26話 ニコラの痛み
ここからは魔法の世界、難しい言葉が飛び交うけどご了承ください!
この宇宙には目で見ることのできない’仮想の物質’というものが存在する。それがマナ、オドなどの機械的仮想物質。エーテル、エレメンタルなどの自然的仮想物質。聖力、呪力、神聖力などの奇跡的仮想物質。これらを総称したものが魔力だ。
魔力をそのまま使うだけでは暴発が起きてしまう。魔力を使えるように四人の魔法の開祖により、大元の三つの魔術が開発された。
魔力にはそれぞれ特性があるため、特性を利用して更に万人が魔法を使えるように、今日に至るまで魔法が研究されている。
「魔力は先天的なものだ、一種の才能として生涯を共にする選択が多いな」
洞窟内を下へ下へと歩いていく一行はペチャクチャと暇潰しで駄弁っている。
「魔力は万能と言うわけではありませんわ、それぞれに開発された魔法術式に当て嵌めて使用しなければ代償が伴います…マナを持って生まれた者はマナ魔法、エーテルならば古代魔法、聖力ならば聖術、エレメンタルならば精霊術……生まれ持った能力で将来が決まるというのは強ち間違いではありませんわ」
「なるほど、その術の総称が魔法か…昔よりも細かくなっているな」
「より効率良く純度の高い魔法を使うために改良されているが、魔法証明が成され過ぎて魔法は高度な技術になりすぎている、それと紅魔族の進化の低下が原因か知らねーが魔法使いが昔と比べて劇的に減ってる…」
「例えば?」
ノーヴァの問いに実経は近くにあった小池に左手を向ける。
「マナ魔法水系水を操る魔法」
小池の水がヒュルヒュルと動き出してシャボン玉のように三人の回りを飛ぶ。続いて、右手を出して、
「マナ魔法炎系火を出す魔法」
右手に赤く燃える綺麗な炎がユラユラと蠢く。
「…なるほど、つまりは単一化が難しいのか」
「あら、よくお分かりになられましたわね…師範曰く、昔はその系統の基礎魔術さえ覚えていれば出現させることも操ることも同じ部類に入っていたので、魔力量と技術で勝負は決まっていたらしいですわ」
「野郎の言っていることは正しい、今じゃ出現と操作の2つの術式をどれだけ速く、簡潔に、正確に求められるかが勝敗をわける……今の魔法使いはそういったことが当たり前だから、昔の魔法使いの質よりも格段に下がってるぜ」
「ふむ、魔法界の最高峰座天使級魔法使いはどのくらいいるんだ?」
「ん~、魔法使い全員が魔塔に所属している訳ではありませんから…実経のようにフリーで研究費用だけもらっている魔法使いもいます」
ギロリと蝶の瞳が実経に向けられる。
「あ゛ーん?こっちだって忙しいんだよ! それに長らく未達成の任務は俺もいってるじゃねぇか!」
「と言っても迷宮の発掘品が目当てでしょう? それでもオリゴ様よりは動いてくれるからいいけど…」
「おい、なんでオリゴに敬称がついて俺にはつけねぇ?」
「だって始祖の御方よ、原初一族の絶対的守り人に喧嘩でも売ってみなさい、負けるわよ」
実経とカトレアが口論しているので、ノーヴァは一歩下がって思考を巡らす。
(クヴァレとやり合うには戦力の団結が必要不可欠、だが、七大一族の長たる守護者が徒党を組むことはしない…それならば貸しを作って従わせた方が早い、原初一族は長であるセアの復活に協力するとは言っていたが、その先も協力するとは限らない…)
「!」
何かを感じた2人は口論を止めて辺りを警戒する。カトレアが膝をつき、地面に手を当てて魔力を巡らす。
「(なにこの膨大な魔力は…)実経!上よ!」
カトレアがそう言った瞬間に鍾乳石全体が揺れるほどの振動が3人にも伝わり、つらら石が落ちてくる。ノーヴァが祢々切丸を取り出して、つらら石を攪拌する。今度は木々の枝と思わしきものが穴の空いた天井から3人を攻撃してくる。
「土よ、我らを守れ」
カトレアが言葉を発すると地が動き、鋭利な枝先を固定するように変形する。ノーヴァは祢々切丸を、カトレアは杖を、実経は一対の丸い形をした小さな鎌を装備する。今度は枝で出来た球体が落下してきた。
「マナ魔法時空系時空戻し」
球体を構築していた枝が枯れ、姿を現したのはキルケであった。
「バケモンが来やがったなああ!」
「引導を渡してやるよっっ!!」
キルケを見た途端、昂った感情を隠すことなく露にする実経に一直線にのし掛かるキルケ。互いに重力魔法を掛け合っているのか、そこだけビキビキと地面にひび割れが生じて、
「あっ」「あら」
陥没した地面もろともキルケと実経は落ちていく瞬間を目の当たりにして呆気ない言葉で2人はのみ込んだ。穴を覗き込む2人、
「落ちましたね」
「落ちたな」
「加勢に行きたい気持ちは山々だが、あともう1人」
長くハーフアップに結い上げられた黒き髪、金色の瞳を表しているかのような豪華な金と黒のドレス。睡蓮の簪、体を覆う白い布、戦闘向きの姿でないと目が認識するが、圧倒的な強者のオーラが拡散している。
10女”穏”の元祖イレミアが美しく微笑む。
「お久しぶりですわ、御兄様♡」
イレミアが太陽のような笑顔で話しかけるが、ノーヴァは苦笑して対応する。
「この時を待ちわびていましたの。私ずっと、ずっと、ずぅぅっと…御兄様を推したいしていたのです。さあ、帰りましょう。我等の海へ。ああ、でも。その前に…」
イレミアの指が黄金の枝へと変化していき、さっきよりも鋭利な刃物へと昇華する。その鋭利は、イレミアの冷酷無慈悲な顔とともにカトレアに向けられる。
「お前は消えろ」
「えらい御客さんやな、こりゃ魔法使い全員出動させた理由も分かるで」
商店街の空に出現した大量の悪魔と、装束を模したような白と黒が半々のスカート、上半身は素っ裸でマフラーのようにマントを羽織っているサンダル、肌が黒く、何本もの三つ編みに結っており、瞳と同じ紫の宝石のアクセサリーをじゃらじゃらと身に付けて、ニヤニヤと悪い笑みをずっとしている男、七洋ルキフグス。その横には仏頂面の七洋ベルゼブブ。その2柱は後ろで待機しており、その代わりに付き従っている悪魔が盛んに攻撃を仕掛けてくる。それに応戦する力天使級魔法使いと権天使級魔法使いたちにより、魔法の乱発が続いている。
「なんや悪魔強いやん」
「けっこうバラバラだよね、烏合の衆みたい」
「ハハッ、上手いこと言うやん…とまあ、奥の奴さん相手にせんと…」
「合わせるよ」
「ほんなら、ぼちぼち…行こか?」
先に動いたのは木聯、目の前の戦場を一直線に突っ走り、部下たちを避けて悪魔を一掃する。そして、高くジャンプして直刀を振りかざす。
「貴様中々面白いなぁ! こんな人間を求めてたんだよ!」
ルキフグスが避けた後、刀が落ちた地面が腐食していることに気がついてリアクションを取る。
「なんや、うち陽キャ嫌いやねん…つーことで、そっちは任せたわ」
精霊術サラマンダー召喚!
アロエが四大精霊である炎の精霊サラマンダーを召喚して、ルキフグスと対面する。アロエの持っている杖が変化したかと思えば、火柱のごとく燃えている。
「サラマンダーってさ、地竜だろ、なんで翼あるの~?」
サラマンダーは宇宙全土に流通している記録には翼がなく地べたを這う蜥蜴のような姿で認知されている。しかし、アロエの召喚したサラマンダーは凛々しく翼がある、まさにドラゴンの姿である。
「精霊は妖精と違って同種類で何体もいる訳じゃない。一元素にたったの一柱しか存在しない。それだけに召喚者の想像が反映されやすい……でもその分、君を殺せる!」
アロエの言葉にピクッと反応するルキフグスにすぅと息を整えて走り出す。間合いに入ると杖を振る。打撃だけでなく、火の粉が飛び散り、ルキフグスの服に触れるとジュッと燃焼した。それに気を取られていると、サラマンダーが尾で地面を叩きつける。後退して、華麗に飛び、サラマンダーの頭上に軽く殴打する。呻き声を上げるサラマンダーは頭に乗っかっているルキフグスごと、店に頭突きする。しかし、マントが破れた程度で目立った外傷はない。
(やっぱり師匠の言う通り引き留めが精一杯なのかな?)
勇ましいサラマンダーの隣へと歩いて出方を伺う。
その近くで相対する木聯とベルゼブブ、肩に刀を持って構えない木聯は舐めている訳ではない。目の前にいる麗しい顔をした神を刺激しないようにしているのだ。
(隣の奴と違って好戦的には見えんなぁ、まっ、殺しに来とんのは間違いないか…いいか、アロエ、うちらはあくまでも時間稼ぎや…倒そうなんてロマンは考えんなや)
「なんやその顔、うちがあんさん舐めてるような態度取ってるとでと言いたげやな」
「違うのか?」
「違うわボケ! あんさんらに勝とうなんて思ってへんよ…どや?帰って貰えへんか?」
「断る」
「(なんやねん、コイツら…)ここにはなんもあらへんよ~、うちら弱いけど御客さんやから相手しちゃる」
右足を引いて重心を低くして霞の構えをとる。ベルゼブブの頚に刃先を合わせ、宝石眼が獣の眼のように光る。
「座天使級魔法使いになるにあたっての課題があんねん、見せたるわ」
さあ、次回は魔法同士の蹴落としが連発!!
クヴァレと協力者の七洋の目的とは⁉




