表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
2-tune
34/437

十五の三 うっすら見えた

 カンナイの降りたった校庭片隅を目ざす。青い小鳥もカラスもいない。


ぞくっ


 校舎の反対側のバックネットから、切羽詰まった気配が届く。そっちまで逃げたのか、追いつめられたのか?

 誰もいない校庭を横切る。太陽が照りつけるだけだ。


「夏奈ちゃーん!」


 雌カラスをまいたらしきドーンが上空から俺を追い越す。でもバックネットの向こうから、カンナイが現れる。


「……空での喧嘩はまだ無理」


 ドーンが羽根を傾けて逃げだす。カンナイは俺に気づくはずなくドーンを追いかける。二羽のカラスは町なかに消える。

 俺は地面に顔を戻す。桜井どこだ!


「松本君、ここだよ」


 一塁側のコンクリート製のベンチの下から、彼女の声がした。


「怖くてなにもできなかった。だいぶやられた」


 俺は片羽根をだらりとさげた青い小鳥を持ちあげる。両手に抱える。

 幻影である桜井を抱きかかえる。


「イタタ……。もう大丈夫よね」


 シャツが裂けるほどに傷を負っているのに、無理して笑いかけてくる。

 カラスが飛んできて、二人だけの時間はすぐに終わる。幻の彼女は傷を負った小鳥に戻る。


「四神くずれがまた浮かんでいるぜ」

 ゴウオンがあざけるように舞う。


「まだ元気ってことかい。私がもうすこし痛めつけるよ」

 ヂャオリーがくちばしを向けて降りてくる。


 俺は心底怒っている。こいつらはゆるさない。左手で小鳥を胸に抱き、右手で木札をだす。

 たとえ異形の姿であろうと、こいつが死んだら俺も死ぬぞ。

 護符を無理やり発動させる。桜井へと飛びこむヂャオリーに木札を向ける。

 向けただけだ。


「クッ」一言もらし、雌カラスは地面に落ちる。身動きしなくなる。


「お、おい、ヂャオリー。……いきなり抜け殻かよ」


 バックネットにとまったゴウオンは俺をにらまない。小鳥へだけ、仲間を失った憎悪を向ける。俺は木札をかかげる。


「ゴウオン、やめろ」

 カンナイが上空に戻ってきた。

「やはり異形は化け物だったか。誘ったのは俺だ。俺が責任を取る」


 カンナイが一直線に俺達へと飛ぶ。護符は激しく発動している。どんなに秀でたカラスであろうと、こっちの世界にかなうはずない。

 桜井へたどりつくことなく、カンナイは声もたてずに地面に落ちる。かすれた白線のネクストサークルの横で動かなくなる。


「うっすら見えるぞ」

 ゴウオンがバックネットから俺を見ている。黒い瞳で。

「怒りで姿を現したのかよ。まるでミョウオウ様だな」


 お前だって怒りで震えているだろ。俺は生き残りのカラスとにらみあう。やがてゴウオンは飛びたつ。俺は誰もいなくなった校庭で、気を失った人である桜井を抱きしめる。


 ***


「そのハシブト達は抜け殻だよな。哲人の仕業かよ」


 小学校の校庭に戻ったドーンが上空で騒ぐ。カラスは死骸のことを抜け殻と呼ぶのか。魂の抜けおちた殻か。


「……着地する。ミスったら受けとめて」


 ドーンが俺めがけて滑空する。俺を越えて、ピッチャーマウンドの上につんのめるように降りる。振り返る。


「しかし殺すかよ。二羽も……。いやいや哲人サンキュー、いやドンマイ」


 俺の顔を覗いて非難めいた口調を変える。黙ったままの俺へと、困惑したような笑みを向ける。


「こいつらからは余裕で逃げられたけど、降りかた分かんなくてさ。で、ハトの着地を観察してきた。哲人のところまで飛ぶぞ」


 ドーンが羽根をひろげて再び浮かぶ。俺の目前に舞いおりる。


「さっきはブレーキのタイミングが遅かった。コツはつかんだ。もう大丈夫に決まっている」


 小鳥が俺の胸もとで目を開ける。

「小さめだから和戸君だよね? 飛んでるし。ははは……」

 無理して笑う。「松本君が倒してくれた。私ら昼はつらいっぽい」


「哲人が怒るわけだ。夏奈ちゃんまで抜け殻になるなよ。哲人、なんとかしろよ」

 ドーンが必死に羽ばたきホバリングしながら言う。


「桜井は(異形だから)きっと治るよ。おい茂って涼しげな木陰に行こう」

 異形である俺がそう告げる。


「カラス達をどかしてあげよ。埋めるの無理でも」


 小鳥が俺の目を見上げる。俺達は人だから、そうすべきだよな。


「野球少年もかわいそうだしな。哲人、いつまでも悪い」

 ドーンが高く飛ぶ。


「桜井をここじゃない場所へ連れてからだよ」


 照らしつける太陽は俺達の敵だ。俺は小鳥を抱えたまま死骸へと手をあわせ、ふわふわと校舎側へと戻る。

 仲間同士で必死に飛んだカラス達はもういない。報いを受けるべきことをした連中だとしても。

 校庭を囲むように、ミンミンゼミ達が鳴きはじめる。





次回「本心は一羽邪魔だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ