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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
3.5-tune
69/437

三十三の三 エースパイロット

「ご、護符が効かないの?」


 横根は、野良犬の背中にまとわりつく木札に気づいたようだ。彼女は思いだしたかのように、カバンからスマホを取りだす。横根の顔が人の光にぼわっと照らされる。警察を呼べばいい。大騒ぎにすればいい。

 横根が画面を耳にあてる。あわてて顔の前に戻す。青ざめた顔で操作をやりなおす。


「電波を歪ませるなんて些細なことよ。琥珀に教えてあげたのも私だしね」


 あいつの声がすぐ背後からした。

 あいつが俺をつかみあげる。手を離しながら、俺を地面に叩きつける。

 これでもかと痛い……。おのれより横根を守らないと。


「触れるだけなら、悪意がなければ寝たままなのに」

 峻計が俺へとヒールをかかげる。「殺意をこめると、そんなにも強く起きるのね」


 護符が発動した。鋭く太い針が目前で止まる。


「術の光をだせないと、あなたを消すのは厄介ね」


 あいつはあきれたように言う……。

 護符が通用しなくても、横根を守れと、たった今誰かを呼びつけた。近くにいるのは……、またもやドーンだ。


「なにを笑っている」


 あいつが俺を踏みつけようとして躊躇する。俺はお怒りの護符をその靴へと向ける。峻計は片足で跳ねて避ける。

 あいつが野良犬なんかを使う理由が分かった。俺を恐れているからだ。護符を恐れて、ツチカベの後ろから眺めるためだ。隙間ある結界も俺から逃げるためだ。

 木札の怖さを再認識したのだろ?


「川田、横根を頼む!」


 俺は浮かびあがり、峻計に向かう。あいつは軽やかなステップで護符を避ける。俺はたくみに切りかえして、その背後を狙う。あいつはすでに信号の下まで離れていた。そこから俺を笑う。

 俺は宙に浮かぶ、とみせかけてまっすぐに突進する。あいつは俺を黒羽扇で受けとめる。俺ごと扇をはらう。俺は地面に転がる。すぐに見上げる。

 あいつは扇の毛並びを気にしていた。護符の存在感が弱まっていく……。

 こいつは素早すぎる。怒りにまみれた俺じゃないと木札を当てられない。深追いして横根から離れたら、あいつの思うつぼだ。


「黒羽扇さえ戻ったら、遊ばずに背後から撃ってあげるのに」

 あいつも残念そうだ。「ツチカベ、時間はないよ。はやく済ませ?」


 ばさりと空から気配が来て、誰もが暗闇を見上げる。夜空より黒い影が羽ばたいている。呼びつけられて早々に登場だ。


「カッ、またまた峻計かよ。しかも犬までいるじゃん。そいつ昼の奴じゃね? 峻計の飼い犬になったとか?」

 ドーンが口早に言う。

「思玲は桜井と一緒に結界かも。どうせ俺には見つけられないから来てやったよ」


 思玲は扇がないと結界は張れないだろ。……厄介なスマホをもつ小鬼がまだいる。ドーンを向こうに戻させるべきか。でも、小鬼は度胸なしだと鬼さえ笑っていた。ならば、


「こっちに降りてこい」

 俺に呼ばれたドーンを、俺より先に川田が指図する。

「この野良犬は瑞希ちゃんを襲う気だ。お前も守れ。でも無理するな」


「しつこい奴らだな」

 ドーンがツチカベの背後に舞いおり、オスプレイみたいにホバリングする。さすが異形の鳥だ。俺をちらりと見る。

「峻計は哲人に任せた」


 任されても、俺はあらためてあいつをにらむだけだ。


「和戸君、だよね? 悪いカラスじゃないよね」横根がつぶやく。


 切羽詰まった彼女に、カラスの区別がつくはずない。それさえも伝えられない。これでは横根がまいってしまう。


「ミカヅキの手下か? 目玉を狙うつもりだろ。そうはいくか」


 ツチカベはかってに疑心暗鬼になっている。それを聞き、ドーンがガガガと笑う。


「その鳴きかたは和戸君だ」横根の安堵が伝わる。


「低い位置に結界が張ってある。地面に落ちたら、ツチカベに食われるぞ」

 ドーンが調子に乗る前に声をかけておく。


「ふん。これは結界って言うのだね」別の誰かの声がした。「呼ばれたのに、そっちに行けなくて残念だ。あー残念、残念」


 フサフサだ。連夜に渡り呼びつけてしまった。……このシチュエーションで力になるとは思えない。むしろ危険だ。


「呼んだけど呼んでない!」俺は叫ぶ。


「そりゃそうだろうね」

 さきほどと違う場所からだ。

「あいつがいるじゃないかい(ツチカベのことだろう)。しかも、あのおっかないのは人間の振りした異形だろ?」

 どこにいるのか分からなくなる。


「猫? やけに感が強い奴ね。物の怪ではないよね」峻計がいぶかしげに言う。


「フサフサだ。化け猫ババアと呼ばれている。ここにはカラスの親玉もいる。ろくな町ではない」

 ツチカベが背後に浮かぶドーンを気にしつつ言う。


「あんただって化け犬ジジイだろ」

 むすっとした声が聞こえた。

「哲人、呼ぶのならあいつがいないところにしておくれ。すごいのがそこまで来ているし、私は帰らせてもらうよ。真っ白猫の娘によろしく伝えといておくれ」


 フサフサは姿も現さず、人に戻った横根に興味も示さぬままに立ち去ったようだ。

 入れ替わりに、とてつもない気配が来た。峻計が舌打ちする。


「全員無事だね! みんなを信じてた」

 まず声が聞こえた。

「呼んだのは松本君でしょ! 思玲さんには離れるなと言われたのに来ちゃったし、ははは」


 闇夜を突き抜けて、青龍になるべく資質のコザクラインコが現れた。俺は深夜を迎えて端から呼びつけたようだが、今の四人のなかでは間違いなく桜井がエースだ。


「なんで瑞希ちゃんがいるの? 川田君が連れてきた?」小鳥が横根を見おろす。


「じ、自分から来た。はやく劉師傅を呼んで!」

 横根はまだ桜井の声が聞こえる!


「あんな怖い人を呼ぶわけねーし。で、私はなんで呼ばれたの?」


 桜井が今度は俺を見おろす。……野良犬とあいつの存在を気に留めていない。峻計は小鳥へと身がまえているのに。


「結界に横根が閉じこめられている。峻計は黒い光を飛ばせないぽいけど、傀儡の術には気をつけて」


「下だけに?」青い小鳥がとまどう。「とりあえず突っこんでみる」


 小鳥が俺の横まで降りてくる。そこから低い位置を飛ぶ。おもいきり跳ねかえされる。はずみすぎて、俺の横まで転がる。

 あいつが俺達へと黒羽扇を振るった。身がまえるが、黒い光は発せられなかった。あいつは悔しそうに扇を見る。


「固いね、でも、さっきのよりできが悪いかも」

 小鳥が地面で照れ笑いする。


「それじゃ守衛室の人間を起こせよ」ドーンが空中から言う。


「つついて起こせだと? 和戸君にだってできるだろ」

 インコが再び宙に浮かぶ。

「あれっ? 子犬、じゃなくて川田君? 気配はそうだものね。ははは、かわいくなってるし、ははは」


 桜井の笑いを、野良犬と向かいあう川田は気にいらなそうに無視する。


「そうだよ。もう狼じゃないんだよ!」横根が叫ぶ。「夏奈ちゃん、その犬を追いはらってよ。はやくしないと川田君がやられちゃう!」


 青いインコが空中でためらっている。

「……男子が三人もいるのに情けね」

 俺へと目を向ける。おそらく幼児な体を再確認して、

「なんで一番小さい私がやらなきゃなんないの」


 小鳥が飛びたつ。目に追えぬ速さでカラスの下を抜けて、野良犬の脇腹に頭突きを喰らわす。


「ぐえっ」


 ツチカベが声をもらす。足から崩れてうずくまる。小鳥は羽根を動かさずに、俺へと戻ってくる。


「やっぱり、弱い者いじめはやめとこ」


 小鳥はそのまま肩にとまる。青龍の気配がずしりと押してくる。……怯えていると感じる。


「なぶり殺すつもりかい」峻計はあきれていた。「ツチカベ。私は帰るよ。……ふふ。ただの犬であるお前が、こいつらから逃げだせるかね? あの小鳥から生き延びられるかね」


 あいつが指を鳴らす。忽然と消える。

 結界をまとえたのか。それより追いかけて四玉を取りかえさないと! ……どうやって? 


「生き延びろだと? なにを言いやがる」

 ツチカベが四肢をあげる。

「俺はここで四回も春を迎えたんだぜ。……峻計さん、いずれ約束を果たしてもらうからな」


「こっちに来るな。隠れているつもりでも俺には分かる。松本。瑞希ちゃんの前に護符をかかげろ」


 子犬が中空に牙を向ける。

 手負いの獣が、見えないあいつを獲物として追っている……。危ないな、あきらめたと見せかけたのかよ。

 壊れた黒羽扇のため姿隠しは不完全なのかも。それでも川田しか見つけられない。あいつが慎重で救われた。

 俺は川田の頭上に浮かぶ。


「あいつはどこにいるの? あいつになら本気でいけるかも。いってやる!」

 桜井が横根の頭に飛び乗る。


「野良犬、パニくるなよ。見えない壁があるんだよ。おもいきりジャンプしたら越えられるかもね。カカッ」

 ドーンが詰所の屋根で羽根を休めながらツチカベを笑う。


「夏奈ちゃん、どういう状況なの? 思玲はどこにいるの? 怪我していたよね? だったら珊瑚の玉を返さないといけないよ」

 横根が頭にとまる小鳥に聞く。


「今は見たまんまの状況だし、思玲さんは意外に元気だし、珊瑚をゆずれて肩の荷がおりたみたいに言ってたけど」

 桜井が横根の肩に降りる。

「なんで人に戻れたか知らないけど、瑞希ちゃんはいつまでもこっちにいないほうがいいような」


「囲んでいた結界を消したな」川田が鼻をひくつかせる。「あいつは逃げた。桜井はツチカベも追いはらえ」


「ざけんなよ。瑞希ちゃんと話し中だろ。それにさあ、女子に命令しないでくれる? そういうことは和戸君に頼め」


 ガラ悪すぎ。でもかわいかった。

 ドーンが翼をひろげる必要もなく、ツチカベは去っていく。雑談めいた俺達に攻撃の意思がないと気づいたらしく、あわてもしない。点滅信号に照らされながら、人を囲む異形の集団へと振り向く。


「見えない妖怪が、もう一匹いるんだよな。そいつが群れのリーダーだろ?」

 ツチカベが裂けた口におぞましい笑みを浮かべる。

「そいつと会える日が楽しみだな」


 野良犬は側道へと去る。俺達五人だけとなる。

 たしかにあいつは完全な力でなかったが、それでも俺達だけで峻計を追いはらった。





次回「頼るべきは」

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