表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
7章 知識の海
53/100

42話肆 九天玄女の痛み

良元の攻撃は届いたのか?

「うそ…」

完全な隙を突いた良元の攻撃は突発的な暴風を生み出して、大気の流れを斬った。氷霧が発生するなかでも、確実に斬ったという感触を良元は捉えていた。しかし、次第に晴れていくと、それは偽りであったと思い知らされる。

良元のチャクラムはゼーユングファーの体に触れていた。しかし、触れているだけだ。チャクラムどころか、良元の拳はまったく彼女にダメージを与えていない。まるで、鋼鉄のような防御の身体。

「私は元祖、でも守護者(ガルディ)。血筋を憎むことなんてない。だって私にできることが増えるもの」

ゼーユングファーは良元の肩を優しく叩いて、さようならと言い放ち、三叉戟で腹を貫く。倒れた良元の鮮血が一帯を華やかに彩る。それを見た基実は憤怒に駆られて、大太刀を手に取り駆ける。兼平の制止の声を無視して、良元の仇を討とうと決意する。

「”再編”細胞変性(じょう)

しかし、ゼーユングファーは三叉戟を手放す。手を広げて激高する基実を抱くような構えをする。

(なんだ? 絶対に壊れない鋼鉄を相手してるみたいだ…)

先鋭の刃の大太刀はゼーユングファーの体に触れたが、そこから一切動くことはなく、攻撃力の高い基実ですら対応できない。

(さっき見た良元と同じこと…)

「可哀そうね。兼平の一味だから。でも…大丈夫よ」

見た目からは想像もできない防御に驚倒する基実を、ゼーユングファーは優しく抱きこむ。そして、これまた見た目からは想像もできない剛力で基実を絞める。

「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

剛力で逃げ出すことができず、悲鳴しか上げることができない基実を躊躇いなく、絞め続ける。ゼーユングファーを倒すという決死の決意は深い海底に沈み、基実の痛みを訴える咆哮はさざ波に掻き消される。

「基実…」

剛力で包み込まれた基実は1分足らずで解放された。そして気を失った彼をゼーユングファーは優しく受け止め、地面に横たわらせる。そしてクリムソンの瞳が兼平に向けられる。基実と良元に送る慈愛の念ではなく、無慈悲な念が兼平を襲う。

「兼平、あなたなら”再編”の意味は分かるでしょう」

「…鋼を防ぐ鉄壁の肉体、その剛力。バイラールが守護者(ガルディ)として選ばれた理由の一つだ」

(細胞変性(じょう)は一時的に自身の身体の細胞を書き換える。”再編”の能力の一つだ。書き換えた細胞の特出がそのままの現れる)

「細胞の一部をバイラールの細胞に書き換え、あいつの肉体の強さを利用した」

跪いて立ち上がろうとしない兼平に向かって、ヒタヒタと、ゆったりと歩むゼーユングファー。それは洗脳されているのかというほどの穏やかで、自我に溢れている。

「あなたは本当に洗脳されているか?」

「なにを言っているのかしら?」

兼平が試して言うと、ゼーユングファーは理解できないと言わんばかりの反応を示す。

「(ああ、ほんとうに洗脳されているのか…)姉さん、話をしよう」

「足止めのつもり?」

「いや…姉さんの目的は私だ。ならば、私だけを殺せ」

「端からそのつもりよ」

氷には遠いが、似通っているゼーユングファーの髪が海風に靡く。

「今の姉さんにこれが届いているのかはわからない。だが、覚えていてくれ。私は海族を駒だとは思っていない」

「そう」

「宣戦布告だというのなら、私を殺して和平を約束してほしい。私以外の和の海の人類に手を出さぬと…」

氷が霧散した美しい粒子が閉じ込められた兼平の瞳がゼーユングファーに訴えかける。彼女は身をすくめて、遥か彼方、海の地平線を一瞥する。

「人類には多くの言語があるわ。その言語は、その環境・民族に左右されて形成される。だからこそ、異種族同士の対立が生まれるわ」

「…」

「対立は争いに…戦争に…暴力に発展するわ。だけれど、誰もが望むのは言葉での和解。言葉の和解はそれぞれの欲するものを、対価として暴力の戦争をなくすのよ。今の私とあなたの和平のよう…」

ゼーユングファーの語りに目を反らすことなく、死の覚悟を受け入れて兼平は聞き入れる。

「言葉で得た和解という平和だけれど、和解の対価が暴力でしか実現できないというのなら、それは果たして平和と言えるのかしら」

「分からない。だが、被害は減らせる」

「兼平らしい結論ね」

ゼーユングファーは三叉戟を兼平の頚と垂直になるように、矛を逆さにして冷徹に兼平を見据える。

「”再編”水性変性(なぎ)

ゼーユングファーが唱えると、海水が柱のように天に向上して、それが三叉戟に装填される。まるで、ポセイドン神の神器トライデントを顕現させたような煌々としている。

「私に海の鼓動と共鳴する細胞を書き換えたの。今の三叉戟(これ)は海の命と同意義。その身をもって受け止めなさい」

兼平はぎゅっと人知れず目を強く瞑り、その時を待っていた。

「海神の祝福があらんことを」

ゼーユングファーが三叉戟を振り下ろす。その直後に兼平は強く抱きしめられて、驚いて目を開く。彼女を抱きしめたのは良元であった。兼平を庇うように、彼女とゼーユングファーの間に入り、海水が装填された三叉戟から兼平を守った。それは寸劇のことであったため、ゼーユングファー自身でさえも三叉戟の攻撃を止めることができなかった。既に一つ腹を貫かれている良元にとって、今の攻撃は致命傷ではなく、死を宣告するものであった。

「…おい、元祖…言っただろ、ボクは隠密に長けた明帝族だ! 気を取られすぎだよっ」

挑発する良元を横目に、ゼーユングファーは何かを察したらしく基実が倒れていた方を見る。そこには基実の姿はない。

「巫覡は集う。巫覡に陰りはない。巫覡は炎帝の神子。有明も朧月も情炎とし、箒星と出でて、紺碧の空を創る」

二人に背を向けてるゼーユングファーを急襲して、二人から引き剝がす。真剣な彼の口からは言葉が紡がれ、それに比例するように彼に気が集中していく。

そして大太刀を大きく振りかぶって突進してくる基実の攻撃を避けることなく、素手で受け止めるゼーユングファーは、哀れむような目をする。

「兼平を庇うために、こんな愚行…可哀そう。そんなに頑張っても私に負わせた傷は今の切り傷だけよ」

「いいや、まだだ。他人がどう思っていようが、オレはまだ最善を尽くせていない。命を燃やせていない。焦がれるような成果も成しえていない」

「?」

「あんたにもあったはずだ。傷つくことをいともせず、必死になって、誰かのために体を張る! 例えそれが愚行だろうと、オレの未来が無くなろうと、オレの守りたいと思った奴の未来が炎のように輝くなら、この命易い!!!」

基実の気迫に大気が反応したのか、熱が発生する。そして大太刀とゼーユングファーが触れている箇所を軸に炎が燃えた。

(何もないところから、火!?)

慌てふためくゼーユングファーを諸共せず、その炎は彼女の全身を包み込んでいく。それはゼーユングファーだけでなく、基実本人も巻き添えとなっている。否、基実が”気”を巡らせて、炎自体になっているのだ。

「う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛!!」

灼熱に焼かれるゼーユングファーは悲鳴を上げるが、彼はもっと火力を上げる。

「オレは最も清き明帝族!! 近衛基実!

近衛家の誇る紫焔(しえん)を篤と味わえ!!

紫苑(しおん)心恋(うらごい)し」

紫焔が晴天に、天高く燃え盛る。その中にいる基実は鍛冶場の馬鹿力という死に瀕している時に発現する心意気だけで、ゼーユングファーを離さない。燃え盛る音でも兼平の止めろという声が聞こえてくるが、基実はもう止めることができない。それが彼の選んだ最後だからだ。


―オレの人生に一片の悔いがあるとしたら、それは守りたい人の笑顔がもう見れないことだ


基実は兼平に見えぬように笑い、兼平に聞こえぬように呟く。

「泣くなよ、オレの最愛の人(鷹司兼平)


「基実!!」

紫焔の近くにいる兼平が必死に基実の名を呼び、制止を促すが、彼は反応しない。それどころか、紫焔はますます大きくなり、熱風が彼女らを襲う。

(早く止めねば基実が火となり消えてしまう。もうあいつに会えない。でも…)

兼平は自身の肩に寄りかかっている良元を見る。流血が止まらない。氷の足場に触れるとすぐに凍結する。良元の体に触れると体温が下がっていること、脈が弱まっていることが確認できる。

(良元もすぐに治療しないといけない! 二人を助けるためには戦いを避けなければ!)

二人を救いたいがために熟考する兼平は悲歎する。なぜなら、兼平は分かっているからだ。この二人はもう助からない。

「…兼平」

線の細い声で名を呼ぶ良元を見る。

「良元、案ずるな。私が…」

「知ってるよ、ボク達は長くない」

「っ!」

「近衛家と二条家は、、、代々純潔の明帝族だから、いつかクヴァレ帝国に滅ぼされる日が来ることは分かってたよ…長い歴史を誇ることは初代当主の方々も予想してなかった…なのに、ここまで長い家門だったのは…君がずっと、、、初代から支えてくれてたんでしょ?」

「そんなことっ!!」

「そうだね、君にとっては当たり前のことかもしれないけど…ボク達にとっては命に代えがたい恩だよ…兼平はあの元祖に育てられた恩があるから生きててほしい…それが近衛家と二条家(ボク達)にとっては君なんだ」

話すたびに彼の体から生気が抜けていく。だが、彼は続ける。

「何百年ていう恩が、たった一瞬でしか果たせないのが…ボク自身はらわたが煮えくり返るよ」

「やめろ、お前たちがいなくなったら私はどうしたらいい?

姉さんにも捨てられているというのに!」

「…あの元祖は洗脳状態なんだよ?今までの言葉が嘘だよ。ボクが言ってるんだ。信じて」

良元の言葉に、兼平の瞳からは大粒の涙が止まらない。彼女の顔は酷く悲しみで歪み、痛哭している。普段感情を表に出さない兼平の気持ちが痛いほど良元は分かる。だが、良元は幼子を宥めるように真顔になる。

「みっともない。和の海が誇る策士がここで和の海の未来を潰すなんて愚行しないでしょ! 戦ってくれ…ねぇ、お前は何者だ!」

良元の暴言とともに、紫焔が一瞬だけ肥大化したと思ったら、一瞬で鎮火され、消える。そこには基実がいない。いるのは、基実の命に換えた猛攻に耐えきったゼーユングファーだけだった。

「まさか、命だけじゃなく肉体を燃やして紫焔にするなんて…とんだ肝の座り方をしてるのね」

ゼーユングファーは火傷で爛れた皮膚を必死に押さえる。

「兼平…」

悲願の言葉に兼平は立つ。

「私は51女”詞”の元祖。そして和の海を守る鷹司家初代当主鷹司兼平…ゼーユングファー、あなたを止める者だ!」

兼平が戦うという判断をすると、良元は笑い、そのまま倒れてしまった。

「そう…私は18女”嵐”の元祖ゼーユングファー…その決闘受けてたつ!」

次の戦いが最後となる、それはゼーユングファーも兼平もわかっています。勝ち目がないとわかっていても良元と基実の思いと命に応えて兼平はたたかうでしょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ