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5-tune 四神獣達のカウントアップ  作者: 黒機鶴太
2-tune
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十五の二 褐色の翼

 捕らえて尋問するどころではない。ドーン達が捕らえられ拷問される。


『カラスとインコ、どちらか死ぬ』

『お前だけ無傷。ずっと恨まれる』


 呼ぶ声がかすれてきている。分かりきった言葉などスルーだ。


「桜井、逃げろ!」


 俺の声に振り向いた彼女へと、カンナイが一直線に向かう。小鳥がカラスのくちばしに叩かれる。ふらふらと落ちていき、屋上から見えなくなる。カンナイが空中でブレーキをかける。桜井のあとを追う。

 桜井を助けなきゃ。なのに妖怪としての俺の本性が動きださない。朝からこんなに快晴な空のもとでは。


『暗くならないと呼べないよ』

『ホホッ。それを言うなら我々もそろそろ退散かな』

『キッ、こんな遠くまで声を飛ばしてやったのに』


 誘う声が遠ざかる。ようやく惑わされなくなる。


「桜井を助けるぞ」


 俺はハシボソガラスを抱える。非常階段へと向かう。背後から羽音が追いかけてくる。


「その飛びかたはなんだい。お前もやはり異形だね。クワッ」

 ヂャオリーがドーンへ体当たりしようとして俺に流される。


「なにやっているんだよ。空中でよろめいたぞ」

 今度はゴウオンがやってくる。


「挟まれるぞ。放せよ。飛んでみせるから」

 ドーンは言うけど、


「ふざけんなよ」

 何度もこいつの大口(このスロット台は爆発するぜ、あの白人なら楽勝だぜ、夏奈ちゃんは俺に気があるかも、瑞希ちゃんも)を聞かされている俺が、信じるはずない。

「隠すぞ」


 俺は服をひろげる素振りをする。ドーンを抱えこむ。……ドーンの人としての心と体に触れあう。互いに全裸で。


「やめろよ!」

 カラスが服から飛びだす。俺をにらむ。「俺はそんな気ないからな」


 俺にだってない。さすがに無理だ。こっちから追いだすところだった。


「こいつ、ちょっとだけ消えたよな」


 ゴウオンが門の上へと移動する。四方をうかがう。


「結界って奴かい? あの女人が本当にいるのかい?」


 背後でヂャオリーがひるんでいやがる。チャンスだ。

 もだえるドーンを抱えて門へと向かう。鉄柵の隙間に突っこみ階段へと押しだす。俺は浮かびあがり、ゴウオンをぶん殴りながら鉄柵を越える。握りこぶしの感触からして、ダメージなど与えていない。


「桜井! 大丈夫か!」俺は叫ぶが返事はない。「ドーン、急ごう」


 狭い階段は羽根のない俺に利があるはずだ。俺は抱えようとする。


「階段なんか降りていられるかよ」

 ハシボソガラスはするりと逃げる。「俺は飛ぶぜ」


 そしてドーンが羽根をひろげ舞いあがる。いや跳ねる程度だ。

「ここじゃ無理だ。空が見えるところに戻せよ」


 ドーンが見上げる非常階段の狭い空にカラスが現れる。手すりにとまる。スリムで大柄なカンナイではないが、残りのどちらかは見ただけでは分からない。


「人でも異形でもいいから姿を見せな。飢え死ぬほうがましに思えてきたよ」


 このイントネーションはヂャオリーだ。俺は姿を現せない代わりに、浮かびあがってつき落とす。ヂャオリーはカカッとわめきながら空に退却する。……力が似たもの同士のつば競り合いは心の強さがものをいうかも。


ゾクッ


 桜井の感情が伝わってきた。怒っている? 苦しんでいる? 俺は手すりに乗る。校庭を見る。

 地面近くをカラスが二羽飛んでやがる。こいつらは3Dに縦横無尽だ。俺の力じゃカラスを追いはらえるだけ。しかも秀でたカラスには太刀打ちできない。夜じゃないから、呼んでも誰も来ないだろうし。

 ドーンがコンクリートの上で必死に羽根を動かす。羽ばたきの練習だろうか。本心はドーンが邪魔だ。置いていけるはずない。


「空にでよう」

 俺は覚悟を決める。ぎょっとするカラスを抱える。

「服に入れないよ。むき出しで外にでる。下まで一直線だ」


 手すりを越えるなり、ヂャオリーが飛んでくる。ドーンへとくちばしを向けるので、体の向きを変える。雌カラスは俺の背中に当たり、するりと横にずれる。


「堪忍してくれよ。竹林様みたいじゃないかい」


 ヂャオリーがぼやく。カーカーと鳴きながら、ゴウオンが下から飛んでくる。


「妖怪変化が守ってやがるんだ。二羽でないと無理だ」


 上下から挟みやがる。俺はかまわず下へと向かう。……降りることまで重力を無視してふわふわだ。ドーンを抱えているからか、なおさらのろい。飛んできたゴウオンにふわりと蹴りをいれる。横から来たヂャオリーが、ドーンにおもいきり体当たりする。腕の中でドーンがうめく。衝撃が俺にまで伝わる。

 とにかく下だ。……下からまた一羽が襲ってくる。風を切り裂くような飛行。ヤバい、カンナイだ。

 俺はドーンを強く抱える。空中で吹っ飛ばされる。カンナイが素早く切りかえす。ドーンをかばった背中を爪ではたかれる。ドーンと爪に挟まれて、体がふわりと流れない。


「感触があったぞ。カカカ」

 カンナイが笑う。「あっちの世界と触れあっているぞ」


「それがいい話なのかい?」

 ヂャオリーが急降下してくる。「青インコは?」


 俺はドーンに覆いかぶさる。頭に衝撃が伝わる。痛くはないが。


「手負いにはした」


 カンナイが正面から爪を向ける。反応できない。


「哲人避けろ!」


 ドーンが俺に抱えられたまま体をひねる。俺は引っぱられ、尻の奥にカンナイのくちばしが突き刺さる。痛え!


「夏奈ちゃんがマジヤバいぜ。のろすぎだ。急げ」


 ドーンが腕の中で騒ぐ。俺だってそうしたい。でも上からヂャオリーがやってくる。避けたところにゴウオンが背後から突っこむ。俺ごとはじき飛ばされて、ドーンがカッと悲鳴をあげる。


一人より二人のがいいよ。絶対に


 横根の言葉を思いだす。二人より三羽のがさらにいい。あいつらのが強くなってきている。カラスどもに俺にたいする害意はない。ドーンを守るために自分の意思で傷を受けているからか、護符に発動する気はないらしい。


「行かせないつもりだぞ。放せって。助けにいくしかねーじゃん。俺は飛ぶ。自分の力で」


 離すかよ。俺はなおさら強く抱える。


「……あのインコは、羽根を折られても逃げようとしている」


 カンナイのつぶやき声が頭上で聞こえた。次の瞬間、頭をけり倒される。俺の顎がドーンに直撃して、グワッとうめき声をだす。俺は頭がくらくらするのを必死にこらえる。カンナイはそのまま下に向かう。

 空中ではどうにもならない。


「……手をどかすよ」

 どうにもならないから、ドーンに告げる。高さはまだ三階ぐらいか。羽根だけみたいな軽い体でもダメージは受けるかも。

「俺の上に落ちてきて。必ず受けとめるから」


 ドーンなら飛べる気がする。そう信じるしかない。頭上へとカラスを放り投げる。……想像と現実は違うよな。力が足りず、ドーンは俺より先に校庭へ落ちていく。


「大丈夫、飛ぶから」


 無様に羽根をばたつかせながら、俺を心配させまいと叫ぶ。俺はあせっているのに、ふわふわとしか追いかけられない。


「カカカッ」


 ヂャオリーが笑いながら俺の真横を過ぎる。瞬間の出来事だのに、すべてがゆっくりだ。


「違う! あの野郎の飛びかた!」


 ドーンが叫ぶ。落下速度をゆるめることなく、じきに地面に激突する。ドーンが羽根をしなやかに広げなおす。地面にかすめそうになりながら、風を操る。


 小柄なハシボソガラスが浮かびあがる。勢いを増すばかりの太陽の光を受けて、漆黒の翼が赤茶色に光沢を帯びた。


「なんだい、飛べたのかよ」


 ヂャオリーがドーンを追いかける。ハシボソガラスは羽ばたきを強める。二羽の間隔が開いていく。

 とりあえずドーンは大丈夫だ。





次回「うっすら見えた」

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