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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
2.5-tune
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二十三の一 ユニット名『十二磈』

「鉆はおとといのサイコロからついてなかった。グヒヒ。鉆が弾よけになって、俺は指が四つ飛んだだけだ」


 べつの奴もおぞましいほどに下卑た声だ。

 マジかよ。いずれも2メートル以上ゆうにある背丈だ。


緑松ルーソン、聞いたか? 日本に来たら紫英ジーシーがつきだしたぞ。グハハハハ。俺は腹に穴があきかけたのにな。グハハハハ」


 吠えるような笑い声……。

 こ、これぞ異形だ。腰に巻いた布以外は赤黒い肌をむき出しにして、牙と、頭のツノ。

 つまり鬼そのものだ。


 思玲が亮相にかまえようするが、

「足手まといどもが、箱に押しこめられて来ただけか」

 不敵な笑みを浮かべて手を降ろす。


「たしかに狭かったけどな。おかげでようやくお前を食える。食えるし犯せるぞ。犯してから食ってやる」

珍珠チェンジュ、よく見ろ。犬と妖怪がいるだろ。先に全部殺してから犯そうぜ」

「グハ、どっちもいいな。俺は犯しながら食いたい」


 鬼達は思玲だけを見ている。……よだれを垂らしていやがる。


「ほ、本物の化け物じゃないか」


 川田が怯えた声をだす。俺なんか声すらだせない。


「うろたえるな。たかが十二磈シーアルクイだ。楊偉天の恥ずべき式神団だ。膂力と頑丈なだけの邪鬼だ。……三匹まとめてだと、少々厄介だがな」

 思玲は怯えていない。


 クリーム色の腰巻の鬼が浮かぶ俺を見つめた。

「チビ。流範さんはどこだ? 使いの鴉どももまだ来てないのか?」

 下っ端みたいに扱いやがる。


「貴様らに教える必要はない」思玲が横から答える。


 鬼達が顔を見合わせる。笑いだす。


「グヘ。ならば犯しながら聞きだしてやる」


「緑松、俺は食うか犯すかに集中したい。だから、とりあえずお呼びしようぜ」

 一体の鬼が大ケヤキの上へと目を向ける。

「そこにいますよな、青龍さん」


 こいつのこの一言が、恐怖心をかき消してくれた。


「こいつらも人間だったんですか?」

 どうであろうが桜井は守るけど、それだけは聞く。


「人であるはずないだろ。この世に這いでたときから、下種の悪鬼だ」


 そう言うと、思玲が鬼に背を向けて逃げだす。よろけてひざまずく。……この女、ほくそ笑んでいやがる。だまし討ちか? こんなのにひっかかるのか?

 彼女の背を見て、鬼がグヘヘと近寄る。思玲が振り向くなり両手を交差させる。至近距離から、緑松とかいう鬼へと螺旋の光をぶつける。鬼が吹っ飛ぶ。

 俺は木札を握り、紫英だかいう鬼へと向かう(腰巻の色柄で区別がつくようだ。こいつは紫)。


「チビのくせに目つきが気にいらないぞ」


 鬼が屈んで手を伸ばす。激しく発動した木札を、その腕へと押しつける。

 グワアと悲鳴をあげながら、紫英が崩れ落ちる。俺はみなまで見ない。


「お前ら、なにをしているんだよ」


 クリーム色の腰巻の珍珠だかは呆気にとられている。その腕に、川田が飛びかかる。


ゴリッ


 手首をかみ砕く音がした。悲鳴をあげた鬼から口を離し、片目の狼が跳躍する。珍珠の首へと牙を向ける……。ちょっとどんくさい。


「いてえな、犬ころ」


 珍珠がハンマーのような頭突きで叩き落とす。鬼は折れた手で転がる狼をつかみあげる。逆の手でアッパーカットを喰らわせる。

 川田は樹木の枝を折りながら、大学を囲む塀に激突する。


「術が弱いぞ。今のは何発目だ?」

 緑松はすでに起きあがっていた。思玲が返事の代わりに螺旋の光を放つ。直撃した緑色の腰巻から煙があがる。

「グハハ、痛いが気持ちいいぞ。これで何発目だ?」


 下腹部をこすりながら鬼が笑う。思玲がさらに亮相にかまえ、扇と小刀を交差させる。弱弱しい螺旋の光を、緑松が首を横にそらして避ける。肩で息をする思玲が片膝を地につける……。これは演技じゃないかも。


「おりゃあ、こんなの気合だ!」


 雄たけびが聞こえた。

 紫英がウルトラマンのように立ちあがっていた。護符が効かないのか?


「グヘヘヘヘ」


 川田へ追い打ちに向かっていた珍珠が突然笑いころげる。


「紫英、その体はなんだ。グハグハハ」


 緑松も焦げた腹を抱えて笑う。紫英の体はうっすらと透けていた。


「なんてこったよ。……あの木札のせいだな」

 紫英が自分の体を憎々しげに見る。

「こんなの、夜に牛を丸ごと食えば治る。先にお前を食ってやる」


 鬼は深く考えもせず、俺へとまた襲いかかる。おぞましい叫びとともに、俺の頭を握った紫英がまたもや崩れ落ちる。溶けだした手で、さらに俺をつまもうとする。

 木札に触れ、声にならぬ絶叫とともに消えていく。


「……小僧なんかに紫英がやられたぞ」


 珍珠が俺をにらむ。その鬼の首へと、背後から黒い影が飛びかかる。


「やめやがれ、くそ犬」


 珍珠が身をねじり、川田を振りはらおうとする。いかつい手が川田の首を捕らえる。毛むくじゃらの太い腕にもぎ取られようとしても、黒い狼は牙を離さない。俺は必死にふわふわ進んで、木札を鬼の腰巻へと押しつける。

 鬼が絶叫した。両ひざを地につける。片目の狼はのしかかるように噛み続ける。鬼が俺の存在に気づく。俺へとおぞましい牙と爪を向けて、木札がさらに強く発動する。


「くそ……」鬼が観念する。

 狼に首をへし折られるように、珍珠がうつぶせに倒れる。溶け始める。


「な、なんだよ。四神くずれのくせに、思玲より強いじゃないか」

 残された緑松の怯えた声がする。俺の手にする護符を見ていた。


「こいつらは人だ」

 思玲がよろよろと立ちあがる。「川田、生きているか?」


「当然だ」と狼も四肢をあげる。「鬼を経由して俺までしびれた。すごいお守りだな」


 あれだけの攻撃を喰らっても、川田は平気な顔で俺へと笑う。

 鬼が逃げ場を探り、三人に挟まれる。「くそ」と座りこむ。

 セミはまだ鳴きださない。





次回「狼でさえ遠ざかる」

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