表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート12月〜4回目

奥さんのパンツ

作者: たかさば

 ……ここに、一枚のパンツがある


 おそらく、これは…

 森田さんの奥さんの…パンツ


 さて、これを……どうするべきか




 ……あの日、森田さんは言った


「俺が洗濯してくるからいいよ!」


 11月の終わり、町内会のバザーが開かれた

 無事に開催されて、終了したはずだった


 会場に、参加者が使ったハッピが80枚、残されていた


 なんだこれは、なんでここにあるんだ

 どうしてこうなった、持ち帰ってもらうのを忘れていた

 洗って乾かして、たたんで倉庫に入れないといけない

 誰かが洗ってこなければいけない、誰が洗うんだ

 俺は無理だぞ、私も無理です

 今から配るか、それも無理です


 騒めく役員、過ぎ行く時間


 ……役員のミスを、町内会長である森田さんが引き受けた




 どうやら自宅で洗ってくれたようだ

 自宅の乾燥機を四回も稼働して乾かしてくれたらしい


 ありがたいことだ、感謝しなければ




 ほんの30分ほど前、年末の総会が終わった時…森田さんは言った


「ごめん、このあと時間ある人、いる?たたむの大変だから手伝ってくんねえかな!!」


 手伝えることがあるならばと、手をあげた




 忙しいからといって帰った役員がいた

 何も言わずに帰って行った役員がいた

 なんで俺がと文句を言いながらたたむ役員がいた

 何も言わずにたたむ役員がいた


 一番最初に気を使った森田さんは、残った人に頭を下げ下げ、ハッピをたたむ


「くしゃくしゃになってるからたたみにくくて申し訳ないね!」

「暇そうにしてる嫁に頼んだのにスルーしやがってさあ…」

「手伝ってくれる人が五人もいてホント助かったよ、今度なんか奢るわ!」


 手を動かし、口を動かし、山のようにあるハッピをたたむ……森田さん




 じょじょにヒートアップしていく森田さんの声を聞きながら……、気もそぞろでハッピをたたむ


 このパンツをどうしたらいいのだと、混乱しながらハッピをたたむ




 おそらく、森田さんは自分で洗濯をしたのだろう

 おそらく、森田さんは自分の家の洗濯物と一緒に洗ったのだろう

 おそらく、森田さんは洗濯ものを確認せずここに持ち込んだのだろう


 靴下が紛れ込んでいたよと笑う岩田さん

 タオルも紛れ込んでいたよと差し出す谷さん

 なかなかしわが伸びないねとイライラしている橋本さん

 無言でたたまれたハッピを整頓して几帳面に積み重ねている佐藤さん


 年配男性が三人に、中年女性が二人

 気難しそうな人が二人に、お調子者が二人、真面目な人が一人




『こんなものが入っていたよ』と、声をあげる勇気が出ない

 さりげなくくしゃくしゃになったハッピの下に紛れ込ませたまま、別のハッピをたたむことしかできない




 皆に気付かれないよう森田さんに渡そうか…、いや、無理だ


 一番遠い位置にいるし、そもそも渡したら大騒ぎして見世物にしそうな気がする

 もしかしたら、現役で使用中の女性下着を手にしたことをからかわれる可能性もある



 ……どうするべきなんだろう


 そっとポケットに入れて持ち帰り、封筒に入れて渡す?

 ……いや、それはダメだ

 女性ものの下着を持ち帰るなど、カミさんにあらぬ疑いをもたれてしまいかねない

 そもそも私は女性の下着を懐に入れるような人間ではない


 ハッピの中に忍ばせてたたんでしまい、来年の役員に委ねる?

 ……今しのげたとしても、時を経て恥をかくのは奥さんだ

 おそらく今ここにいるよりも多くの人の目にさらされることは間違いない



 ……どうしたらいいんだ



 どうすれば、誰も…傷つかないで済む?


 ジワリ、ジワリと……額に、汗が………



「ねえねえ、もうないの?」

「あ、それで最後みたいだね」

「ありがとうー!!じゃあ、たたみ終わったの、衣装ケースに入れていくかな!」

「向きに注意しないと全部入らないから気をつけろよ!」


 明るい声に…はっとした


 ニコニコしながら、たたまれたハッピを箱に入れて…こちらにやってくる、森田さん



 良かった、これでさりげなく渡せそうだ

 他の役員たちも立ち上がって帰る準備をはじめたことだし、これで解決……



 バターン!!!



 勢いよくドアが開き、ドッスドッスと激しい重低音が会議室の中に鳴り響き……



「ちょっと!!!仕分けするって言ってあったでしょ?!どうして後で届けるって言ったのに勝手に持ってってんの?!会議が終わるまでには持って行くって言ったのに何で待てないワケ!!!ほつれたのを補修するんじゃなかったの?!チェックも兼ねて私が全部たたむからって言ってあったよね?!だいたいねえ、リビングのど真ん中ににうちの洗濯物だけ撒き散らしていくのやめてよ!!!せめて端っこにまとめておけばいいのに!!こういう時に限ってゆう君が友達山ほど呼んで…洗濯物がぐちゃぐちゃに踏まれてて大変だったんだけど?!」



 森田さんの、奥さんが!!

 ものすごい形相で!!!



「なんだなんだ、遅い到着だなあおい!!せっかく皆さんが手伝って下さってるのにお前という奴は…そもそもなあ、お前が全然帰ってこないから俺は気を利かせて…」

「私はちゃんと予定時間に帰ったけど?!アンタが勝手に早めに家を出ただけの事じゃないの!!!何でアンタはこうマイペースなの!!自分勝手に何でもかんでも!!!」



 ……こ、怖い!!!



「奥さん、どうどう!!ほつれはね、来年の役員さんに任せようよ、ね?」

「あ、こんばんわミカちゃん!仕事帰り?そういえばこの前マドレーヌありがとー!」

「いつもお世話になってます、僕森田君にはいつもお世話になってて…」


 帰り支度を始めていた役員たちが、奥さんを取り囲み!!!


 奥さんが声をかける役員をいなしながら、靴下やタオルの入っているビニール袋と衣装ケースの中とを交互に見つめ!!!



「……これで全部?!」


「小石川さんのところにあるやつをもらったら全部だよ!!!」



 全員、今、僕が手にしているハッピに、注目!!!




 注目しぃイイイイイイイイイイ!!!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルからの予想を裏切る淡々とした語り口調での物語進行に笑いをさそわれますたwwwwww  そしてラストでの転調と引きが光りますねぇ〜♪ 主人公の運命や如何に?w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ