38話 アストヒクの痛み
セアの復活の鍵を握るのは原初一族!
彼女らは復活のキーを揃えるために行動に移るが…どうやら、その行き先は不穏のようだ
チップテトラ中央部原初一族本部、別室に造られた巨大な製錬場兼鍛冶場にイニティウムとラウルスが足を踏み入れる。立派な火床と鍛冶炉がある。相当使い込まれているのか、焦げた跡がある。火床と鍛冶炉、どちらも鉱石や玉鋼の加熱に必須であるが、イニティウムは高温と低温の炎を両方用意して、鍛冶するため、特注で造られている。壁には玉箸や平箸、大槌など鍛冶に必要な道具が整頓され、イニティウムはその中から小槌を選び、金床も準備していく。
「で、このでけぇ槍どうすんだよ?」
退屈そうに指をいじって遊んでいるラウルスを横目にして、イニティウムは鍛冶場の奥からいくつものアタッシュケースを持ってきて、音を立てて特殊な素材で作った机の上に置く。ラウルスは少し体をびくりと震わせたが、アタッシュケースを開いて中身を確認する。それは七色に光る鉱石と緑色の鉱石と蛇の鱗など希少な資源があった。
「麻離也鉱石、魔法石が大量に採取されている夜の海でも限られていて、それは地下の独特な環境に長い間触れて魔法石から魔法鉱石へと進化した最上級の資源、そして…」
七色に光る鉱石は麻離也鉱石の横にある緑色の鉱石の一部分だけ切り、ラウルスに渡して見せる。
「エメラルド?」
「それだけじゃないわ、ペリドット、グリーントルマリン、スフェーン、ミントグリーンベリルとか多様な魔法石が結合しているわ…ライラが魔法石の研究に明け暮れていた時期があったでしょう? これはその時の産物、彼女はキリャ鉱石と名付けたわ」
「で、これがなんだってんだ?」
「ここにある鉱石は夜の一族の長でしか採取ができないほど貴重で、資源として最上級のもの…それゆえ資源としての扱い方が難しい、刀や槍を作る時にも三種類以上の魔法石を配合を変えて鍛造する手法が一般的なのは知っているわね」
「まあな、お前に口酸っぱく言われてんだ…それでも配合を間違えると、武器としての力がうまく発揮できないとか、すぐに壊れるとかあんだろ?」
「その問題を解決するのが、蛇族の鱗よ」
アタッシュケースではなく木箱に入っている鱗を見せてくれた。その鱗は白練の了承の上、彼女から採ったものである。
「蛇族は私を除いて唯一人類に神器を与えることができる一族。これは秘密だけど、彼らの体そのものが神器の材料となるの」
「ハァ…そりゃ随分と皮肉な一族だ」
「まずは、ライラから譲って貰った魔法鉱石を配合して剱の軸を造るわ…そして、エデンの槍を鋼状に直すときに鱗を加えて、鋼自体も神器とする」
「軸を鋼で包むのか? そんな無茶な手法聞いたことねえよ…」
「できないわけではないけどね~、でも失敗の方が多いから、こればっかりはね…でもまあ…」
イニティウムから笑顔が消えてエデンの槍をじっと見つめる。その瞳の奥には冷たく燃える憤怒が無機質となった彼女の表情がなぜだろうか、哀しみを感じさせる。その表情はラウルスに庇護欲を持たせるように惹きこまれる。
「私が失敗するなんてこと、ありえないから」
一瞬で妖艶な笑顔に戻ったイニティウムに驚くが、態度には出さずに勇ましく鼻で笑い返す。
「そりゃいい」
二人は向かい合ってにこにこと微笑んでいると、脳に直接通信が来た。その通信を聞いて、二人の声が重なる。
「「裏切者」」
「プロエレ」
チップテトラ西部、原初一族支部にある研究室前をプロエレと並んで歩いている時にノーヴァが彼女に話しかけた。
「ん?」
「オリゴには本当のことを言ったのか?」
「言えるわけないだろう? お前を熱烈に想った妹が孕んだなんて、糞をどう伝えるんだい?」
「…」
プロエレの言葉にノーヴァは頭を抱えて溜息をつく。
「今でもあの子に聞かれるよ、自分の父親はどんな人だって…その場は濁してるんだけどね、あの子は賢いから、もう隠しようはないよ?」
「わかっている、その為に俺はここに来たんだ…」
「まあ、あんたが来てくれたのは心強いよ…今、あたしたちは鬼ごっこをしてる最中でね」
「裏切者」
「察しがいいね! そうだ、裏切者…もちろん目的は情報だ…それもあたしたち始祖に関わるとびきりの情報だよ」
ノーヴァはプロエレの言葉を聞いて強い危機感を抱く。ここは地上宇宙の情報がすべて揃っている。そして、それは原初一族始祖についての能力などクヴァレが欲している情報も管理されているのだ。それがクヴァレに渡ってしまえば…
「ん? ちょっと失礼、エドガーからの通信だ」
プロエレはこめかみに手を当てて、ノーヴァには聞こえぬ通信を受ける。そして、驚いたのかノーヴァを見た。
「作戦変更、オリゴを捕まえるよ」
真剣な表情になったプロエレは踵を返す。
「裏切者だよ」
チップテトラ南部、原初一族保護地区では、爆発音が轟き、有翼族や蛇族、熊などの大型動物が四方になだれ込んで混乱に陥っている。建物は倒壊しているところもあり、不自然に虚無の空間が点々としている。かと思えば、凍りついていたり、燃えているところもある。その状況もあってなのか、哀れにも悲鳴を上げ逃げ惑うものたちが跡を絶たない。中には、その場で泣き崩れたり、恐怖で足がすくみ動けない者や、負傷して逃げ遅れた者もいる。
「これは…」
「こんなことできんのは一人だけだよ」
西部にある原初一族支部からカトレアから貰った魔法石で移動したノーヴァとプロエレが凄惨な状況を見て、顔から笑いが消えた。周りでは原初一族の者たちが必死に避難誘導や沈静化にあたっている。
「部下じゃあ心もとないね」
プロエレは槍を手に取る。それは無から生まれることなどないということをノーヴァは知っていたが、能力にある予備動作や時間など一切ないことで無からの創造であると一瞬錯覚してしまった。プロエレは槍を地面に突き立てると、そこから水が出現して辺りを沈静化させる。
「第四の保護地区に避難させなっ!!誰一人として死ぬことは許さない!!総力を持って、守り抜け!!!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
プロエレが毅然とした態度で部下に命令を出すと、部下たちは先程よりも俊敏な動きで避難を開始する。
「ノーヴァ、ここはあいつらに任せな…あたしたちは、、、って…」
プロエレが振り返ると、後ろにいたはずのノーヴァがいないことに気づいた。そして、前を向き、遠くを見つめると猛スピードで走っていくノーヴァを捉えた。
「…油に油を注ぐ行為なんだけどねぇ」
プロエレもノーヴァに続いて走り出す。その前を急かすように走るノーヴァは気が気ではなかった。ただ一つ、大きな力が集まっている場所に危険を顧みずに走っていく。辺りは木が多くなってきて、向かう先には何があるのか、なかなか掴むことができないが、ノーヴァは捉えていた。
「祢々切丸」
ノーヴァは戦闘に備えて刀を取り出す。そしてジャンプして、オリゴに刃を向ける。
「…!!」
ノーヴァの太刀を避け、後ろに下がるオリゴの瞳は瞳孔がオレンジと黄色で、光彩は青く、まるで、陸と海、角度によっては太陽と月を表しているのかというとても美しい虹色の瞳をしていた。ノーヴァが刀を構えて彼女をスマラグディノスに近づけないようにする。
「ディー!」
後から追いかけてきたプロエレがスマラグディノスに駆け寄る。彼女は酷く怯えているが、クヴァレの駒であった時代に声帯を切られているため声が出ずに、大きな仕草で涙を流して訴えかけてきた。
「…大丈夫だよ」
プロエレが一言だけ声をかけて、彼女を部下に預けて向き直る。
「さぁてオリゴ? 裏切者で追われる気持ちはどうだい?」
プロエレが愉快な声で聞くのと対照に、オリゴはずっと暗い顔をしている。しかし、そのアースアイは冷たい炎のようであり、憤怒を露わにしている。でなければ、始祖として原初一族を守らねばならない土地を混沌に陥れたりはしない。
「裏切ったのはどっちだ…」
「!」「…」
冷たく吐き捨てたオリゴの言葉には覇気がなく、まるで事を叱られた子供のなけなしの一言であるようにか細い。だが、その一言に無言である二人にオリゴが燃え盛る怒号を放つ。
「今まで私が欲しくて欲しくて、たまらなかったことをなぜ…今になって‼ ずっと騙していたんだな!」
彼女から向けられたアースアイは燃え盛る炎なのだが、今までの哀しみと裏切りで冷たかった。ノーヴァは曇った表情をして、刀を構える姿勢を崩さないでオリゴを見据える。
「嘘は嘘、どんな事情があろうとオレを欺いたことを後悔しろ!!」
「そうかい…なら…」
プロエレもすっと槍を構えて、始祖としての責務を果たす意思を見せる。
「これより裏切者を処罰する!」
紅帝族序列七位始祖プロエレ・ノウムとノーヴァの共闘、そして紅帝族序列八位始祖オリゴ・アポストロスの闘いに火蓋が切られた。
裏切者を狩る立場にあったオリゴが裏切者⁉
冷静沈着なオリゴは怒りに身を任せたままに破戒の限りを尽くさんとしている!
父として、どう動く、ノーヴァ?




