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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
7章 知識の海
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41話前編 オェングスの痛み

長男次女についで、ついに元祖の長女ラウルスの能力が開示される!

有翼族、かの種族は他の種族より感情の徳逸が目立つ。それはかの種族の特権である。有翼族は一匹一匹が持つ感情が違う。その感情は次第に翼へと移り、翼はかの種族の恣に肥大化して、羽化する。それは主人を守る翼、主人を仇なす者を牽制するための翼、かの種族は一度忠誠を誓った相手には翼枯れるまで死力を尽くす跖狗吠尭(せきくはいぎょう)な一族である。

そして、有翼族の長は一族の中で最も感情について識る翼を持つものである。


「お前の主人想っての感情…オレ様がぶち壊してやる」

「やれるものなら、やってみなさいよ!」

真顔のスマラグディノスを横目に石パイプに力を入れ、振り回して牽制する。その影響は竜巻を引き起こして、異空間空の大地の木々を薙ぎ倒す。力任せの攻撃かと思ったが、スマラグディノスの行動の軌道を読みやすくする先手の戦略である。スマラグディノスは翼を羽ばたかせ、空へと飛ぶ。その翼はハンターグリーンに塗り替えられて、主人に対する感情を侮辱されたことに憤怒の意を示していることをラウルスに伝えている。そして一度高く高く飛び、目的の高さまで行くと翼を羽ばたかすことを止め、一気に急降下してラウルスに落下を利用した物理の体当たりを行う。

「…へっ!いいな!」

避けることなく嬉々として受け止めたラウルスは腹部を抑える。冷汗など彼女に危機感を伝える素振りさえ見えないことを確認すると、スマラグディノスはもう一度高く高く飛び、急降下からの体当たりを仕掛ける。それを直前で視認したラウルスは受けに特化した構えを取る。

「!」

しかし、地面すれすれで飛んでいるスマラグディノスを見ると、彼女の翼は変色していた。それはマンダリンオレンジであり、スマラグディノスのラウルスに対しての余裕を示していた。その意図を考慮もせず、ラウルスは構えを崩さない。

「よかったわ」

ぼそりと呟く彼女の手には翼の羽を双剣のように持つスマラグディノスは高速さを利用して、ごり押しの力で羽を振る。一度ラウルスに刃を交え、急降下したまま踵を翻して背後からもう一度羽を振る。

「…怪力ね」

羽を体に入れたまま、その箇所の筋肉を凝固させて羽を抜かせないよう、隙を作って広範囲で動くスマラグディノスに一発拳を交える。その拳は予備動作がないというのに、拳が当たる間隙から振動が伝わっている。スマラグディノスはその拳を翼を盾にして防ぐ。拳が翼に触れた瞬間に、それまでとは比べ物にならない衝撃と振動が一帯を轟かせるが、彼女の翼には傷やへこみが一切見受けられない。

「翼の肥大化…話だけしか聞いてねえからわからなかったが…なるほどなぁ」

妙に納得したラウルスの警戒が解けた刹那を見計らって、翼から羽を抜き取って腹に突き刺す。

(硬い…まるで鋼のよう…)

その羽はラウルスの腹を貫通せずに、先端を粉々に人知れず粉砕してしまった。あまりにふざけた頑丈さに驚くスマラグディノス相手に、下から上へ蹴りを決め込む。彼女は上空に蹴り飛ばされたが、翼を開いて空中で態勢を整えて、ラウルスの拳の衝撃が届かぬ上空まで飛び、滞空する。

(長女ラウルス御姉様…レヴィアタンお兄様からの情報だと御姉様は武器無しではノーヴァお兄様とイニティウム御姉様を圧倒する実力の持ち主…そして、今分かった…タフネスも恐らく元祖の中で最上位に君臨するわ、”才”なのかしら?)

スマラグディノスは翼を梳かして、美しさを保つ。じっとラウルスを見下ろす。何を思ったのか、彼女の翼は女の翼はパールホワイトに変色する。

「単純な肉弾戦の強さは私には悪手よ、御姉様…なぜかしら、胸騒ぎがする…」

彼女の翼から読み取れる真意はレヴィアタン(主人)に対する篤厚を示すホワイトに混じった目に見えない胸騒ぎの原因に臆する躊躇の意が示されていた。

そして下から猛々しい威圧を放つのは、この戯れが楽しいというラウルスの感情であることをスマラグディノスは認知していると同時に、今この場で殺しておかなければならないという使命感が生まれた。そんなことは露知らず、ラウルスは赤くなっている拳を見つめ、スマラグディノスのことを考えていた。

(有翼族は感情の昂りが翼に現れることで有名だ、セア(あいつ)が張った結界も周りからの感情が当てられると結界硬度が向上する効果が付与されている…セアはそれを狙っての行動だが…さっき触った感触、イニティウムの合成した鋼より硬いんじゃねぇか?)

拳から石パイプに目を移すと、石パイプには大きな亀裂が入っている。これはスマラグディノスの羽を受け止めた時についたものである。

(羽一つ一つが最上級の資源に匹敵する…が、さほど攻撃力はねえな?…急降下するスピードで威力をカバーして、そのスピードに耐える硬度を利用しての体当たり…なんだかなあ、舐められてるな…レヴィアタン(くそ野郎)に!)

「となれば…」

またも嬉しそうな表情をするラウルスに絶対的な敵対心を持ったスマラグディノスは始めとは比べ物にならないほどに肥大化した翼を羽ばたかせて、異空間の上空限界にまで飛び立ち、空の頂にまで到達すると、深呼吸する。見下ろせば、何もかもが小さく、その存在はあるのかと言うほどちっぽけなものに見えた。と、同時に高所から飛び降りる恐怖を抱える。

「私の翼なら」

そう自己暗示をかけて、スマラグディノスは急降下する。空気抵抗を極限にまで抑えた彼女の降下速度は音速に匹敵していた。その音速により、彼女の翼の硬度はこの宇宙随一に昇華して、ただただ目の前の強者を文字通り命がけで殺そうと考えての行動だ。スマラグディノス自身が下降気流となっていて、その影響か周りには上昇気流が生じている。それを読んでのことか、ラウルスは不敵に笑う。

「命懸けか」

スマラグディノスは悟っていた。この方法でも恐らくラウルスは被害を最小限に抑えることができる。そのスマラグディノスの考えは合っていた。しかし、今から執るラウルスの行動は、スマラグディノスの予想していた対策の方法とは異なっていた。ラウルスは(せき)パイプを地面に力強く投げ捨てて自らの武器を自らの手で破壊する。もともと亀裂の入っていた石パイプは粉砕して、小さな宝石が散らばっているような輝かしい空を作り出す。スマラグディノスが影響を及ぼす前に宙に散らばった破片は上昇気流に乗り、スマラグディノスの周りへと散らばる。気流の影響で微細になった破片に気づかず、スマラグディノスは生理的現象で息を吸う。

「ごほっ!…」

息を吸った瞬間、彼女は吐血して咳き込む。そのたびに血が混じり、彼女のアドバンテージであった音速の体当たりを中断せざるを得なくなった。そのスピードを抑えるために空気抵抗を受ける体勢に持ち直して、その他に翼で木々を薙ぎ倒して勢いを殺す。状況が整理できない。整理のため、足を地につけて息を整える。

(体が熱い、呼吸が…できない⁉)

混乱に陥るスマラグディノス。彼女の体の神経に得体のしれないものが流れている恐怖と、それをどうにかしようと働く細胞が過剰に稼働して内部崩壊を引き起こしているような痛みに苦しむ。この状態にしたラウルスにやっと向き直ると、彼女は複数の試験官の蓋を開いた状態で持っていた。


「御姉様っておかしいわよね」

クヴァレ帝国城内のレヴィアタンの私室で寛ぐ3女”情”の元祖ラミアは艶めかしい物を見るような目で、壁に飾られてある標本を眺める。それはどこにでもある見本のような蝶の標本である。しかし、目を凝らすと蝶の翅は溶けているようで少々不格好である。

「そうかい?私は気に入っているよ」

ラミアが批判する標本に好意を示すレヴィアタンに目を向ける。

「イニティウム御姉様は愛を伝える・表現する手段として純粋にモノづくりに励んでいるわ…ラウルス御姉様は独特の感性で美を図る…御姉様のお眼鏡にかかったものは等しく()()されてきたわ」

「あの人は美しいと思えば、どんな手段でも、誰であろうとも殺そうとする殺人鬼だよ?最も元祖らしい元祖さ」

レヴィアタンの相槌に渋い反応をするラミアは話を続ける。

「だけれど、御姉様は気に入らないものは自分で美しくするわ…今に至るまで、どれほどの者が被害に遭ったか」

「目的の為なら一つを特化させる…あの人にとって、それが”毒”であったというわけさ」

「惜しくはないの?スマラグディノスを失うことになるのよ?」

「仕方ないさ、これも策の一つだ…だけどま、同情するよ…ラウルス(あの人)は私の人生で唯一、私に悔しいと思わせる怪物だからね」


「香の調合と毒の配合って似てんだぜ、馴染みねぇだろ?」

ラウルスは蓋の開いた試験管を傾ける。試験管の中の粘り気のある液体はゆっくりと垂れて、ラウルスはその一瞬で別の試験管に調合する。


「あの人はね、生きた中で唯一研究し続けていることがある」

「それが毒?」

レヴィアタンは一時ラウルスのもとで指導を受けていたときのことを思い出す。皆が想像する魔女のように怪しげな実験を繰り返すラウルスの日常はレヴィアタンにすら意味不明な効率の悪く結果を成さないことの無謀な繰り返しだった。しかし、それがあるからこそラウルスの強さを生み出したのかもしれない。

「現在する毒の全てはラウルスが監修している…毒と毒の割合、毒の腐敗と酸化を見計らった調合、季節によっての毒の痛さの調整、温度下での影響…毒に至るすべてがあの人の肉体と魂に刻まれている」

「…っ!」

「そうさ、あの人はその空間の条件と敵の状態に合わせて最適の毒を瞬時に配合することができる…”調香師”、それがあの人の始祖の役職だ」


調合の完了した毒は粒子が光を反射して毒であるというのに神秘的なものであると錯覚してしまうくらいに美しい。その色は夜の神秘と恐怖を体現する深い紺碧。スマラグディノスは”色”の元祖の性か、その紺碧に目を奪われる。すぐに意識を毒から自身の心に戻して、羽を一つ取る。ラウルスはスマラグディノスに戦闘意欲があることを確認すると一欠片の躊躇を払拭する。

「私の忠誠に毒なんて、、、関係ないのよ!」

スマラグディノスの怒号は翼に移り、翼が彼女の欲に答えようと暴風を引き起こす。彼女を中心として吹き荒れる風は竜巻へと進化する。森は姿を変え、竜巻に飲み込まれる。それがスマラグディノスの貪欲、忠誠心を物語るには、これ以上ないという最適な事象であった。その暴風の刃はラウルスの体を切り刻まんと、吹き荒れる。

「お前の感情、オレ様がぶち壊してやる」

危機的状況に臨むラウルスの姿勢は普段と変わらぬ、ニヒルな笑みを浮かべている。ラウルスの持っていた試験官が暴風に飲み込まれて砕けた。その中に入っていた紺碧の毒は水のように滴るかと思えば、毒々しい液体が水蒸気となって、煙幕に姿を変える。

(毒の煙幕!)

暴風で吹き飛ばそうと思ったが、感情暴走とともに比例するスマラグディノスの翼は肥大化し続ける。その煙幕だけがラウルスを彼女の視界から外した。スマラグディノスはマラグディノスは竜巻で自分とラウルスを隔て、姑息な防御を講じる。

「ゲホッ!比べ物にならない毒…どうしろってのよ…」

解毒剤もなく、全身に毒が回っている状況。そして肉弾戦では元祖でも上位の実力を持っているラウルスへの打開策が彼女には思いつかなかった。いや、打開策は無いのだ。命を懸けた体当たりはラウルスの刹那の奇策によって覆された。それが駄目であるなら、スマラグディノスに出来ることなどたかが知れている。

「っ!」

頭をフル稼働させているスマラグディノスは必死で懸命だが、その懸命が仇となってしまう。ラウルスを倒すために策を講じるが、それは同時に行わなければならない。意識の偏りは現実があると忘れさせる。意識の中のラウルスはなにもしてこないが、現実のラウルスは慈悲など無く、隔てていた竜巻に生身で飛び込んできて、スマラグディノスの目の前に姿を現す。

それはスマラグディノスにとって理解しがたく、受け止めきれない絶望の刹那である。

「ばかじゃないの!?」

スマラグディノスが言うのはラウルスの愚行な行動だ。竜巻の壁の中は想像を絶する刃が交錯している。そのため、ラウルスの体には無数の切り傷がある。だというのに、ラウルスは怯むどころか、その痛みを原動力として行動の精度が高くなっている。拳は迷うことなく、スマラグディノスを捉えていた。

「ばかだろうがなんだろうが、オレ様の手段(やり方)はこれだ」

ラウルスはスマラグディノスの腹の中心を思いっきり殴る。その威力は一帯を震わせる衝撃波を生み出す。その拳の影響かスマラグディノスの意識は浮遊し、受け身をとることすらできなかった。

ドサッ!!

スマラグディノスの体は重力に逆らえず地面に横たわる。

「――…」

「生きてるよな?」

朦朧とする意識の中でもラウルスが呼び掛けていることがわかる。スマラグディノスは声が出なかったが、一回瞬きをして生きていることを伝える。

「なら良かった…久々だったから加減間違えたぜ」

(加減……私は始めから相手にされていなかったのね、これが始祖…)

スマラグディノスの虚ろな瞳に映る景観には青々とした空と棚引く雲がある。それは彼女の心情を励ましているのか。今のスマラグディノスにはそんなことを考える気力は残っていない。そんな彼女に歩み寄るラウルスは声を低くして、スマラグディノスに問う。

「弁明の機会(チャンス)だ」

「―!」

「オベロン・ティターニアという元祖について、洗いざらい話せ」


美しきものを保存する悪趣味の持ち主のラウルスだが、始祖の役職調香師としての実力は本物のようで才も権能の詳細も秘密にしたまま決着をつけた!

しかし、ラウルスには思うところがあるようで…

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