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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
4.92-tune
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六十 ミーツデーモンタイム

4.92-tune



 **デニー**


「俺は松本のもとへ行く」

 川田がいきなり暗い森へ飛びおりた。


「……どうする?」

 イウンヒョクが聞いてくる。


「コケ?」

 コカトリスの矮小種も聞いてくる。こいつも処分の対象か。


「どうもしない。起きたらまた寝かしつける。それだけだ」


 私とウンヒョクに挟まれて、桜井夏奈は眠っている。記憶消しは反動が怖いから用いていない。ただ単に意識を失わせただけ……。


――ドロテア!


 この娘はいきなり叫んだ。同時に空がどよめいた。そして川田が去った。


 もはや桜井を殺せない。死の瞬間に龍が生まれるだろう。……どっちにしても背後の私へ無防備にもたれかかる女の子を殺せるはずない。その寝顔は人に温もりをもたらす。松本が惚れたのも理解できる……。節操なしめ、乗り換えやがって。

 だが桜井が龍だからが理由でないだろう。松本はカスでもクズでもない。


「そっちじゃない。思玲が見つからないなら、俺達も松本達に加勢すべきでないか。あの筒音や銃声は忌むべきものだ」


 ウンヒョクの心にも二人がよみがえったようだ。またドロシー達が異形になれば、彼は忘れるだろう。

 私はもはや忘れない。松本以上の執念をもってあの人を覚え続ける。そのために戦いを終わらせよう。


「いいや。私達は獣人が離れてくれたと喜ぶだけ。空で待機を続ける」

「……ひどくね?」

「冷静に判断しただけだ。ウンヒョクは焦るな。韓国人の悪い癖だ」

「初めて聞いた。だけどあんたを見習うよ」


 私こそ焦っている。あの人のもとへ向かいたい。だけど耐える。眠るこの子を、この子そのものから守るのが、いまの私の仕事だ。

 夜は近づいている。でっかいキーウィはまだ戻ってこない。露泥無には遊軍を命じた。間違いなくあの人のもとへ向かい力となるだろう……。

 ドロシーをもう一度抱きよせたい。何度でも強く抱きしめたい。


「鶏子は鳴いちゃダメだからね。朝と間違えて龍が起きちゃう」

「コケ」

 子熊へとバシリスクが小声で答える。




 **王思玲**


「ハラペコに声かけるな。だらだら喋られたら峻計に見つかる」

 思玲こそが潜めきった声で忍に伝える。


「思玲が僕を見つけられないはずない。最初からわかっていた。つまり僕を無視していた」

「だから黙れ」

「冬華こっちだ。ごく近くで気配がした」


 ……ほれ見たことか。こうなると峻計はしつこい。輸入物の紅毛丹ランブータンの毛を一本一本抜くほどに周囲を探りだす。


「二分以内に見つかる。どちらでもいいので、ごく小声で述べろ。窮地から抜けだせるうえに、ここで奴らを仕留める名案をだ」


 忍が唾を飲む音がした。それだけで峻計に見つかる時間がはやまる。

 完全なる闇が私の耳に貼りついた。


「これで漏れない。まず知りたいのは、この異形は誰だ?」

「ニョロ蛇だ」


 ハラペコの沈黙は五秒。峻計に見つかる時間が近づく。


「……松本と関わればあり得る。では僕から策をあげよう。窮鼠を装い、後の先を狙う。基本は思玲と同じだが、敵は二体いる。僕が峻計を煽動する。思玲が魂を持つ魄を煽る。その隙に、飛び蛇が杖を奪う。それで奴らの力は半減する」


 こいつの策はまんま私の専売特許である矛と盾。弱者がずる賢く立ち回る。

 気配を消していようが私には分かる。奴らは近辺を探っている。見つかるのはもうじきだ。


「我が主から頂戴した忍と呼べ。……私の忌むべき声は思玲様よりひそやかなので、貉のような芸当は不要です。そして私の考えは、貉の仕業でこうなった以上は哲人様に合流すること。理由を並べる時間はなく、それ以外もありません。貉が責任を取り殿しんがりを務めるでしょう」


 相反するふたつの意見。ならば決まった。


「私の案に近いものへ従う。失敗したらハラペコの責任だ」

 思玲の両手にふたつの魔道具が現れる。ようやく本来の敵に使える。

「だが、先の先だ。どうせ奴らは姿を現さぬ。ゆえにこちらが姿をさらす。五秒後だ」


「そ、それは無謀すぎる」

「そ、そうだ。そもそも僕の策はまず」

「二、一、ゼロ! 峻計、ちょっと早いが始めるぞ!」


 私よ、もっとぶっ飛べ。そのために、何よりぶっ壊れた娘の掛け声を真似て、驚蟄扇と春南剣を交差させろ。適当撃ちでも必ず当たる。


「噠!」

「ぎゃあ!」


 マジで悪霊の悲鳴が聞こえてしまった。そいつへともう一度螺旋を喰らわせるなどせず、


「峻計!」


 背後へ振り向くなり右手で春南剣を突き刺す。……思いきり空振り。ならば、


「我は我のために戦う。醜き争いを終わらせるため、それが人を護ることにつながるのなら」


 左手で驚蟄扇を振るう。私は修羅場だと両利きになる。特上の跳ね返しが現れる。

 闇から現れた黒い渦が私を飲みこもうとして消えていく。結界も消えてしまったけど張りなおさない。穴熊をしても陽動できない。

 思玲は闇の森を腰を屈めて走る。苔むした溶岩石を盾にしゃがむ。呼吸を整える。


サワサワ


 逢魔が刻。木霊が興奮しだす。だけど私の手には破邪の剣がある。機会の直前まで輝かさせない。


「峻計。僕は見てきた。一連の戦いでお前が最大の道化だった」

 闇が地面で述べだした。「何度逃げた? 何度傷を負った? 何度裏切られた?」


「……チベット黒貉か? お前が闇に溶けこもうと私は殺せる」


「それもあったな。何度挑発に乗った? おかげで仲間の大鴉はとっくに全滅した。四羽のなかで浮いた存在であろうと、お前の居場所だったのに。

唯一の子分も死んだ。あの野犬に見限られ立ち去されるのを体験せずに済んだのが救いだ。土壁は消えてなくなれたことに感謝しているだろう。お前と別れられたことに安堵しているだろう」


 やはりハラペコはすごい。第三者の私でもムカついてくる。……激怒した峻計は、大技を繰りだすためじきに姿を現す。もう一体は――。


「噠!」背後へと扇を振るう。


サワサワ

サワサワ


「上だよ」

「くっ」


 幼女の姿の悪霊にのしかかられた。木霊の怒りのおかげで反応できて爪を避けられた……岩をえぐりやがった。


「噠!」


 春南剣がかすめることもなく幼女が消える。餌を狙われた意地汚い樹の精霊、その怒りだけが残る。それは森にひろがっていく。


サワサワ、サワサワ

ミンナ、餌ヲトラレチャウヨ


「木霊黙れ」

 10数メートル先の巨岩の上で、峻計が姿を現した。片目以外を黒布で隠した顔。漆黒のチャイナドレス。楊聡民の杖を掲げる。

「こいつらごと燃やしてやる」


 螺旋……ここは耐えろ。ならば跳ね返し。

 峻計が杖をおろす。

 王思玲は扇を振るう。


「我、人を護るため、人なき地で戦い続ける」

 もっと心をこめろ。極上の結界を築け。

「人なき闇で戦い続ける。果てるまで! 尽きるまで! 直前まで我を守りたまえ」


「ひっ」


 背後で結界に吹っ飛ばされた悪霊の悲鳴がした。目の前で黒い炎が広がっていく。森を飲みこむ。私は飲みこまれない。結界のなかにいても熱を感じる。汗が蒸発する。

 連発こそ必須。ゆえに二発目が来る。結界を重ねろ。


「我、身を削りおのれを守る。人のため。か弱き人のため! 邪悪な炎に我を燃やすことなかれ!」


 闇の炎に結界が包まれる。溶岩石が溶岩に戻りそう。はやく終われ。思玲はもう一度扇を振るう。呼吸が厳しくなってくる。

 ……これだけ目立てばウンヒョクなら来るだろうか。デニーならば桜井を守るだけだろうか。川田は何するか分からない。哲人とドロシーは来なくていい。

 九郎がいなくて幸いだ。くちばしだけの奴がいたら焼き鳥だろうな。主を守るため身を挺する。


 ようやく炎が去る。思玲は森を見る。私を中心に半径20メートルぐらいが伽藍洞になっていた。ついで空を見る。まだ明るい。当たり前だ。今夜は満月だ。中天まで昇れば、忌むべきものには昼より眩しい。


「残念だが溶岩地形は隙間が多い。闇はいくらでも潜りこめる」

 地底から声がした。

「思玲も生き延びている。お前はまたも道化だ。しかも彼女は剣を持っている。それは夜にこそ輝くものだ」


「ハラペコ、これ以上あおるな」

 削りあいになったら峻計に分がある。奴は魔物だ。力は無尽蔵だ。しかも一帯の木霊が絶滅した。残りの木霊は大激怒だ。


サワサワサワサワ

サワサワ……ザワザワ


「思玲は魄に専念してくれ」

 地面から眼鏡女子が実体化した。「峻計は夢魔だったらしいな。もっとも恥ずべき魔物。だが東洋には獏がいる。悪夢を喰らう異形だ。僕はそいつと知り合った。ここへ向かっている」


 これははったりの大嘘だ。そのプロである哲人と修羅場をくぐり抜けてきた私にはわかる。


「私がそんな雑魚におびえると思うか!」


 でも峻計は引っ掛かる。……こいつは焦っている。何に? ってまた杖を掲げやがった。


「我、何度でも護りを乞う。おのれのため。なおも人を守らんとするおのれのため」

 結界を張るだけで力を消費していく。ニョロ蛇急げ。って気配!


「噠!」

「ぎゃっ」


 腕を爪で貫かれたが、幼女姿の魄を春南剣が裂いた。小さい腕が地面に落ちて消える。しかもこいつを結界内に閉じ込めた。

 今こそ掲げよ!

 峻計が杖をおろすのが見えたとしても。


「我が力を浴びよ」


 春の青と南の赤。春南剣が紫色に輝く……青龍の青と朱雀の赤のミックス。この破邪の剣の持ち主も私でなくて――

 漆黒の土石流。憎悪の大津波。


「ぐえっ」

「ぐえっ」


 私と魄の潰れたような悲鳴が重なった。

 雑念を悔やんでしまう。跳ね返しの結界ごと叩き伏せられた。……哲人みたいに全身打撲してしまった。結界も崩壊した。

 私は巨大クレーターの縁にいた。

 蟻地獄の底で峻計が立っていた。


「生き延びただと?」

 魔物のくせに肩で息をしていやがる。 


「ぼ、僕もだ」空からハラペコの声がした。「僕を倒したいならば選択の過ちだ。闇が完全な闇を消せるはずない」


「私は光と闇に挟まれた。離脱する」


 魄の声も遠くで聞こえた。それをわざわざ口にするならば、変わらず四方へ警戒を続ける。


「レベル11以上でしたね」

 真横で忍の声がした。「確信できました。ようやく機会が訪れます。峻計は杖を掲げておろす瞬間だけ、握る力を抜く。いまこそ盾になってください」


 いままでがお遊びで、これからが本番らしい。


「わかった。奪取に失敗したら双銭結びしてやる」

「ふふ、蛇に戻る予定はございません。では」


「榊冬華は貉の相手しろ。私が思玲にとどめを刺す」

 峻計が杖を掲げる。


「私こそ貴様を倒す!」

 私は立ちあがる。再び剣を掲げる。

「おらあああああ!」


 紫色に染まったクレーターを駆けおりる。演技とは思わないだろうし、なんならマジで倒してやる。


「意味なき突撃。死に場所だ」

 峻計が杖をおろそうとして、忍に奪われ……ない?


 地の底からの暴発。冥界から飛びだしたような漆黒のメテオ。世の摂理に反した攻撃。峻計を中心に闇が地面を削っていく。空さえも削る。

 扇を手にだして結界を現せ――間に合うはずも守られるはずもない。ならば迎え撃て。

 思玲は立ち止まる。迫りくる闇へと、春南剣と驚蟄扇を交差させる。


「我が心!」


 紫色と茶色が螺旋を描く。混ざり合い、血の色のシールドを築く。闇を押しとめる。その向こうに駆け登る峻計が見えた。


「思玲め、終わりだ!」


 峻計が杖を掲げる。そして……死より生が上回った安堵。あいつの手から楊聡民の杖が浮かぶなり消える。


「これはお仲間に渡します」

 忍の声が瞬時に離れる。気配!


「おりゃ!」


ぺしっ


「ひっ」


 他者の掛け声を真似し忘れたが、背後に振るった驚蟄扇が榊冬華の顔にジャストミートした。即座に姿を消しやがる。追い詰められない。ならば峻計。


「蛇め……」


 怒りと悲しみと恐怖と怯えに囚われて立ちすくむあいつへと、扇を向ける。ようやく使える。

 陰を陽に従えるでなく、陰を陽に移らえる。


耀光舞ヤオグァンウー!」


 虹色の光達があいつに向かう。この光は美麗なはずなのに、腐肉にたかる虫達のようだ。禍々しきものこそを好む。


「ぎゃああ……」

 幾多もの光を全身に浴びたあいつが絶叫する。


 とどめの螺旋を……。なんだよ、しゃがみ込むな。力が急速に抜けていこうと。

 あいつは光にまとわりつかれながら逃げていく。なのに私は足腰が立たない……。闇が私を包んでくれた。思いだした。ハラペコは温かだった。


「へへ。命を削りあう戦い。みじめな二人」

 幼女の声がした。 

「私の腕はじきに復活する。満月の魄だから。……黒貉は殺さない。屈服させて私の式神にする。王思玲は魂をすすらせてもらう、へへ」


「残念だが僕が主とするお方は決まっている。叶わなければ死を選ぶ。だがそのお方のために、王思玲を守る。この者こそがあの方を導いてくれる」

 私を包む闇が覚悟を声にする。生き延びようが、滅茶苦茶娘のおりはごめんだ。


「仕方ないね。私は生前から異形に嫌われるたちだった。……前世でも恐れられるだけだったかな。もうじき分かる、へへ」


 片腕だけの幼女の姿をした魄が姿を現す。その爪が伸びるのを見て、いまさら腕の痛みを思いだす。


「へへ……」


 幼女が嗜虐な笑みを浮かべて、その姿をかき消す。……逃げてくれた。


「与えられた使命を投げだして申し訳ございません」

 我が最強の式神の声がした。

「横根瑞希は私の姿を見えないままですが、彼女からの言付けを伝えるために来ました。――雅はみんなを守って。私はみんなが戻るのを待つ」


 デニーでも瑞希の忌むべき記憶を消せないのか。


「白猫のときに海神の玉で生き延びたせいかもしれない」

 闇が姿を変えながら告げる。

「ドロシー様があの玉を光らせることあれば、受け継ぐ者が正式に代わり、横根の心の奥底にしがみつく記憶は、ゆっくりと消えていくはず」


「だったら案ずる必要ないな」

 ドロシーが関わるならば、哲人がどうにかしてくれる。


「では合流しましょう」

 忍が浮かんだまま姿を現した。


「杖は?」

「まだ私が隠し持っています。主のもとには行ってません。あなた様から離れるなと、きつく命じられていますので」


 弱いものが戦うなら嘘とはったりのオンパレードか。そういえば近くで戦場のような音がしたな。春節より賑やかだった。

 哲人は二度も死なぬだろう。もう私が守る存在でもない。哲人に俊宏を重ねることもしない。


 このまま会えずに大団円を迎えてもいい。どうせ忘れられる存在なのだから。


「瑞希は捨て置く。さすがにここまで現れないだろう」

 私と戦ってくれる式神に無様を見せるな。根性だ。

「ふん!」


 思玲は黒猫を背負ったまま立ちあがる。クレーターの縁から見下ろす美しき雌狼へ顔を向ける。


「私達は峻計を追撃するのみ。必ずや今夜終わらせるぞ」

 ニョロ蛇が困ろうが知ったことか。


「御意。私にお乗りください」


 森の女主がゆっくりと降りてくる。人の目に見える蒼き毛皮を、東から差し込む月が照らす。




 **川田陸斗**


 俺は知恵がついた。だから恥ずかしい。

 俺は人の姿になっても部屋で糞をした。松本が黙って処理してくれた。飼い猫を喰った。松本は困った顔で叱ってくれた。人を殴ろうとして滅茶苦茶怒られた。また糞をした。また掃除してくれた。それらを誰にも言わないでくれた。ドーンにも口止めさせた。

 俺は松本がボスだと思っていた。でも松本にそんな気はなかった。同等に接してくれて、友となるために怒ってくれた。その松本が困っている。俺はおかしくなっていく。ならば松本を助けろ。


「夜が近づくほどに俺は頭が冴えてきた。俺は大事なことのためにもここへ来た」

「そうなんだ……」


 松本は疑った眼差しを隠す。

 松本は姉御や瑞希にさえ厳しいのに、俺とドーンと桜井にだけやさしい。俺とドーンには無警戒。俺を叱ってくれる。思いだすと涙がでる。それを隠すため男同士で抱きあう。爪を伸ばす。


「今夜は強くなる。松本でも俺に勝てない」


 ボスだった松本の首を爪で深く突く。貫通してしまった。多少えぐろう。


「はやくしないと松本が死ぬぞ」


 呆けた面の大蔵司へ告げる。こいつは俺を洗ってくれた。だけど殺してしまいそうだ。だってずば抜けて美人で、今夜は俺より弱い。抵抗されたら加減できない。俺はそれでも満足できず、瑞希を襲いにいきそうだ。


 松本のお札が怒っている。怖くない。痛いだけ。

 姉御が怒りだした。それだけはすくむほど怖い。あの弾がなくても怖いのに。だから急いでくれ。


「……冥界へ、いま行かせるんだ」


 大蔵司が俺達へ杖を向ける。俺の姿は何も変わらない。




 **松本哲人**


「冥界へ、いま行かせるんだ。……台輔をお願い!」


 意識が遠のく俺は、そんな声が聞こえて…………僕は川田の手のひらにいた。首が痛かったような。でも平気になった。ちょっと寝よう。


「私も行く!」


 女の子の叫び声のせいで、すぐに目を覚ます。……このかわいい大声はドロシーだ。俺は松本哲人だ。


「行くのは俺と松本だけだ。姉御は待っていろ。その存在が男を強くする」


 俺は川田の手のひらにいた。片目で見つめられる。


「俺もすぐに追いかける」


 俺はようやく理解する。

 人のままでは因果なく死のうと冥界に向かわない。異形となっても行き来する能力なければ、死なないと向かえない。

 だったら絶対に拒否していた。


「ぐっ」


 悲鳴もあげられず握りつぶされる。それでもミドリガメは必死に首を伸ばす。川田が自分の首を切り裂くのが見えた。

 赤い血を浴びながら、俺という存在が消滅する。





次回「ダイビングオブザデッド」

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