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NO PAIN~女神は眠りの中に~  作者: おじゃっち
7章 知識の海
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39話 トゥランの痛み

憤慨しているオリゴをどう止めるのか?

そして彼女が気にしている彼女の出生について、父親から真実が語られる!

「マナ魔法原子系原子(モーントフィス)分解(スターニス)

オリゴが魔法を詠唱すると、手を向けた先が何もかもが消えた。それは2人がここに来るまでに見た虚無の空間と同じものだった。ノーヴァはカトレアとの会話を会話を思い起こす。

『洞窟でお話ししたように魔力に合わせた魔法を使わなければなりません…妾はエーテルという魔力を持っておりますので古代魔法を…聖女は聖力なので聖術を…しかし、今の人類(もとい)魔法の開祖の持っている魔力のほとんどはマナなのです』

『つまり、今の魔法術式のほとんどはマナの魔力のためにあるのか?』

『そうですわね…やはり人が多いと、それに合うように開発されています…ですが、洞窟で見せた水を操る魔法・火を出す魔法といった魔法は()()()()()()()使()()()ようにと開発されていますので、一概に全てがマナ魔法の為であるとは断言できませんわ』

『それでも魔力が異なる者が使うときは術式や詠唱は異なるのだろう?』

『お察しの通り。ですが、座天使(ソロネ)級魔法使い木聯はマナ魔法の新たなる系統である武器魔法ディアンケヒトを開発し、その地位を得ています』

『では…オリゴが地位を得た理由は…』

座天使(ソロネ)級魔法使いオリゴ・アポストロス、マナ魔法原子系魔法の確立…それがかの方の魔法使いとしての功績です…その魔法の名こそ…』


「原子魔法”ルフトシュピーゲルング”…」

ノーヴァはそれだけしか聞いていなかったが原子魔法というだけあって、魔法の中でも別格に厄介で対処がないということを理解している。そしてその代償もよく理解している。だからこそ、本気で挑むのだ。オリゴがまた手を向けたことを視認して木を盾にする。

「…!」

すると、盾にした木が跡形もなく消滅した。オリゴは間髪入れずにあらゆる方向に手を向けて、原子魔法を乱発していく。一瞬、魔法の使用が遮断された隙にノーヴァがオリゴの間合いに踏み込んで刀を振るう。

「マナ魔法原子系原子(ゾネンフィス)構築(スターニス)

オリゴが詠唱すると、彼女の手にはノーヴァと同じ刀、祢々切丸が握られており、ノーヴァの一撃を受け止めた。彼女の背後を取ったプロエレが槍で一突きすると、オリゴはジャンプして2人と距離を取る。

「逃がさないよ」

プロエレがそう言うと、彼女の頭上には大量の水が出現する。プロエレは槍を投げる構えを取り、オリゴを的に力のままに投擲する。

「…」

冷酷さが激しく燃える瞳がそれを視界に捉えて、鋭く光った。そう思うと、槍と水の一切が消滅した。

「まったく困った子だね…才も、魔法も…」

(オリゴの才”極夜眼(きょくやがん)”、その瞳に映ったものは原子まで見通すことができる…原子魔法が完全に制御できているのは極夜眼のおかげ…)

「ノーヴァ、原子魔法は恐らく2つ。原子まで分解する魔法、原子モーントフィス分解(スターニス)。そして原子の構築を再現する魔法…原子ゾネンフィス構築(スターニス)。その発動条件は、オリゴが直接視界で原子を見ている時…」

「あるいは、オリゴの手が向けられている時だろう。魔法をどうにかできないのか?」

「無理だね。なんてったって、あの子の始祖の役職は()()()使()()だよ…」

プロエレの手にはいつの間にか同じ槍が握られており、なぜか笑っていた。2人で話をしていると、オリゴの拳に力が入る。

「なんだ、その眼は…散々!!! ,オレを蔑んで!!!」

「すまない、お前がそこまで思っていたとは…」

「何も知らなかったなどという…その態度が…オレには酷な現実で、オレの存在を否定して、オレを絶望させるんだ!!」

ノーヴァはオリゴからの憎悪を感じ取り、目を細める。膨大な感情の波にノーヴァは才の能力上、腕から血が滴る。

(俺が直接触れずとも干渉してくる憎悪の痛み、これほどの”痛覚”を抑え込んでいたとは…)

「様子がおかしい」

ノーヴァがオリゴを凝視していると、周りの異変に勘づいたプロエレが眼をしばたたきさせて、ノーヴァに訴えかける。彼も周りに注意を向けると、彼でさえも認識できる粒子が舞っている。その粒子からは危険要素は何一つ感じ取れなかったが、粒子が木に当たると、粒子が震え始めた。そして、粒子に連動して跡形もなく消滅した。たった一瞬の出来事であったが、オリゴの脅威を認知するに値するものであり、オリゴの本性もノーヴァに垣間見えている。

(面倒なのは魔法の最高等級を出されたら最悪手でも切り落として…いや、あたしの馬鹿力だと首も落としちまう…あっ、でも、イニティウムとラウルスに治してもらえばいいか…)

「ノーヴァ?」

試行錯誤を繰り返して、オリゴをどう取り押さえようかと考えていると、ノーヴァが一歩進む。ノーヴァは祢々切丸を投げ捨てる。

「!」

「なっ、なにやってんだい⁉」

ノーヴァの意味不明な行動にプロエレのみならずオリゴでさえ驚嘆の声を上げる。分解の力が付与されている粒子は絶えずオリゴが生成しており、肉体に当たれば、消滅してしまうという危険が高まる無防備な状態でどうする気でいるのだとプロエレは訝しげに睨む。

「俺は家族を尊ぶ。娘が泣いているんだ。今すぐ抱きしめなければならん」

「…オレが泣いているだと? 戯けたことをぬかすな!!」

「いいや、泣いている。俺の”痛覚”がそう捉えている」

「そんなこと、ありえない!!」

オリゴの感情の起伏に伴って、宙を揺蕩う粒子の動きが加速して、威力も増している。しかし、そんな状況でノーヴァはオリゴに向かって一直線に歩いていく。

一歩一歩、ゆっくり。そう、ただ歩いているだけなのに。なぜだろうか、ノーヴァから目が離せない。それは王者の風格、歩いているだけだというのに、彼の邪魔をしてはいけないという使命感と恐怖に苛まれる。おおらかで寛大な彼が、今は、畏敬の存在に成り果てているのだ。

「っ…それ以上、オレに、近寄るな!」

やっと言葉を紡いだオリゴの頬に冷や汗が流れ、オリゴとノーヴァの間に決定的な序列が定まったことを告げていた。オリゴもそれが分かっていて、早くノーヴァを自分の前から消し去ってしまおうと、誤った判断を下してしまった。そして、ついに気づく。プロエレがいなくなっていること、粒子が一切無くなっていることを…

「まさか…」

オリゴは顔を動かして、周囲を確認する。

「早く、消さないと…早く」

小さく語ったオリゴの使命に満ちた言葉と同時にオリゴから大量の粒子が溢れ出る。それは彼女自身も消滅させてしまうような危険な魔法であった。しかし、その魔法は一瞬にして崩壊する。いつの間にか、オリゴの背後に回っていたプロエレがその一帯に水を放出して分解の能力を持つ粒子を水もろとも消滅させる。

「っ!!」

咄嗟に後ろを見て、オリゴはプロエレに手を向けて、

原子モーントフィス分解(スターニス)!」

それは防ぎようのない魔法、しかし、プロエレはにっと笑い、オリゴに語る。

「悪いね、オリゴ…この槍は原子で出来ていないんだよ」

「…」

「あたしの”才”はお前にとっての天敵、だからこそ、セアはお前とあたしをペアにしたんだよ!」

「なら、お前の存在ごと分解してやる!!!」

オリゴの険しい剣幕を見たプロエレはすぐに後ろに下がって、役目を果たしたとでもいうように両手を上げる。

原子分解(モーント)、、、」

魔法を展開しようと詠唱を始めたオリゴの腕がぐいっと力強く握られ、身体を抱き寄せられる。情緒不安定なオリゴが心から安心を得られたと思うほどの安楽に包まれる抱擁、それは誰でもないノーヴァであった。

「お前の母は俺に盲目的に心酔していた…その敬愛は度を超え、ついには俺と繋がっているという証を得たいがために、俺の精子と細胞を入手し人工人間の研究という禁忌を侵した…成れの果てでお前が誕生した」

ノーヴァが父親として、オリゴの出自を語り始めた。それにオリゴは憤慨している。が、後ろでプロエレが控えているため思ったように動けないでいる。その状況を不本意ながらも利用して、ノーヴァは昔のことを、真実をオリゴが問わずとも話す。


お前の母は、お前を連れて俺の目の前に姿を現した。そして、嬉しそうに、こう語った。

『貴方様は無垢な子供を殺せはしないでしょう…この赤子が生きる限り、貴方様は縛られ続ける!!』

吐き気がしたさ、1人で生きることなど到底不可能な赤子を利用する塵芥の外道に…俺はお前の母をこの手で殺した…この女がいる限り、俺の周囲が迷惑を被ってしまう…それは俺の望んでいることではない…


「オレはこんなことになるのなら…その時に死んでいた方が…あんたの手で殺されていたら、どれほど…」

”絶望しなかったか”、オリゴの苦痛に(まみ)れた一言が、彼女の口から発せられなくとも、手に取るようにノーヴァには分かった。

「お前が泣いていたんだ」

ノーヴァはゆっくりと、語り、その間もオリゴを安心させるために抱きしめる。


お前が望んだとおりに、初めて対面した時に、酷な未来が待ち受けている現実から解放させてやろうかと…お前を亡き者にしようと思ったんだ…だが、お前はずっと泣いていた…まるで、今自分に起こることが分かっているのかと…

それだけではない、”生きたい”と…懇願していた…”まだ死にたくない”、そんな言葉で言い表せない心を、必死に、涙で訴えかけていた…生に縋る本能のままに…


「では、なぜ原初一族なのだ…それなら、夜の一族でよかったのではないか…」

「それはいけないよ!」

オリゴとノーヴァの会話に割って入ってきたプロエレが真剣な表情で彼女らを見る。

「原初神の血を継ぐ原初一族は地上宇宙(バース)では始まりを意味する…だけどねぇ、夜の神の血を継ぐ夜の一族はあたしたちとは正反対、終わりを意味する…だからこそ、原初一族(あたしたち)夜の一族(ノーヴァ)は決して()い交ぜることの無い関係…お前は原初の血が濃かったから、あたしたちが引き取ったんだ」

それはノーヴァでも抗えない神の定めた原初一族と夜の一族の絶対な掟、ノーヴァはそのことを今でも納得していないというようにオリゴを抱く手に力が入る。

「離れたのは、こんな俺が…赤子を殺そうと一瞬でも考えてしまった俺をお前が蔑むかと思ったんだ…だが、お前を蔑むなど言語道断…片時もお前を愛さなかったことはない…」

オリゴの瞳から一滴の宝石が零れ落ちる。

「愛している、愛娘(オリゴ)

その一言にオリゴは泣き崩れる。そんな彼女を自身に抱き寄せて、彼女の名誉を重んじて泣き顔を隠す。声にならない泣き声は、赤子の頃の生に縋る本能からではなく、娘としての愛に縋る本能から来ているということをノーヴァは、今まで生きてきた経験から理解していた。だからこそ、ノーヴァは今まで抱きしめられなかった分を思う存分、時の許すまで堪能する。

”愛している”という刹那の言葉は、永劫に等しい時を生きた父親(ノーヴァ)が紡いで蓄積していた切望の言葉で…永劫に等しい時を生きる(オリゴ)が無垢な感情の清き心が欲してきた待望の言葉であっただろう…

「さて、親子のお熱なところ悪いけど…オリゴ、弁明をあげよう…お前の裏切者の火を点けたのは何故だい?」

「…聞いたんだ、オレの出自を…それで、今まで、騙されたと思ったんだ…」

「誰に?」

「スマラグディノス…」

「!」

驚くノーヴァとは対照的に、プロエレは予想していた答えに眉を顰める。

「ディーは声が出せないはずでは…」

ノーヴァの驚いた観点はスマラグディノスが喋れるということ…彼女ら有翼族は声帯を切られている、故に、誰も彼女らの声を聴いたことはない…

「命を懸けた演技、命を賭す潜入捜査(スパイ)…まったく、これだからクヴァレってやつは…」

プロエレは悪態をつくが、オリゴに戦うように指示を出す。

「裏切者の鬼ごっこは終い…だけど、鬼ごっこは続いてるよ…樂しい娯しい鬼ごっこがね!

白を黒にする怪物との演劇を!」





オリゴが人工的に創られた人間である、その事実に驚きつつも、最後はノーヴァの口から愛していると伝えられてオリゴは安心したことでしょう…

セアはオリゴ含めた始祖のことについては、ある程度知っているし理解も示しています。だからこそ、始祖という制度を設けたといっても差し支えないでしょうね…

夜の一族と原初一族は決して綯い交ぜることがない関係、セアとライラの関係はどうなのでしょう?


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