41話中編 オェングスの痛み
スマラグディノスから語られるオベロンの幼少期、それにどんな意味が込められているのか?
44男”知”の元祖オベロン・ティターニア、この男は中立を凌ぐ妖精族の王である。妖精族は精霊族とは似て非なる一族である。精霊が自然を守護する存在であるなら、妖精はこの地上宇宙の物質を守護する存在である。そんな彼が味方につけば、その陣営に好機をもたらすことは決定事項と言える。しかし、彼の頭脳は人類のものではなく、神さえも欺くことさえできるほどの畏れ多い逸材であった。それはクヴァレ帝国に属する元祖らでさえも制御が困難というお手上げ状態であった。
「…」
「別に深い意味はねえよ、オレ様の独断だ」
言葉の詰まるスマラグディノスを見かねてラウルスが分かりやすく説明してくれる。
「セア…オレ様たちの尊敬する長様がオベロンを気に入ってるんだけどよ、オレ様はオベロンが何を考えているのかわかんねぇんだよ」
「―(でしょうね、)」
「オレ様はオレ様なりに見極めたい…妖精王が長に仇なす存在であるか、否か」
ラウルスの問いの意味を聞いてスマラグディノスの中にある鮮烈かつ驚異の記憶が再生される。それはオベロンがまだクヴァレ帝国に属していた神聖時代初期の出来事である。そして私もまだレヴィアタンお兄様に直接仕えていた時期の出来事だ。
「スマラグディノス、今回はとある弟を見てほしい」
それはレヴィアタンお兄様が弟妹ができる度に行っている通過儀礼である。レヴィアタンお兄様は研究熱心な方だ。面白そうなものを発見するために日々奮闘している。その中で発見の確率が高い元祖の誕生には足を運び、私に選別させている。
「今回の元祖は頭脳に秀でているらしい」
「どの程度ですか?」
周りにレヴィアタンお兄様しかいないので、スマラグディノスは声を発する。
「魔法・言語・数学に及ばず様々な学界に影響を与えている…珍しくキルケとソロモンが言い負かされていたよ」
愉快そうに話すレヴィアタンを見てスマラグディノスの頬が緩む。しばらく歩くと、クヴァレ帝国城内にある元祖を教育する特別な部屋につく。そこはガラスの窓で隔たれて、その奥には子供部屋のような監視部屋が作られている。
「まるで無知な獣だな」
そう言うレヴィアタンの目の先にはクロムオレンジの瞳がじっとこちらを見つめていた。あちらからはレヴィアタンとスマラグディノスは見えない構造にしているはずだというのに。
「毒にも薬にもなる弟です」
「――」
オベロンと初めて会った時、”才”を使い、彼の感情を見た。幼子というものは一つの感情が飛びぬけているが、いろいろな感情を持っている。スマラグディノスは今までそういった幼子を見てきた。しかし、その中での唯一の例外。それがオベロンだった。オベロンに住まう感情は”未知を求める探求心”、ただそれだけだった。
世界はどうなっているの?
これはどんなもの?
この人の最後は?
生物の体の構造は?
なぜ、神は存在しているの?
なぜ、人類は争うの?
幼子とは思えない純粋な疑問がオベロンの唯一の感情を作り出していた。もっと恐ろしかったのが、オベロンはその未知を知るために、他者を顧みない計画も閃いていたことだ。そして犠牲という僅かながらの罪悪感すらも持っていなかったこと。あの時のオベロンは怪物に見えた。いや、怪物といった方がいい。
「私の才”色彩”は干渉に成功した者が持っている感情を塗り替える才、その条件は干渉した者が感情を二つ持っていなければならない」
「そんなこと人間問わず、生物も感情は二つ以上あるぜ?」
「…でも、オベロンは一つ……お兄様でさえ制御できなかった天敵、、、」
「…ふ~ん、なるほどな」
スマラグディノスの答えにラウルスは自分の問いが解決したのか、それとも新たな問いが生まれたのか、うやむやな反応をする。
「オレ様が思っていたよりもお前は忠誠心が強ぇんだな」
「…私は何があろうとクヴァレ帝国の元祖、拒まれようと私の色は塗り替えられない」
「どの野郎も自分中心に動きやがって」
ラウルスからこぼれ出る愚痴にスマラグディノスはいつもの穏やかな笑みをする。それは欺くための偽りである笑みだが、今、この瞬間の笑みは心の底からの感情を色でない方法で表している。
「感情のままにお仕えできたわ…」
スマラグディノスは動かなくなった体に最後の力を振り絞って、言葉を紡いだ。それは彼女の嬉々の断末魔であり、彼女の本心であった。スマラグディノスの瞳からは生気が失われ、彼女自身も動かなくなる。しかし、翼は潔白と純粋を示す純白の色に変化する。それは自分の正義に従い、悪に屈しなかったという忠誠を持った人生を表している。少なくともラウルスにはそう捉えることが出来た。
「死んだか」
ラウルスはスマラグディノスの体に触れて、息と脈を計り、彼女の死亡を確認して見届けた。
「オベロンの野郎、偽の計画伝えやがったな」
オベロンの作戦は裏切者の捕縛と説得を完了させて、スマラグディノスの戦意を喪失させて、こちらの戦力に加えるようにするものだ。オベロン曰く、スマラグディノスはレヴィアタンに洗脳されているため、毒で強制的に洗脳を解けばいいだろうということ。だったのに、スマラグディノスは彼の見解とは異なり、ラウルスすら予想していなかったレヴィアタンへの忠誠心という熱烈な感情を持っていた。それが始祖ラウルスの任務の完成度に綻びを生じさせた。
「ふぅ」
小さくため息をつくラウルスは昔のことを思い出す。それは妖精族を原初一族の保護下に置くことを正式に認めた時のこと。ラウルスは見た目で判断されるが一族のことに命を捧げるほど、原初一族を守護することを誓っていた。その中でどうしても彼女が納得できないことがあった。それがオベロンである。彼女は昔オベロンのことを、妖精族保護を判断した張本人であり、原初一族長であるセアに抗議したことがあった。
『おい、セア!』
『?』
『オベロンを信用してんのか?』
『ええ、同じ守護者だし』
『中立派の妖精を保護してもオレ様たちに害はねぇが、オベロンは違う!』
『…』
『あれは探求心そそる興味が敵にありゃ、すぐに裏切るだろうが!そんな奴を原初と共存させていいと思ってんのか!』
ラウルスの怒りじみた声にセアは臆することなく、その反応も想定済みだというような態度をとる。
『裏切るだなんて…ラウルス、あなたオベロンのこと信用してるのね』
くすくすと揶揄うセアに鋭い眼光で訴えるとセアは朗らかな笑みを浮かべて芯のある言葉を紡ぐ。
『興味を引き起こすものさえあればいいなら、オベロンの知識で悩み続ける事象をオベロンに教えればいいのよ』
『その事象は?』
『内緒』
あの時の答え、セアが語ったオベロンに対しての事象ははぐらかされて、今に至っている。セアのことを信用しているため、何かあるのではないかと緊張することはないがラウルスはずっと、その事象とやらが気になっていた。だが、それはラウルスが金輪際知ることのない事象である。その事象を知っているラウルスはため息をつく。
「どいつもこいつも隠し事ばっかりでうんざりだ」
感情が1つしかない異端の存在であるオベロンのことを聞いてラウルスはどんな結論に至ったのか?
そしてセアが気にかけていることを考慮して、これから何をするのか…楽しみです!
次回更新は1月1日です、




