31話 マクロコスモスの痛み
さあ、前回洞窟型の迷宮で想像していなかった脅威からの一時的に窮地を脱することができた一行…
敵同士でどうなってしまうのか?
そして、今回は木聯達と七洋の闘いに変化が!
でも今回、文字数が多いですね
でも自分で読んでても力作なので、ぜひ最後までお願いします!
「十徳武器魔法黄鉄鉱の盾」
木聯が巨大な盾を魔法で具現化させて、ベルゼブブの放つ無数のダガーから身を守る。しかし、ダガーの接触した箇所から毒が侵食しているのか、腐敗し始めた。
「師匠の言った通り毒みたいな能力使いよる」
「たしか、毒使いのベルゼブブと…玩具のルキフグスだったかな」
三人はウェルテクスとの事前の打ち合わせのことを思い出す。この闘いが始まる直前、魔法通信機で急遽会議をした。魔法通信機で繋がったウェルテクスからはどうしてもという懸念が伝えられた。
『御機嫌麗しゅう、魔塔主様…懸念というのは七洋のことですか?』
『ああ、七洋は一つのことに特化した能力を持つ』
『それってライラ様が討伐したっていうルシファー、とかいう七洋もですか?』
『伝え聞いた話ではルシファーは光の操作に特化していると言う…太陽光の温度の操作。熱から発せられる光を攻撃へと変化させるなど、これだけでも一端に過ぎん』
『そないなもんよく倒せましたなぁ。それゆうたら太陽の生成もお手の物とちゃいます?』
『ああ、容易だ』
冗談で言ったことに真顔で応えられて三人はなんとも言えず顔を見合わせた。
『ほな、どないしたらええんです? わいらが守護者候補言うても本物と比べても一段も二段も足元に及ばん』
『そうですよぉ。そんなら守護者呼べません? なんなら師匠に出ていただきたいですわぁ』
『無理だな。余も出撃したいのはそうだがイニティウムからの依頼があっただろう…あれに借りを作るなぞ気持ちの悪い。それに嫌な予感もする』
『そう、ですか』
『戦闘経験も少ない。いや皆無と言っても差し支えない…あったとしてもお前達では再現できぬ策ではあろうが…』
『…』
『ん~』
『力不足なのは常日頃より理解しています…そうだよね、二人とも?』
ウェルテクスの指摘を受け入れられない二人を静かに窘めるアロエだが、釈然としない。
『そろそろ時間か。現場の指揮は木聯に一任する…だが、七洋に遭遇したのであれば程程に相手をして逃げろ…お前達が敵う相手ではないこと、努々忘れるな』
ウェルテクスの警告がズキリと木聯の心に突き刺さる。七洋を目の前にして、改めて力不足だという現実を突きつけられている、この屈辱をどう払拭するのか、その策を講じるため木聯の思考は目まぐるしい勢いで回転している。
(どないする…聖術は戦いには向かんが拘束には長けとる。ならタチアオイに結界張ってもらって逃げた方がええやろ…時間稼ぎは必要にはなってくるやろが、うちらがおらんよぉなって周りに危害加わるよりはええ…)
「ガハッ!」
思考が完了した木聯が指示を出そうとアロエに視線を向けた先には、空中で吐血して落下する直前のタチアオイが視界に映った。
「あ?」
「ど、く?」
突然のことで理解が追いつかない木聯とアロエだが、気を失っているタチアオイを確実に仕止めようと動くルキフグスを見て魔法を展開する。
「精霊術シルフよ、意のままに!」
アロエが杖を高く上げるとルキフグスに向けて竜巻が発生し、呑み込む。竜巻の中では鎌鼬のような小さな風が四肢を切り裂こうとしている。アロエはその隙を利用する。精霊術で喚び出したシルフが風そのものとなり、タチアオイを優しく包み込み落下を防ぐ。安堵した束の間、ベルゼブブがシルフを斬り、倒れたタチアオイの喉元にダガーを当てた。すんでのところで止める木聯は鬼の形相でベルゼブブを睨む。
「…聖女をこのまま殺させてくれたら見逃してあげるよ~」
ルキフグスが竜巻を破壊して追い打ちをかけようとするが、アロエが阻止する。
「君たちの狙いを聞いてたらそんなことさせたくないよ」
「ほんまや、せやからさっさと…うちの妹から離れぇや」
「あれ〜?俺っちそんなこと言ってたっけ~?」
「白々しいわぁ。イオ大教会の聖女狙う理由なんて一つしかない…’精霊’やろ」
この宇宙には精霊と妖精が存在する。
精霊はその属性と階級ごとに一体しか存在しない。しかしそれよりも精霊と妖精との大きな違いは信仰によって存在の有無が変わること。
「精霊は信仰が途絶えると存在が消滅する。それもただの凡人が祈ればいいんじゃない…魔力を持った者が祈ることで、やっと存在を保てる」
「そやそや、せやけれども昔と比べて一般人で魔力を持っているやつも少なくなりすぎてる…せやから、信者の思いを聖女が担って祈ることで精霊は生き続けて、力を貸してくれとる。それをぶっ壊したいんやろ?」
十徳武器魔法菫青石の金槌
「させん!そんなふざけたことさせてたまるかぁ!」
木聯がダガーを止めたのは素手、掌から出た鮮血を媒介として金槌を現出させ、ダガーを粉砕する。
「精霊術フェンリルよ、氷塊のわだかまりを穿て!」
氷の狼姿の精霊フェンリルを召喚してルキフグスに突進した後、落下を利用してベルゼブブの頭上に杖を落とす。左側の上半身を凍らせて動きを鈍くし、その間隙を灰簾石のナタで追随する。
「アオイ!」
「…あんま騒がんといてや」
か細い声でタチアオイから返答があり、2人は安堵する。ゆっくりと体を起こして状況を確認する。
「わいが死んだら精霊がおらんよぉなる。精霊は宇宙の根っこ。どんなに大層な大樹やろうても根っこが腐ったら聳え立つことなんて出来へん…」
「精霊使いの魔法使いも終わるよ。具合は?」
アロエはタチアオイの血を拭きながら身を案じる。タチアオイはお腹を擦り、眉間に皺を寄せる。
「…毒が、分解できひん…」
「!」
「正確に言うと、魔力分析しても毒ゆう解析結果が出ぇへん…今は魔力も乱れとおて、ゴリ押しの治癒も出来へん」
「そんな…聖術の治癒が使えないなんて…木聯、逃げよう!」
「…現実的や、珍しく…」
聖術は古来よりセレマと呼ばれてきた、その呼称に特段意味があるわけではない。しかし、聖術の特筆すべき魔法は治癒魔法、使い手により効果は変化するので一概に素晴らしい魔法とはいかないものの、頂点魔法と並ぶ敵に回したくない魔法の一つである。
(その中でもアオイの治癒魔法は特別や。治癒魔法だけなら師匠を凌駕する。うちらが立てんよぉなってもアオイが再生させてくれる戦法やった…まぁ、素直に撤退するか)
「撤退や撤退! どうやってお前らのロマンを黙らそぉか考えよったが、先に折れてくれて助かったで」
「…ッ、納得はしてないよ…」
「そうやぁ、でも今ロマンに忠実なっとる時とちゃう」
タチアオイは立ち上がり、ハイヒールを脱ぎ捨てる。そして自身の足と二人の足にも治癒魔法を施す。
「二分無茶してもええで。あとは保証せんけどな」
「それじゃあ」
アロエの合図で一斉に散会して逃げる。戦況を見ていたベルゼブブがゆっくりと手をかざすと、彼の背中から翅が出てくる。透明感のある七色に反射するそれは見ようによっては美しいものだ。だが、三人は勘づく。触れてはならぬものであるということを。
「悪霊の王」
ベルゼブブがそう言うと、彼の翅は巨大化して、その翅に隠る光が鋭く感じる。転瞬、その翅が三人の間合いに進入したかと思うと地面もろとも体を抉る斬撃が入る。三人は間一髪で避けたかと思うと、その翅からはダガーの刃だけが露出したのを視認する。
「いっ、」「やっば!」「クソッタレ!」
不覚にもタガーを回避することが出来ず、神経に影響が出る程負傷してしまった。それでも3人は足を止めない。走り続けながら、すんでのところで避け、ダガーの二段階攻撃に苦しみながらも防御魔法で防ぎ、また走る。
逃げることが最善策、七洋に攻撃を入れながら逃げることはできない、だからこそ走る、走る、走る、血を流してでも走る、致命傷になろうが、生きるために走る。ただそれだけ、その他の無駄な思考を放棄して走る。だからこそ生まれてしまった凡人のミス、この場の彼らにとっての脅威は毒だけでなく、玩具であることを。
「悪夢の首相」
三人の視界に映らない上空にまで滞空していたルキフグスの地上を見る瞳にはベルゼブブはすでにいなかった。それは地に足を下ろしていた三人にも共通していたこと、だが、そんな悠長なことを気にしている場合ではない。三人は何か起こりうる最悪の範囲の外にまで逃げ出す。
「仲が良いっていうのは羨ましいねー。だから仲良く一緒に殺してあげるよ」
地面が揺れる。それは立っていることもままならない威力の揺れ、斬撃で出てしまった石クズが傷に入りこんで更なる痛みを生む。アロエは杖を立てて踏ん張り、タチアオイは意地だけで地面にしがみつく。
(最悪の未来が見える…)
現状をどうにもできない二人とは反対に、木聯は最悪の事態を想像して、早急に防御魔法を展開する。そのコンマ一秒後、地面が割れ、その波に呑み込まれる。
ほどなくして揺れが収まったタイミングでベルゼブブとルキフグスが地上に降りる。そこに映ったものは想像を絶する惨劇、魔法使いの最高峰座天使級魔法使い三人が大量に血を流して気絶している。その息も細く、もう死んでしまっているのではないかと絶望する。だが、それはあくまでも人類側の反応で、七洋と呼ばれる神にとっては当たり前の光景である。弱者である人間が頭を垂れる、その光景。
「ここまでやれば死んじゃってるよね~」
「まもなくだな…聖女には毒が回りきっていた、時間の問題だったがまあ、ある程度は楽しめた…」
「精霊は存在を保つために膨大な魔力と信仰を必要とする存在。現代でその役を担っているのは聖女のみ…難儀だね~。選ばれただけなのに人生を棒に振るなんて」
十徳武器魔法瑪瑙の鋏
瓦礫に埋もれていた木聯は好機と不意打ちを仕掛けるが、ルキフグスは動揺することなく彼の手首を握り、腹を足で蹴る。あまりの威力に吐き出して項垂れる。そんな木聯を見たルキフグスがピョンピョンと跳び跳ねて、木聯の目線に合わせるように腰を下ろす。
「魔法ってさ? 理想を生むもんだろ? 他の二人は理想高いんだよな。理想、いやロマンだったけな? それを持ってるヤツが魔法使いに向いてるぜ? なあ、ベルゼブブ」
「…ああ、だが貴様の魔法は現実しか見ていない実用的な魔法…魔法は当人の思考に影響されるというが、貴様は魔法使いとして向いていないな」
容赦のない言葉の刃、いつもなら軽く受け流しているはずなのに圧倒的強者を前にして現実という名の枷に木聯は繋がれる。
「分かっとるわ、そんなこと…うちが魔法使いに向いてないこと、口酸っぱくして言い聞かせよる…これだけは言わせてもらうわぁ」
神を前にして走馬灯が木聯には映像として流れる。それはアロエと話していた記憶、
『…まただよ』
『なにがや?』
『木聯と僕が指導すると、皆木聯を悪く言う…こんなに才能があってすごいのに』
『あ~…どうせ理想やら、ロマンが無いって話やろ?気にすることないでぇ』
いつものこと、二人で部下を指導していると言われる愚痴。当人の木聯は毎度の事で気にも止めていないが、アロエは不服そうな顔をする。それを見て、仕方ないなぁと本を読んでいた手を止めて、本を置く。アロエに近寄って、思いっきり脇腹をくすぐる。
『もく、れ…アッハハハ!もう、やめ』
それに反応してアロエは大きな声を上げて笑う。笑いすぎで息が切れそうなところで擽りを止める。
『お前は笑顔が似合っとる』
『またそうやって、はぐらかす…』
笑いながらも不貞腐れた態度に木聯は笑ってしまう。そして、アロエを納得させるために約束する。
『夢見せるヤツが正義なら、現実見せるヤツは悪や…やけど、どっちも進化に必要ってんならうちが汚れ役なっちゃる…どんな目に遭ったとしてもな』
「神、人間関係ねえ!うちのもんに手ぇ出したんや、さっさと死ねや!」
十徳武器魔法月長石の銃
十徳武器魔法で100丁の銃を生成する。それは宙に浮いて、銃弾の雨を注ぐ。
「おーう、まだやれんのか」
「デザートか…」
余裕に躱して、敢えて銃を破壊しないようにしている。だが、その油断は木聯にとっては好機だ。銃は百から千、一万から十万とハイペースで生成され、避けることが不可能なまでの弾幕を浴びせる。
「げ、ほっ…」
木聯が吐血した。それは無理もない。急ぎ治療が必要な体に鞭を打って、空っぽになっていく魔力を生命力で補い、無数に増えていく銃を一つ一つ操作しているため、身体的にも精神的にも限界だ。だが、止めない。命の危機に瀕していようと、アロエとの約束を守るために木聯は魔法を使い続ける。それを朦朧とした意識の中でも鮮明に見ていたのはアロエ。
(ダメだよ、木聯…僕たちは三人じゃないと…約束、したじゃん…今のままじゃあ死んじゃうよ…そんなこと許さない)
強い思いを持ったアロエの魔力が上昇する。何事だと二柱は魔力が昇る中心にいるアロエに視線を移す。そして、木聯も。
精霊術は精霊の力を貸してもらう代わりにそれ相応の代償が必要となる。今までは精霊の一部だけを魔力のみで借りていたが、それは精霊の欠片に過ぎない。
(アロエは精霊術もとい精霊魔法の確立と促進で座天使級魔法使いの任をもろうた。やけれど師匠は、アロエがどこまで精霊魔法を開発させたんかは教えてくれへんかった…それが精霊の最高位を喚べるとしたら? 場を一転させれる守護者を喚べるとしたら? それがアロエの切り札やとしたら?…)
「止めえや、アロエ…それをしたらどうなるか。それの代償分かってるやろぉぉぉ!?」
木聯の怒号にいつもならたじろんでいるアロエだが、今ではその怒号がアロエの魔力を高めている。
「木聯、やめるわけにはいかないんだ。今じゃ君達の言葉一つ一つが、思い出が恋しいよ…約束破ってごめん…精霊王様に失礼ないようにね!」
アロエの魔力が伝達される。真っ白な光に辺りが包まれる。
異空間内、アロエは喜ばしい思いでその場に立っていた。何もない真っ白な空間、どこまで続いているのか分からない場所。どこから入ってきたのかは不明だが、一人の男がアロエの背後に立つ。
「…契約に違反したね」
「そうですね、でも違反じゃありません…ちゃんとあなた様を召喚できましたから、精霊王様…セーフです」
「ハァ、まさか俺を喚び出す不届き者がいるなんて…」
「契約、守ってくださいね」
アロエが精霊王たるフォーセリアに手を差し出す。
「傲慢だね」
差し出された手を握りかえす。アロエは満足そうな顔をして目を瞑った。
視界を覆っていた光が収まり、だんだんと視界が戻ってくる。ベルゼブブとルキフグスは無言で風上の方角に向く。そして、ワクワクとした反応を見せる。
「座天使級魔法使い…なるほど…確かに魔法使いの最高峰だな」
アパタイトキャッツアイの髪が風に棚引く。守護者が一人、フォーセリアが姿を見せる。その後ろには動かなくなったアロエを抱える木聯が呟く。
「ほんまにおったんか…精霊王なんてもん」
「普通ここは涙を流して喜ぶものだけどね」
「…秩序の為の名ばかりの守護者やと思っとっただけや」
「へえ、面白いね…アロエの言っていた通りだ」
フォーセリアは自身の武器である両剣を携える。それを見たルキフグスはニタリと嗤い、ベルゼブブは翅を羽ばたかせる。
精霊族精霊王フォーセリア•ラトゥリア
―曰く、希望の先駆者
聖術は皆さんが知っているように治癒など補助の魔法です、この魔法には説明はいりませんね…
精霊術または精霊魔法は、精霊を召喚して力を貸してもらう召喚魔法の類いです…ですが、精霊とは自然そのもの、人間よりも高次な存在です…
大いなる力には代償がつきもの…そんな精霊を召喚する代償に魔力を使っていましたが、アロエが最後の手段として召喚したのは精霊王フォーセリア…
お察しですよね、ですが彼の命は無駄ではありません…守護者である彼は人類の最高戦力、場を一転させることはできるのか?
次回、32話ミクロコスモスの痛み




