21話 空間格子の痛み
―”星”の元祖、彼の者天体を司りし者也
黄道十二星座を繋ぎ合わせ、人類に星の、天の光を与えたり
之当に人類の進化の一つ也
彼女の示す道を辿りて迷わざる者等なし、彼女導きの才を併存させし者也
「66女”星”の元祖ステラは元祖で唯一空間能力の才を持って生まれた天才だ。始めはそれだけかと思ったんだ」
鋭利な槍を手で掴み、アストラを抱えこむように守り、レヴィアタンを睨みつけるヴァイス。アストラは意識が朦朧としている。
「あのこの才の真骨頂は、空間操作じゃなかった…ステラの才、”黄道”は」
―記憶の空間化
「これが他にはない力。私はこれに気が付かなくてね。これを発見したのは言うまでもないよね、ヴァイス? 君の親である明帝族の研究者。ステラのことを夜の一族総出で匿っていたから、あんな方法を使わないといけなかったんだけどね」
バキッ!!
レヴィアタンが話している途中で、ヴァイスが槍を粉々に握り潰す。その目は殺意に満ち溢れて、今にもレヴィアタンの心臓を握り殺そうかという殺意だ。だが、それをしないのはアストラがいるから。レヴィアタンもそれが分かっていての挑発だ。
’純粋記憶’は過去の出来事を保持し、’習慣記憶’は過去の経験から学んだ行動パターン。
例えるなら玉を投げる時、玉を手で握って、玉を持っている腕を前に振って、足を出して、ちょうどいい所で玉を放す。そんなこと、一々考えているかい?
’純粋記憶’で思考が完了されたものは、’習慣記憶’として流れ思考せずとも体が動く。
「よくさ? 身体が覚えているなんて言葉あるじゃないか。それはそういった原理さ。これは人類関係なく生きるものが無意識に行っていること。”黄道”の神髄はそれらを空間化して操ることさ」
レヴィアタンは解説をしながら、周りにいる魔獣をヴァイスに向ける。アストラを片手で抱えて、高く飛び、高所からパンチを繰り出す。亀裂とともに付近にいた魔獣は倒れる。しかし、急所が外れているのですぐに立ち上がる。攻撃がアストラに当たりそうになると、腕で覆って守る。段々と意識がハッキリとしてきたアストラに気付いて、ヴァイスが遮蔽物に隠れて止まる。
「アストラ、無事ですか」
「…ああ、後のことは…」
レヴィアタンは不快感を表明する目をし、無意識に苛立った殺気を放つ。
「なんです?」
「……いや…亡霊如きにどうして、そこまでやるのかなって」
「!」「……」
レヴィアタンの発言にアストラは無表情であるが疵ついたように胸が締め付けられる。
(…そんなこと言わないで)
「君だって思っているんだろ、ヴァイス…目、髪、雰囲気、能力でさえもあのこにそっくりだ…ステラの命を蝕んで生まれてきた子供、そうやって言われていたこともあったんじゃないか?」
続けざまに言い放つレヴィアタンは心底そう思っていて悪意がない。アストラはハンマーを握る手が強くなっていく。
「”黄道”を権能に引き継いだっていう才能があるのに、’純粋記憶’の空間を閉じて、更なる高みを台無しにするなんてさ…アストラ、君…生まれた意味あるかい?」
その言葉に、今まで耐えていた、アストラの心の内の何かが崩れ落ちてしまった。そして、閉じ込めていた記憶が甦る…
純粋な記憶が…
イージアンブルーの髪は海底の空よりも鮮明で、菫色の瞳は夕暮れの海の感動を鮮烈に想わせるそんな男。
「へえ! 君まで来てくれたんだ!」
「三傑に嫌味を云われるから。まあ、これだけの被害を出されちゃボクが動かないといけないよね」
守護者人類最疾の男オーシャン•クラトス
シファクティヌスの鋭利で巨大な骨に当たり、運悪く頭を打ち、動きの鈍くなった白練がカデナの手で殺られる瞬間、オーシャンが現れたのだ。白練の首根っこを掴んで後退する。
「……嫌味ですか?」
「別に? 助けてあげたのになってないね」
「(この方、あの御方がいる時と異なる態度…) なぜ、来たのですか?」
「さっきも云ったけど、アトランティス帝国は海族の管轄地域だよ。(星の海自体はアストラだけど忙しいみたいだからね)」
オーシャンはカデナがいる方向を向こうとすると、頭上にシファクティヌスが飛んでいる。
「蛇に戻って」
オーシャンが腕を差し出し、一瞬にして蛇に戻り巻きつく。直後、シファクティヌスが巨大な尾を地面に叩きつける。地面が崩れ落ち、近くにいた海中生物が原型をとどめない程の威力と範囲、シファクティヌスは低い呻きを立てて、高所へと飛ぶ。シーラカンスの上に胡座をかいて、パタパタと動かし眺めるカデナ。
(潰した感触がないんだよね~、生きてるね)
「感心しないね、ボクがいるのに」
「アハッ! やっぱ守護者は違うね!」
地上から高く飛んでいるカデナが、察知できないほどの疾さ、オーシャンの着ている水で造られた羽衣が光を反射させて風に棚引いている。菫がカデナを捉える。
オーシャンは着ていた羽衣を手に取り、鞭のようにシーラカンスに叩きつける。布であるはずなのに、シーラカンスは地面に落ちた。近くに飛んでいたエデスタスに飛び移り、カデナは事なきを得た。
「(ジリ貧になっちゃうね、仕方なーいな!) ごめんね~。さっすがに舐めすぎてた。遊び過ぎちゃうと怒られちゃうから、殺すね」
カデナが真剣な顔をして、天に向かって片手を上げる。海底であるはずのここに、太陽の光が降り注ぐ。
「…イニティウムが造ってくれてる神器とは違うね」
オーシャンは自分の持ってる羽衣を握りしめて呟く。光の中にカデナが手を突っ込むと、目が焼けてしまうような剣が露れる。
神器燦然の剣は、堕神アポロンの力を抽出して魔法の開祖らの手によって造り出された神器である。アポロンの権能である’光’が一振りされるごとに、神経を焼き尽くす、当たれば即死の神器である。
「白練、君神器になって」
「は?」
「なれるでしょ」
(いや、なれますけど? 貴方知ってますよね私が長の’剣’であること)
オーシャンの頼みに白練は心の中でめちゃくちゃ嫌がる。
「君が」
「?」
「姐さんの’剣’なのは痛い程理解してる。だけど、ここでの被害を抑えるために必要な犠牲。君が一番分かってるんじゃないの?」
蛇族が何故、原初一族に護られていたのか
それは蛇族のみ具わった能力”奉ル神初メ”、
ある条件を満たすと神器へと姿を変える。地上宇宙において完璧な神器の製造を行えるのはイニティウム、ただ一人。
しかしながら、イニティウムは神聖時代中期から神器を製造したのは三つ、それ以降は一度しか製造していない。
だからこそ、神器を欲する人類は蛇族を襲う。
これは意味がない。暴力などの強制手段によって’矜持を手折る’ことは’悪’と捉える。
蛇族の神器化の条件は’善による矜持の手折り’。
「ボクが勝つための犠牲て云っても、蛇族が納得する訳じゃない。だから、’セア•アペイロンの野望のための犠牲’になって」
オーシャンの言葉を聞いて黙り込む白練にオーシャンは無理か、と羽衣を拳に巻くと、白練がスルスルとオーシャンの腕を移動して、拳まで下りてきた。
「貴方様の”水衣のヴェール”と、今の私の想いは相性が悪いです。ですが、使いこなして魅せて下さいまし!」
白練がオーシャンの神器である”水衣のヴェール”が巻いてある拳に近づくと、そこから、焔が燃え盛る。それは燎原の如く巻き込む。
(……これが、蛇族の力か〜! いいね、愉しいよ!)
一部始終を見ていたカデナが額に冷や汗をかきながらも、どうなるのか、という好奇から魅守っている。すると、焔の斬撃が正面から一直線に飛んでくる。燦然”ボイポス”の剣で受け止める。
「きれいだねぇ~!! 水と焔なんてさ!」
ブレイドは燦然の剣の倍はある大剣、ヒルトからは”水衣のヴェール”がレイピアのような形になっている。ブレイドは、白練の焔と、オーシャンの神器の水が互いにぶつかり合い、熱気を帯びている。
「あの蛇族を! 矜持の手折りさせたのか! クヴァレに来なよ。絶対後悔させないからさぁ!!」
剣を高くから振り下げる。乗っていたシーラカンスに光の斬撃が入り、呻き声を上げて落ちていく。
「とっ!」
「はあ」
2人はシファクティヌスに飛び移る。骨だけの肉体で、飛行しているからか、足場が安定しない。そんな所でも、オーシャンはお構い無しに一直線に突進する。
普通、元祖相手にとってオーシャンの行動は死を意味する。それでもオーシャンが元祖と対等に殺り合える訳は。
一直線に突進したことで、カデナは受け方の最適解が判っている。凸凹とした足場で高威力攻撃が中るわけがない、だから、カデナは剣に光を交えず、剣本来の強度のみで構える。直行してきたオーシャンは、骨の窪みに引っ掛かり、スピードが落ち、体勢が崩れた。
(俺っちの予想通り~、下から上への斬撃かな? それなら受け流して、上からザッシュ! ていけばよくね~? そゆことで、サイナラ♪)
カデナの想像通り、体勢が崩れたオーシャンはごり押しで大剣を振るう動作をする。
「え」
視界からオーシャンが遠のく、なにが起きたのか分からないカデナを余所に、一瞬にしてオーシャンが視界の全てに映る。起こったことを整理しながらも、オーシャンの重い一撃一撃を受け止める。
(俺っちが構えて防御したはずなのに、後退させられた? あんな状況で、そんな威力出せんの~、ヤベ!)
首を斬られそうになるも、燦然の剣に光を纏わせて、振るう。オーシャンの動き同様の真っ直ぐな斬撃を振る。一振躱すと、光の刃が出現する。オーシャンがヒラリと躱すも、光の刃がシファクティヌスの骨を反射してオーシャンに反ってくる。
光の刃が触れそうになると大剣から緑の焔が刃を覆い、焼き尽くす。
「俺っちも初めて使うけどさ~、動きいいねっ!」
「褒めてくれるなんて、嬉しいよ。今度はボクの番だね」
小細工無しの大剣が、カデナを襲う。
「ッッ!! (重い!!)」
オーシャンの一振が尋常ではないほど重いことにカデナは怯む。もう一振りすると、シファクティヌスの骨にヒビが入った。受け流してオーシャンと距離を取る。それを許さぬオーシャンが後退するカデナよりも速く距離を詰める。
オーシャンの一振して、カデナが受け流して、一振して、受け流して。その繰り返しで一撃一撃が溜まっているカデナはフゥフゥと息を切らしている。それに対して、オーシャンは表情も変えずに、一撃を入れる速度が加速していく。
加速し続ける攻撃にかすり傷を負い始めるカデナは、対処が遅くなっている。そんなことを知らないオーシャンはドンドン加速していく。完全にオーシャンの土俵と化す。
(なんで、コイツは! 俺っちよりも動けてんだ⁉ 俺っちの方が水中生物の上での戦闘に…慣れてるはずっしょ!!)
アマゾナイトの光彩を宿し、人魚が好む白海を彷彿とさせる絶海の美女。初めて姐さんを、否、セア•アペイロンを見た時、自然とそんなことが過った。
『ボクの物にしたい』
まあ、姐さんの野望を聞いてついていけないと思ったと同時に、ボクじゃ、姐さんを留めることも出来ないって思いしらされた。
『御前、鬱陶しい』
ある日、剣の稽古をしていた時のこと、休憩中に突如として投げかけられた言葉にボクは、手入れの手を止めて、姐さんを睨んでしまった。
(いけないいけない、落ち着け…折角、剣の相手で繋がったのに、嫌われちゃったかな?)
『姐さん、なんで?』
『御前に剣の指導を始めて一週間、下手くそなのに、速さと水のせいで、一撃一撃が重すぎるのよ』
(貶されてる?)
そう思うも、嫌われていないと分かり、内心安堵するオーシャンに背を向けて、セアは話し続ける。
『御前は無自覚でしょうけど、斬撃に水が混じってるわ。剣を扱う者で一振した後に、何かしら刃が出現することがあるけれど』
『へえ、それって誰にでもできるの?』
『さぁ、知らないわ。でも、誰にでも出来ないことは解るわ。オーシャン、御前はいずれそうなる』
オーシャンがセアの話を聞きながら、バックハグをして、セアの小さな肩に顔を埋める。
『云っちゃうんだー』
『まあね、最後に教えておくわ。属性によって特徴は変わるけど、光の刃は反射するほど威力が増すけど、全ての軌道は同じ。躱してしまえばどうってことないわ』
『それ中ったら死ぬじゃ~ん!』
『御前の疾さなら中らないわよ。これから御前が習得するであろう水の刃は常に変化し続ける、乱反射した形も向きも異なる刃を一瞬で斬り裂くなんてことは不可能に値する』
(姐さんは嘘つきだよね。’刃’の発現も、刃を斬り裂くことも絶対に習得してるんだから)
『水の刃は剣遣いにとって最大の敵』
オーシャンはカデナの一撃を燃やして、直行する。近づいたことさえも、速すぎて見えないカデナは構えることもできていない。
オーシャンは生まれつき視力がない、目から得られる世界が彼にはない。彼がこうして立っていられるのか、それは目が見えない変わりに’反響定位’を持ち生まれたからである。
自身が動き、それによって動く大気を敏感に感じとり、誰よりも’空間’を的確に割り出すことができる。それは些細な窪みや歪みでさえも…そして、彼が高速で動けていることと、水を帯びさせていられるのは、彼が’歴代海族長’であるから。
オーシャンが一度でも加速し始めると、標的を仕留めるまで加速は終わらない。大剣を高く振り上げて、カデナの体を一気に斬る。後に放たれた水の刃は、速さによる重みと、水の変化に神経を破裂させる。
守護者には、それぞれの畏怖から二つ名が人類に知られている。
16代海族長オーシャン・クラトス
―曰く、全盲の剣翼
記憶の空間化はベルグソンという人の記憶について、を参考にさせていただいています
哲学とか好きなので、結構いろんな面で哲学を取り入れています!




