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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
4-tune
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三十七の二 元座敷わらしと女魔道士

「なにが無茶をさせないだ。無意味にでかくなりおって、物の怪の力は残っているだろうな」

 思玲が横にきた俺をにらむ。そんなのを期待されても困る。


「すぐそこですよね。みんなも守らないとならないですから」


「なにが守らないとならないだ。でかくなったら偉くもなるのか」

 嫌味たらしく返される。

「この道をまっすぐ行けばそこだ。なかなかよさげな木を見つけてある」


 まっすぐ行けば、この公園の名のとおりに緑地が整備された一帯になる。……よさげな木を見つけたということは、


「武器を作るのですか?」戦うための魔道具を。


「私などに作れるはずないだろ」あきれ顔を向ける。「だが、手ぶらで師傅にお会いできぬ。そもそも、なにかしら手にせぬと落ち着かない」


 彼女は足の引きずりを隠しきれない。それでも前だけを向いて速足で歩く。


「夕方に学校で別れたあと、鬼を倒したのですよね?」


 小鬼に十二磈、さらには警備員にも追われていると、峻計が言っていた。四面楚歌の状況で、しかも扇も小刀もない状態でだ。


「狼が入りこめない校舎内で、しばらく息をひそめていた。そのあとは色々あってな(警報を鳴らしたのは言わないらしい)。まあ、十二磈など所詮は小物だ」


 言葉をにごす。小物相手に図書館で散々な目にあわされていたが。


「矛を使ったのですね」

 単刀直入に聞く。それ以外考えられない。


「予行演習というか、そんな感じだな」思玲ははぐらかす。


 ***


「どの木だったかな」

 思玲が木々のあいだの遊歩道で立ちどまり、また歩きだす。


「眼鏡がなくて見えないのですか?」

 また戦いのさなかに割られたのだろうか。


「夜なら一緒だ。鴉どもは目を狙うから、あの眼鏡には術をコーテイングしてあった。もはや鴉も和戸と峻計だけゆえ、落ちても拾わなかった。……いずれ戻ってくるだろう」

 思玲は感慨もなく話す。

「あの木は桜井とともに探したが、青色インコはすぐに面倒くさがって……。もうすこし離れて歩け。人の姿だと、どうも生々しい」


 たしかにくっつきすぎだな。座敷わらしのときに何度も抱えられたから、距離感が親密になりすぎた。俺は一歩後ろに下がる。


記憶があるうちにお礼をしないと駄目だよ


 座敷わらしのときに抱かれた思玲の温もりとともに、横根の言葉を思いだす。


「思玲には感謝しています」

 簡潔にだけど、彼女の背中へと礼を述べる。


「……私など道端のぺんぺん草だと言ったよな? 峻計の妖術を見て、師傅に会ったのなら、その意味が分かっただろ。私など、なんの力にもなれなかった」

 思玲は歩きながら言う。

「劉師傅が来られたから決着は近い。師傅を説得できた哲人こそ、みんなに感謝されるべきだ」


 そんなことない。感謝されるのは、師傅でも俺でもなく思玲に決まっている。言葉にだして力説したいけど、人に戻るのはまだ終わっていない。


「箱を取られたのは無念だな」

 思玲が話題を変える。

「師傅といえども取りかえすのは難しい。あいつは高雄カオシュンにおける雨中の戦いで、師傅に黒羽扇をひとつ消された。それからは、師傅を徹底的に避けるようになった。……また、箱を捨て駒に逃げてくれたらな」


 俺と同じくあいつも箱を代償に逃げたことがあるのか。

 思玲は四玉を取られたいきさつを聞いてこない。俺も思玲もあいつから生き延びられて万々歳なのだから、仔細を聞く必要もないのだろう。

 しかし、弱きものに強く、強きものから逃げる。ある意味、峻計は最強だな。


 *


 草鈴があろうが川田達から離れたくないので、別の小道で戻ることにする。それで見つからなければアジサイの葉ででも我慢してもらい、戦いになったら横で見ていてもらおう。


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、デートなの?」


 さきほどの男の子の霊が歩道の横に浮かんでいた。知らぬうちに、また思玲にくっつき歩いていた。


「害なき地縛霊だ。かまうな」

 式神や魔道士との死闘を経験した俺に、彼女はまだ指図する。

「……いつか成仏させてやりたいがな」


 俺も同意するだけだ。

 他人にかまっていられない俺達へと、無邪気な霊が「バイバイ」と言う。手を振るのは人に戻ったときにねと、聞こえぬように心の奥で返事する。





次回「真夏の萌黄色」

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