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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
7章 知識の海
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42話伍 九天玄女の痛み

兼平の過去はゼーユングファーとの思い出ばかり、だからこそゼーユングファーの愛した海を守るのですね

二条兼平、彼女は神聖時代前期、長女ラウルスによって教育を受ける予定であった。が、それを放棄したラウルスに代わり、彼女を育てたのが、後に海族初代族長の正妻となるゼーユングファーであった。

「氷みたいに綺麗。よろしくね、兼平」

それがゼーユングファーと兼平の初めての言葉だった。そこから兼平はゼーユングファーに教えを請う毎日が続く。勉学に励み、武術にも励み、色々な食や娯楽に出会う。毎日が違い、面白かった。

(優しい…)

口数の少ないことは自覚していたが、それでもゼーユングファー、いいや、姉さんは飽きずに一緒にいてくれた。姉さんとの思い出は海に行ったことが多い。

「姉さん。姉さんは海飽きないの?」

いつものように浜辺で思う存分遊んで、疲れれば高台できれいな海を眺める日常の一コマ。自分は我慢ならず思わず聞いてしまった。失礼な言い方だ。口を押さえて様子を窺うと姉さんのクリムソンの瞳がキラキラと輝いている。

「兼平は飽きちゃった?」

ふるふると首を横に振ると、姉さんは自分を抱き上げて高台から望む海を眺める。

「私ね、求婚されちゃったの。その人魚(ヒト)は海が大好き。でも人魚だけが海を好きで守るだけじゃいけないの。人類がこの美しくて、癒される偉大なる海を汚すこともある。そうなってはいけない。だから私は人類に海の魅力を伝えているの」

「でも分かってくれない人もいる…」

「そうなったらお姉ちゃんが倒しちゃうから大丈夫」

どこまでも続く天空の”蒼”とさざ波打ち寄せる海洋の”碧”。まるで鏡のような表裏一体の大自然が作り出した独自の芸術。それは交わることがないにしても、遥か彼方地平線を越える広大さと、未知の事実がある不可思議な神からの贈り物。言葉にできないような風光明媚な偉大さ。守るだなんて言葉、海には似合わない。だけど、守りたい憧憬が目に焼き付いて、心に刻まれている。

「私も海を守りたい」

その言葉に姉さんはとびっきりの笑顔をは弾かせ、とびっきりの優しい力で包んでくれた。

それが今でも忘れられない。


―私が尊敬する姉さん、どんな結果になろうともあなたを止めてみせる!

「白糸が契る水媒花、静謐を目論む珠玉よ。変わりゆく様に蹴落とされ、深淵に沈む流麗よ。遷移を常に促せ、変化を恐れるな、気高く生きるその生き様に強さが示されよ!」

兼平の周りを取り囲むように札が舞う。その札に仕込まれている柄は違うものの、どれもが兼平の内に秘められた”気”を付与させた札であると分かる。

水至清無魚(すいせいむぎょ)銀雪永久氷結土」

二人を逃がすまいと竜巻が吹き荒れたかと思うと、そうではなかった。

(これは…猛吹雪(ブリザード)!)

竜巻上に吹き荒れるブリザードは外界と二人を隔絶して、ゼーユングファーお得意の海操作を不可能にした。加えて、

「完全結晶」

雪が互いに結合して雹と霰となり降り注ぐ。その数は無限に繰り返され、絶対零度にも及ぶ低音に体がうまく動かせない。

(これは私の切り札、諸刃の剣だがこれに賭ける!!)

兼平が正面に手を向けると、札が氷のように発光して更にブリザードが雄々しく吹き荒れる。

「!」

兼平がずっとゼーユングファーを見ていると、彼女は三叉戟で自らの腕を斬った。

「”再編”血性変性…」

その血が動いたかと思うと、三叉戟を纏う。雹と霰が複合結合したことを確信したゼーユングファーは左足を大きく引いて、突きの構えを取る。

(かい)

ゼーユングファーが落雹に向かって刺突を繰り出すと同時に、三叉戟の矛を形どった血刃が天に向かって放たれた。その勢いはすさまじくブリザードを内部から打ち砕き、一瞬だが晴天が覗いた。

「!」

それだけでなく、このブリザードを保つ札の一つが消失した。

「その5枚の札を全て壊せば、あなたの切り札はさざ波の音に転ぶのね」

「…」

(流石姉さん、初代守護者(ガルディ)。そしてさっきの血の攻撃(血刃)は恐らくイニティウムの”才”!元祖の中でも攻撃力と汎用性に長けている”才”。私の切り札も長くはない。なら…)

兼平は残った札を一枚手に取りキスをすると、彼女の瞳から蒼い筋の光が灯る。

銀盤(ぎんばん)玉屑(ぎょくせつ)

その札は氷の結晶となり、ブリザードを覆う。

(霜…?)

ゼーユングファーの腕に霜が降りた。それに疑問を感じつつも、ゼーユングファー三叉戟で雹や霰を振り払う。すると霜の降りた箇所から順に体が凍結し始めた。

「!?」

「札を一枚犠牲にすることで使える騙し討ちのものだ。一度でも激しい動きをすると凍結が始まる。それを止める術は変わらんが、今のその肉体でできるか?」

兼平がそう語り続けている間にもゼーユングファーの肉体は凍結が進んでいる。だが、ゼーユングファーはその弱点を一瞬のうちに見破っていた。

「たしかにそうね。仮に私がブリザードを破壊できたとしても凍結は続く。でも兼平、嘘…ついてるでしょ?」

「!」

「ブリザードは札が主軸。でも、この凍結自体は”あなた”が軸でしょう。なら、あなたが気を失えば、この凍結は終わる」

ゼーユングファーの見解に兼平は一筋の冷や汗を流す。まさにその通りだからだ。甘いわねとゼーユングファーはあしらい、また三叉戟を構える。そして大きく飛び上がり、空中に滞空する。

「”再編”雹性変性(へい)

三叉戟を地面に向けて投げると同時に、結合した雹と霰もそれにつられて、轟音を上げて降り注ぐ。地響きと氷霧がしばらく発生するが、それはブリザードが完全に破壊されたことを意味する。兼平の周りを舞っていた札3枚が消失し、それが真実であることを伝える。

(雹が姉さんの操作下に敷かれてブリザードが破壊された?…なんでもありじゃない)

信じがたい気持ちといけるかもしれないと淡い期待が失望へと変わる二つの激震が兼平を渦巻く。しかし、そんなことも関係ないと言わんばかりにゼーユングファーが矛を向けて突進してくる。

(速い。対応できない)

兼平が呆然と立ち尽くす。それはある意味降参しているようなものだった。

「”再編”水性変性(なぎ)

海水が装填された。それは兼平を殺害しようとしたが、基実と良元に妨害され叶わなかったため、リベンジとして行っているのだろう。


―基実の犠牲と兼平の思いに応えられないまま終わる…絶対に嫌だ!

 姉さんであろうと…


「私は戦う!!」

「その心意気好きだぜ!!」

兼平の言葉と思いに応える一筋の閃光ごとしの声が空から降ってくる。土煙ならず、氷煙が起こる。視界に映る暗緑色の短髪と、逆三角形の黄金のピアス。アラビアンという部類の民族衣装。そして絶対的な安心感が溢れ出るこの男。

「バイラール!」

ニカッと満面の笑みで兼平に笑いかけ、彼女とゼーユングファーの間に割って入る。三叉戟を防がずとも、鉄壁の肉体が矛を弾く。ゼーユングファーは目を細めて追撃をしようとすると、バイラールが彼女の腹を殴り阻止する。また突風が吹き荒れたかと思えば、空を飛んでいた。正しくは鳥の背中に乗っていた。その鳥は全身黒いが、青藍も紛れていて高潔であるとわかる。そしてどこか神々しくも感じられる。

「…巨大な烏」

(ちがう)我是鵬(我は鵬だ)

兼平のひとり言を一瞬で否定する鳥は、烏ではなく、鵬という神の使いとも称される由緒あるものであった。

(ほう)に化ける能力、いいや、”才”。貴様(はく)棟梁だな」

「是…我は48代現(はく)棟梁(フー)雲颯(ウンリン)…竜王の命を授かった…大義の名のもと加勢する」

「(竜王、なんのつもりだ。でも今は…)恩に着る」

兼平と雲颯(ウンリン)が自己紹介をしている最中、氷の足場ではバイラールとゼーユングファーが対面していた。

「久しぶり、バイラール」

「俺はちょっと残念。まさか、姉貴が洗脳にかかってるなんてな。まっ、レヴィアタンなら仕方なくはあるけどな」

バイラールの発言に温厚なゼーユングファーが苛立つ。しかし、彼女はふと自身の体に着目する。

「(凍結が止まった?)どういうことかしら?」

彼女がバイラールに尋ねると、彼は「ん?」と反応して一瞬呆けた態度をとる。頭をぼりぼりと掻く。

「銀盤玉屑の解除条件は兼平(術者)を叩くことだが、術の対象者、つまりは姉貴が一度でも叩かれることがもう一つの条件だ」

「見たことがあるの?」

「いや? まったく?」

バイラールは人差し指を頭に当てる。

「世界が"最善"を教えてくれるんだ」

彼の発言にゼーユングファーの顔が強ばる。なぜなら、彼女はバイラールの元祖としての能力である”才”を知っているからだ。

「海は全てを受け入れるわ。あなたも海の藻屑となりなさい」

着任初代から五代元守護者(ガルディ)ゼーユングファーが三叉戟を構え、似つかわしくないが威圧感のある笑顔が浮かぶ。

着任五代から現九代守護者(ガルディ)バイラールはそれに応えるようににっかりと笑い、手招きをする。裏葉柳の瞳に海の”碧”が吸い込まれ、より深く、より濃く、より深淵に近づく。

Welcome(来いよ). Do (最善で)best(やってやる)


海族において初の守護者(ガルディ)となったゼーユングファーにも劣らずの異名がある。廃れこそするも、それは初代に相応しき覇者の称号。

―曰く、勇魚(いさな)の翻弄者

そして、鬼族においても初の守護者(ガルディ)として地位を確立し続ける稀代のバイラールにも異端の異名がある。何千年と鬼としての怪物性を保ってきた覇者の称号。

―曰く、混沌の安寧者

ここにきて、遂に加勢!

しかも、守護者バイラールと竜族の棟梁雲颯!

元守護者と現守護者のドリームマッチ!

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