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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
3-tune
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三十七の一 全権大使

「ハラペコだっけ? 封印を解いたのか?」

 大蔵司が暗闇をにらむ。「どこにいる! 姿を現せ!」


「この国の術を解くなど、我が主である沈大姐ならばたやすかった」

 露泥無が闇のままで答える。

「我が主が藤川匠と戦い、そして傷を負ったのを知っているだろう。唐の尽力により主の怪我は癒えた。だったら次にすべきことはなにか? もちろん復讐だ。だけど上海不夜会のメンバー六十余名を日本に呼びつけるなどしない。百十体に及ぶ式神もだ。

今ここにいる沈大姐、デニー、殲と唐、そして僕で片づける。それを影添大社に伝えるために、使者として僕がここにいる。それだけの理由ではないけどね」


「こいつは人でも鳥でも猫でもうるさい。殴りたくなるから、俺はいなくなる」


 川田が周囲を走りだしてしまった。思玲も琥珀もいないから、露泥無はだらだらと喋る。その割には、分からないことが多すぎる。


「なんでニョロ子と現れた? 大姐達はどこにいる? 沈大姐と藤川匠の戦いの顛末は? 九郎は? ……やはり琥珀は死んだのか?」


「松本。こいつから全てを聞いたら朝になる。まずは執務室長を呼ぶ。……緊急事態だから仕方ない」

 大蔵司の手にスマホが現れる。「貉は姿を現せ。折坂さんも呼ぶぞ」


「この姿でいいかな」

 闇が地味系眼鏡女子と化す。「どちらも来させるべきでない。なぜならば僕だけしかいないからだ。下っ端である僕が全権大使として、今後について協議する。だけどそれをするのは、影添大社でなく松本達とだ」


「もう呼んだよ」大蔵司がスマホを切る。「逃がすなだってさ。空封! そして地封!」


 東京でも秋の虫が鳴いている。夜を迎えた都内の公園。大蔵司が神楽鈴を鳴らす。俺達をしめ縄が囲みだす。

 俺のポケットの木札が目を覚ます。陰陽士の結界が生まれると同時に砕け散る。しめ縄が朽ち果てる。


「……ドロシーはいないよね。お前の仕業か?」

 大蔵司が露泥無である眼鏡女子をにらむ。


「僕じゃない。これは……」

「沈大姐の魔道具だよね。露泥無、そうだよな」


 俺も女の子をにらみつけると見せてアイコンタクト。まだお天狗さんの木札の存在を知らせたくない。ワイルドカードは隠し持つものだ。


「へ? そんなものはない。これは松本の護符の仕業だ。僕は見てきたから知っている」


 なんて融通がきかない馬鹿正直な覗き見野郎だ。


「そういうこと。どうせ折坂さんには隠そうがバレるだろうしね」

 俺は負け惜しみを言いながら、ポケットから小さな木札をだす。

「さっきの質問は知りたい。露泥無ならばスマートに教えてくれるよね」


 大蔵司が俺の手もとを凝視している。ニョロ子は宙に浮かんだまま。

 露泥無が(まな板に近い)胸を張る。


「もちろんだとも。

九郎は、沈大姐から使命を受けるまで自主的に待機中だ。あいつは封印されたまま韓国に向かったら、領空に入るなり警告を受けて撃墜されただろう。

……琥珀は消滅した。僕は目をそらしてしまったが間違いない。横柄で傲慢な小鬼だったけど呆気ないものだ。

そして僕は、沈大姐と藤川匠の対決に立ち会った。口止めされてないから言おう。藤川匠は別格だ。破邪の剣を一振りするだけで雌雄が決した。奴が前線に顔をださないのは臆病だからでも怠け者だからでもない。力が強大すぎるからだ。

沈大姐がどこにいるかは、その有能な飛び蛇に聞けばいい。松本が式神としたことに二人とも感嘆していた。

この蛇と一緒に来たのは、こいつが僕を誘ったからだ」


「え?」

 露泥無は比較的整然と語ってくれたけど「それは勘違いだよ。俺は偵察をお願いしただけだ」


「いいや。この蛇が視覚と聴覚を駆使して、松本と同盟を組む意義を大姐とデニーに説いた。だから僕がここにいる」


 それが事実ならば怖いくらいに有能すぎる。正真正銘の全権大使じゃないか。ニョロ子はなんだかドヤ顔だし。


「蛇が知っているけど、僕達は川口市にあるマンションの一室を拠点にしている。……聞かれた件に関する説明は以上かな。そう言えば、その飛び蛇の名前は?」


 うわっ。ニョロ子という名への周囲の反応がよろしくないので、あえて口にしなかったのに……。露泥無の背後で、ニョロ子が激しく首を横に振った。


「……しのぶ」俺はとっさに告げる。


「改名したのか。そっちのがまだましだ」

 大蔵司がちょっとだけ笑う。


「よい名前だと思う。デニーに伝えておくよ」

 露泥無が無表情で言う。


「貉が現れただと? 俺は疲れた。用件だけ言え」

 麻卦執務室長がやってきた。


「あいかわらず不遜な人間だ。あなた方同様に、僕達も彼らに協力するかもしれない。だけどこの国で傍若無人に振る舞わない。それを伝えにきた」

「使い走りは大変だね。で、なんのため松本どもに協力する? 俺は知っているぜ。お前らは桜井ちゃんを龍にしたいのだろ?」

「そ、それは……」


 露泥無が狼狽しだした。この野郎どもの狙いはやはり……。

 だとしても、龍は釣り餌だ。


「俺は沈大姐に何度も助けられている。あの方がそんなことをするはずない」

 麻卦執務室長へと言う。

「でも俺だけでは決められません。女子達を連れてきてくれますか?」


「いずれも問題児じゃねえか。そりゃ無理だ。とりわけ桜井は絶対に上海がいる場所にださない。どこかにデニーが潜んでいるかもしれないしな」


 俺だってそうしたい。でも、夏奈を龍にさせる魂胆を逆手にとって、俺が異形になる。そのタイトロープな狙いにたどり着けない。


「この国にも魔道士がいるのを知っている。なぜ協力を要請しない?」

 露泥無が唐突に言う。


「話を逸らすな。あのフリーランスの二人組に仕事を依頼したこともある。だが、頑固者おばさんは引退した。若い娘の実力は未知数だが悪霊退治ぐらいしかできないだろうし、関わってこないようラスベガスに行かしてある。チップは自腹だがな。脳に移植するチップじゃないぜ」


 そっちの話にはノーコメントだが、そんな人達がいたのか。俺達だって戦いから逃げられるなら逃げだしたい。

 また露泥無である眼鏡女子が口を開ける。


「不夜会本部に閉じこもらない限り、有能な飛び蛇から全てがあなた達に伝わる。だから正直に言おう。デニーの儀式は頓挫している。なぜならば、人を使って試していないからだ。沈大姐もデニーも、楊偉天ではない」


 絶対的機会。


「だ、だったら俺で試すがいい。俺は異形になりたい」

 声を上ずらせながら手をあげる。


 大蔵司も麻卦さんもぽかんとした。ニョロ子さえもだ。


「ち、ちょっと待てほしい。この提案は僕の想定外だ。でもあり得るかもしれない」

 露泥無がポケットから天珠をだし耳に当てる。

「もしもし、大姐ですか? いままでのやり取りを聞きましたか? ……聞いていたけどデニーに相談する? そうですね。それがよいと思います」


 なにが全権大使だ。天珠に音声を拾わせて判断を上に委ねるだけの、まさに使い走りじゃないか。

 待つことなく露泥無が天珠を切る。


「責任を一切持たなくてよいのなら、是非に頼みたいそうだ。ただし儀式には最低でも二名必要だ」


「桜井を呼びだす口実だろ?」

 大蔵司が露泥無をにらみながら、神楽鈴を鳴らし威嚇する。


「き、君は部外者だ」

 露泥無が溶けだす。か弱い姿の黒猫と化す。

「ここは日本だ。公園でこの姿をいじめたら通報される。

……デニーの話を信じないならば、やる必要はない。復活した大魔導師を成敗するため、ふつうに協力しあうだけだ。そもそも桜井では、松本にとって意味がない。四神獣の方角において、位置が対極になるものが必要だからだ。松本は玄武だから北。桜井は青龍だから東。朱雀である南に位置するものが必要だ」


 それはドーン。呼びだしてカラスになってもらうわけにはいかない。……確認もしておかないといけない。


「俺は玄武だと鱗人間、もしくは亀か蛇になるのか?」

 狼にはならないだろう。熱くて温かい川田だから哺乳類になれた。……俺だと巨大な聖獣になっちゃったりして。


「ぶっつけ本番だ。何になるかなど分からない……けど、松本は玉が強いて選ぶ程度の、人並みの資質だけだ。おそらく平凡な亀か蛇になると思う。桜井のように特上な資質が滅多にあるはずない」

 露泥無がだらだら続ける。

「ちなみに沈大姐が言っていた。思玲ですら並みの白虎の資質らしい。だけど君達のなかに朱雀と青龍の資質両方を持つものがいる。龍は並みの上程度だが、朱雀の資質は上の下ぐらいある。ドロシーだ」





次回「向かいあう二人」



短編集『女魔道士の正義』

外伝も掲載しております。

https://ncode.syosetu.com/n1860ib/

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