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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
4-tune
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三十八の二 それが合図だ

「親愛なる矛よ。姿を見せられるか?」思玲が空へ問いかける。


 俺はあたりを見まわす。異形を感じる。


「その気配はなんだ? 低級の連中の真似か?」

 思玲が闇へと笑う。


――我が存在をごまかすためにむじななる物の怪を拾い、身にまとっております。……しかし、その者に姿を露わにしてよろしいのでしょうか?


 どこからか異形の声が心へと届く。


「その前に聞きたいことがある。まことに楊偉天が来たのか?」


――間違いなく。峻計とあの老人が合流するのも時間の問題かと


 ひそんだままの声が答える。


「なるほどな。ではこの人間くずれを気にせずに(なんて言い分だ!)、物の怪を手放して姿を見せよ」


――仰せのとおりに


 気配が一直線に俺達へと飛んでくる。護符は発動しない。


「哲人。こいつこそが楊一派に忍びこませた、我が式神だ。――琥珀よ、あらためて哲人におもてを見せよ」


 思玲の前に異形がひざまずいていた……。琥珀と呼ばれる小鬼が俺を見上げる。


「王思玲様配下の末席を汚させていただく琥珀と申す。こたびは多少なりとも迷惑をおかけしたが、あやつらをあざむくためゆえご容赦いただきたい」


 フードを深めにかぶった小鬼が、申し訳のかけらもない顔で俺をにらみあげる。



「な、なんで、こいつが味方なのですか? こいつにみんな散々な目にあわされた」

 横根を吹っ飛ばした。峻計に、川田を傀儡にしろとアドバイスしやがった。


「いずれも四神くずれを守るためであったが。説明できぬのが口惜しくもあった」


 小鬼は俺をにらむだけだ。俺もにらみ返す。


「琥珀。哲人は仲間だ。もっとくだけて喋ろ。それから哲人。言いたいことが山ほどあるのは分かるが、時間がないゆえ我慢してくれ」


「承知しました」小鬼が即座に答える。「それにしても、いともたやすく扇を作りだすとは、さすがは我が主。私めも微力ながらあなた様の眼鏡を見つけてまいりました。なにとぞお納めください」


 小鬼が両手で持った眼鏡をかかげる。……こいつが思玲の式神だと?


「思玲には式神が他にもいるのですか?」

 怒りがたかぶらないように話題を変える。


「いや。琥珀だけだ」


 さらりと答えやがる。なにが末席を汚すだ。琥珀が、また俺をにらむ。


「思玲様には伝令をつかさどる式神が二羽いたが、一羽は流範の使いの鴉などにやられやがった。大燕は死しても言を伝えるはずなのに、一羽はいまだ行方不明だ。奴らの伝令の飛び蛇どもは、俺がこっそり処分したけどな。

ところで、さすがにあいつは感づきはじめております」

 小鬼が思玲と俺へ交互に顔を向ける。

「哲人を吹っ飛ばして逃がそうとしたのがばれただろ? あれは冷や汗ものだったな……。今後は背丈のことを口にするなよ」


 峻計に殺された人達を飛ばしたり、俺の写真を撮ったあのときか。ドーンも大ケヤキから飛ばされたと言ったような。

 すべては、あいつから俺達を逃れさせるためだったのか。黒羽扇を向けられた川田を、傀儡にしてでも生き延びさせた。思玲がこいつに何度も弾かれたのも、峻計から離れさせるためだったのか……。荒っぽすぎだ。


「あいつも馬鹿ではないからな。だとしたら、掠めた証拠をいつまでも持ち歩くな。ちょうどよい。哲人に渡せ」

「……御意」


 小鬼がポケットからスマホを取りだし、操作を始める。


「これは深圳シンセンを手中にする広州グアンゾウ道士団が製作した。僕は楊偉天にせがんで自分のものにした。広州とは不仲だから、かわいいけど鬱陶しい代理店経由で契約した。スパイウェアを除去したついでにカスタマイズもした。所有者は人も式神も含めて十体もいない。高額だからな」

 琥珀が画面を片側の手にかざす。

「そしてこれはクラウドみたいなものだ。価格が倍になる代理店経由の唯一の特典だ。ドロシーって奴が遠隔で預かるだけなので不要だと思っていたけど、ようやく使い道があった。……思玲様は術を高めることのみにご精進なされるため、この手にご興味をおもちでない。だけど日本人でも若者なら分かるよな? スマホに入っていたわけじゃないぜ」


 主そっくりに固有名詞の説明抜きでまくし立てられるが、小鬼の小さな手のひらに、ふわふわと白い煙が乗る。爪さきぐらいしかないけど、白虎の光の一部だと感づく。叩き割った玉の残骸だ。……クラウドサービスだかで、どこかに預けていたのか?


「しかし、でかくなりやがって。あいつは師傅から逃げたあと、横根ちゃんが一人になるのをずっと狙っていた。彼女をお前や桜井ちゃんの庇護においたのは正解だ。そして、この煙があれば、もしも瑞希ちゃんがピンチになったら人質に使えるかもな。その娘を消しても白虎くずれのくずれしか作れないぜってね」


 これまた安直な発想だ。などと顔にださず、無意味ににらむ小鬼から屈んで受けとる。ポケットの奥深くに煙の残りかすを入れる。


「無造作に入れやがって、なくすなよ」

 琥珀が苦々しげに言ったあと、思玲へとかしこまる。

「私めをお呼びになられたご理由は?」


「そうだった。哲人が文句を並べたせいで遅くなった。用件だけ述べる」

 思玲が眼鏡をはずしながら言う。

「我が師傅の命令により私が盾となる。ゆえに琥珀は哲人の矛となれ」


 なんだそりゃ?


「それは劉師傅でなく、あなた様からの下命でございますね?」

「そうだ」


「ならば、仰せのとおりに」

 小鬼が俺の目線にまで浮かぶ。

「あんたと組むことになったな。うまくやれよ」


「ち、ちょっと待てよ。ずっと教えてくれなかったじゃないですか。なにをやらされるのですか?」

 俺はジャージでレンズを拭く思玲へと問いかける。


「やっぱり、こいつも北七だな」

 小鬼が笑ってやがる。十二磈に散々言っていた、馬鹿という意味の悪口だ。


「そう、北七だ」

 眼鏡をかけなおした思玲まで言いだしやがる。

「それが合図だ」





次回「餃子の皮作戦とでも名づける?」

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