が生まれる。

「正直、守護者(ガルディ)が再起不能になった相手ッス。オレみたいな若輩が叶う相手じゃ…」

「母上が考えなしに妾とお前を向かわせたと思うか」

自身で不安を煽る謝氾の言葉を切り捨てる。杠は得意げな顔をして、謝氾に言う。

「七洋アスタロトは絵画の権能を持つ。かの神が人間の魂を代償にして想像する’主人’は莫大な耐久力を誇り、ほとんどの攻撃が効かん。攻略するとなれば、’主人’の耐久力を遥かに凌駕する攻撃で叩きのめすしかない」

謝氾は杠の解説にもっと不安を募らせる。しかしのう、と杠は続ける。

「それは特殊攻撃(スキル)を少しでも使っての攻撃の話じゃ。’主人’は幻想の語り手。特殊攻撃(スキル)は人類の幻想を実現した攻撃。故に、幻想そのものである’主人’には幻想を体現させた特殊攻撃(スキル)はほとほと効かぬ。唯一の対抗策は特殊攻撃(スキル)に頼らずの物理攻撃(武術)のみ。妾たち、竜族は武術を基礎とした一族じゃ。なにも心配はいらぬ」

励ましの言葉を受けていると、空気は一変して重たい。空は暗雲に苛まれ、不気味かつ膨大な権能の気配が二人を襲う。二人は足を止めて、家屋の上から状況を確認する。気配の正体を目でたどると、プラチナブロンドの三つ編みとリーフの青の髪飾りをつけた黒のドレスの女。

「プロエレ殿の報告と同じじゃな。あれが’主人’か」

報告を受け、書面だけでも、その脅威はひしひしと伝わってきた。しかし、実物を体感するのとでは訳が違う。喉が渇き、息が震える。圧倒的恐怖が押し寄せ、足がすくむ。そんな謝氾に、先輩として杠が助言する。

「いくら強い者でも完璧はない。必ず弱みを伴う。下克上とは、弱者が強者の弱みを突き、実現させた幻想。戦う意志がある全ての者に下克上を実現できる資格がある。さあ、下克上を始めようぞ」

助言を口に出した杠が先陣を切る。その手には桜の柄の鉄扇が握られている。鉄扇を開き、仰ぐと鉄扇の中留から暗器の小刀が’主人’に刺さる。それは単純な武具が持つ武力。物理攻撃が最善である’主人’に対して、杠の攻撃は手本そのもの。それは強者に弱者が立ち向かう始めの一歩を先駆していた。小刀は’主人’に刺さるが、大して意味はない。しかし、杠にとってはどうでもいい。彼女の本懐は戦えると謝氾を勇気づけることにある。

(下克上が難しいと思うのは、1人で戦わなければならないと決めつけること。しかし、そんなことは決してない。弱いなら弱いなりに徒党を組み、強者に盾突く。それが下克上の醍醐味の一つじゃ)

「謝氾!」

杠が彼の声を呼ぶと、彼は勇気を振り絞って屋根から飛び降りる。低い姿勢で走り、’主人’の間合いに易々と侵入する。棒を強く握り、右に払い、’主人’の腹を強く強打する。棒を引いて、強打した箇所を今度は直線的に突く。すると、強打した’主人’の腹が屑のように零れ落ち、棒が貫通する。

太好了(タイハオラ)

杠は’主人’の攻撃を防ぐため、謝氾と’主人’を隔てるように鉄扇を盾とする。そして、杠は謝氾に、よくやったと称賛を伝える。杠は鋭い眼光を’主人’に向けて、鉄扇の角度を変え、’主人’を斬る。それは刀さながら、’主人’の首を斜めに抉る。悲鳴を上げない’主人’に杠は嫌な予感をよぎらせる。彼女は謝氾を抱え、一定の距離を後退するとかがむ。その一瞬にしての一連の行動が功を奏したのか、巨大化した’主人’の腕が横殴る。その腕は僅かに杠の鉄扇を当てるが、損傷は少ない。

「’主人’の弱点は物理攻撃(武術)。’主人’は七洋アスタロトの召喚物ではあるが、存在は魔獣が神へと進化した高位魔神族と同じじゃ。つまりは”核の破壊”さえ行えば、いとも簡単に邪念は断ち切れる」

跟我来(遅れないでください)

謝氾が杠にそう言うと、彼女は声を上げて高らかに笑う。そして、口角を少し上げ、謝氾に言う。

「誰に言うておる?妾は元()()じゃ。そなたこそ遅れるでない!」

杠が鉄扇を一度仰ぐと、強風が吹き、’主人’に目くらましを食らわせる。その隙を突いて、胸を強打させる。’主人’は不快に思ったのか、謝氾に拳を振りかざす。すんでのところで躱したところ、杠が暗器を投げ、’主人’の腕の神経を斬る。謝氾は棒を回転させ、次の手を読ませない。それを見た’主人’は怒っているのか、心の宿らぬその瞳を杠に向ける。すると、杠の体は硬直してその場に固まる。

(体が動かぬ。こんな能力報告書にはなかったはずじゃが、あえて制限しておったのか?)

杠が戸惑っていると、’主人’の腕が自身に飛んでくる。動かない体だが、右腕に強い精神と意地を集中させる。すると、それは奇跡か、右腕が動き、次に鉄扇をかざす。’主人’の拳を鉄扇で緩和させたが、その衝撃にのまれ、杠は吹き飛ばされる。満足気にする’主人’に謝氾は容赦なく、喉を突く。核を探る彼は’主人’のあらゆる部位を叩いたり、突いたりするが、どこにも違和感が見つからない。

(腕も、胸も、心の臓も、足も、首も叩いたんスけど…可能性は頭部、いや、”脳”!)

謝氾は最後の可能性を現実に見て、棒を軸に体を回転させて、飛翔する。回転が終わる前に棒を一度回転させて、加速させる。威力が足りない分、加速で補い、あとは流れに身を任せ、棒に力をこめる。謝氾の簡素な突きは’主人’に効果覿面で、脳の片鱗が見えるまでに至る。

(オレができるのはここまでッス)

謝氾が静かに息を吸い、

「お願いします!」

吠えると、吹き飛ばされた杠が前線に駆け戻り、鉄扇を’主人’の脳天めがけて投げる。それは見事に的中して、’主人’の脳が露わになる。グロテスクなものだが、杠は無の感情で躊躇なく、脳を握り潰し、その中にある’主人’の核も握り粉砕する。慟哭が響き渡るのも一秒に満たず、’主人’は地面に倒れ、動かなくなる。

「…」

杠は自身の頬に飛び散った’主人’の血を拭い、’主人’に近づいて息がないことを確認する。

「どうじゃったか?下克上は。面白いじゃろう?」

愉快極まりなく、ニコニコと笑う杠に苦笑する謝氾は言葉に困る。

(ハイ)、強いヒトに勝つのは気持ちいいッス。でも、あんまやりたくないッスネ」

哈哈哈(ハハハ)! 愛い、素直な奴じゃ。じゃが軟弱者じゃな」

「幻滅したッスカ?」

「言わぬ、隠し事も必要じゃ。まあ、幻滅するかは今から決まることじゃ」

杠がそう言って指を差した先には数体の’主人’が目視で確認できる。大きさもばらばらだが、どの個体も強いことは窺える。

「母上は誰も1体とは言っておらん。そう驚くことでもあるまい」

杠は血で汚れて使い物にならなくなった鉄扇の代わりに、胸元に携帯していた予備の鉄扇を取り出す。そして’主人’を見据える。

「まだ下克上は終わっておらぬぞ」



「久しいのぅ」

蝶が邂逅の挨拶をした相手は毒花のような笑みを蝶に向ける。その笑みと態度に蝶は眉間にしわを寄せる。

「あらあら、そんな不細工な顔しちゃだめよ。せっかく、あの御方の娘として生まれたのだから…」

「綺麗でいろ、と?」

蝶は相手の言葉を遮り、相手の言葉に続く言葉を発する。

「神の尺土で朕をはかるでない。吐き気がする。魔族が神に進化した魔神族の頂点を謳うなど、随分と皮肉が過ぎるものじゃなぁ。そうは思わぬか? 七洋アスタロト」

蝶が侵入者の名前を口にすると、そいつは、いや、アスタロトはにたぁと醜悪を帯びた笑顔で彼女に言葉なしの挨拶をしてみせる。

「元祖の大いなる父…そして人類を生み出した原初神アザトースの側近の七柱の1柱が今更朕に何の用じゃ」

「恩師に言葉がなってないじゃない。ロワと同じで、元祖の末妹末弟だから、私たちが直々に育てたっていうのに。なんで、あなたは紅帝族側についたのかしら」

「アザトースの目論見の駒となるのは朕には耐え難い苦行じゃ」

蝶はアスタロトを邪険にする。その態度にアスタロトは訝しげに見つめる。

「ねえ、今って何時代?」

「…時代?」

アスタロトの唐突な質問に蝶は理解できない。

「神聖時代みたいな歴史の呼び名のことよ。無いの?」

「公では無い。強いて言うのであれば無神(むしん)時代。この言葉は名もなき時代にせめてもの敬意を称してクヴァレ帝国と紅帝族が呼称しておる」

蝶の返答にアスタロトはつぶらな瞳をぱちくりと大きく瞬きする。心底驚いているのだろうか。

(神はいない(無神時代)ですって?)

彼女は心の中で、その真意を探っていると、二人の人間を思い起こす。

アスタロトは目をキラキラと輝かせて、蝶を眺める。

「皮肉が効いているわ。いいわね、こんなところが人間の面白いところなのよ!」

声が踊るように明るいアスタロトに不快感が増し、それに憎悪の感情が台頭してくる。それでもなお、笑い声を上げるアスタロトを見て、やはり神なのだと蝶は再度思い知る。そして彼女の額には血管が増えていく。

「ああ、ごめんなさいね。用はね、ないわ」

「は?」

「仕事はあるけど、私個神(こじん)の用はないの。あなたに会いに来たのは暇つぶし。でも来てよかった。面白いことを聞けたもの!」

アスタロトの卑劣な言動についに蝶は刃を向けてしまう。一瞬でアスタロトに刃を入れようと思ったが、彼女はそれを上回る速度で避ける。地面を抉った鉄扇を蝶は持ち上げる。鉄と砂の触れ合う音は蝶の怒りを示している。

「暇つぶしなら付き合ってやる。その対価は貴様の()だ」

蝶の憤怒の欲にまみれた挑発に、アスタロトは嬉々として受け入れる。

「うふっ! 私の絵画()は高いわよ」

武術で主人を圧倒する竜族。相性とはいえ、やはり七大一族に名を連ねる一族ですね

蝶が相手するのは、七洋の1柱アスタロト!

かの神は主人を使い、守護者であるアストラを戦闘不能に追い込んだ恐るべき神!

蝶はどうやって切り抜けるのか?

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