表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
3-tune
62/437

二十九の二 座敷わらしとコザクラインコ

「松本君が消えちゃった」横根が座りこんでいる。


 俺は宙に浮かびあがり、木札を取りだす。両面の呪文の文字が蘇っている。

 さっそく怒りまくっている。人の姿の化けカラスに。


「松本君は復活したよ! 瑞希ちゃんありがとう!」

 桜井の歓喜で結界が充満する。

「鬼、ぼさっとしないで人間と座敷わらしを守れ! つつくぞ!」


 桜井が黄玉に命令しながら、結界の狭い空をびゅんびゅんと飛びまわる。たまにぶつかり、はじき返される。


「さすがにあんたに従う筋合いはないだろ。あいつを裏切れるわけないしな。難しい言葉を使えば中立って奴だ」


 鬼は日和見している。

 それよりあいつはどこだ? 見わたしても見あたらない。


「気をつけて。カラス女は結界に張りついて身を隠している。黒い光が急に飛んでくるから、これでもかって注意して」


 桜井が飛びながら言う。護符が復活したのに結界は消えないのか。完全に閉じこめられてないからか。


「来るよ!」


 桜井が叫ぶ。言われるそばから、なにもない空に黒い光が現れる。俺へと向かってくる――。まただ。避けると横根に当たる。俺は護符をかかげる。申し訳ないけど、本旨をはずれて頑張ってもらうしかない。

 浄化されたてだ。木札は黒い光を受けとめるが、持ち手は小さき妖怪だ。俺と一緒に端かれて横根が悲鳴をあげる。肘をさする彼女の胸もとに木札を押しつける……。珊瑚までけがされるかも。海神の玉には頼らない。


「松本、上だ!」川田が吠える。

「そこね!」桜井も吠える。


 黒い光が一直線に降ってくる。……またも横根が狙いだ。手を伸ばし、彼女の頭上で受けとめる。衝撃で腕が後ろに折れそうだ。

 お天狗さん、横根を守れ!

 右手を添えて打ち返すと、黒い光は結界に当たり消えていった。


「くそっ」と、上空から峻計が落ちてきた。両足できれいに着地して、上空へと身がまえる。飛びまわる青い小鳥を目で追っている。……護符は発動している。今しかない!

 俺はあいつの背後に飛びつく。その首筋へと護符を押しつける。

 流範の魂を思いだす。


「ふざけるな!」


 即座にはらいのけられる。峻計はおのれの首へと黒羽扇をかざす。かまえなおし、残った手で首の後ろをほぐす。

「十二磈あたりと一緒にするな。私をなめすぎだ」


 逡巡してしまった。

 俺へと扇を向けた峻計が、小鳥に吹っ飛ばされる。


「結界を開けて、瑞希ちゃんを開放しろ」


 桜井があいつの頭上に浮かぶ。カラスにつつかれまくった面影など、もはやない。太陽に照らされた校庭よりも、闇に閉ざされた屋上が俺達のホームってことだ。


「それと四玉を返せ」俺が付け足す。


「箱を取られたの!」

 人間の桜井だったら目をまん丸にしていそうだ。


「……よく分かったよ。青龍をあしらうのは、老祖師でないと無理のようだね」

 あいつが立ちあがる。

「だったら、そこそこの術を繰りだしてやる。青龍になるものならば生きのびな。――我、とこしえの闇を求むる者なり……」


 あいつが呪文を唱えはじめる。峻計も闇が本拠の異形だった。妖悪な気配があふれだす。結界の中の空気が変わる。


「峻計さん、やめてくれ」


 鬼が怯える。俺の手の中でも、はやく逃げろと木札が訴える。あいつのまわりに黒い光がよどみのように集まりだす。あいつはなおも呪文を続ける。


「ヤバそう。瑞希ちゃんだけでも逃がそう!」桜井が俺のもとへ飛んでくる。


「ま、任せた。俺は四玉を奪いとる!」


 俺は峻計へと向かう。あいつは術に集中している。俺達以外の誰もが見入られるほどに。とにかく木札を押しつけるだけだ。


「あいつ、さっきまでと違うよ」


 人である桜井が俺の横を駆ける。横根と一緒に逃げろって。……俺も人として、彼女の横を駆けていると感じられる。ならば二人で――


「……その螺旋は死と滅を望むものなり! 飲みこみな!」


 はやっ、あいつが呪文を終えた。邪悪な笑みを浮かべて黒羽扇をかかげる。あいつの頭上で、黒いよどみが巨大な渦を巻きはじめた。扇を俺達に向ける。黒い渦も俺達へと顔を向ける。

 護符を当てるどころではない。あいつに背を向け逃げようとするが、暗黒に吸いよせられる。必死に飛びながら振り返く。渦の中心にひとつ目が見える。あんなのに吸われたら瞬時に消え去る。すぐ横でもがくように飛ぶ小鳥を守るため、妖怪としての力が発動する。そんなの今さらだ。


「護りの術……」峻計の笑みがとぎれた。


 あいつが扇を上空へとかざす。黒い渦も上へと顔を向ける。俺達を吸いこもうとする力が消える。桜井ともども勢いあまって結界まで飛んでいき、はじき返されて地面に落ちる。

 俺も気配を感じとる。これは術だ。とてつもないから分かる。どこからか風を切る音が聞こえる。あいつは鬼のもとへと駆けていく。


バキバキ、バキバキバキッ


 落雷のごとき音とともに結界が崩れ落ちた。黒い渦が、またたく間にかき消される。風がすさぶり、屋上の中心へとなにかが落ちる。……褐色がごうごうと術を渦巻く。この術の力は強すぎて、まともに直視できない。


 術の竜巻がおさまっていく。大きな剣を下へとかかげた男性が片膝を地につけていた。渦に舞っていた緋色の布が男の肩に降りる。

 男が顔をあげる。剣を大きくはらう。鋼色の光が屋上を覆うほどに特大な輪となり向かってきた。





次回「覇道は一方通行」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ